魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜   作:犬型大

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73木の中の森のダンジョン4

「‘ギリギリまで引きつけて……受け流しながらかわす!’」

 

 背中を向けると逃げるだけになって反撃もできないし、迫ってくる相手も後ろじゃ見えない。

 逃げるなら逃げると決めて逃げなきゃいけない。

 

 逃げないのなら、しっかりと相手から目を逸らさないことが大事だ。

 余裕を持ってかわせば相手だって軌道修正してくる。

 

 かわすのはできるだけギリギリ、相手が攻撃を変化させられないタイミングがベスト。

 

「‘今だ!’」

 

 ポワッボアーのツノがヘルンの構える盾に触れた。

 ヘルンは盾を斜めにしてツノの先を滑らせて、そのまま横に飛ぶ。

 

「‘ブギャッ!’」

 

「‘おっと’」

 

「‘すいません、アニキ!’」

 

「‘いや、悪くなかったぞ’」

 

 ヘルンがぶっ飛ばされて、俺は体で受け止めてやる。

 動きとしては悪くなかった。

 

 けれども初めての動きに体がついていっていなかったのである。

 頭で思い描いた動きと実際にやろうとしたものが違うことは、ままあることだ。

 

 ヘルンが俺の教えを受けて思い描いた動きは、初めてにしては決して馬鹿にできないものだった。

 何回かやって慣れれば、相手の攻撃を回避する形で引きつける役割も担えるだろう。

 

「行きますよー!」

 

 ポワッボアーがヘルンに直線的に向かうという軌道は分かっていた。

 軌道がわかっていれば攻撃もしやすい。

 

 クリアスが魔法を放って、ポワッボアーを狙う。

 

「‘よーく燃えるっすね’」

 

 ポワッボアーは地面が抉れるほどに踏ん張って急ブレーキをかけた。

 けれども飛んでくる魔法をかわすことはできず、クリアスが放った火球はポワッボアーに当たって爆ぜる。

 

 硬くてモコモコとした毛に火が燃え移り、小さな火種があっという間に大きくなっていく。

 火がついたことを察してポワッボアーは大きく体を揺するが、その行為は火を消すところか火に風を送り込んでより大きく燃え上がる。

 

 あとはもう見てるだけ。

 焦げ臭いし、近寄りたくないというところもある。

 

「‘火に弱いって結構な弱点だよな……’」

 

 結構火を使う人や魔物は多いと思う。

 現に俺もクリアスも火を使う。

 

 他の魔法使いでも火を使う人は多い。

 

「‘これならヘルンにマッチでも倒せそうだな’」

 

 こんなに燃えやすい毛なら小さい火種でも燃やせそう。

 たとえマッチぐらいの炎でも、火をつけて逃げ回れば倒せる。

 

 それこそヘルンでもできそうだ。

 

「今回は……魔石と毛皮ですね」

 

 勢いよく燃えたポワッボアーはそのまま倒れてボフンと音を立てて消えてしまう。

 前は魔石と牙だったが、今回は牙ではなく毛皮が少し焦げた地面の上に落ちていた。

 

「魔石はヘルンさんに、毛皮は私が持ちましょう」

 

 ヘルンの主な仕事は荷物持ちだ。

 今も背中に空のリュックを背負っている。

 

 ただヘルンの力も強いわけではないので、小さくて軽めのものを持たせる。

 クリアスがヘルンのリュックに魔石を放り込んで、自分の荷物に毛皮を入れる。

 

「‘変なゴブリンも使いようだな’」

 

 ちゃんと装備させて、ちゃんと使い方を教えてやれば、ヘルンは知恵があるのでそれなりに活かして戦える。

 コイツは意外と拾い物かもしれない。

 

「‘…………人の声?’」

 

 他にも魔物はいると聞いていたが、今のところポワッボアーにしか出会っていない。

 何回か戦って、ヘルンも少しずつ盾を使ってギリギリで回避することにも慣れてきていた。

 

「‘この声は……’」

 

 そんな時に俺のミミは人の声を拾う。

 男の声がうっすらと聞こえてきたのだ。

 

 他に人がいることは別に珍しいことでも何でもない。

 ダンジョンに入っているのは俺たちだけじゃないのだから。

 

 普通こういう時は魔物の取り合いにならないように、お互い気づいたらそっと離れるべきだ。

 だが、俺は聞こえてくる男の声がどこかで聞いたことのあるようなものに思えた。

 

「そっちに行くんですか?」

 

 気になるので声の方に近づいてみる。

 

「この辺りに多いのはポワッボアーという魔物だ。突進してくるのであまり正面に立たないほうがいい」

 

 低くてやや掠れた声。

 誰かに話しかけている。

 

「‘あっ! アイツ……!’」

 

「‘ああ、なるほどな’」

 

 もうちょっと近づいていくと、相手の姿が見えた。

 そこにいたのはメルドランギルドの男だった。

 

 キツソウと話していた怪しい笑顔の男だ。

 町中では会話の内容こそ聞こえなかったが、声そのものはうっすらと聞こえていた。

 

 だから何となく聞いたことある声だと思ったのだ。

 

「‘アイツまた……’」

 

 メルドランギルドの男は若い女性と一緒だった。

 歳としてはクリアスとそんなに変わらないか、下ぐらい。

 

 あの時に見たメルドランギルドの一員ではない。

 経験豊富そうな冒険者にも見えない。

 

 メルドランギルドの男と女性の冒険者、そしてそれぞれの魔獣がいる。

 

「ただポワッボアーは火に弱いんだ。燃やしてしまえば簡単に勝てる」

 

 メルドランギルドの男は、女性の冒険者にポワッボアーの攻略法を教えている。

 女性の冒険者の方は何も疑っていないような目をして、メルドランギルドの男の言葉をメモに取っていた。

 

 ヘルンは牙を剥き出すようにして怒りをあらわにしていた。

 おそらく、あの女性の冒険者は次の犠牲者だ。

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