幻真赫月天 〜Phantom or Truth〜 作:咲野 皐月
今週も幻真赫月天……張り切って参りましょう。
それでは、本編スタートです。
最後までごゆっくりお楽しみください。
「幻世界……」
私、丸山彩は人気のない高台にて一人黄昏ていた。
「……どうしよう。まずは勇くんに連絡しなきゃ……」
状況を整理すべく、私は一番大切な……信頼してる人に連絡を入れた。
一体どうしてこうなったのか。
事の始まりは半日前だった。
「皆さん! 今日はありがとうございました!!」
私、丸山彩はアイドルとして今日も活動していた。
幼い頃から夢だったアイドルになり、努力が報われて今や『トップアイドル』の称号に、最も近い存在とまで言われる所まで来た。
「丸山さん、お疲れ様です。今日も素敵なライブでした」
「ありがとうございます!」
ライブが終わり、私はすれ違うスタッフの方々に挨拶をする。そして更衣室に入り、アイドルの衣装から着替えながら今日のライブのことを思い返していた。
ファンの皆の笑顔、歓声、サイリウム。私の作りあげたステージが希望を届けているように感じられて嬉しかった。
私の求めていたものが全てここにある。
私は幸せ者だ。
だけど……何故だろう?
どうして、物足りなく感じるんだろう。
まるで
「気のせい……だよね?」
私は晴れないモヤモヤを心の奥に仕舞い、着替えを進めるのだった。
家に帰り、夕飯の支度をする。
今日はお父さんとお母さんは、仕事で遅くなると連絡があったので……私と妹で先に食べる事にした。
「うん、いい感じ!」
メニューは肉じゃが。作り方はごく一般的なものと同じなんだけど、私はコレにゆで卵を一緒に煮ている。コレで簡易的だけど味玉っぽくなる。そして隠し味に刻んだ生姜と蜂蜜を少量入れる。生姜はさっぱりとした味わいにしてくれるし、蜂蜜も砂糖の代わりに使うと味にコクが出るし照りも出るって聞いた。
とりあえず肉じゃがは美味しく作れたし、いいや。
「お姉ちゃん、ご飯出来たの?」
「うん、ちょうど出来たから温かいうちに食べよ!」
私は妹の由奈ちゃんと出来上がった物の配膳をして、二人で夕食にありついた。
「あれ? この肉じゃがいつもより美味しい!」
「そうかな? 私料理したの久しぶりだしそんなに変わってないと思うけど……。でも美味しいね」
「それにゆで卵そのまま入れてるんだ。なんか意外……」
「うん、由奈ちゃんこれ好きだって言ってたよね?」
「え? 私そんな事言ったっけ?」
「……あれ?」
「というか普段はお母さんが肉じゃが作ってくれてるけど、その時は卵なんて無かったよ?」
「……あれ? でも確かに誰かがそう言ってた記憶があるんだけど……」
その誰かが由奈ちゃんだと思っていたけど……もしかして違うのかな? お父さんかお母さん? いや、でも由奈ちゃんの言ってる通りだと、普段は違うって事だよね……。
「まあ良いじゃん! 美味しいし!」
「……そうだね!」
また違和感を感じたものの……気にせずに夕食を食べ、そのまま就寝の時間になった。寝る前に私は明日の学校と、その後にあるレッスンの準備を済ませていたのだが……。
「これは……?」
私の鞄の奥から見慣れない物が出てきた。
それはカードケースで、中には《ヴァンガード》というタイトルのカードが複数枚入っていた。
《ヴァンガード》は今世間で流行しているカードゲームである事は知っているが、私はやった事が無い。それなのに、何故これを持っているのだろうか……?
「もしかしてスタッフの誰かの物を間違って、持って帰ってきちゃった……?」
どうしよう……。
というかそもそも誰のかも分からないし……。
そう考えているとデッキケースを床に落としてしまい、カードが散乱した。慌ててカードを纏めていた中、私は持っていた二枚のカードと目が合った様な気がした。
それは《万化の運命者 クリスレイン・カデンツァ》と《万化の幻真獣 ウルティニアス》と書かれたカードだ。
「綺麗……」
そのイラストを見て私は思わず言葉を零していた。
でもなんだろう、初めて見るはずなのに……ずっと前から知っていたかの様だ。気づけば私は、このカードから目が離せなくなっていた。
「え?」
「何……この声……。誰が……」
突如として聞こえた声に私は困惑していた。そして、最後の声がハッキリと聞こえた瞬間……私の視界は白い光に覆われた。
目が覚めると足元一面に水が広がっていて、周りに何も無い空間にいた。その美しさに私の心は思わず奪われた。まるで心が洗われるような気分だ。
『待っておったぞ、我が先導者』
声のする方を見るとそこには銀色の髪を靡かせ、人魚のような姿に両腕は桃色の羽のような女性……まるで神話の生物である《人魚》と《セイレーン》の特徴を兼ね備えたような容姿の存在がいた。
「貴女は……」
『わらわの事を説明するまでもなかろう。そなたは既に思い出してる筈じゃ』
その言葉を聞き、私は彼女に思わず手を伸ばした。
そしてその瞬間……私の頭の中に、存在しない記憶が流れ込んだ。
Pastel*Palettesのリーダーとして、メンバーの皆と共に切磋琢磨した日々……日菜ちゃんが私の反応に「るんっ」って言って、千聖ちゃんに圧をかけられたり、麻弥ちゃんがいつもフォローしてくれて、イヴちゃんが元気をくれていた。
そしてそんな私たちを、陰ながらサポートしてくれてた颯樹くんや千歌ちゃんに京介くん。時に対抗戦で対立する事もあったけれど……私たちがアイドルである為に、ずっと支えてくれた人たち。
そして最後に思い出したのは……。
「勇……くん」
思わずその一言を呟いた。
そして、ふと私の頬に涙が流れる。
なんで私、こんな大事な事を……大切な人の事を忘れていたんだろう。
『やっと思い出したようじゃな』
私の反応を見るとウルティニアスはそう呟いた。
「ウルティニアス、私……」
私の頭の中はぐちゃぐちゃだ。
それは突然沢山のことを思い出した事による混乱故か、パスパレの皆や勇くんの事を忘れてた怒りなのかそれとも悲しみなのかは分からない。
それでも、私は息が詰まる思いで気を抜けば何とか耐えている気持ちが爆発しそうになる。
動悸が止まらない、呼吸が早くなる。
ウルティニアスもこんな私に、何と声をかければいいのか迷ってる様だった。
どうしよう、何とか持ち直さないと……。
でも……、でも……っ!
『アヤ、そう思うのも無理はありません』
そんな中、ウルティニアスとは違う声が……私に優しく諭す様に呼びかけてきた。その声のした方に、私とウルティニアスは視線を向ける。
『ようやくそなたも目覚めたか』
その人物を見るとウルティニアスは「やれやれ」と言わんばかりに呟いた。
「クリス……レイン?」
そこに立っていたのは、私をずっと支えてくれた分身。私の運命を導いてくれた相棒。
「ごめん、私まだ……」
『ゆっくりで良いのです。まずは呼吸から整えていきましょう』
そんな私を包み込むように、クリスレインは私より大きな体を私に合わせるように座り込んで、優しく背中を摩ってくれた。その行為に安心感を覚え、私の呼吸は少しずつ正常なペースに戻っていく。
『手馴れておるな』
『私も導きの塔の主ですから。いざと言う時に対応できるようにレザエルから教わったのです』
色々と聞きたいことはあったけど、今は心を落ち着かせるのが先決だった。
そして数分後、ようやく私の心は落ち着きを取り戻す。
「ありがとう、二人とも……」
『いえ、礼には及びません』
本来の調子を取り戻し、私は二人にお礼を言った。
『早速だが本題に入ろう』
それを皮切りに、ウルティニアスが話を進めるように私たちに促す。
『そうですね。アヤ、単刀直入に言います』
『今、この世界は赫月が齎す危機に晒されています』
「赫月……?」
『ええ、詳しいことはまだ分かりませんが……地球と惑星クレイに突如として現れた赫い月。それが二つの惑星に異変を齎しています』
クリスレインは真面目な顔で私に語りかける。
赫月……? 惑星クレイ……?
聞きなれない単語がいっぱいで混乱してきた……。
て……あれ? ちょっと待って?
惑星クレイって千聖ちゃんや颯樹くんがよく口にしてた言葉だよね? 確かヴァンガードは、そこに降り立つところから始まるって……。
じゃあ……
「惑星クレイって実在したの!!?」
私は思わず声を上げた。
『何を驚くことがある。だからわらわ達がここにおるのじゃ』
ウルティニアスは「何を今更」と言わんばかりに呟いた。
いや……確かにそうなんだけど……なんか現実味が無いというか……。
『それにそなたは、クリスレインと会うのも初めてでは無かろう?』
え……? そうだっけ……?
『ええ、こうして貴方と深く繋がれたのはこれで三度目ですね』
三度目……? 一体どこで……。
あ、そう言えば……確か初めてクリスレインのカードを手に持った日に、夢の中でここに来たような気が……。
それに二回目は……。
そうだ、私が対抗戦を前に颯樹くんに勝てるか不安になってた時に勇くんから元気を貰って戦う覚悟を決めた時……。その時からクリスレインの新しい力を使う事になった。
もしかしてアレって夢じゃなくて現実だったの……?
『私たちが先導者とこうして深く繋がれることは早々ありません。より強く、より深く共鳴する思いを抱く者同士が運命的に巡り会うことで初めて繋がれる。そう言われています』
「そうなの?」
『ええ、貴方が求める千変万化に私が共鳴し貴方と繋がる事が出来たのです。それに貴方の大切な人……イサムと言いましたね? 彼もまたリィエル﹦アモルタと深く繋がった事がある、と聞いています』
「勇くんも……」
そうなんだ……。
そう考えると凄い運命だなぁ……。
『さて、話が逸れてしまったが現状を再び説明しよう』
『そうですね。すみませんウルティニアス』
ウルティニアスが話の起動を修正してくれたおかげで私たちは本題へと戻った。
「ねえ……赫月の力って」
『この世界の理すらも変えてしまう恐ろしい力である、とヴェイズルーグから聞いてます。……どうやらその力で、まるで本来とは違う世界になってしまった様に、人々の人生も変わってしまっているのです』
そっか……だから私、ついさっきまで勇くんやパスパレの事を忘れてたんだ……。というより、最初から出会ってなかった事にされてたって事?
そう考えると改めて背筋が凍る思いだよ……。
『惑星クレイでも同じ名前でありながら姿や力が全く異なる存在として実在してる方々が複数確認されてます。私たちは彼らの事を
「
『赫月の力は強大じゃ。多くのものはこれまでの記憶を全て失っただけじゃが……
「……っ! それって……!」
『ええ、私たちが対峙しなければならない存在という事です』
なんか……また混乱してきた。
でも、ちゃんと整理しないと。
『話を続けますね。この地球でもクレイと似た現象が起きています。そして、
「
『残念ながら。ただ、確認されてることは元の世界とは異なるユニットと導きあった方々もいるそうです』
「じゃあ元の世界での考えは通じない……って事だよね」
『その通りです』
ううっ……、なんか怖くなってきた……。
『そして、ヤツらに対抗出来る唯一の手段というのがわらわ達、幻真獣というわけじゃ』
幻真獣……、確か京介くんが使ってる《ヴェイズルーグ》のデッキにいっぱい入ってた種族の子たちだよね……?
そういえばウルティニアスも……。
『わらわ達の力であれば幻を祓う事が可能。最も、
『今確認されてる幻真獣ファイターは貴方を含めて全員で六人。私たちは彼らと協力し、元の世界を取り戻さないとなりません』
クリスレインは真剣な眼差しで私を見つめる。その表情から彼女の覚悟が伝わって来た。
『アヤ、私たちに力を貸してください』
そう言ってクリスレインは私に手を差し伸べた。
……うん、かなりの情報量で混乱してたけど、私の心は決まってる。
「勿論だよ。私に出来ることがあるなら力になりたい」
私はそう答えて彼女の手をとった。
その様子を見たクリスレインは、朗らかな笑みを浮かべ私を見る。
『ありがとうございます、アヤ』
「一緒に行こう。クリスレイン、ウルティニアス」
『ええ』
『決まったな』
私とクリスレインの覚悟を見定めたかのようにウルティニアスは呟いた。
そして、私たちの足元に金色に輝く幻真獣の紋章が現れたのだった……。
その後すぐに私は元の世界……いや、幻世界にある私の家に戻ってきた。
私の手元にはしっかりとクリスレインとウルティニアスのカードが握られていて、ウルティニアスのカードには月の紋章が描かれていた。これを見た瞬間、先程の出来事が夢じゃないと理解出来た。
そして私は急いで家を出る準備をした。
ウルティニアスの話によると幻真獣の加護を受け、元の世界の記憶を取り戻した者はこの世界の不都合を修正する力によって全ての人の記憶から消されてしまうとの事。つまり……お父さんやお母さん、そして由奈ちゃんからも私に関係する思い出は全て消されている。そんな私がこの家にいたら確実に不審者扱いされてしまう。
だけど緊急過ぎる上に、なんでも持っていくと荷物が増えるばかりだから持っていく物は選ばないといけない。でも、悠長に考えてる時間もない。
私は鞄に一日分の着替えと二日分の下着を詰めた。本当はコスメや思い出の物を全部持って行きたいけど……状況が状況だし、やむを得なかった。
「せめて……これだけでも……」
部屋を出る手前、私は一番大切な物を腕につけた。それはピンクと白のチェック柄のシュシュ……勇くんが最初の誕生日プレゼントとしてくれた、私の宝物だ。
私は周りを警戒し、音を立てない様に急いで外に出た。幸いまだ両親は帰ってきてないし、由奈ちゃんも寝てる時間だったから誰とも遭遇する事は無かった。
離れる手前、私は最後に一度家の方に視線を向けた。
「絶対……元に戻して帰ってくるから。
行ってきます」
そう言って、家族と過ごした場所を後にしたのだった。
これが一夜で私に起きたことの全て。
彩が覚醒した夜、別の場所で1人の男が赫い月を眺めていた。
「心のみぞ知る。
人が眠る時、夢は目覚める。
夢を求める先にあるのは希望か、絶望か」
そしてポケットから取り出した1枚のカード。そこには赫月の紋章が描かれていた。
「赫き月、その光に力があるのなら叶えてもらおうか。
救済の夢を」
男はメガネを押し込み、赫月にカードを翳した。
今回はここまでです。如何でしたか?
次回の更新は2週間後を予定していますが、また早めに投稿できそうであれば、Blueskyにて告知しようと思いますので、続報をお楽しみに。
それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。