幻真赫月天 〜Phantom or Truth〜 作:咲野 皐月
いつもしない挨拶から始まりました、幻真赫月天の第5話となります。昨日に引き続きの連続更新となりますので、前日の興奮を冷めぬままに楽しんで頂けるかと思います。
それでは、本編スタートです。
最後までごゆっくりお楽しみください。
「そんな、この世界が……幻だなんて……」
『そなたには悪いとは思っておる。じゃが、最早今の状況を憂いている暇は無い。一刻も早く他の幻真獣ファイターたちと合流を果たさねば』
「う、うんっ」
ウルティニアスやクリスレインと邂逅したその翌朝……私は街中を一人散策していた。当面の目標は他の幻真獣ファイターとの合流だけど、その過程で幻世界で今何が起こっているかの情報収集をするのも忘れなかった。
でも、未だに実感が湧かないよ……。
お父さんやお母さん、そして由奈ちゃんの記憶から私に関する事が全て消えていて……そのうえ、この世界で起きた事が、全て幻でした、なんて。大切な事を思い出せたのは良いけど、その代わりに何か大きな物を失ったみたい。
「ねえ、クリスレイン。私たちと幻影ファイターって、例えばで良いんだけど違いはあるの?」
『そうですね……私も目醒めたばかりなので、詳しい事は分かりませんが。ウルティニアスの話から推測するに、両者共に元の世界の記憶を保持しているものの、自らが戦う理由に違いがあります。私たちは幻を消し去り、元の世界を取り戻す為。幻影ファイターは』
『……わらわたち幻真獣を全て消し去り、真に取って代わる事じゃな。その為ならば、そなたが非情とも思える手段を用いて来るやもしれん。今一度心せよ』
……うん、そうだよね……。
昨日聞いた時点で分かってはいたけど、改めて突き付けられると少し息苦しさを感じてしまうよ……。
「……あっ」
街中を通り過ぎる私の目に入ったのは、ライブなどの宣伝を行なう為に走っている広告車両だった。ついこの間までは、私もよくライブのお知らせやグッズの販売促進を促すために……マネージャーさん達の協力を得て行なっていたけど、今ではそれが差し替えられている。
たった一晩で、あそこまで変わるんだ……。
「……寂しいよ……。みんなの記憶から、私に関する全ての記憶が消えているなんて……」
ここまでの寂しさを覚えたのは、生まれて初めてだ。
いつもなら千聖ちゃんや日菜ちゃん、麻弥ちゃんにイヴちゃんが居て……そして、颯樹くんや勇くんも……。皆が居てくれたから、どんなに大変な事でもめげずに立ち向かって来れた。
でも、今回はそのみんなが居ない。
こう言う時、何て言うんだっけ……孤立無援、って言う方が正しいのかな。
「先ずは勇くんに掛けてみよう。きっと、私と同じ様に幻真獣ファイターとして目醒めてるかも」
そう思った私は直ぐ様スマホを取り出して、勇くんの番号に向けて電話をかけた。六度のコール音が鳴り響いたものの、その相手は私の電話に応じる事は無く、私の中の不安だけが少しずつ広がって行った。
「勇くんにかからなかった……なら、颯樹くんにかけてもたぶん同じだよね……。いや、もしかしたら何か用事があって出られないのかもしれないけど……どうしよう……」
そこまで考えていると、私はある事を思い出した。
その言葉は、昨夜ウルティニアスから聞いていた……他の幻真獣ファイターたちの事だ。……幻真獣ファイターに選ばれていたのがもし、勇くんや颯樹くんじゃないとしたら!
「先ずは千聖ちゃんに……あれ、呼び出し?」
千聖ちゃんに電話を繋ごうとした時、突如としてディスプレイが着信を報せていた。その相手は……。
「イヴちゃん! もしもし、イヴちゃん!?」
『アヤさん、無事でしたか! ようやく繋がりました!』
「イヴちゃんも無事で何よりだよぉ……。それで、今は何処にいるのっ?」
『今、ちょうどそこの角を……あっ、見えました!』
イヴちゃんからの電話で、私は彼女の無事を知る事が出来た。そしてそれから程無くして、私とイヴちゃんは合流を果たし、彼女の案内を受けて京介くんたちの居る場所に向かう事となった。
「アヤさんがご無事で何よりです! キョウスケさんからの指示で幻影ファイターたちを撃退していたのですが、まさかここで再会出来るとは思いませんでした!」
「うん、私もだよ……! えっ? 幻影ファイターを、撃退していた……って?」
「はい。実は私たち、もう既に戦い始めているんです」
……それは知らなかった。
ううん、私が幻世界に染まっている間に……京介くんやイヴちゃんは人知れずファイトをしていたのだろう。その事が彼女の言葉から重みとして伝わって来ていた。
「ちなみにイヴちゃん、イヴちゃんの幻真獣って……」
私がそう聞くと、彼女はデッキケースから勢い良く1枚のカードを取り出した。
「無双の幻真獣 ザルヴァ・ドラグニア、ですッ!」
「うわぁ〜、カッコイイ!」
「ありがとうございます! アヤさんが目醒めた事で、私たちの戦力は更に跳ね上がりました……あとはチサトさんだけです!」
「そうだ、その千聖ちゃんなんだけど」
私がそう言おうとした時、イヴちゃんから素早く制止がかかった。どうもこの幻世界では、千聖ちゃんの名前はそこまで広まっている訳では無く、何処の誰とも知れない(幻世界の人たちから見ると)私たちが迂闊に口に出来る様な立場では無いみたい。
それに幻真獣のカードを見せて貰った時から、何だか周りの人たちの視線が薄らとキツイ物になって来ているのを感じた。それだけ良くない存在だと思われてるのは、もう火を見るより明らかだ。
「……とりあえず、私たちの拠点があります、先ずはそこに避難しましょう! キョウスケさんたちには、向かう道中でそこで落ち合う様に連絡しますので!」
「うん、行こう!」
私たちは揃ってその場を駆け出し、脇目も振らずに京介くんたちとの合流場所に向かった。……背後から何やら視線を感じたけど、気の所為……だよね?
「……これであと一人。さて、白鷺さんは貴女方の思い通りに目醒めてくれるでしょうか?」
「予定していた集合時間から10分遅刻ですよ。若宮さん、丸山さん」
「ご、ごめんなさい!」
「ごめんね、紗夜ちゃん……」
「ひ、氷川さん……お二人とも、遅刻こそしましたけど、無事に来れましたから……」
結局私とイヴちゃんは揃って遅刻してしまい、紗夜ちゃんからのありがたいお説教を貰う羽目になっていた。高校の時から風紀委員として紗夜ちゃんが立つのはよく見ていたし、何だったらそれに捕まってお小言を貰う事は数あれど……まさか大学生になっても、こんな風に指摘されるなんて思わなかったよぉ!
「何か?」
「いえ、何もありませんッ!」
うぇぇぇん……こんな時に千聖ちゃんが居てくれたら、どれだけ気持ち的に楽なのかなぁ!!!!!
「はいはい、そこまでッスよ紗夜さん。彩さんや若宮が今回やらかした遅刻は悪気があった訳じゃないんだし、二人もこうして反省してるんだから、ガミガミ言うのはお門違いじゃないんすか」
「……しかし、私たちは世界の命運を賭けて」
「まあ、彩さんはついさっき目醒めたばかりなんですし、今回ばっかりは大目に見ましょうや。またやらかしたらその時はミッチリやって構いませんから」
「ちょっと、京介くん何て事を言ってるのっ!?」
そんなやり取りを終えた後、私とイヴちゃんは正座させられていた状況から解放され、目の前に立つ私たちの拠点へと入る事になった。中は二階建てになっていて、リビングやキッチンとかもすごく広く設計されていた。
そのうえお風呂も大きいし、その反対側にはファイトスペースまで完備されてたので、まさに活動拠点にするには持って来いと言った内容だった。
「さて、今の私たちの現状を報告し合いましょう。またいつ何処から奇襲されるか分かりませんから」
「……そうだな。ヴェイズルーグ」
『承知した。先ずはよくぞ無事に来た、マルヤマ アヤ。歓迎するぞ』
「あ、ありがとうございます……えっと、なんでスマホが宙に浮いて」
私のその疑問には紗夜ちゃんが答えてくれた。
あれは京介くんのエースである……《月の門番 ヴェイズルーグ》がスマホに憑依した物で、今回の災いに対して惑星クレイからより強く干渉する為に、地球の通信媒体を介して私たちに接触しているみたい。
ちなみに私が合流する前に、みんなはある程度の戦果を挙げているとの事で。最初は圧倒的に劣勢だったらしいけど、少しずつ頑張って何とか均衡を保っているみたい。
「しかし、チサトさんは一体何処に居るんでしょうか……早くお会いしたいですっ」
「若宮さん。その気持ちは私も分かりますが、焦ってはいけませんよ。丸山さんが来てくれたとは言え、未だ数ではこちらが圧倒的に不利……対策を練らないと話になりません」
『そうだな。キョウスケがミサキを倒した事を機に、我々にも一筋の光が射して来た。先ずは確実に一人ずつ倒して行かねば、敵の思わぬ罠にかかる危険性がある』
そうだよね……むしろ本題はここから。
私も元の世界を取り戻す為に戦う、と決めたんだから、みんなの足を引っ張らない様にしないと!
『改めて状況を整理する。今この時点で場に集うは我らを含め5人』
「紫炎の幻真獣 カルヴァネイル」
「悠久の幻真獣 ニルズベイグ 」
「無双の幻真獣 ザルヴァ・ドラグニア」
イヴちゃん以外の幻真獣……どれも姿形は違うけれど、私と同じ様に元の世界を取り戻す為に、これからみんなで一緒に戦うんだ。
『そして、先日目醒めた……』
「万化の幻真獣 ウルティニアス」
私がカードを掲げた途端、各々の手元にある幻真獣の紋章が強く光り輝いた。それはまるでお互いの力を高め合う様で、今この場に居る全員が無事である事を証明するみたいだった。
『世界が幻に包まれてから、間もなく三週間が満ちようとしている。我々としては一刻も早く全ての幻真獣を目醒めさせ、幻影ファイターを倒した後、ミラージュタワーに居るガブエリウスの持つ幻創カードを手にしなければならない』
「ガブエリウス……って、確か千聖ちゃんの使ってたユニットの中に」
『何だと?! シラサギ チサトが、ガブエリウスを使っているだと!』
「……確かにあの人は使っていた。だが、今は違うはず。幻世界が構築されてからは、あの人の中からはヴァンガードに関する記憶も消えているだろうな。恐らく、消えてしまった大事な記憶と共に」
……大事な、記憶……。
私が勇くんの事を忘れてしまっていた様に、千聖ちゃんも誰かの記憶を忘れている……。そうだよね、幻真獣ファイターとして目醒めるって言う事は、その失われた記憶も戻って来るって事なんだから。
何か強いきっかけが無いと、千聖ちゃんを味方側に引き込むのはかなり至難のはず。
『この中でシラサギ チサトと縁のある者は』
「それなら、私が!」
『わかった。アヤ、キミの力を借りる事になる。何か心当たりがあれば遠慮無く言ってくれ』
「わかりました!」
私はヴェイズルーグさんからの問い掛けに、強く意志を伝える様に答えた。残る幻真獣はケテルサンクチュアリの幻真獣……奇跡の幻真獣 リフィストールだけ。
目醒めたばかりでまだ困惑してるけど、私もみんなの力になれる様にしないと!
「聞いた? 白鷺さん、また学年一位だって」
「これで何冠目よ……新入生総代を務めたうえ、成績も優秀で容姿端麗。それで1個もサークルに入ってないんでしょ、天は二物を与えずとは言うけど、ちょっと不気味〜」
「ねー」
……勝手に言ってなさい、貴女たちには関係無いから。
つい先日まで行なわれていた中間考査の成績が、一斉に階段の踊り場にある掲示スペースに張り出され、学内の生徒たちはそれに釘付けになっていた。かく言う私はと言うと、一人講義室の中で受講し終えた科目の参考書類を纏めてたのだけど。
何処からとも無く聞こえて来る、私に対しての嫌味。
普段から真面目に生活していれば、このくらいは赤子の手をひねる様に簡単な事。だと言うのにやれ恋愛だの、やれサークルだのなんて……心底恥ずかしいとは思わないのかしら。
(そうよ、これは出来て当たり前。難しい事なんて何一つ無い。ただその通りにすれば良いだけ)
……自分でもかなり愛想悪いとは思っているけれど。
私がそう思っていると、何処からか大きな音が聞こえてきた。その音は徐々に大きさを増して行き、此方に向かって来る物だと言う事を嫌でも伝える様だった。
「誰かしら。大学の構内は走ったらダメ、と始業式の時に教わらなかったの? それと通行する際は右側を通る様に……」
「千聖ちゃん! 良かった、ここに居たんだぁ……!」
そうして息を切らして私の所に来たのは、桃色の髪をセミロングにしていて、髪色と同じ瞳をした女の子だった。私の知る限りではこんな子は見た事無いのだけれど……彼女は私の名前を知っている都合上、どうやら忘れているみたいね。
「貴女、誰かしら。それに何で私の名前を知っているの」
「……とりあえず、私に付いて来て! そこでここに来た理由も全部説明するから!」
「……わかったわ。何処に行くの、あまり時間を取らせないでちょうだい」
私は先程の女の子の誘いを受けて、食堂にやって来た。
この時間帯はお昼の講義の後なので、お客さんはそれほど来ていない上、人の数も疎らだった。私は彼女の向かい側に座ると、本題を切り出す事にした。
「さて、私に何の用? 冷やかしなら帰って」
「違うよ! 私、千聖ちゃんを探しに来たの!」
「私を探しに?」
「そうだよ! 今この世界は幻に包まれてて……あ、今こんな事言っても信じて貰えないかもしれないけど」
世界が幻に包まれて、なんて……この子は空想の世界から飛び出して来たのかしら? そんなバカバカしい話、私が簡単に信じられる訳ないでしょう。適当に話を聞いて、頃合いを見てお帰り願おうかしら。
「で、その幻に包まれてて……何?」
「元の世界を取り戻す為には、幻真獣の力が必要で……。私で5人目で、最後は千聖ちゃんだけなんだよ!」
元の世界を取り戻す? 幻真獣?
「信じて貰えないなら……これ! 私のカード!」
「……そのカードが、私にもあるというの?」
「信じるか信じないかは、千聖ちゃんに委ねるよ。でも、もう一刻の猶予も無い……私たちがこのまま全員揃わずに、幻に全て呑まれちゃったら、それこそ大変な事になるんだよ!」
……良いわ。
「わかったわ。今その手のカードは家に置いて来てるの、心当たりがあったら連絡するわね。電話の方が伝えやすいかしら?」
「……っ、うん!」
「じゃあ今日は帰って。見つかり次第伝えるわ」
そう言って彩ちゃんを退出させ、私も大学の構内を出て帰宅の途に着いた。そして直ぐ様引き出し等を開けて、彼女が先程見せてくれた類の物があるかどうかを探したけど……。
「おかしいわね、何処に行ったのかしら。確かこの辺に」
心当たりのある箇所を重点的に見たのだが、肝心のカードは1枚たりとも見つからなかった。何も成果無しで伝えるのは、さすがに彩ちゃんに悪いと思ったので、更にくまなく見ていたら。
「……何かしら」
私が目を向けたのは、クローゼットの中にある引き出しの中だった。そこから漏れ出ている光を頼りに、探し当ててそれを手に取った……その時。
「な、なに……きゃっ!?」
「……ん、んんっ……」
唐突に広がった光が止むと、そこは辺り一面真っ白な世界だった。心象世界と言えばわかりやすいのかもしれないけど、そんな事は現実的に考えると有り得ない事なので、私はその考えを思いっきり払拭した。
「何で……これは、どう言う事?」
そう呟いた私の声に答えたのか、何処かから軽く鳴き声が聞こえて来た。詳しく知る為には知識が少ないのが難点だけど……そこは私の事情を慮ったのか、その正体は直ぐ様私の前に姿を見せた。
見慣れない紋章を背に背負い、二色の炎を翼の先に揺らめかせながら私を見据えるそれは……覚えがあった。
「リフィストール……私を呼んだのは、アナタ?」
私がこう問い掛けると、リフィストールはまたひと鳴きした後に私の前に頭を垂れて来た。……頭を下げて来た、ってことは、触ってもいいと言う解釈なのかしら。そう思った私は、リフィストールの頭に手を添えて撫で始めた。
『〜♪』
「……あら、気に入ったのかしら? それなら嬉しいわ。私はこう見えて犬を飼っているから、アナタが素直になってくれるのなら、お世話のしがいがあるわ」
一頻り撫で終わった所で、私はリフィストールにある事を聞く事にした。
「ねえリフィストール、ここはどこかしら? さっきまで私は自分の部屋にいたはずだけれど」
『白鷺 千聖、キミは選ばれたのだ』
「……えっ、選ばれたって……」
『時が来た。此れより始まるは、真と幻の戦い。キミはその最後の一人に選ばれた』
真と、幻の戦い……。
最後の一人、と言う事は……彩ちゃんから事前に聞いていた通りだわ。もう他の人たちは目醒めているのね。
『友を、仲間を、愛する者を、そして世界を。この世界を覆い尽くさんとしている幻を消し去るには、キミたち幻真獣ファイターの力が必要だ』
その言葉の後、私の頭の中に夥しい位のたくさんの情報が入って来た。どれも彩ちゃんから言わせれば……私が今まで忘れていた記憶。パスパレの事や、親友である花音の事、そして……颯樹の事。
記憶を失う前の私が聞いたら、思わず卒倒してしまう様なそんな事を思い出した私は、少し情報量の多さに頭がパンクしていた。
「……遅くなっちゃったけど、私に……力を、貸してくれるかしら。リフィストール」
私のその言葉に頷いたリフィストールは、先程より少し長く鳴いて見せた。すると足元には金色に輝く紋章が広がり、カードにも同じ紋様が刻まれた。そして幻世界にある自宅に戻ると直ぐに荷物を纏め、彩ちゃんに連絡を入れた後、彼女から指定された集合場所に足を進める事にした。
……もう迷わないわ。
私は必ず、元の世界を取り戻してみせる!
今回はここまでです。如何でしたか?
次回の更新日は未定となっておりますが、内容が思いつき次第執筆及び投稿に入りますので、更新をお楽しみにお待ち下さい。
それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。
余談ですが……次回投稿するお話は、ベースとなるお話が存在します。事前に『カードファイト!! ヴァンガード DivineZ 幻真星戦編』の『#1 幻真星戦』をご覧頂くと話がスムーズに理解できるかと思いますのでご参考までに。