ウマ娘に領域展開を教えたい転生者トレーナー   作:白髪サングラス女

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 数年前に書いて眠らせていたものを投稿します。




プロローグ──五条美咲

 

 最近流行りの異世界転生ものを読んでは自分もゆるふわ異世界に転生してダラダラ生活したいなぁ、と思っていた私です。

 自慢ではありませんが、いわゆる進学校に進学して難関大学と呼ばれる大学に入り、結構有名な会社に入社していざ社会人生活スタートだったはずなのです。

 なぜいきなりこんな事を言い始めたかといえば、目の前の鏡にボブヘアな白髪に透き通った水色の瞳を持った美幼女がいるからです。

 なんという事でしょう。トラックにも神様にも対面しないまま何の前兆もなく、いきなり転生させられた私だったのです。

 

 ◆

 

 さて、ようやくある程度自立した行動が出来るようになった私は自分が置かれた状況を整理する事にした。

 まず目の前の美幼女こと私の姿について。

 生まれつき白髪なのは、まぁ珍しいけど良いとして、問題はこの眼である。白髪と同じく色は良いとして、この眼は色々と見えてしまうのだ。

 何が見えるかといえば、周囲を漂うエネルギーのような何か。両親からはあまり感じなかったが、お祖母ちゃんからは結構大きめエネルギーを感じてビビった覚えがある。そして私にはお祖母ちゃんを超えるエネルギーが。

 

 うーん。これ、六眼というやつでは? 

 漫画『呪術廻戦』の登場人物である五条悟の眼である六眼。呪力がめちゃくちゃ詳細に見える眼、らしい。

 そして六眼だと思った理由は、鏡を見たら分かるが私の色合いとか色々、幼少期の五条悟の双子の妹とか言われたら普通に信じるレベルに似ているからである。髪質は私の方がサラサラだが。これで六眼でなければ詐欺もいいところ。苗字も五条だし。流石に悟じゃないけど。

 一応見た目以外にもこれが六眼であろうという理由はある。六眼は視た相手の術式まで見破れるらしい。言語化は難しいが、これで自分を視ると私の術式が分かるのだ。

 これ、『無下限呪術』ですね。

 うーん。これは五条悟の能力を持って転生した紛うことなきテンプレ転生者。

 

 既に新しく生まれてから数年経っているので、転生した事自体にとやかく言うつもりはないが、異世界転生をしたらまずはどんな世界に転生したか確認する必要がある。

 中世的なファンタジー的な世界ならこれまたテンプレだったのだが、家を見渡せばテレビもあるしガスや水道もある。話している言語も日本語。

 はい。現代日本ですね。現代ファンタジー的に日本に怪獣が現れたりもしていない。

 良いんだけどね? 魔王とか魔獣とかいたら危ないし。

 かといって呪術廻戦の世界でもなさそう。だって家の外に出ても呪霊なんて見た事ないから。幽霊っぽいものは見た事があるが、人を襲うマジもんの呪霊という呪霊はいないようだ。それに五条で六眼と無下限呪術の抱き合わせなんて放っておかれるわけもない。

 

 しかし、ならば前世の日本と全く同じであるかといえばそうでもない。

 前世では馬という動物がいたが、この世界に馬という動物はいない。代わりにいるのはウマ娘と呼ばれる人間にウマ耳とウマ尻尾を付けたような姿の種族だ。女性しか存在しない種族だが、普通の人間と同じように暮らしている。

 耳と尻尾以外は普通の人間と変わらないが、身体能力はその限りではない。彼女たちは時速60kmで走ったりするらしい。ちなみにお祖母ちゃんはそのウマ娘だ。

 

 ウマ娘については分かっていない事も多いらしく、なぜそんなに速く走れるのかも根本的には分かっていないらしい。一説にはウマソウルが云々とこの前テレビで言っていた。

 

 他にも色々な説があるみたいだけど……どうやら呪力っぽいんだよね。普通の人間にはほとんど呪力がないけどお祖母ちゃんとか外で見た他のウマ娘とか普通の人間なんて比べ物にならないぐらいの呪力持ってたもの。

 

「おーい、美咲! そろそろ出発するぞー」

 

 お父さんに呼ばれたので鏡から視線を外す。

 美咲というのは偶然か前世と同じ私の名前。

 今日はウマ娘のレースを見に行く事になっている。ウマ娘は走るために生まれてきたとまで言われる事があり、ウマ娘のレースは日本の一大エンターテイメントになっているのだ。

 私からすれば競馬の代わりに人が走っているような感覚だが、例えば年末のレースなんて日本中の人々が注目するほどの人気コンテンツである。

 レースを走るのはウマ娘だが、そのウマ娘の面倒を見たり指導したりするトレーナーという職業があり、お父さんは昔それを目指していたらしいのだが、あまりの狭き門を前に諦めたらしい。諦めたものの、レース好きは変わらずで今回は家の近くのレース場で大きめのレースがあるという事で家族で見に行く事になったのだ。

 

「美咲ー?」

「はーい」

 

 お母さんの声を聞いて私はサングラスを掛けて玄関へ向かった。流石にアイマスクや包帯を装備して外を出歩くのは変態が過ぎるので。

 サングラスと言ってもただのサングラスではない。ほとんど光を通さない特注品だ。完全に光を通さないものでもよかったが、流石に文字が見えないのは困るのである。げに恐ろしきは普通のサングラス越しですら刺激の強い六眼の性能よ。

 

 

 

 満員のレース場になんとか滑り込んだ私と両親はゲートに入ったウマ娘たちがスタートする瞬間を待っている。

 今回はフルゲートの18人が出場するレースであり、一番人気のウマ娘はお父さんイチオシの子らしい。なんでも、色々と記録を持っているらしい。早口で説明されたからよく分からなかった。

 

 ゲートが開き、ウマ娘たちが一斉にスタートするが、先頭を行ったのは確か三番人気だったウマ娘だ。お父さんイチオシの一番人気の子は真ん中ぐらいの順位の位置にいた。

 レース中盤まで細かい変化はあっても順位的にはあまり変わらなかったので調子でも悪いのかとお父さんに聞いてみれば、後から一気に抜きに行く作戦らしい。

 そういうものなのか、と眺めていたレースが終盤に差し掛かったとき、それは起こった。

 

 一番人気のウマ娘の呪力が膨れ上がったのが視え、思わずサングラスを外した。

 そしてそれを視て、私は鼻から飲み物を噴き出した。

 

 一番人気のウマ娘が領域を展開した。

 

 ……領域を展開した。

 

 しかも閉じ込める事に特化した閉じた領域ではない、開いた領域だ。

 

 ……宿儺かな? 

 

 飲み物が気道に入って私は盛大にむせた。

 

 ◆

 

 今までお父さんの話を右から左へ聞き流していたが、今回のレースで興味が出た。

 だって領域展開してたし。

 確かに呪力はあるが、術式は持っていなかった。なのに環境要因的な感じで速度も上がっていたし、必中効果的な感じで他のウマ娘の速度を下げていた。あれは領域展開で間違いない、と思う。

 

 しかし、お父さんやお母さん、他の人には見えていなかったらしい。この六眼にはしっかりと視えていたので気のせいではないはずなのだが。

 

 ここは現代日本。つまりいずれ社会人として働かなければならない。前世ではギリギリ社会人生活がスタートしなかったが、会社は正直大手だから選んだみたいなところがあった。

 今世では見つけた。なりたい職業。

 お父さんが諦めたというウマ娘のトレーナー。最終目標は担当したウマ娘が領域を展開するのを見届ける事。

 自慢ではないが頭は良い方だし、トレーナーになる事自体はこの年から勉強すれば余裕だろう。

 

 というわけで両親にウマ娘のトレーナーになりたいという旨を伝えた。ウマ娘のトレーナーといえば男女共に将来就きたい職業ランキング堂々の一位に君臨する職業なので、特に何かを言われるわけでもなく、お父さんからは昔勉強に使った参考書を貰った。どう見ても幼稚園児に渡すものではないガチの参考書だったが、私は特殊なので問題なくありがたく使わせてもらう。

 

 さて、資格を取るための勉強はするとして、ただの他と同じトレーナーになるのでは意味がない。参考書を隅々まで確認してみたが、ウマ娘について色々書いてあったにも関わらず、呪力やそれっぽいエネルギーなどについては書かれていなかった。精々がウマソウル云々。ウマ娘の力の源については分かっていない事が多い、と。

 分からない事はウマ娘に直接聞いた方が早いかとお祖母ちゃんに直接聞いてみた。

 

「確かにそういうのもあったのかねぇ……」

 

 という事らしい。本人もよく分かっていないようだ。

 ついでに領域展開についてはごく一部の選ばれしウマ娘が気迫で見せる集団幻覚があるという噂を聞いた事があるらしい。

 

 なるほど、そんな認識ね。

 まぁ、呪力という概念も領域という概念もないならそうなるのも仕方ないのかもしれない。

 ならば呪力の存在を自覚出来ればあるいは何か変わるかもしれないと私の呪力でお祖母ちゃんの呪力に触れ、自覚を促してみた。ウマ娘はウマソウルとやらから呪力が供給されているのか、呪力を捻出する訓練などしなくても普通に呪力が身体を覆っているのだ。

 結果、自覚は出来たものの特に何かが変わるわけでもなかった。自覚するのとコントロール出来るのとは話が別だからだ。

 

 この前に見たウマ娘も恐らく無意識のうちにしていたと思うので、将来担当する娘に呪力のコントロールを覚えさせれば領域展開を会得する近道になるかもしれない。そうでなくとも呪力コントロールを覚えれば確実に覚える前よりも速く走れるようになるだろう。

 思うに、ウマ娘の脚がガラスの脚なんて言われている理由も呪力コントロールの甘さにあるのではないか。十分に呪具化していない武器に急に強く呪力を流すと破損してしまうようなものだ。

 ひとまずは不利益になる事はないと思うのでしばらくはお祖母ちゃんで実験させてもらう事にする。

 

 ◆

 

 幼稚園を卒園して、小学生になってもトレーナーになるための勉強は続けた。授業の内容など寝ていても理解出来るため、授業中もトレーナー勉強を進めた。

 真面目に授業を聞けと言われた事もあったが、授業内容を完璧に理解している事や本気でトレーナーを目指している事を大袈裟に語れば、黙認してくれるようになった。

 そして小学校入学から少ししてそりゃそうなるかという感じなのだが、いわゆるいじめっ子というやつらに目を付けられた。向こうからしたらただのヒトなのに白髪という普通じゃない髪色に常時サングラスというスタイルに加えて、いつも変な分厚い本を読んでいるようなものだ。むしろ目を付けられるのが遅いぐらいだ。

 

 とはいえ、こちとら社会人目前までいった大人なお姉さんであるからして、男子たちの悪口など全く効かないのである。

 女子は女子で物を隠したりしようとするから、大きめのジッパー付きのかばんを持って行って、例えばお手洗いに行く時など目を離さなければならない時に靴を含めて全ての持ち物をそれに入れて南京錠を掛けて対処した。最終的にかばんごと窓の外に捨てたのは笑ったよね。

 持ち物に対して何かするのは効果がないと分かったのか、トイレの個室に入っている時に上から水をかける典型的なやつもやられた。普通の女の子ならそれでびしょ濡れになって泣くしかないんだろうけど、残念ながら私は普通の女の子じゃないんだよね。

 逃げ場がない所で水が降ってきても、無下限にかかればノーダメージよ。

 

 それから、よくよく考えてみれば小・中学校は義務教育だから不登校になったとしても卒業出来るという事に気付いた。

 というわけで学校に行く時間を別の事に費やす事にした。

 

 まず初めにコスプレ用パーティグッズの付けウマ耳と付けウマ尻尾、それにウィッグ、あとはウマ娘用のジャージをお小遣いから購入した。

 ウマ娘の走りを指導するなら走りを理解する必要があるため、私は自分で走ってみる事にしたのだ。

 もし誰かに見られても私だと分からないように私の髪色とは正反対の真っ黒髪のウィッグに真っ黒ウマ耳を付ける。ヒト耳と眼も見えないようにかなり毛量が多いウィッグだ。前髪で眼は完璧に隠れる。

 さらに、ウマ娘用のフードが付いているパーカーを着て、あとはジャージの尻尾穴に付け尻尾を通して完成。どこからどう見ても黒髪ウマ娘だ。

 

 完璧ウマ娘コスプレが完成した次の日、私は学校をサボってコスプレをしたまま走った。この世界の道路にはウマ娘用レーンがあるため、人外の身体能力でも走る場所には困らない。

 

「美咲、学校に行かずにどこに行ってたんだ?」

 

 はい、バレました。そりゃ、そうだ。

 とりあえず両親には学校の勉強は卒業分まで全て学習したから大丈夫だという旨を伝え、少しでも出来る事をしたいという事も伝えた。

 

「そうか、頑張りなさい」

 

 いや、我が親ながらそれで良いのか。

 ありがたいから良いんだけども。

 

 ◆

 

 小学校は不登校のまま卒業、中学校も同じく。高校は通信制のところにし、大学は日本でもトップの大学に進学した。

 大学ではウマ娘に関する分野を専攻し、個性豊かな人間が集まる大学だったので友人もできた。その中にはウマ娘も。彼女は中高生時代はレースで走っており、レースを引退した今、今度は若い娘の夢を応援したいらしい。所属するだけで上澄みと言われる中央のトレセン学園でGⅡ勝利経験がある。かなり強いウマ娘といえるだろう。

 私は彼女と共に中央トレーナー試験を受ける事にした。

 

 必要な知識は言うに及ばず、大学に入ってからは少なくなったが、小・中学生の頃はコスプレしながら走りまくったおかげでウマ娘の走り方も身をもって理解している。見知らぬウマ娘に辻レースを仕掛けたりもした。

 ちなみに、長く使った事で私のウマ娘コスプレセットは呪具化している。付け耳も付け尻尾も本物のように動かす事が出来るようになった。

 実験によって私以外でも呪力のコントロールを身につける事が出来るのも分かっている。

 それに15年以上も準備してきたのだ。試験に落ちる理由がない。

 

『美咲ちゃん! どうだった!?』

 

 そんなこんなでトレーナー試験が終わり、合格発表の時間になってすぐに電話が掛かってきた。

 

「当然、合格。リーフちゃんは?」

 

 電話の相手は一緒に試験を受けた友人だ。

 トライリーフ。栗毛のウマ娘である。

 

『私も受かったよ! これで二人ともトレーナーだね! 本当に受かってよかったー!』

「ホントね。リーフちゃんだけ落ちたらどうしようかと思ったよ」

『もー、すぐそういう事言うー!』

「まぁまぁ。合格祝いにどこか食べに行く?」

『行くー!』

 

 チョロい。

 

 ◆

 

 そんなこんなで配属の日を迎え、私やリーフちゃんのような新人は担当のウマ娘を探すか、既にトレーナーとして働いている先輩トレーナーの下でサブトレーナーとして活動するかをしなければならない。

 リーフちゃんの他にも新人の同期はいるが、何というか避けられている。

 まぁ、白髪の真っ黒サングラス女なんて客観的に見ても怪しいので当然の反応かもしれない。新人代表の挨拶でもトレーナーたちザワザワしてたし。

 

「美咲ちゃんはどうするの?」

「どうするって、何が?」

「もー、担当の娘を見つけるかサブトレーナーになるかに決まってるじゃーん」

「私は担当になってくれそうな娘探すよ。リーフちゃんは?」

「私も担当の娘を探そうと思ってるよ。まー、ウマ娘のトレーナーって珍しいから契約してくれる娘がいるか分からないけどね?」

「大丈夫でしょ。ウマ娘の事はウマ娘が一番知ってるんだし」

「ウマ娘以上にウマ娘の事を知ってそうなヒトが目の前にいるんだけどね?」

 

 良いけどね? べつに。私にはリーフちゃんがいるし。

 入社式を終えた時点で正式にトレーナーとなるので今からでもウマ娘をスカウトする事は出来る。受けてくれるかどうかは別として。

 

 今日はもうやる事もないのでリーフちゃんと一緒に練習しているウマ娘を眺めにいく事にした。

 

「どう? 美咲ちゃんの眼から視てすごい娘はいる?」

「まぁ、流石に中央に入れるだけあってみんな一定以上は持ってるかな。今のところ飛び抜けてるって娘はいないけど」

 

 GⅠレースに出場して、さらに勝つなんて事が出来るのは全ウマ娘から見て上澄みの上澄み、そのさらに上澄みだ。この中央トレセン学園に入学するだけでも十分に上澄みだというのだから、どのウマ娘を見ても一定以上の呪力を持っているのは当然かもしれない。

 とはいえ、集団としては中央トレセン学園が一番上の集団という事になるので実力の格差が大きいのも、ここ中央になる。

 ここに来る途中マルゼンスキーというウマ娘を見たが、何というか他の娘が可哀想になるぐらい違っていた。新入生が追い付こうとすると、3回ぐらい死にかけて呪力の核心を3つぐらい掴まないと無理だろう。呪力の核心が3つもあるのかなんて知らないが。

 

「でも、敏腕トレーナーミス五条にかかればみんなGⅠウマ娘になれるもんね?」

「かもしれないけど、最初の担当は色々とぶちかましてくれる娘がいいかな。私の目的のためにも持ってる才能は多ければ多いほど良いからね」

「目的って?」

「会得してほしいものがあるの」

「会得してほしいものって?」

「内緒」

「もー」

 

 いずれ何人か担当する事になるかもしれないし、そうなれば大なり小なりその娘たちの間に実力差は生まれるだろうが、最初は呪力量が多くて勘も良い娘を担当したい。そして領域展開を習得してほしい。

 

 ◆

 

 数日後、模擬レースがあるというので見に行く事にした。私もリーフちゃんもまだ担当になってくれる娘を見つけていない。

 今日辺り良い感じの子を見つけれないかな、と考えていると何やら人が多い事に気が付いた。

 

「何だか人が多いねー」

「だね」

 

 リーフちゃんの言葉に適当に相槌を打っていると、その娘をサングラス越しに捉えた。

 

「あれは……」

「なになに? 何か見つけたの?」

 

 他の娘と明らかに違う。内包する呪力量が一回り以上多く、そして質が良い。逸材だ。このままでも並のGⅠウマ娘には十分届き得る才能がある。

 つまり、力の使い方さえ覚えればかの皇帝やスーパーカーすら下せるようになり得るという事。

 

「あの娘スカウトしよ」

「え、どの娘?」

「あの娘よ、あの娘。今屈伸してる体つきが良い娘」

「まだ準備運動中だけど?」

「走りを見るまでもない。才能の塊だよ」

「美咲ちゃんが言うならそうなんだろうけど……うーん、走る前にスカウトなんてしたら不審に思われるんじゃないかなぁ」

「……確かに」

 

 ただでさえ怪しいトレーニング方法で色々やろうとしているのに、最初から不信感を持たれるのは避けたい。

 

 という事でレースも見たが、1位だった。当然と言えば当然だ。トレーナーの付いていないウマ娘はほとんど才能だけで走っていると言っても過言ではない。ならば勝つのは才能のあるウマ娘というわけだ。

 

「さて、スカウトに」

「めちゃくちゃ囲まれてるよ、あの娘。出遅れたんじゃない?」

「うぐっ……最前列で見ておくべきだったか……」

「あの様子だと人が多かったのはあの娘が目的だったからなのかもね」

 

 たぶんベテランのトレーナーもいるだろうし、今回は諦めるしかないだろう。

 今回は、というより練習しているところにスカウトに行った方が良いような気もしてきた。流石に練習に何人もスカウト目的のトレーナーが集まる事もないだろうし。練習を見て声をかけるなら準備運動中に声をかけるよりは不信感も持たれないだろう。

 

 ウマ娘のデータにちゃんと目を通しておこうかな、なんて考えているとリーフちゃんが私の肩を揺らした。ついでに呪力の流れだけで分かるほどの果実が2つ揺れている。揉んだろか。

 

「ねぇねぇ、なんだか様子が変だよ。誰も契約してないみたいだし」

「え、マジ?」

 

 基本的にベテランのトレーナーについていって損する事はないから、絶対スカウトを受けると思ったのに。まだ誰とも契約していないというならチャンスだ。

 まぁ、とんでもない気性難でトレーナーたちに匙を投げられたという可能性もあるが、こちとら無下限持ちなので蹴り癖があるような娘でも問題ない。出来ればちゃんと話を聞いてくれる娘の方がいいけど。

 ともあれ、話してみない事には始まらないので話しかけるために近付いた。

 

「短距離なら良いところまで行けそうなんだが」

「とはいえ、あの様子じゃ厳しそうっすね」

「ああ。確かにクラシック三冠は誰でも一度は志す栄誉だ。しかし、距離適性という壁は大きい。怪我のリスクもある。あの子のためにも出来る事なら短距離路線に進んでほしいものだ」

「どうですかねー、意志は固そうでしたし」

 

 目的の娘に辿りつくまでにそんな会話が聞こえた。

 

「なるほど、そういう感じね」

「三冠狙いだけど、距離適性は短距離。さてさて、未来のカリスマトレーナー的にはどう? 三冠取れそう?」

「取れるよ」

「わお、即答」

 

 目的の娘に声をかける人がいなくなったタイミングで私はリーフちゃんを引き連れつつ声をかけた。

 

「こんにちは。少しお話いいかな?」

「こんにちは。貴女もスカウトですか?」

「そうだよ」

「私の夢はクラシック三冠を制覇する事です。これは変更不可能です」

「じゃあ、クラシック三冠取った後の目標も考えといてね」

「なので……短距離路線、には……?」

 

 ポカンと頭上にクエスチョンマークが浮かんだのが見える。

 

「おっしゃる意味が、よく分かりません」

「私がクラシック三冠を取らせるって事。でもその目標はクラシック級のときのものでしょ? だからシニア級での目標も必要になってくる」

「貴女は……失礼ですが、新人のトレーナーではありませんか?」

「うん。この前トレーナーになったばっかり」

「私は自身の適性が短距離か、マイルにあると自認しています」

「うんうん」

「距離適性外でも三冠を取れると、本当にそう思っているのですか?」

 

 なるほど。

 新人が上手い事言って契約させようとしているのではないかと疑っているわけだ。

 まぁ、確かに。ベテランでも匙を投げたこの状況でスカウトに来た新人となればそう思うのも仕方ない。ここは信頼を得るためにもバシッと言っておこう。

 

「思ってるよ。距離適性なんて所詮得手不得手の問題だもの。可能不可能の話じゃない。短距離ウマ娘が長距離を走ろうとするのは、ただのヒトがウマ娘と同じように走ろうとするのとは違う。右利きの人が左手で字を書こうとするのと同じ。始めは全然上手く書けなくても、練習すれば右手と同じぐらい綺麗に書けるようになる。必要なのは握る力と練習だけ」

「ちょっとあなた、適当な事言って……」

「まあまあ、ここは見守りましょう」

 

 途中で割り込もうとしたトレーナーをリーフちゃんが抑えてくれた。

 

「そしてあなたには走るための力、才能がある。だったら後は練習するだけ。ここだけの話、他のトレーナーが知らない練習方法もあるよ。効果はあそこのウマ耳トレーナーで実証済み」

 

 伝えるべき事は言った。後は押すだけだ。

 

「さぁ、どうする? あなたには選択肢がある。ベテラントレーナーについて行って短距離路線に進むか、未来のスーパーエリートカリスマトレーナーについて行ってクラシック三冠の栄誉を手にするのか。答えは2つに1つ」

「……改めまして、ミホノブルボンです。よろしくお願いします、スーパーエリートカリスマトレーナー」

「よろしくね。あ、名前言ってなかったっけ。私は五条美咲。美咲でいいよ」

「はい。美咲スーパーエリートカリスマトレーナー」

「おっと、イジってる?」

「発言の意図が分かりません。貴女の発言を分析したところ、私がクラシック三冠を制覇するのは確定事項。すなわち貴女がスーパーエリートカリスマトレーナーとなるのも確定事項です。既に確定している事象を口にするのは、自然な事かと」

「絶対イジってるじゃん」

 

 何はともあれ、最初の担当ウマ娘は決まった。

 後は突っ走るだけだ。

 

 

 





 ○テンプレ転生者 五条美咲
 六眼と無下限呪術を持って転生した女。前世にウマ娘という創作物は存在しなかった。
 五条悟を女体化させたような容姿であり、常にサングラスを掛けて生活している。名字は五条だが、呪術廻戦の五条家とは関係ない。身長は五条悟ほど大きくないし、胸も別に大きくない。
 幼少期に見たウマ娘の領域に衝撃を受け、自分が担当したウマ娘にも領域展開を教えようとトレーナーになった。
 頑張って習得したので『蒼』も『赫』も『茈』も使えるし、反転術式も使える。仮に異能バトル物のような状況になったとしてもある程度戦える。



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