ウマ娘に領域展開を教えたい転生者トレーナー   作:白髪サングラス女

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 早めに第二話を更新しておきます。

 感想・評価もお待ちしています。



幕開け──ミホノブルボン①

 

 

 担当ウマ娘が決まったならば、あとはメイクデビューまで訓練を重ねるだけだ。ゆえに担当が決まった他のトレーナーはグラウンドに出て担当ウマ娘の能力を確認しているところだろう。

 しかし、才能については言うまでもなく、走っているところも見たので今はそれよりも大切な事をする。

 

「今日からよろしくお願いします。マスター」

「うん、よろしく。ブルボン」

 

 昨日は自己紹介と親睦を深めるためにスイーツを食べに行っただけで、レースに関する事は今日から始める事になる。

 場所はトレーナー室。授業を終えたブルボンことミホノブルボンに着替えるためのジャージを持って来てもらっている。

 

「今日からトレーニングを始めるわけだけど、昨日も言った通り私には他のトレーナーにはないトレーニング方法がある。最初の方は戸惑うかもしれないけど、確実に効果はあるから信じてついてきてね」

「了解しました」

「まずは説明なんだけど、簡単に言うと今からブルボンには呪力というエネルギーのコントロールを覚えてもらう」

「じゅりょく、ですか?」

「そうそう。(まじな)いの力って書いて呪力。ま、私が勝手に呼んでるだけだから、気とかチャクラとかそういう感じのものだと思ってもらえば良いかな。不思議に思った事はない? ヒトとウマ娘の身体の構造は大体同じ。にも関わらず身体能力には隔絶した差が存在する。この差っていうのが呪力の差から来ているってこと。ウマ娘はただのヒトとは比べ物にならないほどの呪力を持ってるの」

「……ステータス『困惑』が発生」

 

 頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる。

 

「まぁ、先に感じてもらった方が早いかな?」

 

 私は机の上に肘を置いた状態で腕をブルボンの方へ向けた。

 

「腕相撲やろう」

「腕相撲、ですか? しかし、ヒトとウマ娘では勝負にならないと思いますが」

「ただのヒトとウマ娘ならね。まずは呪力がどんなものか、体験してほしい」

「了解しました」

 

 ブルボンも腕を差し出し、私の手を握った。

 

「それじゃ、よーい、スタート」

 

 遠慮がちに力が加えられるが、その程度ではビクともしない。

 どんどん掛かる力が強くなっていき、一定になった。たぶん、全力。しかし、動かない。少しして、膠着を破って終わらせた。

 

「という事で、はい終わり」

「……驚きました。まさか、力で負けるとは」

「呪力がなかったらへなちょこだから、一瞬で負けるけどね。ウマ娘は種族的に呪力が多いから、使い方を覚える事はレースに勝つ上で絶対に役に立つ」

「これが、呪力……」

「まぁ、多いって言っても私よりは少ないから、普通のヒトから私レベルにパワーアップするみたいな上がり幅にはならないけどね。普段の走りから無意識のうちに呪力を使ってはいるから、走る速さ2倍とかそんな事にはならないけど、コントロールを覚えれば確実に差は出る。もちろん土台あっての呪力操作だから身体を鍛える訓練もやってもらうよ」

 

 視た感じ、ブルボンはわざわざ呪力操作を覚えなくてもGⅠを勝てる素質はある。が、せっかく見つけた才能。それだけで終わってもらっては困る。

 ウマ娘の領域に術式の有無は関係ない。掌印もないし、呪術師の領域とは少し違う。ただ、領域は領域だ。

 あの日見た光景をもう一度、ブルボンには再現してもらう。

 

「この呪力というものをコントロール出来れば、中・長距離適性に乏しい私でも三冠達成が可能。つまり、そういう事でしょうか」

「大まかにはね。私の理論で言うと、距離適性とか芝・ダートの適正はその娘その娘の呪力の運用の癖みたいなもので決まるのね。ただ、呪力の運用はコツさえ掴めば変えられる。たまに短距離も長距離もいけるとか、芝もダートもいける娘がいるのは、無意識のうちにそれを切り替えてるから。まぁ、これもコツを掴むまでは難しいかもしれないけど、デビューまでに身体作りと並行して練習していこう」

「…………。了解しました。よろしくお願いします。マスター」

「あ、色々一気に話し過ぎた? ごめんごめん、とりあえずお菓子でも食べながらトレーニングの計画練ろっか」

 

 ぽかんとしていたブルボンに用意していたお菓子を差し出し、改めて席についた。

 ちなみに適性云々はしっかりとリーフちゃんで検証したから適当な事を言っている訳ではない。お陰で全距離芝ダートいける魔改造ウマ娘が誕生した。リーフちゃん曰く、今の状態で現役に戻ったらGⅠを総ナメ出来るらしい。まぁ、それに関しては調子乗りの主観なので何とも言えないが。

 

 ◆

 

 ブルボンのトレーニングメニューとして、その日によって細かいところは変わるが、基本的には授業が始まる前に呪力のコントロールを確かめながら体力作りを兼ねてランニング。放課後はまずトレーナー室で瞑想(呪力操作訓練)、その後に学園内のコースを走ったり、プールで体力トレーニングをしたり。そのままトレーナー室でレースのお勉強をする時もあるが、大体はそんな感じで平日はトレーニングをしている。

 

「おはようございます、マスター」

「おはよう。じゃ、行こっか」

「はい。これより早朝トレーニング『呪力操作上達並びに体力増強用ランニング』を開始します」

 

 日が昇り始めて少し、トレセン学園の近くにある公園で私はブルボンと合流した。最初はブルボンが1人で行っていたのだが、私もついていった方が効率的だと気付いてからは私も同行している。

 ただし、私はいつもの格好ではない。ジャージに黒いウィッグに呪具と化した付け耳、付け尻尾、その上からパーカー。そう、子どもの頃から自分で走っていた五条美咲(ウマ娘の姿)である。

 普通のヒトがウマ娘と並走していたら目立つが、ウマ娘がウマ娘に並走するのは普通の事だ。という事で私は朝のランニングにはウマ娘姿で付き合っている。

 ちなみに、ではあるが、実はこのウマ娘変装時の偽名も昔から考えている。マッシロメカクシだ。白髪で眼を隠しているというのが由来だが、よくよく考えてみれば変装している時のウィッグは黒色だったと後で気が付いた。ただ、当時既に野良レースを仕掛けたウマ娘にマッシロメカクシと名乗ってしまっていたので、そのまま使っている。

 

「いい感じ、いい感じ。意識して呪力を巡らせられるようになってきてる」

「マスターの、指導の、おかげです」

 

 ウマ娘は呪力に溢れているが、その存在を知覚出来なければ無意識に身体の動きについてくるだけだ。当然だが、呪力を操ろうとするなら呪力を知覚する必要がある。

 ブルボンは自身の呪力を知覚出来るようになるまで少し時間がかかった。しかし、一度知覚してしまえばそこからは早かった。

 

 走る際に有効な部分へ適切に呪力を配分する。それが出来れば、単純に無意識の時には無駄にしてしまっていた分も走る力に変換する事が出来る。

 後は呪力の運用だ。レースで走る時は呪力によって身体能力を強化している状態になる。呪力も使えばスタミナのように減っていくので、いくら物理的なスタミナをつけたとしても、レース前半で呪力を使い切ってしまえば後半は垂れてしまう。

 芝とダートでも適切な呪力の運用は変わるが、とにかく呪力の運用を思った通りに切り替えてる事が出来ればどんなレースでも得意レースのように走る事が出来るのだ。

 

「よし、もうちょっと速さ上げてみようか」

「もうちょっと、とは、具体的に、どのぐらい、でしょうか」

「あー……じゃあ今の1.1倍で」

「了解、しました」

 

 ブルボンは少し不思議ちゃんなところがある。今の、ちょっとみたいな曖昧な言葉よりもはっきりとした数字を好むのはまだ良いとして、口癖なのか「ステータス『〇〇』が発生」みたいな事を頻繁に言っている。

 それもあってか、学園の生徒には機械みたいだとか言われる事があるらしい。確かにそれは私も少し思った。

 

 

 そして授業が始まる前にはブルボンと別れ、ブルボンは学生として授業へ、私はトレーナー室で仕事を行う。

 基本的にはブルボンの練習メニューを組んだり、あるいはデビュー時期の選定やデビュー後のレース予定を考えたりと、担当ウマ娘に関する事だが、担当ウマ娘がいなかったり担当ウマ娘の人数が少ないトレーナーには別の雑務が与えられる事もある。

 

 私も今は、その雑務を行っていた。その内容は主に理事長秘書である駿川たづなさんのお手伝いだ。駿川さんから他のトレーナーや生徒への配布物を代わりに届ける事が多い。トレセン学園の生徒数は1000人を超えているし、トレーナーの数もそれなりにいる。1人でいちいち渡しに行っていてはどれだけの時間が掛かるか分かったものではない。

 私としてはわざわざ渡しに行かなくとも呼び出せば良いと思うのだが、駿川さんのスタンスとしては、それで時間を無駄にさせたくないらしい。

 まぁ、私のように既に担当を持ったものならともかく、担当ウマ娘がいないトレーナーにとっては仕事があるというのはある種の救済措置でもある。授業時間中は当然スカウトは出来ない。つまり、何も出来ない授業時間中をこれで埋められるのだ。

 

「こんにちはー。駿川さんからのお届け物でーす」

「ああ、入ってくれ」

 

 私が駿川さんの書類を持って訪れたのはチームスピカのトレーナー室。

 トレーナーは私のようにマンツーマンでウマ娘を担当している者と複数のウマ娘をチームとしてまとめて面倒を見ているトレーナーがいる。

 

「すまん、その辺に置いといてくれ……って、君は確か」

「どうも、今年からトレーナーになった新人の五条美咲です」

 

 髪を後ろで纏め、側頭を刈り上げている、身長も結構高い見ようによっては少し厳つい感じの男性はチームスピカのトレーナー。口に棒付きキャンディーを咥えているのがその厳つさを和らげている。

 まぁ、格好で言えばスーツに真っ黒サングラスの私の格好も厳ついか。いや、しかしこの前は上半身裸にサングラスのトレーナーもいたし、全然まだまだだろう。

 

「ミホノブルボンの担当になったんだってな? クラシック三冠を目指すって一部で話題になってたぞ」

「短距離かマイルに進んだ方が良いのにって感じですか?」

「そういう声もある。まぁ、それ以上に目立ってるからなんだが……ただ、俺は良いと思うぜ。ウマ娘の夢を叶えてやるのがトレーナーだからな。たとえどんな結果になっても」

「心配いりませんよ。ブルボンは勝ちますから。そちらのトウカイテイオーさんはどうですか? 皐月賞は順調に勝ったようですが」

「テイオーこそ心配いらないさ。このままいけば、無敗の三冠だって十分に狙える」

 

 チームスピカに所属しているトウカイテイオーは今年のクラシック三冠を狙っていると公言しているウマ娘だ。既に1つ目の皐月賞は勝っており、私の眼から視ても他のウマ娘と比べて頭1つ抜けている。このまま何もなければクラシック三冠を達成するだろう。

 

「ブルボンもいずれ三冠を達成する予定なので、後輩として応援してます。それでは」

「ああ、ありがとな」

 

 こうして少しの雑談を交わして、その部屋を出た。

 こんな風に色んなトレーナーと接する機会が増えたおかげで、浅く浅くではあるが、私の交流も広がっている。最初は面倒くさいと思っていたが、思わぬ副産物である。あるいは、それも見越してこの雑務は与えられているのかもしれない。

 

 

 さて、そんなこんなで放課後になればトレーニングの時間だ。

 

「ミホノブルボン、到着しました」

「おつかれー。じゃあ、着替えてトレーニング始めよっか」

「了解しました」

 

 授業を終えて制服姿のブルボンがトレーナー室を訪れた。

 ブルボンに着替えを促し、私はパソコンで行っていた作業を中断した。

 

 ブルボンが着替え終わると、私は折りたたみの椅子を2つ、向かい合わせるように置いた。

 いつものルーティーンだ。私が片方に座るとブルボンも向かい合うようにもう1つの椅子に座った。

 

「はい、お手」

 

 私が両手の手のひらを上に向けて差し出すと、ブルボンは左右それぞれの手を私の手のひらの上に置いた。

 

「これより、オペレーション『瞑想』を開始します」

 

 そう言ってブルボンは目を閉じた。

 

 これは瞑想という名の呪力操作訓練だ。こうして触れる事によって私がサポートしながら呪力を感じ、そしてそれを自分の意思でコントロール出来るようにする。

 正直もう私が触れていなくても問題ないレベルにはなっているのだが、ルーティーンになっているためこうして続けている。

 

「オッケー。じゃあ外出てトレーニング行くよ」

「了解しました」

 

 頃合いを見て、トレーナー室を出る。ブルボンの私物なども置いてあるため施錠は忘れない。

 

 2人で向かう先は、様々なトレーニング用具が収められている倉庫だ。ダンベルや身体に付ける重りなどを始めとして、共用の誰でも使用出来るトレーニング用具がある。

 

「最初はキックボクシングのミット打ちね。グローブはめといて」

「了解しました」

 

 私が手にとったのはキックボクシングなどで使用されるパンチキック兼用のミット。ただし、ウマ娘用なのでヒトが用いるものに比べて大きくて分厚い。

 

 グラウンドのコースでは色んなウマ娘が走っているが、コースに囲まれている内側の空間なら割と自由に色々出来る。こうしてミット打ちをする時などはその空間を利用している。

 

「はい、ワンツー!」

「ハハッ!」

「ミドル3回!」

「ハッハッハッ!」

 

 小気味の好い音が響く。ウマ娘のパワーなのでグラウンド中に響く音だ。

 

 ミット打ちは全身運動でパワーもスタミナも鍛えられるメニューだ。結構良いのだが、私たち以外にやっているのはあまり見ない。

 まぁ、ウマ娘のパワーをミットで受け止めようとすると普通はウマ娘じゃないと無理だ。自分がウマ娘だというトレーナーは滅多にいないし、やろうとすると大体は生徒同士になる。受ける側の怪我のリスクを考えると難しいというのは分かる。

 私の場合は無下限のオートガードがあるので万が一の場合も安心ではあるが。

 

 ちなみに私としては、あわよくば黒閃でも出てくれないかなぁと思っているが、今のところその兆候はない。

 

「よし、1分休憩」

「はいっ……」

 

 ブルボンにドリンクを渡して一息つく。

 

 ぐるっと一周見渡してみると、かなり注目されている。

 そりゃあ、目立つし仕方ない。見られて困るものでもないし。

 それに、三冠を取ればもっと注目される事になる。今のうちから慣れておくのも良いだろう。

 

「マスター、休憩開始から1分が経過しました」

「よっし、再開!」

 

 ◆

 

 5月下旬、東京レース場。

 今日はクラシック三冠レースの2つ目、日本ダービーが行われる日だ。

 

「ブルボン、ブルボン。大阪のたこ焼きとお好み焼きの屋台あったよ、珍しくない? いっぱい買ってきたから食べよ」

「目算でそれぞれおよそ10人前と推定。マスター、これは買い過ぎなのでは」

「美味しそうだったからさ、食べるでしょ?」

「食べます」

 

 来年はブルボンも出る予定のレース、という事でその空気感も含めた下見を兼ねて観戦に来ている。もちろん皐月賞も一緒に観に行った。

 

 座席に並んで座り、たこ焼きから手を付ける。

 

「熱いから注意ね」

「心得ています。現在の気温28.1℃。計算の結果、20秒間息を吹き付けつつ冷ます事で食べられる温度になると判明」

「そうなの?」

 

 宣言通り20秒後、丸々1個のたこ焼きを口の中に放り込んだブルボンの尻尾がピーンと伸びた。

 

「お茶もあるよ」

「も、問題、ありません……いえ、やっぱり貰います」

 

 そんな丸々1個放り込むからそんな事になる。ブルボンは真面目だが、天然なところもある。まぁ、そんなところがかわいいのだが。

 

「バッドステータス『軽度の火傷』を確認……」

「あらら……ほら見せて」

 

 私は口を開けて顔をこちらに向けるブルボンの両頬に手を当てた。

 

「痛いの痛いの飛んでいけーっと」

 

 反転術式というものがある。

 呪術廻戦に登場する技の1つで、マイナスの呪力とマイナスの呪力を掛け合わせて傷を癒やす効果のあるプラスの呪力を生み出すとかいうものだ。そういうものがあるのは知っていたから、私は頑張って習得した。特に他人の傷を癒せるように頑張った。

 ただ、私は言語化出来ない感覚の上でしか使えないので、残念ながら呪力操作とは違ってこれは教えられなかったりする。

 

「火傷の痛みが消失……ありがとうございます、マスター」

「うん、次からは割って食べるとかしてね」

「問題ありません。今の間に経過した時間を考慮すると、既に他のたこ焼きは食べられる温度になっていると推測出来ます。それに、父が言っていました。『たこ焼きはそのまま食べるのが一番美味い』と」

「まぁ、分からないではないけど……」

 

 数秒後、再びピーンとブルボンの尻尾が伸びた。

 やっぱり熱かったらしい。屋台の人がアツアツだから気を付けな、みたいな事を言っていたが、普通のたこ焼きより熱いのだろうか。私は猫舌だからその辺り分からないが。

 

 そうこうしているうちに、パドックのお披露目が始まった。

 様々なウマ娘がいるが、1番人気は文句なしのトウカイテイオー。見ただけで分かる。強い。

 

「もうちょっと前行く?」

「いえ、ここからで問題ありません」

 

 呪力云々はもちろんそうだが、そもそも土台となる身体からして出来上がっている。

 

 程なくして、レースが始まった。

 レースの格の中で最も高いGⅠというだけあって出走しているウマ娘は全員強いが、やはりトウカイテイオーが強かった。

 人々の期待を裏切らず、トウカイテイオーは無敗の二冠を達成した。

 

「素晴らしいレースでした。来年は、私も彼女のように走りたいと思います」

「そうだね。まずはメイクデビュー、頑張ろう」

「はい。それではマスター、これより学園に戻り、トレーニングをお願いします」

「いいよ。ちょっとだけね」

 

 ◆

 

 6月下旬。

 中山レース場、選手控え室。今日はブルボンのメイクデビューの日だ。

 

「どう? 緊張してる?」

「『緊張』……しているかもしれません。芝2000m、クラシック三冠最初のレース、皐月賞と同じ条件です。ここで勝てるかどうかが、私のクラシック三冠挑戦への評価に関わると思案します」

「そうだね」

 

 私はブルボンがクラシック三冠を取る事は疑っていないが、周囲の他の人間にとってはそうでもないらしい。そこまで頻繁にあった訳ではないが、私が先輩のトレーナーからブルボンを短距離路線に進めた方が良いという事を言われたり、ブルボンが他の生徒から何か言われる事もあったらしい。

 事前情報として、ブルボンの適性が短距離からマイルだというのは間違っていない。故に、言ってきた者が間違っているという訳ではない。むしろ、一般的な感覚で言えば正しい。

 もちろん私たちが間違っている訳でもない。とはいえ、注目されるのは良いにしても、そういうネガティブな感じで注目されるのは良い気分ではない。

 ならば手っ取り早いのは、ブルボンが三冠路線に進むのが正しい判断だと認めさせれば良い。

 

「実際、そういう他人からの評価はレースで走っている限りついて回る。でも、内容を変える事は出来る。このレースが終わる頃にはみんなの見る目は変わってるし、来年になる頃には誰もが認めるウマ娘になってるよ。だから、自信を持って行っておいで。未来の三冠ウマ娘」

「はい。『緊張』……そして少しの『不安』があります。本当に私は勝てるのか、と。私はまだ、私自身を信じ切れていないのかもしれません。しかし、貴女の事は信じています。未来のスーパーエリートカリスマトレーナー」

「覚えてたんだ、それ……」

「当然です。マスターに関する情報は最も重要なデータベースに保存されています」

 

 それを言ったのはスカウトの時の1回だけだというのに。

 まぁ、このままブルボンが勝ち続けて、他のウマ娘も担当してその娘も勝ち続けて、となったらそう呼ばれる日もいつか来るかもしれない。

 

「うん。なら、私が確信してるって事も分かってるね?」

「はい。勝ってきます。そして証明します」

「いいね。見せ付けておいで。伝説の幕開けを」

 

 私が拳を握ってブルボンへ向けると、ブルボンは首を傾げた。

 

「……?」

「グータッチ。拳と拳を合わせるの。頑張ろうぜ、的な」

「なるほど。『グータッチ』、新たにデータベースに書き込み完了」

 

 そう言って、ブルボンは拳を私の拳へコツンと当て、そして少し笑った。

 

「マスターからの激励を受け取りました。これよりミッションの遂行へ向かいます」

「うん。ゴールで待ってるね」

 

 こうして、私たちの戦いは幕を開けた。

 

 





 ○本作におけるウマ娘と呪力の関係
 ウマ娘が普通のヒトと身体の構造はそこまで違いがないにも関わらず並外れた身体能力を発揮するのは、その身体が呪力に満ちているからである。呪力はウマソウルから供給されており、無意識のうちに身体の動きに合わせて消費されている。
 距離適性や芝・ダート適性には呪力運用の無意識上での癖が関与している。例えば短距離適性のウマ娘は開幕から全力で呪力を回していく癖があり、長距離ウマ娘は少しずつ呪力を使っていく癖がある。無意識の中でも距離によって器用に運用を変えているウマ娘もおり、距離適性が他に比べて広かったり、芝もダートも走れるウマ娘はその器用なウマ娘である。
 物理的な身体機能と呪力が掛け合わさって発揮されるのがウマ娘の身体能力であり、呪力が残っていてもスタミナがなくなれば走れないし、スタミナが残っていても呪力がなくなれば走れない。この2つは表裏一体であり、どちらかだけが優れていても強くはなれない(呪力が強過ぎたり身体機能が強過ぎたりする一部例外トレーナーを除く)。
 呪力を無意識のうちに使うのと、意識的に使うのでは走りの完成度に差が現れる。ただし、稀に無意識の上でも完璧に走りと呪力の運用が噛み合う事があり、それがいわゆる奇跡の走りである。ウマ娘アニメ2期ラストの有マ記念トウカイテイオー奇跡の復活(ブランク1年かつ全盛期とは程遠い状態で1着)などがこれに当てはまる。
 呪力が操れたからといって、走る速さが2倍になったりしないし、爆発的な違いが生まれる訳ではない。しかし逆に言うと、呪力のコントロールが出来れば、常にどんな時、どんな距離でも奇跡の走りが出来る事になる。ゲーム的に言えば、常に絶好調で芝ダート全距離と得意な作戦が全部Sで、周りよりもちょっとステータスが高いだけで、他のウマ娘が全く勝てない訳ではない。
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