ウマ娘に領域展開を教えたい転生者トレーナー   作:白髪サングラス女

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チーム発足──ミホノブルボン③

 

 

 

 期末試験期間も終わり、夏休みに突入した。トレセン学園内に加えて数日かけて周辺の呪霊は狩り尽くしたため、この前のような呪霊騒ぎはもう起きていない。

 そして、あの騒ぎで懐かれたのか、色々あってマンハッタンカフェとアグネスタキオンの面倒を見る事になった。

 

「カフェは分かるけどさぁ、幽霊関係とか誰にも分かってもらえないだろうし。君は何なの、タキオンくん。退学一歩手前とか聞いてないんだけど?」

「言う必要がないからねぇ。この学園の施設も得られるデータも魅力的ではあったが、研究を邪魔されてまで居座る理由もなかった。しかし、ここでしか得られないデータもあるようだし、何よりこれからもずっと実験に付き合ってくれるモルモットくんがいるなら、離れる理由もないからね」

「そこまでは言ってないけどね? というか思い切りモルモットって言ってるよね?」

 

 私は今年トレーナーになったばかりの新人だ。制度上は問題ないはずだが、一応理事長や駿川さんに確認したところ問題ないというお墨付きをもらった。そこで教えられたのが学園からの2人への評価だ。タイプは違うものの、どちらも問題児的な評価だった。

 カフェについては大体予想は出来ていた。どこを見ているのか分からない、何もない場所に話し掛けている不思議ちゃんか不気味な娘。仕方ないとはいえ、才能はあるにも関わらずトレーナーたちからは遠巻きにされていたらしい。

 で、問題はタキオンだ。問題児だとは思っていた。初対面の人間にあんな呪物を飲ませようとするのだ。問題児以外の何者でもない。ただ、それ以外にも色々と問題はあったらしく、授業はサボるわ、模擬レースは出ないわで、授業はともかく走るために来たはずのトレセン学園で走らないという暴挙が続いて退学秒読み段階だったらしい。

 

「まぁ、良いや。もうちょっとしたらグラウンド行くから準備しておいてよ」

「ああ、カメラを準備しておこう」

「君も走るんだけど?」

「良いデータを取れる事を期待しているよ」

「はぁ……じゃあカフェ呼んできて」

 

 ひらひらと背を向けたまま手を振ってトレーナー室を出ていくタキオンを見送る。カフェは朝のルーティーンで例の使われていない理科室でコーヒーを飲んでいるらしい。私は紅茶派なのでトレーナー室にはコーヒーがないのだ。

 

 そしてトレーナー室に残されたのは私とブルボンの2人。新しく担当ウマ娘が増えたので買い足したキングサイズのソファーベッドに並んで転がって天井を見上げている。

 

「ところでマスター、チーム名は決まりましたか?」

「あー、そうだった。みんな星の名前にしてるんだっけ」

「はい。正確には恒星の名称が由来となっています。ただし、規則として定められている訳ではなく、慣習のようなものだと耳にしました」

「へー」

 

 複数人を担当するチームとなれば、チーム名を考える必要がある。しかしながら、私はネーミングセンスに自信がある方じゃないし、そもそも星の名前に詳しくない。

 

「まぁ、それは適当に考えておくとして。呪力操作はどんな感じ? 電子機器壊れなくなった?」

「マスターの指示通り、『体外への呪力漏出を抑える』を実行中です。この一週間、合計34の電子機器に触れましたが、『エラー』の検出はありませんでした」

「おー、良い感じじゃん」

「はい。昨日この事を両親に報告したところ、次の休みに新しくスマホを買いに行く事になりました。それと、父からはマスターへ『感謝』を伝えるようにとの伝言を預かりました。ありがとうございます」

「あぁ、アナログ暮らしだったもんね……」

 

 詳しく調べたところ、ブルボンが電子機器を壊しまくるのは呪力特性が原因だった。ぱっと見、私からすれば個人差かなぁという程度だったが、電子機器へ影響を与えているのは確実だった。なので、対策として呪力が原因なら呪力を触れさせなければ良いという事で、ブルボンには体外へ漏れる呪力を極限まで抑える練習をしてもらった。それが功を奏したという事だろう。

 普通にこの現代社会で電子機器に触れないというのは不便が過ぎるし、それに加えて漏出呪力を減らせば呪力的な意味でのスタミナも長く保つようになるしで良い事尽くめだ。ウマ娘たちがみんな呪力を知覚出来るなら垂れ流して威圧する、なんて事も出来るかもしれないが、日常生活ではさすがに垂れ流している意味はない。

 

「今日は2000mのタイム測定で。スタミナ8割使い切り」

「了解しました。ところでマスター。トレーニング中のドリンクにとタキオンさんが置いていったものがありますが」

「うっそ、いつの間に……油断も隙もない。まぁ、それは毒味しておくから一旦保留で」

 

 ◆

 

「うんうん。順調にタイムも上がってきてるね。今の状態でも例年なら勝てるぐらい。まぁ、でもまだ時間あるから、伸ばせるまで伸ばしていこう」

「はい!」

 

 トレーニング後、ストレッチをしているブルボンに話し掛ける。まだ8月だが、今の状態で例年のホープフルステークスに勝てるぐらいのタイムは出ている。もちろんグラウンドと本番のコースはコーナーや坂など様々異なってくるため、グラウンドでタイムが出るからといって本番のコースでもタイムを出せるという訳ではない。一緒に走る相手だっているし、むしろ距離以外の全てが違うと言っても良い。

 ただ、ブルボンには呪力操作の一環でダートも含めてどんなコースでも走れるように訓練させているし、最初から最後まで先頭でいるブルボンの走りはあまり他者に左右されるものでもない。そもそも2割を温存する走り方でこれなのだ。これが私の楽観でなければ普通に勝てる。

 すぐに調子に乗るような娘にはこういう事は言わない方が良いだろうが、ブルボンはそういう感じでもない。少なくともクラシック三冠を達成するまではどんなに余裕そうでも手を抜いたりはしないはずだ。まぁ、例年なら大丈夫でも今年は危なそうな気もしている。リーフちゃんのところのライスちゃんがいるため、油断出来ない。

 

 と、こうして私はブルボンについているのだが、さっきまでタイムを測定していたブルボンを追い掛けて走っていたカフェにはタキオンがついている。あ、カフェが光った。

 

「タキオーン、ちゃんと映像撮ってくれたー?」

「当然だとも。後でじっくりと鑑賞しようじゃないか」

「うん、それはありがとうなんだけど、カフェを光らせるのはやめてあげようか。カフェ、背中触るよ?」

「はい……」

 

 全身を光らせながら地面に座っているカフェの背中に触れて、反転術式を発動する。

 

「ほう、やはり興味深い。私も光ってみるから、私のにもやってくれないかい?」

「光ってみるってどういう日本語?」

 

 カフェの発光は収まった。

 入れ替わるようにタキオンもボトルに口をつけ、全身を発光させた。そして背中を押し付けてくるが、放置である。自業自得なのだ。

 

「おーい、トレーナーくん。何をしているんだい? 早くやっておくれよ」

「すぐ人にそういう事するんだから、ちょっとは反省してなさい」

「えー!?」

「なんか良くない評判あったらしいし、新しい評判で塗りつぶしたら良いんじゃない? 七色に輝く超音速粒子とか。ほら、なんかカッコよさげじゃない? あ、超音速じゃなくて超光速だっけ」

「君、私の扱いがいい加減過ぎるんじゃないか!?」

 

 わーわー言っているタキオンはおいといて、ブルボンの方へ戻る。

 

「来週辺り第1段階加速込みのタイム測りたいから、トレーナー室に戻ったら今日のタイムと合わせて加速度とか第1段階加速後最高速度に達するまでの時間とか打ち合わせしよう。タキオンが良い感じのマクロ組んでくれたから、今日測った情報を入力すれば大体の目標数値は出してくれるし」

「分かりました。ところでタキオンさんはいつの間にそんな事を?」

「実験に協力したり呪力について教えたら、交換条件として色々やってくれたの。実験はともかく、呪力については元々教える予定だったからちょっと得したよね」

 

 タキオンはすぐに他人を巻き込もうとするし、授業にあまり出ていなかったりと問題児ではあるものの、能力は本物だ。データ分析とかも出来るみたいだし、実験に付き合ったりするのを交換条件として頼めば結構色々やってくれる。

 あまり積極的に走ろうとはしないので、いっその事サブトレーナー的な立ち位置の助手にしてやろうかという考えが浮かぶ事もあった。まぁ、あれで走る事に対する熱意はあるようだから、裏方に専念させるような事はないけれども。

 とはいえ、やってくれるものはやってもらう。私だって見るからに危険物の何かを飲んであげているのだから、それぐらいは良いだろう。

 

「それじゃ、タキオンある程度光らせたら戻るから、先にトレーナー室に戻っててくれる?」

「了解しました」

「カフェも戻ってて! 光ってるタキオンある程度晒したら戻るから!」

「分かりました」

「色々と言いたい事があるねぇ!!」

 

 ◆

 

 夕方。我がトレーナー室。

 

「いやー、さすが美咲ちゃん。出世早いねぇ」

「さすがです!」

「出世っていうのかなぁ、コレ。何か押し付けられた感ない? 特に君ね」

 

 ミーティングなど、練習に必要なものは全て済ませて、自由解散としてから。同期会と称して定期的に集まっている私とリーフちゃんと葵ちゃんのテキトーに駄弁るだけの集まり。

 テーブルを挟んで対面のソファーに座るリーフちゃんと葵ちゃん。そして、なぜか私の隣に座ってお菓子に手を付けているタキオン。

 

「まぁまぁ、細かい事は良いじゃないか。ところでカフェー、私の紅茶はまだかいー?」

「自分で、入れてください……」

「お任せください、タキオンさん。電気ケトルの扱いは習得済みです」

 

 いつの間にか色々と個人個人で持ち込んだ物が増えてきたこのトレーナー室には、私が持ち込んだ物以外にも、カフェが持ち込んだコーヒーグッズやタキオンが持ち込んだ薬棚? とその中身。

 少し前までは全然ブルボンが持ち込んだものはなかったのだが、電化製品に触れるようになってから楽しくなったらしく、電気ケトルで頻繁に私が持ち込んだ紅茶を入れている。電気ケトル自体も持ち込んだのは私ではあるが、ここ一週間はほぼブルボンしか触っていない。可愛いので今度一緒に何か電化製品買いに行こうかと思っている。

 

「まぁ、チーム組む事を出世っていうかはともかく、こっちは色々と初心者だからこれで良いのかって感じはあるよね」

「大丈夫じゃない? 美咲ちゃんずっと私を実験台にしてたんだから、下手なトレーナーより経験あるんだし」

「言い方気を付けてね? そのリーフちゃんの言い方だと私がタキオンみたいな事してるように聞こえるから」

「なんだい、トレーナーくん。とやかく言っておきながら、結局同じ穴の(むじな)じゃないか」

「風評被害やめてくださーい」

 

 ずいずいと近付けてくるタキオンの顔を押し返しつつ、テーブルに広げられた葵ちゃんが持ってきたクッキーを摘む。さすがはお嬢様というか、食感からしてお高いやつっぽい。

 

「ジュニア級はあんまり合宿しないっぽいけど、今から突撃するとかってアリだと思う?」

「さすがにナシじゃない? 合宿前って結構トレーナーさん準備してたから、いきなりだとね? 宿とかも考えないとだし」

 

 同期会で集まっているのは、テキトーに雑談するのも目的ではあるが、その中でちゃんとブルボンたちの練習のためになるような情報交換もしている。

 ちなみに今思ったのは、せっかく夏休みだし合宿とか出来ないかなーというもの。担当のウマ娘がクラシック級に上がったあたりから夏休みに合宿をやるというのは伝聞で聞いているが、とはいえジュニア級でやってはいけないという決まりはなかったはずなので。

 まぁ、思い付きなのでリーフちゃんが言った通り、泊まる場所とかどうするんだという話ではあるが。

 

「あ、それで言うと、桐生院家が懇意にしている宿がありますよ」

「マジ? これいけるくない?」

「いけないよ!?」

 

 正直に言うと合宿というものにかなり興味があったりする。海辺で色々出来るらしいし、気分的にもリフレッシュされてブルボンたちにも良いだろうし。

 

「そういえばリーフちゃんの元トレーナーってまだ現役でやってるの?」

「まだ現役だけど……え、なに?」

「いや? ツテでちょっと合宿の様子見せてくれないかなー、とか思ったり思わなかったりしただけだよ?」

 

 そう、元々トレセンの生徒としてレースを走っていた経験のあるリーフちゃんには、私や葵ちゃんにはないアドバンテージがある。走っていた経年そのものがかなりアドバンテージではあるが、元トレーナーが現役という事は、親しい先輩トレーナーがいるという事だ。

 私たちのように新人でいきなり担当を持つのは結構珍しいようで、大抵は先輩トレーナーのチームのサブトレーナーとして経験を積むという形が多いらしい。リーフちゃんはライスちゃんという担当を持ったが、仮にどこかのチームのサブトレーナーをしようとなった時に、その先輩トレーナーのチームに入れてもらうか、それが無理でも他のトレーナーに紹介してもらえるかもしれない。

 そうでなくても、困った時に頼れる先輩トレーナーがいるというのは大きい。

 

「リーフさんのトレーナーは確か、奈良坂トレーナーですよね?」

「葵ちゃん詳しいね……」

「はい! 去年も担当のウマ娘が重賞を勝っていたのでもちろんチェックしています!」

 

 今の今まで私はノーマークというか、完全に頭から抜けていたが、葵ちゃんはちゃんとチェックしていたらしい。さすがだ。

 

「テンション低いじゃん。リーフちゃんトレーナーとあんまり上手くいってなかった感じ?」

「いやぁ、上手くいってなかった訳じゃないんだけど……頑固ババ、じゃなくてお頑固お姉様だし……こっちから何かと言いにくいというか……」

「お頑固お姉様て。全然フォロー出来てなくて笑うんだけど。あ、ちなみにその飲んでる紅茶は私のでクッキーは葵ちゃんのやつね」

「くぅ……的確に言い返しづらい事を……!」

「えーと。奈良坂トレーナー、お頑固お姉様、と」

「やめい、オイこら!?」

 

 とはいえ、本気で嫌なら無理強いはしないし、というか、思い付きで無茶振りを言っている自覚はあるので無理なら無理で全然構わないが。

 と、思っていたらリーフちゃんが突然立ち上がった。

 

「ライスのためにも仕方ない! 頑固ババアがなんぼのもんじゃい!」

「リーフさん、お世話になった方を頑固ババアなどというのは良くないと思います」

「わかってらぁい!」

 

 そして、スマホを取り出しコール。

 

「あっ、あっ、あの、お世話になっております……トライリーフと申し……あっ、お久しぶりです……」

「いきなり電話とは、やるねぇ」

「まずはメールか何かした方が良かったのでは……?」

 

 そして、少し話したリーフちゃんは通話を切り、そしてひと息ついて言った。

 

「来週見学来て良いって! 足どうする!?」

「私、車出せますよ」

「はい、じゃあ葵ちゃんの車で行きます! 決定!」

 

 ヤケクソ気味にリーフちゃんが叫ぶ。

 なんやかんや、そういう事になった。

 

 ◆

 

 翌週、リーフちゃんの元トレーナーである奈良坂トレーナーに指定されたという日。

 葵ちゃんが実家から持ってきたミニバンに乗って私たちは合宿が行われている場所に向かっていた。ちなみに、ここにいるのは私とブルボン、葵ちゃんとミークちゃん、リーフちゃんとライスちゃんの6人。

 ただの見学なら研究を進めた方が良いとタキオンはトレセンに居残りで、カフェはちょうど今日同室の子にオススメのコーヒーを紹介するとかで留守。まぁ、奈良坂トレーナーに指定された日が、私たちのチームではオフにしていた日なので仕方ない。

 

「言っとくけど、絶対変な事言わないでね!? 絶対ね! 特に美咲ちゃん!」

「言わないって」

 

 今日はあくまで見学で、日帰りの予定になっている。今日1日だけでもある程度空気は掴めるだろう。宿とかそういう直接のトレーニング以外の部分は後でなんとでもなるだろうし。

 

 散々リーフちゃんに釘を刺されながら、駐車場に車を停めて、近くの海辺へ向かう。

 足に負担を掛けない事を目的としてダートコースを走らせるというトレーニング方法がある。砂浜もダートコースと同じように足への負担は抑えつつ、ダートよりもパワーを鍛えやすい。新鮮な気分にもなれるし、単純に走るだけでも効果は折り紙付き。

 

「お久しぶりです……」

「初めまして! 今年からトレーナーになりました、桐生院葵と申します!」

「同じく五条美咲です、どうも」

 

 という事で、リーフちゃんの元トレーナーである奈良坂トレーナーにご挨拶。

 グレーな感じの髪色の、私のお祖母ちゃんよりちょっと年下ぐらいの女性だった。リーフちゃんが頑固ババアなどと言っていたから一体どんな人かと思ったが、見た目からは頑固さは分からずとも、年の割に背筋が伸びているし、ちょっと圧を感じるのでリーフちゃんが縮こまった感じになるのも分からなくもない。

 

「奈良坂です。トライリーフから話は聞いております。チームの者には既に話を通していますので、今日1日好きなように見学してもらって構いません」

 

 との事で、葵ちゃんは1秒も無駄に出来ないとすぐに姿を消し、リーフちゃんは後輩たちに走りを見せてやってくれないか(命令)みたいな感じでトレーニングに混ざりにいった。ミークちゃんとライスちゃんはそれにそれぞれついて行った。

 さすがに取り残されると気まずいので私も適当に見学しに行こうとしたのだが、なぜか呼び止められた。

 

「トライリーフは強くなっていましたね。実際に会ったのは彼女が卒業して以来でしたが、驚きました」

「今現役に戻ったらGⅠ総ナメに出来るらしいですね」

「まったく。お調子者なところは変わっていないようです」

「ですね」

 

 どうしたものかと思うものの、ちょっと話が長くなりそうだったので、地面に腰を下ろした。地面というか砂浜だが、砂とお尻の間に薄く無下限を張る事で砂がつかない。日常生活で使えるライフハックである。

 ちなみに奈良坂トレーナーはキャンプとかで見そうな折りたたみの椅子とでかい日傘というかパラソルで、私とブルボンはガンガン日差しにさらされている。

 

「ブルボン、おいで」

 

 真夏の日差しの中を棒立ちさせておくのも可哀想なので、体育座りの足の間にブルボンを座らせる。もちろんブルボンのお尻の下にも無下限を張っている。

 そして、もう1つの無下限ライフハック。紫外線を無下限で届かないようにすれば、実質日陰にいるようなものなので、見た目以上に涼しく過ごす事が出来る。もちろんこれもブルボンを術式範囲内に入れている。

 

「貴女の噂は聞いています。一般の出でありながら、数々の名門出身の者を押さえて主席であったと」

「いやー、ありがたい事に。たまたまですけどね」

「トライリーフにも、貴女が?」

「大学時代に色々と付き合ってはもらいましたね」

 

 ウマ娘にはシンボリ家やメジロ家といったいわゆる名門と呼ばれる名家出身の子がいるが、トレーナーにも同じように名門がある。葵ちゃんの桐生院家もそうだが、そういう家出身のトレーナーは小さい頃から英才教育を受けられるから単純にトレーナー試験に有利だ。

 ただ、有利不利の話をすると、ただ見るだけではなく自分で色々と試せる私はかなり有利側だと思う。ただ知識を詰め込むよりも、実際に身体を動かす方が身につくのも早いし。

 

「私もいわゆる寒門でしてね。それを言い訳にするつもりはありませんが、この年になっても担当をGⅠには勝たせてやれず、GⅡもトライリーフに勝たせてやれたのが最後。去年はなんとかGⅢには勝たせてやる事が出来ました」

「まぁ、重賞は勝つの難しいですもんね」

「貴女とミホノブルボンはクラシックの三冠を目指しているとか。厳しい道のりになりますよ」

「ですね。ブルボンは勝つので問題はないですけど」

 

 なんだかんだ言っても、GⅢとはいえ重賞に勝てるだけでも全ウマ娘を見ればかなりの上澄み。それを輩出出来ているのだから、奈良坂トレーナーも十分すごいトレーナーだ。見ただけでリーフちゃんが強くなっているのも見抜いていたし、私のように特殊な眼がなくても、長年で培われた目があるのだろう。

 とはいえ、ブルボンはそれだけに収まる器ではないが。クラシック三冠もあくまで通過点。行けるところまでノンストップで行ってもらうつもりだ。

 

「頼もしい事です。私も、あの娘たちにそんな風に言い切れれば良かった」

「今からでも言ってあげれば良いんじゃないですか? たぶん、それだけで変わる事もあると思いますよ」

 

 と、少し偉そうに言ってみる。トレーナーがネガティブになっていても良い事はないし。

 

「ふっ、そうですね」

 

 リーフちゃんが引き連れたウマ娘集団が視界を横切っていく。

 

「何か聞きたい事があれば、引退も近いババアで答えられる事であれば何でも聞いてくれて構いませんよ」

「そんな、頑固ババアなんて」

「頑固とは言っていませんけれど」

「あっ」

 

 リーフちゃんが頑固ババアとか言うから。

 

「あー……チーム名の決め方とかどんな風に考えました? 私星とかあんまり詳しくなくて」

「星にこだわる必要はないのですよ。むしろ、新たな風を吹かすというのなら、相応のものを」

「何か言われたら奈良坂トレーナーにお墨付き貰ったって言ってもいいですかね?」

「それぐらいは構いませんけれど」

 

 そんな感じで後は合宿する時の手続きとか、そういう話だけ聞いて、私も葵ちゃんのように実際にトレーニングの様子を見に行く事にした。

 途中、ブルボンに何か聞きたい事はあるかと話を振った時に昼ご飯を食べる場所を聞き始めたのは笑ったよね。確かに行き道で葵ちゃんがどうしようって言ってたけども。

 

 ◆

 

 合宿の見学に行った翌日。

 トレーニングのためにブルボンとカフェ、そして謎の薬品を私に飲ませるためにタキオンが集まったトレーナー室で、私は発表した。

 

「我がチームのチーム名を考えました! はい、こちらドン!」

 

 昨日の夜に急いで書いてきた長半紙を見せる。

 

「チーム『インフィニティ』! どうよ、これ!」

 

 中学校以来の久しぶりに習字セットを使ったが、結構良い出来栄えではないだろうか。

 

「無限の可能性がありますよ的な意味が含まれてて、あとは単純に私が無限って言葉が好きだから」

「素晴らしいと思います」

「うんうん、ブルボンは分かってるね。カフェはどう思う?」

「良いと思います」

「うんうん、タキオンは?」

「ウマ娘の可能性が無限だというその意見には同意するよ。気が合うじゃないか」

 

 という事で満場一致にて決定! 

 

 チーム名『インフィニティ』! 

 

 




 
 ○奈良坂トレーナー
 オリジナルトレーナー。高齢の女性。トライリーフの元トレーナー。

 ○トライリーフ
 同期組のうち、美咲からは呪力関係を、葵からは桐生院家の秘伝の一部を、それぞれ教えてもらっている立場だが、自分は特に何も提供出来ていないのは少し気にしている。なので、お願い事をされると断りづらい。
 元所属チームの中ではトップクラスの成績を残しており、後輩たちからは尊敬されている。

 ○ミホノブルボン
 呪力制御によって、電子機器に触っても大丈夫になった。電気ケトルの扱いは一流。
 マスターの無下限ライフハックに乗っかる事にためらいがない。最近は図太いところが似てきた。
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