まのさばで思いついた一発ネタ集 作:ないでーす!
キャラ崩壊してます
二階堂ヒロは正義の執行者である。
持ち前の正義感と溢れる正義の血潮、そして正義の火かき棒で正しくないモノを正して回る。
熱い正義の血潮の前に悪は消え去り、火かき棒を振り回せば怪異は滅する。説教を唱えれば不協和音はただちに正しく美しいメロディーへと変わる。
正した因習村は数しれず、都市伝説はもはや解明し尽くして新しいモノが現れるのを待つほどに。滅ぼして回った異界だけでは飽き足らず魔界に殴り込むことも。悪魔の森の奥深くにある館で蝋人形をlaw人形に変えて館の主の悪魔から出禁を言い渡された。
ヒロの活躍を耳にした人々から頻繁に依頼されることがある。ヒロか東京の偉い物理学者の先生、どちらかに任せれば問題ないと一部で評判であった。
この日も赤い水が溢れる怪しい村へやってきて、怪異へと変貌した村人たちを次々と正していた。
「悪は死ね!」
火かき棒で村人を正す。するとたちまち血が抜けていき正義のデトックスを促す。
「これがこの村の本尊!悪は死ね!死ね!!」
村人たちが囲い、怪しい祈りを捧げる、奉られた怪しいオブジェを破壊する。村長と思われる人物と怪しい黒幕のような女が膝を付き、村人たちは涙に暮れる。この隙にと全員を火かき棒で正した。
「ふう……正しがいがあったな」
夕日をバックにヒロは火かき棒を肩に乗せ村を去っていく。村に漂っていた赤い靄は少しずつ晴れていき、しばらくしたら元の村に戻るだろう。
ヒロは今日も正義を執行して親友のエマが待つ正義の館へと帰るのだった。
「ただいま、エマ。今日は山奥の村を正したよ」
玄関を開け声をかけるがシン、と静まり返っていた。
「エマ?帰ったよ?」
台所にも風呂場にもエマの姿はなく、ヒロの私室と正義の広間、エマの私室と寝室やリビング、バルコニーや庭にもエマはいなかった。
「エマ!どこにいるんだ!」
正義の館を探し回ったヒロは正義の広間のテーブルに置かれた置き手紙を見つけた。震える手でそれを読む。
『ボクとの生活よりも正義を取るヒロちゃんへ
これ以上ヒロちゃんを嫌いになりたくないのでボクはしばらく実家に帰ります。ヒロちゃんが反省したと思ったら帰るのでそれまで好きに正義を執行していてください』
『P.S おやつは全部持って行きます』
「そ、そんな……」
膝から崩れ落ちるヒロ。目の前が真っ暗になり、頭は真っ白になっていった。
その時だった。ヒロは気づいていなかったが白い靄が部屋の中に現れた。少しずつ靄は集まり、形になっていった。繭のようになった靄が淡く光ると一匹の子犬に変貌した。
「きゃんっ!」
目の前に白くふわふわとした子犬がいつの間にかいた事に気づいたヒロ。傷心しているヒロにそっと寄り添う子犬。ヒロの直感が囁く。
「エマ…?エマなのか…?」
「きゃんっ!きゃんっ!」
呼びかけに応える子犬。やはりエマに間違いない。ヒロの正義の直感は正しかったと涙しながらヒロは子犬を抱いた。
「エマ……!」
「きゃん!」
胸に抱いた子犬はもぞもぞと動き、顔をヒロの顔に近づける。
「ははは、こらエマ、くすぐったいよ」
ベロベロと顔を舐める子犬を顔から離し、ヒロはじっと子犬を見つめる。
「ところで君は何歳……いや、何ヶ月なのかな……?念の為、獣医行こうかエマ。注射をしてもらおう」
「きゃんっ!」
何も知らない子犬はおとなしくヒロに抱かれたまま、ヒロとともに家を出た。途中ペットショップに寄り、首輪とケージを買ってから獣医へとやって来た。他にも色々と必要になるが、それは帰りによればいいだろうとヒロはスマホにメモをしておいた。
「よろしくお願いします」
「はーいよろしくお願いしまーす」
子犬は好奇心旺盛ですあれはなに!?あれはなに!?とキョロキョロしているとブスッと後ろから注射が刺さった
「アオーー!!!」
「はーい終わりましたよー。お風呂はしばらく控えてくださいねー」
「分かりました。ありがとうございます」
注射と会計を終えてヒロは子犬を連れて獣医を出た。先程寄ったペットショップでペットフードにそれを入れる皿、お水用の皿。ご機嫌取りにおやつと子犬向けのおもちゃやボールを買って帰路につく。
「アァー!」
帰り道で抗議する様に鳴いた子犬を撫でているとガブリと軽く噛まれた。噛み癖を正さなければ、ヒロは噛み噛みされながらも二階堂スマイルを浮かべていた。
数時間の間、騙された……とぐったりしていた子犬にヒロはおやつで機嫌を取っていた。
「ヴー」
「うん、エマはご機嫌になったようだな」
ヒロはインターネットや、書籍を買ったり図書館で調べたり、ペットを飼うご近所さんに話を聞いて、子犬をかわいがり日々を過ごしていた。出ていってしまったエマの寂しさを埋めるように。
注射のことをすっかり忘れておもちゃや家具、自分の尻尾やヒロで遊び回り、散歩をしてごはんをたらふく食べて電池が切れたようにぐっすりと眠る子犬にヒロは夢中になっていた。毎日のようにやっていた自主的な正義の執行もすっかりしなくなった。強いて言えば散歩のついでにするほどになった。依頼されることは今もあるがあまり遠い場所は今は保留する。
子犬の食事の用意をしてからヒロは食事を食べ始める。少ししてから子犬がジッとヒロを見つめていることに気づいた。
「どうしたんだエマ」
「……」
よく見ればその目線は自分にではなく、自分の朝食の食パンに向けられていることに気づいた。
「……食べたいのかな?」
「きゃん!」
待ってましたと鳴くとちょうだいちょうだいと催促する。トーストにする前の食パンを四等分にして一つを口元にやるとパクりと口にした。ハグハグと食べると満足したのか自分のペットフードを食べ始めた。
「食いしん坊だな君は」
ヒロの頬は緩んでいた。ゆったりと食事の時間は過ぎていく。
夏前になり少し暑さを感じるようになった頃。サマーカットをしてもらい、シャンプーも終えた帰り道。子犬はすっかり嬉しそうになっていた。
「良かったなエマ。スッキリしたじゃないか」
「ヴー……」
「ところでエマ、少し太ったんじゃないか?お腹のフォルムがよく見えているよ」
顔を撫で、お腹を撫でると子犬はそっぽを向いて何も言わなくなった。
「……」
「君に良かれと思ってご飯を分けていた私の責任だな。すまない。一緒にダイエットしような、エマ」
「きゃん……」
その日から散歩ルートが少しだけ伸びることになった。
ある日のこと。ボールを咥えて「投げて」と上目遣いで見つめる子犬。
「遊んで運動するのかな。感心感心。」
「きゃん!」
ボールを受け取りながら頭を撫でると嬉しそうに子犬は鳴いた。
「よし、行くぞ!それ!」
部屋から軽く廊下に向かってボールを投げるとダッシュで拾いに走る。たしたしと足音を響かせてすぐさまヒロのところに戻ってくる。
「きゃん!きゃんっ!」
「もう一回か?そーれ!」
先程と同じようにボールを投げる。少しだけ遠くに投げると、子犬はジッと廊下のボールを見てからヒロを見つめた。
「……」
「うん……?どうしたんだ?エマ?……まさか取りに行くのがめんどくさくなったのか!?一回で!?」
「きゃん」
そうだと言わんばかりに一度鳴いて、また廊下を見てからヒロを見る。
「はーーー……まったく君は……」
しょうがないと立ち上がり取りに行くと子犬も付いてきていた。屈んでボールを掴もうとするとサッと子犬が先に取る。
「ぁうん!」
ボールを咥えて引っかかった!と言うように、イタズラが成功したように喜ぶ子犬。
「この小悪魔ぶりはやはりエマだと確信……こら!エマ!」
「きゃんっ!きゃんっ!」
ワシャワシャと撫で回すともっとやってもっとやってとお腹を見せおねだりをする子犬。何度も何度も撫で回しているといつの間にか子犬はぐっすりと眠っていた。
「おやすみ、エマ」
優しく抱き上げて子犬のベッドへ寝かせる。一度、二度撫でてからヒロは家事を再開した。
ヒロと子犬が一緒に暮らし始めて何週間か経った頃。ヒロが昼食後の後片付けをしている間に、ベッドの上に置いていたヒロのスマホから着信音が鳴った。
「ンゥ?」
近くにいた子犬がよじ登り、フスフスと鳴らしながら少し湿った鼻先をちょんと当てる。すると電話がつながった。
『もしもしヒロちゃん?元気?ご飯は食べてる?寂しくない?そろそろ反省した?』
「きゃんっ!」
『えっ?なに!?』
「きゃんっ!!」
『ヒロちゃん?どういうことなのかな?ヒロちゃん?』
「アゥ」
もう一度鼻を押し付けると通話が切れてしまった。何だったのかと子犬が首を傾げてから、ふわあと大きくあくびをしてスマホを枕に昼寝をし始めた。
「おや、もうこんな時間か。そろそろ散歩に行くぞエマ」
「きゃんっ!」
夕方になり、散歩と聞き子犬は起き上がる。くるくると回ってやる気を表す。そうしていると尻尾が気になったのか追いかけ回し始めていた。
「もういいだろう。そろそろ行くよ」
尻尾追いを中断させて首輪をリードをつける。お散歩セットを持って、戸締まりをしてから家を出た。フスフスと鼻を鳴らしてのしのしと歩く子犬の姿にくすりと笑いながらヒロは一時間ほど歩き回って家に帰った。
家に着き、玄関に鍵を差し込むとすでに鍵が外れていた。玄関を開けるとそこには仁王立ちするエマが待っていた。
「おかえりヒロちゃん。誰とどこに行ってたのかな?」
頬を膨らませプンスカとするエマ。そのかわいらしさとは裏腹に怒気が部屋を包み込む。冷や汗を垂らしてヒロは応える。
「違うんだ、エマ……私はエマと散歩をしていただけで……」
「ボクと散歩ってどういうこと!?そのワンちゃんのことなのかな!?」
「ボクだってヒロちゃんと散歩したかったよ!」
涙目になりながらエマは続ける。
「ヒロちゃんはいつもどこかへ正しに行ってばかり!ご飯を一緒に食べる回数だってどんどん減った!」
「それは……」
「物事には限度があるんだよ!それに……ボク、ヒロちゃんからの連絡を待ってたんだよ……家出してから……ずっと……」
「エマ……」
二人の間に沈黙が流れた。エマが居なくなった寂しさを子犬で埋めていたヒロは改めて反省し、それを伝える。
「エマ……」
「うん……」
「私は正すことばかり考えて君のことを蔑ろにしていた……すまなかった……」
「いいんだよ……」
二人が仲直りして抱きしめあった。その時だった。子犬が淡い光を放ち薄っすらと透け始めた。
「な、エマ……?」
エマから離れてすぐにヒロは子犬の変化に気づいた。
「アォ……」
「エマ!君は……消えるのか……!?」
足元でニッコリと笑う子犬。膝をついて子犬を抱きしめると鳴き声が次第に言葉へと変わっていく。
「ァ……ィ……ァィァォ……きゃん……」
「エマ!!エマーーーーー!!!」
感謝を言葉で伝えた子犬はパーッと光り輝いた。
(ボクは何を見させられているのかな……?)
言葉にしないだけエマは冷静になれていた。なぜ子犬が現れたのか、なぜ消えたのか。分からないまま二人は食事を摂り、風呂に入り、眠りについた。
翌朝、ヒロはいつものように早起きをしてリードとお散歩セットを用意して苦笑した。
「そうだったな……エマはもう……」
独り言をポツリとこぼすとそれに応える声が足元から聞こえてきた。
「きゃん!」
「エマ……!」
ヒロは片膝をついて手を広げる。子犬が胸に飛び込んできて、お互いに再会を喜んだ。ヒロの顔は子犬のよだれでべちゃべちゃになった。
「起きるんだエマ!散歩に行くぞ!」
「んあ……?……ヒロちゃん……?どうしたの……」
寝ぼけ眼をこすりながら、ゆっくりと起き上がるエマ。
「昨日言っていただろう。散歩をしたいと。さあ、みんなで行こう」
「きゃんっ!」
「え……?あれ!?キミ、消えちゃったんじゃ……!?」
一気に目が覚めたエマは、ヒロに急かされながら支度を整えた。二人と一匹は少し離れたところから聞こえる朝刊配達のバイクの音を聞きながら辺りを朝日が登るまで散歩をした。
程々に疲れたエマと満足げなヒロと子犬はこれからも毎日散歩をするだろう。仲睦まじく。
「散歩したいとは言ったけど、こんなしっかりしたやつのつもりじゃなかったよ!」
ごちるエマを横目にさっと朝食を作り、テーブルに並べる。程よく動いたあとに食べる朝食はいつもより美味しく感じられていたようでエマはおかわりをした。子犬もおかわりを要求した。
前よりも賑やかになった食卓にエマとヒロの笑顔が溢れた。今のエマはご飯の量が前よりも少し増えた。体重も少しだけ増えた。
白い柴犬のイメージでやりましたが白いわんこなら何でも良いと思います
火かき棒はいい感じの棒コレクションになって埋められました