まのさばで思いついた一発ネタ集 作:ないでーす!
よろしくお願いします
アリサの朝は早い。同室のシェリーが元気よく挨拶をして起こしてくるからだ。
「おはよーございます!アリサさん!今日も元気に行きましょー!」
「チッ……ああ、おはよう……」
舌打ちをしながらもアリサはシェリーに朝の挨拶を返す。ふんふんと毎朝力強く起こされることに最初は苛立っていたが今ではもう諦めて受け入れていた。
「おやすみなさいアリサさん!」
「ああ……おやすみ……」
寝る時間も朝と同じで挨拶をする。うっとおしく思いながらもアリサは何だかんだシェリーとの挨拶を嫌ってはいなかった。
ある日の夜、ラウンジからハンナとシェリーが騒いでるのが遠くにいたアリサの耳に届いてきた。
「こんの……ゴリラ女!デリカシーってもんを考えやがれですわ〜〜〜!!」
「シェリーちゃんまたやっちゃいました?ごめんなさいハンナさん!」
「あはは……ハンナちゃん、落ち着いて……」
(桜羽もいたのか……いや、いつも一緒だし当然か……)
用があるわけではないがその日もぶらぶらとしていたアリサ。そのまま監房へ戻って横になっているとシェリーが帰ってくる。
「おやすみなさいアリサさん!」
「うっせーな……おやすみハエ女」
いつものように元気な声で挨拶をしてシェリーは眠り、アリサも悪態をつきながらも挨拶を返して眠りだした。
翌朝、アリサは自然と目が覚めた。
(あん……?おかしいな、いつもならハエ女が……って、うん?)
起こされずに目を覚ましてからいつもと違うことに気づくアリサ。ふと視線にも気づいてそちらを見ると──
「……」
「……は!?」
ゴリラがそこにいた。艶のある真っ黒な毛は短く整えられ、森の賢者と言われるにふさわしい優しく理知的な瞳がアリサを見つめる。
(な、なんでゴリラがいんだよ!?)
刺激しないように口を手で押さえて声出さないようにし、ベッドの上で後退る。目と目が合う、アリサの燃えるような紅い瞳とゴリラの漆黒でビー玉のような瞳が。耐えられずアリサが目線を外すがゴリラの優しい眼差しはアリサを射抜き続けている。
(意味が分からねえ……!まさか、魔法のせいなのか……?)
両手で頭を抱えるアリサ。同じくして、すぐ近くのゴリラが動いたことに驚きそちらを恐る恐る見るとゴリラはアリサと同じように頭を抱えていた。
(なんだ……?真似してんのか?それとも、困ってんのか……?まさか、おめえ……)
アリサは意を決してゴリラに話しかける。
「ハエ女……なのか?」
「……」
ゴリラは応えない。しかし、頭を抱えることをやめていた。それが示すこととは、即ち──
(ハエ女なんだな……?)
アリサは早合点した。
のそのそとゴリラが背を向けた。アリサが安堵するのもつかの間、すぐに問題が生まれた。
ゴリラが牢を折り曲げ外へ出て行ったのだ。
(は……?どうなってんだ……?)
ぐにゃりと曲げられたそれをあ然と見つめる。恐る恐る触れればそれは飴細工とは違ってしっかりと硬いモノだった。
「……あっ、おい!待てよ!」
我に返ってからアリサは監房を出てロビーへ向かう。すると、いつものように談笑しているハンナとエマの声が聞こえてきた。
「──ってことがありましてね!」
「へえ〜〜」
「……」
いつもの三人がいつものように談笑している風景ではなく、異様な様が見受けられた。
ゴリラだ。ハンナとエマとゴリラが揃っているのだ。
(やっぱりハエ女なんだろ……?)
影から様子をハラハラとのぞき見しているアリサはゴリラが反応を示すのを今か今かと見つめていた。
「……シェリーさんはどう思いますの?」
「……」
「あはは、急に言われてもシェリーちゃん分からないんじゃないかな?ハンナちゃん」
チラチラと二人はゴリラを見て、話題を振っていた。ゴリラは返事をしなかったが会話はゴリラに時々振られてそこそこ盛り上がっているようだった。
「……あっ!そうだ、ハンナちゃん!ボクたち、ちょっと用事があったんだよね!」
「えっ!?……ああ、そうでしたわ!ええと、シェリー……さん。すみませんがわたくしたちはちょっと失礼しますわねー!」
(あの二人、ゴリラにハエ女って言ってるよな……?じゃあやっぱりあのゴリラは……!)
アリサはゴリラがシェリーであると確信した。
ゴリラを見失ってしまったアリサは一息つこうと食堂へやって来た。先客のミリアがこちらに気づいて手を振ってくる。
「お〜いアリサちゃん!アリサちゃんも小腹が空いたのかな?実はおじさんもなんだ」
「ああ……まあそんなもんだ」
他愛のない話をして、ミリアはりんごを一つずつ持ってきた。
「はい。アリサちゃんも。ここのりんごを食べてるとみずみずしいりんごやアップルジュースが恋しくなるよね……」
「腐りかけか萎びかけてるかで美味くはねえからな……気持ちは分かる……」
美味しいりんごに思いはせながら食べようとするミリア。ひょいと誰かがそれを後ろから取った。ゴリラだ。
「えっ……えっ!?な、なん……えっ!!?」
パニックになるミリアに返すかのようにりんごを差し出す。受け取ろうと手を皿にしてミリアは待つと……
ギュッッッ
パンッッッ
ビシャッ
擬音三つで表せるその流れは見事なものだった。りんごを握りしめたゴリラ。水分が弾け飛ぶりんご。思いっきりりんご汁がかかるミリア。
「えっ……?……きゅう……」
「あっ!おい!大丈夫か!?……っておい!どこ行くんだおめえ!」
理解が追いつかずついにミリアは目を回しながら倒れた。頭を打たないようにすぐに駆けつけてアリサは支えるが、ゴリラがどこかへ行くのを見送ることしかできなかった。
夜、アリサは横になる。のそのそと誰かの気配を感じてそちらを向くといたのはシェリーではなくゴリラ。
いつもならばシェリーがおやすみの挨拶をしてくれるがゴリラはただ無言で無垢な瞳をアリサに向けているだけだった。
少し前までうっとおしかった挨拶がない。アリサは無性に物悲しくなり、ホロリと涙を流していた。
「おい……おやすみ」
アリサが自分からおやすみをすると、ゴリラはシェリーのベッドに横になる。帰巣本能と言うやつなのかやはり寝る場所がシェリーのベッドなのだからこのゴリラはシェリーなのだろう。
どうにかしたい。そう思いながらアリサは眠りについた。
ゴリラが現れてから数日が経った。ゴリラが腫れ物のように扱われていることを、少女たちから離れて過ごしているアリサにも分かっていた。
湖畔で自分に苛立ちながら石を投げていると近くの木々の間からゴリラが現れた。アリサに気づくとゴリラは振り返り、そのまま戻ろうとした。
「待てよハエ女!いや……橘!」
「……」
「ウチが……ウチが手伝うから安心しろ!おめえを絶対人に戻してやる!だから……!」
「あれー?アリサさんどうしたんですか?」
「だから……は?」
「……」
後ろから話しかけられ呆然とするアリサ。前門のゴリラ後門のシェリーに挟まれ思考が止まる。ぽちゃん、と湖から音がしたが混乱しているアリサの耳には届かなかった。
「え……?は……?おめえ……」
「あー!もしかしてかわいいシェリーちゃんをそこのゴリラさんと間違えちゃったんですか!?それは流石にぷんぷん!ですよ!」
しどろもどろになりながらもなんとか考えて言葉を振り絞る。
「いや、だって……つうか今までどこにいたんだよおめえ!」
「えー?さっきシェリーって呼んでくれてましたよね?ちゃんと呼んでくださいよー?」
「ウチとゴリラの話聞いてんじゃねえよ!」
恥ずかしさでマスクの下がほんのり赤くなるアリサ。それはそうとシェリーが無事だったことに安堵していた。
そんな二人を見ていたゴリラがアリサに背を向けてゆっくりと歩き出す。
「……」
「あっ!見てください!ゴリラが森に帰っていきますよ!さよーならー!」
ぶんぶんとゴリラの背に手を振るシェリー。姿が見えなくなった頃にハンナとエマがどこからかやって来た。
「シェリーさん!あなたどこ行ってましたの!?」
「わあ、シェリーちゃんだあ……良かったあ……」
二人は涙目になりながらシェリーに抱きつき、シェリーはまんざらでもない顔をしていた。
「怖かったよ……急にゴリラがいるんだもん……」
「ええ……なんとか怒らせないよう振る舞いましたわ……」
「そうなんですかー。大変でしたね!」
笑い合う三人はそのままどこかへ歩いていった。今までシェリーがどこにいたのかを気にする素振りもなく。アリサはその場に立ち尽くしていた。再起動してから胸のモヤモヤを抱えたまま湖の方へ歩いていった。
アリサは一人、湖畔に腰を下ろして項垂れてから頭を抱える。
「あのゴリラなんだったんだよ!!」
その日アリサは監房に戻った。シェリーはまだ戻ってきていないようだった。苛立ちを隠そうともせず、音を立てながらベッドに飛び乗り、ふて寝する。
しばらくするとシェリーが帰ってきた。
「あれ?曲がってますねー?ちゃんと戻しておきましょうか」
ぎゅっと牢を掴んでシュッと伸ばすシェリー。いとも簡単にそれは前のように牢として役目を果たせるようになっていた。
それを見ていたアリサは内心で呟く。
(そうだったな……おめえの魔法は……)
フッと鼻で笑ってからベッドから起き上がるアリサは、顎に手をやってきちんと直ったかチェックするシェリーの背中に声をかけた。
「おい」
「はい?」
「おやすみ」
「はい!おやすみなさい!」
いつもと少し違う順番で挨拶を交わして二人は眠りつく。しかしすぐにシェリーが起き出してアリサのベッドへやってきた。
「あのー、なんか私のベッド臭うんでアリサさんと一緒に寝ていいですか?」
「……好きにしろよ」
「好きにします!それじゃ、改めておやすみなさいアリサさん」
いつもより狭いベッドだったが、人の温もりを感じながら眠りつく。アリサの心はいつもより満たされていたかもしれない。
同室の組み合わせが好き