プロローグ 天野江セイカと室笠アカネ
「……ふぁ」
気密シールドを通り抜けてきた朝の柔らかな光が、瞼を優しく叩く。
重い目元を細い指先で擦り、背中に生えた大きな白い翼を一度だけ大きく羽ばたかせてから、私はベッドを抜け出してみた。
私の名前は天野江セイカ。
ミレニアムサイエンススクールの1年生であり、この宇宙戦艦『ソラノミ』で空を観測しながら気ままに暮らす『空見観測研究部』の部長……ということになっている。
190センチという、女子生徒としてはあまりに規格外なこの背丈も、背中に広がる大きな翼も、地上の喧騒から遠く離れた高度数千メートルの空で生きるにはちょうどいい。
下界では連邦生徒会長の失踪だの、各学園の情勢不安だのと騒がしい噂が飛び交っているけれど、雲の上にあるこの静かな箱庭には、本来なら何の関係もない話のはずだった。
部屋の扉を開けた瞬間、私の鼻腔をくすぐったのは──香ばしく焦げた醤油と、出汁の効いた優しい朝ごはんの匂い。
「あら……セイカさん。おはようございます。ちょうど朝食が整ったところですよ」
視線の先で微笑んでいたのは、聞き慣れた、けれど本来ならここにいるはずのない人物だった。
室笠アカネ。私の幼馴染であり、C&Cに所属する2年生のメイド。
「……アカネ? どうしてここにいるのですか。ソラノミは昨夜からずっと完全な飛行モードを維持していたはずですが……」
並の航空機や手段で侵入できる高度でも、場所でもない。
私が本気で首を傾げると、アカネはふふ、と可憐に首を傾げて見せた。
「ふふ……それはですね……」
「それは……?」
思わずゴクリと唾を呑み込む。どんな高度な侵入経路を使ったというのだろう。
「離陸する前に、すでに潜入しておりました♪」
「……普通に不法侵入ではありませんか」
何をどや顔で胸を張っているのだろう、この子は。
「? セイカさんがこの前、私に合鍵を預けてくださったではありませんか」
「預けたからといって、無断で連泊していい理由にはならないのですが……」
「まあまあ。セイカさん、まずは落ち着いて深く息を吸ってくださいな」
……ああ、もういい。
この完璧なメイド兼幼馴染に論理的な抗議を挑んでも無意味なのは、これまでの経験で嫌というほど理解している。
「……もういいです。いただきます」
私はあきらめて、整えられた食卓へと着席した。
テーブルに並んでいるのは、ふっくらと炊き立てのご飯に、あつあつの味噌汁、そして絶妙な焼き加減の焼き魚。完璧すぎる和朝食だ。
「……さすがアカネですね。とても美味しそうです」
素直な感謝を口にして、黙々と箸を進める。
けれど……さっきから視線が痛い。アカネが頬に手を当て、楽しそうにニヤニヤしながら私の顔をじっと覗き込んでいるのだ。
「……何か私の顔についていますか、アカネ」
「いえ。ただ、ご飯を食べているセイカさんの横顔が、相変わらずかっこいいなと思いまして」
「へっ……!?」
不意打ちすぎる言葉に、一気に顔の表面温度が跳ね上がるのが分かった。
「あら。今度はとっても可愛らしくなりましたね♪」
「っ……ちょっと、アカネ!」
「ほらほら、お喋りしているとせっかくのご飯が冷めてしまいますよ?」
……完全にペースを握られている。
悔しいけれど、アカネが作ってくれた完璧な朝食を台無しにするわけにもいかない。私は真っ赤になった顔を誤魔化すように、ただ静かに目の前の食事へと集中することにした。
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「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
食事が終わり、器を重ねる。片付けくらいは私の仕事だ。
「食器は私が洗います。ここは私の家ですから」
「いえいえ、それも私にお任せください。メイドとして、愛するセイカさんにご奉仕させていただきます」
「ダメです……これだけは譲れません。作ってもらっておいて片付けすらしないなんて、私の論理的自尊心が許しません」
変なところで意地っ張りだと自分でも思うけれど、彼女に甘えっぱなしのままでいるのはどうにも収まりが悪いのだ。
「ふふ……こうなったセイカさんは、どれだけ言っても聞きませんからね。では、二人で並んで片付けるというのはいかがですか?」
「……それなら、受け入れます」
二人で食器を持ち、シンクの前へと向かう。
洗剤の泡を立てる私の隣で、アカネが器を拭き取っていく。肩が触れ合いそうなほど近い距離で作業するこの時間が、心地いいと思ってしまう自分がいた。
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着替えを済ませた後、私はリビングの椅子に座り、アカネに髪を整えてもらっていた。
私の腰まで伸びる水色のロングヘアは、190センチの背丈も相まって自分ひとりの手では少々持て余す。こうしてアカネがご機嫌な鼻歌を口ずさみながら丁寧に櫛を通してくれる時間は、正直に言って、私の日常において密かに楽しみにしている時間でもあった。
「……毎回思っているのですが、そんなに楽しいのですか? 私の髪を整えるの」
「ええ! セイカさんの髪はサラサラで触り心地がよくて、とっても良い匂いがするので、お手入れするのが本当に楽しいです!」
迷いのない、完璧な即答。少し食い気味なくらいだ。
けれど、そのまっすぐな言葉が、胸の奥をほんのりと温かくさせる。
「わお……すごい食い気味ですね。なら……これからもお願いして、いいですか?」
「ええ、喜んで。ずっとお任せください」
そう言うなり、アカネは櫛を置くと、背後からくるりと回って正面から私に抱きついてきた。
私の身長は190センチで、アカネは164センチ。正面から正面へ抱きつかれると、ちょうど彼女の顔が私の胸のあたりに埋もれる計算になる。
「……ふふ。相変わらず、とっても大きいですね」
「……セクハラですよ、アカネ」
「まあまあ、そんな硬いことを言わずに。……そういえばセイカさん、普段は服の圧力で押し潰して小さく見せているんでしたっけ?」
「え、ええ。物理的な制約で少し抑え込んでいるのは事実ですが……っ」
秘密の身体的特徴をあっさりと指摘され、思わず狼狽えてしまう。
「ふーん……そうなんですね。では今度、その補正を外した状態のセイカさんに、そのまま抱きついてみてもよろしいですか?」
「セクハラですよ……!?!?」
冗談なのか本気なのか、まったく読めない微笑みを浮かべるアカネ。
私は半ば呆れつつも、自分よりもずっと小さな彼女の身体を、自分の腕と大きな白い翼で包み込むようにして、そっと抱き締め返した。
外界の騒がしさも、未来を予測する観測士としての重圧も。
今のこの瞬間だけは、腕の中に残る柔らかな体温と、交わされる他愛もない会話だけで満たされていればいい。
そんな確信めいた想いを胸に、私とアカネの『ソラノミ』に、今日もまた穏やかで愛おしい新しい一日が始まっていくのだった。
名前:天野江セイカ
所属:ミレニアムサイエンススクール
部活:空見観測研究部
部員:セイカ一人
宇宙戦艦に乗り込み、既に宇宙に出ていることで部活存続が可能
学年:1年生
身長:190cm(翼が巨大なためバランス重視)
大きな翼が生えており飛行可能
翼はある程度縮められる
体型:胸は大きめ、服で押さえつけるスタイル
髪色:水色(ロング)
目の色:紫
ヘイロー:船の舵輪(摩虎羅の方陣みたいなもの)
性別:女
年齢:15
誕生日:6月14日