未来を統べる翼と、優しいメイドの家   作:天野江

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 数日が経過し、外界の事態は私が数日前の予知で視た通り、最悪の曲線を描き始めていた。

 静まり返った艦橋。モニターに映るのは、ミレニアムの要塞都市「エリドゥ」の冷たい外壁と、そこに渦巻く異常なエネルギー反応だけだ。


因果の書き換え――箱舟への叛逆――

 

 

 

「……やはり、予知通りになりましたね」

 

 

 自分の声が、どこまでも淡々と響く。

 背後では、重厚な機械音と共にヘイローが「ガコン」と大きく回転し、現実の情報を濁流のように私の脳へと流し込んでいた。

 

 

「セイカさん……予知で視ていた通りになってしまいましたね。天童アリスさんがリオ会長に連れ去られて……」

 

 

 アカネが、痛ましげにホログラムを見つめている。

 

 

「……ええ。そしてケイ……あの子の目的は、アリスの内部からエリドゥのシステムを掌握すること。リオの作った都市そのものを『箱舟』という概念へ歪曲させ、サンクトゥムを建立する……この世界のすべての神秘を凍結させるのが、彼女の使命だ」

 

 

 私の瞳には、エリドゥの街並みが、徐々に異質な「神秘」へと変質していく様が残酷なほど鮮明に映っていた。

 

 

「……すべての神秘をアーカイブに……? そんなことをしたら、みんなの明日が……」

 

「……記録された過去だけが残り、未来が失われる。合理的ではあるけれど、あまりに退屈な終焉だ。そしてあの子は、そのプロセスを完遂するために、最後には自分自身すらも消去しようとしている。……一分の隙もない、孤独な使命だね」

 

 

 私は静かに、けれど毅然とした動作で艦長席を立った。

 

 

「……調月リオの独善も、ケイの抱える数千年の使命も、私から見れば等しく『演算誤差』に過ぎません。アリスを救おうとするあの子たちの絆……そして、この戦艦ソラノミが、『家出した娘のわがまま』を止めるために現れるという事態が、彼女たちの計算には入っていない」

 

 

 手元の端末を操作し、数日間保留にしていた『室笠 ケイ』の生徒情報の最終確定画面を呼び出す。

 

 

「……アカネ。ケイは、すべてを箱舟に詰め込んで、自分ごと鍵を閉めるつもりでしょう。ですが、この私が『室笠』の名を承認した以上、勝手に歴史の遺物(アーカイブ)になることは、重大な規約違反です」

 

「……セイカさん」

 

 

 

 

__________

 

 

 

 

「……っ、あ……」

 

 

 その時、世界が激しく揺れた。

 歩みが、唐突に止まる。背後で浮遊していたヘイローが、「ガコン!」と耳を突き刺すような不機嫌な金属音を立てて激しく震えた。

 

 

「セイカさん!? どうしたのですか!」

 

 

 駆け寄るアカネの腕の中で、自分の身体が驚くほど軽く、そして氷のように冷たくなっていくのがわかった。焦点が合わない視界の中で、白銀の光が不規則に明滅する。

 

 

「……アカネ。申し訳、ありません……。演算、負荷が……限界を、超えました……」

 

 

 掠れたノイズのような声しか出ない。

 「空見の波」をここ数日、脳の悲鳴を無視して使い続けたツケが回ってきた。糖分は枯渇し、神経は焼き切られようとしている。数万通りの悲劇を力ずくで書き換え、アリスとケイが共存できる唯一の「針の穴」を固定し続けた代償。

 

 

「そんな、顔色が真っ白です……! 今すぐ休まないと……」

 

「……いいえ。……動かないんです、足が。……神経が、未来の観測データに……焼き切られて……一歩も……」

 

 

 震える指先で、自分の動かない膝を強く握りしめる。

 観測者。未来を確定させる唯一の存在。その私が、今、あの子に最も手を貸したい瞬間に、自由を奪われてしまった。

 

 

「……アカネ。私は、ここまでです。今の私の脳では、もう、自分を歩かせるための、座標認識すら……維持できない」

 

 

 顔を上げ、朦朧とする意識の中で、必死にアカネの瞳を射抜いた。想いだけは、ノイズに紛れさせないように。

 

 

「……あの子を……ケイを、お願いします。彼女は今、自分という記憶(アーカイブ)を消去しようとしている。……それは、一分の隙もない……あまりにも孤独な……自己犠牲です」

 

 

 目元が熱い。零れ落ちたのは予知の光ではなく、ただの少女としての、無念と祈りの雫だった。

 

 

「……私に代わって、あの子を……抱きしめてあげてください。『室笠』の名を、勝手に捨てるなと。……お母さんを置いて、アーカイブの中に逃げるなと……」

 

「…………。わかりました、セイカさん」

 

 

 アカネが涙を拭い、私の肩を最後に一度、強く抱きしめた。その温もりが、彼女の強い決意を伝えてくる。

 

 

「……信じて、います。……さあ、行って……ください。私はここで、ソラノミの全演算を……貴女たちのサポートに……回します……」

 

 

 壁に背を預け、ゆっくりと崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。

 走ることも、戦場に立つこともできなくなった私。けれど、震える指先で空中にホログラムを浮かべ、アカネが進むべき最短ルートを光り輝かせる。これくらい、なんてことはない。

 

 

「……一分一秒を、惜しんで。……迷子の、お迎えを……」

 

 

 遠のく意識の淵で、アカネの背中を見送った。

 動けない身体。熱を帯びた脳。けれど胸の奥には、アカネなら必ずあの子の冷えた手を握ってくれるという、確かな予知よりも強い「信頼」が、温かく残っていた。

 

 




エリドゥに侵入する話は原作となんら変わらないので飛ばします。

会話以外の地の文がむずかしい

セイカ以外のものができる気がしない
どこかで挑戦してみます
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