ハナコによる前代未聞の宣誓の余波が冷めやらぬ中、スタジアムの地下バックヤードエリアでは、もう一つの「巨大なノイズ」が発生しつつあった。
次に控える第1プログラム、ミレニアムサイエンススクールの応援パフォーマンス。その出番を待つゲーム開発部の面々は、大舞台の重圧とハナコのバグじみた熱量にあてられ、完全にシステムフリーズを起こしていた。
「あ、アリスの機能が大幅に低下しています……! 緊張のデバフにより、応援用のポンポンが、伝説の魔王の呪いの装備のように重く感じられます……!」
「う、胃が痛い……。ねえお姉ちゃん、もうゲーム開発部は棄権して、部室で新作の格ゲーの調整に戻らない……?」
「何言ってるのミドリ! ここで逃げたらユウカに何を言われるか……って、わ、私だって本当は足の震えがミリ秒単位で止まらないわよーっ!」
「……うう、段ボール、私の段ボールを持ってきてください……」
アリスが目を丸くして硬直え、ミドリが胃を押さえ、モモイが空回りし、ユズはキャスター付きの段ボールに引きこもりかけている。
そんな限界状態の4人の前に、同じくミレニアムの応援団として任命されたエンジニア部の面々が、轟音と共に現れた。
「皆、調子はどうかな! 我がエンジニア部がミレニアムの勝利と技術的優位性を完全記述するために開発した最新鋭応援ガジェット──『超高速多機能自律型チアロボ・チアちゃん改良型』の起動が完了したよ!」
「そうです! このチアちゃん改良型は、私の頭の中にある応援モーションを秒間数万回実行し、さらにヒビキの音響調整による『超高周波励起型応援メガホン』を搭載することで──」
「……うん。ただ、出力の安定定数がちょっと暴走気味。このままだと応援じゃなくて、半径50メートルの電子機器を物理的に焼き切る超音波兵器になる」
白石ウタハが誇らしげに胸を張り、豊見コトリが早口で解説を高速でまくし立て、猫塚ヒビキが工具を片手に淡々と不穏な数値を告げる。
ガチガチに緊張したゲーム開発部の精神ノイズと、エンジニア部が持ち込んだ試作ガジェットの過剰なエネルギーパルス。その二つが狭いバックヤードで最悪の干渉を起こし、エリア全体のインフラが激しくスパークを始め、制御不能のオーバーヒート寸前へと叩き落とされていた。
「──地上、第1プログラム待機エリアにて過剰な干渉ノイズを感知」
スタジアム最上層のバルコニー席で、ケイの赤い瞳が鋭く明滅した。彼女の膝の上のコンソール端末には、ゲーム開発部とエンジニア部のシステムが完全に瓦解しかけている危険な警告ログが点滅している。
「お父さん、エンジニア部のハードウェア出力が暴走しています。このままでは同調チアプログラムが物理的に破綻し、地上の王道がステージに上がる前に自滅します。……ソラノミのメインプロセッサの接続を要請しますか?」
「いいえ、ケイ。その必要はありません」
セイカは、眼鏡のないその美しい素顔で眼下のバックヤードの階層を静かに見つめ、力強く首を振った。
「私たちは今、彼女たちと同じ地上の、最も近い『座席』にいるのですから。ソラノミを介さず、今この場所から、私たちの直接の演算で彼女たちを援護しましょう。──レナ、あなたの出番です」
「えっ!? わた、私の……!?」
名前を呼ばれ、スケッチブックを抱えたままレナが飛び上がる。セイカは彼女の目線に合わせるように少しだけ腰を落とし、深い信頼を込めて告げた。
「あなたがこの部に入れた喜びを込めて、先ほど描き上げたそのヒロイックな色彩と機能美のデザイン。それこそが、エンジニア部の荒々しい技術に『魂』を与え、ゲーム開発部の王道を包み込むための、完璧な解です。あなたの線を、地上へ貸してあげなさい」
「……っ! うん、分かったわよ! 私のデザイン、ソラノミの、空見観測研究部のデザイナーとしての力、見せてあげるんだから!」
レナは嬉しさを爆発させるように顔を真っ赤にしながら、描き終えたばかりの、眩い色彩が躍るスケッチブックをケイのコンソールの前に勢いよく差し出した。
「レナのデザイン意匠の入力を確認。──素晴らしい再現定数です。これより、本コンソールの広帯域指向性アンテナを最大出力に設定。エンジニア部のローカルネットワークへ直接介入し、同調パッチ──第二フェーズを適用します!」
ケイの指先が、鍵盤を叩くような美しい残像を残して端末を叩く。
次の瞬間、バルコニー席の先端から、不可視の調律パルスが、眼下のバックヤードへと向かってダイレクトに撃ち込まれた。
__________
ズドン!! と、地上の電子ネットワークが、完璧な調和の光によって包まれる。
バックヤードで暴走しかけていたウタハの『チアちゃん改良型』や、ヒビキのメガホンガジェットの装甲が、眩いエフェクトと共に一瞬で再構成されていった。荒々しかった無機質な金属の塊が、レナの描いた「機能美とヒロイックな色彩」を纏い、見る者の魂を芯から震わせるような、完璧に美しい応援形態へと姿を変えていく。さらに、その調律されたガジェットから放たれた柔らかな光の波長が、ゲーム開発部の4人を優しく包み込んだ。
「──え? あ、あれ……? 胃の痛みが、完全にデバッグされて消えちゃった……?」
「アリスのシステム、完全復旧です! それどころか、身体の奥から伝説の勇者のバフが溢れ出てきます!!」
ユズが段ボールから勢いよく顔を出し、モモイとミドリが顔を見合わせて歓声を上げる。ガチガチだった緊張ノイズは、レナのデザインが持つ多幸感によって、すべて「最高の晴れ舞台を楽しむエネルギー」へと変換されたのだ。
「素晴らしい……! ガジェットの出力特性が、私の計算を超えて完全に最適化されたぞ! 送ってきたのはセイカだが、内容は彼女のものではない……。一体どこの誰が、これほど高潔な機能美のパッチを送り込んできたんだい!?」
ウタハが驚愕の声を上げ、コトリが「これはチアの歴史を塗り替える美しさです!」と目を輝かせる。
「……うん。これなら世界を救える」と、ヒビキも満足げにノギスを収めた。
スタジアム全体のスピーカーが、第1プログラムの開始を告げる重低音のシステム音を吐き出した。
大狂乱の熱気が未だ燻る中、スタジアムの一角──ミレニアムサイエンススクールの膨大な生徒たちが埋め尽くす『応援団エリア』に、レナのデザイン意匠をローカルネットワーク経由でダイレクトに上書きされたミレニアムの精鋭たちが、堂々の進軍を完了していた。
「──ミレニアム応援団、これより地上の戦士たちの戦意定数を最大化する、応援プロトコルを開始する!」
白石ウタハの凛とした号令が、メガホンを通じてスタジアムの地鳴りのような喧騒を突き抜けた。
観客席の最前列、フィールドで戦う選手たちのすぐ目の前に陣取ったウタハ、コトリ、ヒビキが纏うのは、華美な衣装などでは決してない。それは、洗練された機能美の中にレナのヒロイックさが落とし込まれた、硬質で、泥臭くも誇り高い「応援団の学ラン」であった。
彼女たちの背後で、観客席の床を震わせて駆動を始めたのは、レナのデザインによって完璧に調律された『チアちゃん改良型』──いや、今やその姿は、巨大な多脚型の「移動式応援中継拠点」へと変貌を遂げていた。
「ヒビキ、音響インフラの出力定数を固定。コトリ、応援ロジックの広域同期を開始せよ。地上の選手たちの『王道』を、私たちの技術で全肯定するぞ!」
「了解です、ウタハ先輩! 応援メガホン、周波数固定。……これなら、スタジアムの最果てまで私たちの声が届く」
ヒビキが淡々とコンソールを叩き、コトリが「ミレニアムの勝利の確率は、現時点で120%です!」と巨大な団旗を力強く振る。
その巨大ガジェットの装甲から放たれたのは、戦う選手たちの闘志を限界突破させるための、重厚で激しいエネルギーの波動だった。それはステージを華やかに飾るための光ではなく、戦う者の背中を物理的に押し上げるための、圧倒的な「鼓舞の数式」そのもの。
そして──その技術の暴風のド真ん中で、同じく最前列に並んだゲーム開発部の4人が、眩いばかりの応援用ポンポンを掲げて叫んだ。
「ゲーム開発部、チアプログラム起動です! アリスは今、伝説のバフを受けて、攻撃力も守備力もカンストしています! ミレニアムを勝利へと導くために、全力で応援します!!」
「いくよ、ミドリ! 私たちのコンビネーション、みんなに見せつけてやるんだからーっ!」
「うん、お姉ちゃん! ……ユズ、段ボールのハッチを開けて、私たちの『王道』を叫んで!」
「……っ、はい! ミレニアム、ファイトですーーっ!!」
ユズがキャスター付き段ボールの天面から身を乗り出して声を張り上げ、モモイとミドリが息の合ったステップで、ガジェットの重低音に合わせて激しくポンポンを振る。アリスの掲げる光が、エンジニア部の超音波メガホンと完全にシンクロし、観客席からフィールドの選手たちへ、そしてスタジアム全体へと「泥臭くも一生懸命な、キヴォトスの王道」の熱量が、津波となって押し寄せていった。
演者としてスポットライトを浴びるのではない。
観客席の最前線という泥臭い場所から、足が震えても、仲間たちのために声を限りに叫び、技術を振るう──これこそが、彼女たちの選んだ「応援」という戦い方だった。
スタジアムの床を揺らすその圧倒的な応援パルスを、最上層のバルコニー席からじっと見下ろしながら、ケイは一度だけ、満足げに小さな胸をなでおろした。その赤い瞳は、いつもの生真面目な平熱を保ってはいるものの、地上で声を張り上げるアリスたちを、とても温かな視線で見つめている。
「お父さん、お母さん。ゲーム開発部、およびエンジニア部の応援パルスは現在、過去の晄輪大祭の全ログを塗り替える最高数値を記述しています。レナのデザイン意匠は、エンジニア部のハードウェアに完璧な『魂』を与えました。観客席からの広域同調、100%成功です」
「ええ、完璧なデバッグでしたね、ケイ」
セイカが静かに頷き、衣服の襟を正す。その隣では、アカネが完璧なメイドの微笑みを浮かべながら、嬉しそうにスケッチブックを抱えている新部員へと視線を向けた。
「私のデザインが……あんなに、格好良く、あの子たちの力になってる……」
レナは、最前列で繰り広げられる「本気の応援」に目を奪われていた。華やかなスポットライトのない観客席で、それでも誰かのために泥臭く叫ぶ彼女たちの姿。その熱量を受け取ってフィールドを駆ける選手たちの眩しさ。そして、それを自分の描いた「線」が完全に全肯定しているという事実。
自分がこの「空見観測研究部」に座席を与えられ、この場所に立てていることの真の意味が、スタジアムの地鳴りのような歓声と共に、彼女の胸の奥へと深く、深く記述されていく。
「……ふん、当然よね。ソラノミの、空見観測研究部のデザイナーである私が描いたんだから、あれくらい格好良くて当たり前なんだから! 勘違いしないでよね!」
顔を真っ赤にしながらも、いつものツンとした口調で、けれどこれ以上ないほど誇らしげにドヤ顔を決めるレナ。
「ふふ、よくできました、レナちゃん。我が部の新しい誇りですね」
「お母さんの言う通りです、レナ。あなたの出力したパラメータは、我が部のタイムラインに最高の『解』をもたらしました」
アカネに優しく頭を撫でられ、ケイからも生真面目なトーンで全肯定され、レナはさらに顔をトマトのように赤くしてスケッチブックで顔を隠した。
__________
地上の第1プログラムが最高の熱量を残して終了し、スタジアム全体の熱気が次の競技のタイムラインへと緩やかに移行していく中、バルコニー席を包む空気は、再び空見観測研究部本来の『平熱』を取り戻しつつあった。
ひと仕事終えた我が部のデザイナーを優しく労うアカネの姿を見て、ケイは小さく頷き、トコトコとアカネの隣へと歩み寄った。そして、すっと手を伸ばすと、アカネのメイド服の裾を小さな指できゅっと握りしめる。
「お母さん。レナのデザインパッチの送信に伴い、私のローカルプロセッサも一時的に高負荷を記録しました。ですが──お母さんの淹れたお茶の香りを吸引したことで、現在、最高効率でのリラックス状態へ移行しています」
「あらあら、ケイちゃん。頑張ってくれましたものね。はい、よくできました」
アカネが蜂蜜のように甘い声音で微笑み、ケイの少し冷たい手をそっと包み込む。ケイはその絶対的な母親の包容力に身を委ね、しかしその瞳には深い深い信頼を湛えてアカネを見つめ返していた。
そんな愛娘の健気な姿にセイカの目元が、これ以上ないほど優しく緩む。セイカは大きな足取りで二人に近づくと、ケイの小さな頭に、その大きな掌をそっと乗せた。
「ケイ。あなたのおかげで、ゲーム開発部の子供たちの晴れ舞台を守ることができました。本当に、よくやってくれましたね。……とても可愛い、私の自慢の娘です」
大きな掌が、愛おしそうにケイの髪を優しく撫でる。
いつもならクールに「お父さん、私を子供扱いするのはやめてください」と返すケイだが、今回ばかりは地上の熱量に少しだけ当てられていたのかもしれない。あるいは、自分たちの手で仲間の「王道」を守り抜いたという確かな高揚感が、彼女に、ほんの僅かな『隙』を作った。
「っ……」
ケイは一瞬だけ、ポッと顔を赤く染め、セイカの手を振り払うでもなく、されるがままに頭を撫でられていた。
「お、お父さん。……嫌だとは、言っていません。ですが、私のローカルシステムが一時的にオーバーヒートを記録しています。これはおそらく、お父さんの褒め言葉が私の予測パラメータを上回ったことによる、論理的な不整合です……」
小さく俯きながら、消え入りそうな声で生真面目な正論を並べるケイ。しかし、その耳たぶまで真っ赤に染まっているのは隠しようもない。
「ふふ、まあまあ。ケイちゃん、お父さんに真っ正面から褒められて、システムが完全に照れモードに入ってしまいましたね?」
「お母さん、それ以上のからかいは不要です……っ!」
たまに見せる、この愛らしい娘の照れの瞬間。
その様子を横目で見ていたレナは、「(な、何なのこの尊すぎる家族空間……!! 親子の平熱とたまに出る照れのギャップも私のスケッチブックの燃料になりすぎるわよーっ!!)」と、再び脳内でクリエイターとしての限界突破を起こしながら、猛烈な速度でペンを走らせ始めるのであった。
__________
そんな空見観測研究部特有の、温かで奇妙な『平熱』が流れるバルコニー席の自動扉が、静かな駆動音を立てて開いた。
現れたのは、ミレニアムの誇る最高峰の戦闘集団『C&C』のメイド服を纏い、しかしその上に晄輪大祭の実行委員会直属の「警備腕章」を巻いた少女──飛鳥馬トキであった。
トキはバルコニー全体を見渡すと、真っ直ぐにケイの元へと歩み寄った。
「──定時連絡。および、環境保全用物資の搬入。ケイ、現在のステータスを確認しに来ました」
トキの手には、ミレニアムの購買部で調達してきたと思われる、冷たい缶入りのエナジードリンクと、少し高級なバウムクーヘンが握られている。ケイはアカネの裾からすっと身を離し、いつもの生真面目な表情に戻って親友を迎え入れた。
「トキ。私のステータスは現在、完全な安定を維持しています。先ほど、ゲーム開発部およびエンジニア部への直接介入プロトコルを完了し、地上のタスクエラーを120%の効率で排除しました」
「了解。さすがは私の親友。素晴らしい演算能力です。……ピース」
トキは淡々とした声のまま、指先だけで小さなピースサインを作ってみせた。
感情の起伏が極めて乏しい二人の少女が、遮音ガラスの向こうで繰り広げられる大歓声を背景に、淡々と、しかし完全に息の合ったテンポで会話をしていく。その様子は、はたから見れば少しシュールではあるが、根底にある確かな信頼は、誰の目にも明らかだった。
「トキ、その手に持っている物資の糖分およびカフェイン定数は、現在の私のリカバリーに必要な数値を満たしています。提供を要請します」
「問題ありません。これはユウカ先輩の目を盗み、最高効率の隠密行動によって確保した特級物資です。半分をケイに、もう半分を、そこにいるレナに分配します」
「えっ!? わ、私にも!?」
またしても名前を呼ばれ、レナがびくっと肩を揺らす。トキはレナの前にすっと進み出ると、冷たい缶を差し出した。
「レナ。あなたの出力したヒロイックなデザインログは、警備用ドローンのネットワーク経由で私も確認しました。非常に高潔で、機能美に満ちた素晴らしい仕様です。C&Cの次期戦術兵装のカラーリングとして採用したいレベルです」
「な、なによそれ……! 褒められたって何も出ないわよ! ……でも、まあ、トキちゃんにそこまで言わせるなんて、私の線の価値が正しく記述されたってことね。ふん、ありがたく貰っておくわ!」
レナがツンとしながらも嬉しそうに缶を受け取る。
トキは満足げに小さく頷くと、最後にバルコニーの奥に佇むセイカとアカネに向かって、美しく洗練された一礼を捧げた。
「セイカ、アカネ先輩。ケイをいつも守っていただき、感謝します。これより、私はスタジアム第2エリアの境界警備任務へ戻ります。──ケイ、また後ほど」
「ええ、トキ。任務インフラの安全を祈ります」
トキは再び無機質なピースサインを一つ残し、風のように静かにバルコニーから去っていった。その引き締まった背中は、地上を守るミレニアムの『防壁』そのものであった。
__________
「……やれやれ、本当に騒々しい日常だよ、地上という場所は。だがね、セイカ。君たちの放ったあの美しいデザインパッチが、ミレニアムの生徒たちの熱量を完璧に調律する瞬間を、私はこの目で見た。実に見事な観測と、介入の数式だったよ」
セイアがバルコニーの最前列に並び、セイカの隣に立つ。
セイカは、スタジアムの遥か彼方、走者たちが一斉にトラックを駆け抜けていく光景を見つめながら、ふっと静かに微笑んだ。
「いいえ、セイア。私たちはただ、地上に最初から存在していた『王道』を、あるべき温度で肯定したに過ぎません。泥を払い、ノイズを削り、彼女たちが全力で輝けるための『座席』を用意する。それこそが、宇宙戦艦ソラノミの、そしてこの空見観測研究部の果たすべき記述なのですから」
セイカのその大きな背中を、ケイは隣からじっと見上げていた。
お父さんの言う通りだ、と彼女は心の中で深く静かに頷く。
キヴォトスの生徒たちは、誰もが自分だけの物語を一生懸命に生きている。時に迷い、時にエラーを起こし、時にプレッシャーで壊れそうになりながらも、彼女たちは決して歩みを止めない。その泥臭くも愛おしい日常のタイムラインを、宇宙の果てから、あるいはこの最も近い現場から、完璧な数式で肯定し続けること。
「お母さん。次の競技のデータリンクが開始されました。ソラノミの外部センサー群と本コンソールの同期率、100%を維持。これより、大祭全体の本格的な観測へ移行します」
「ええ、ケイちゃん。私たちの特等席から、みんなの輝きを、一つ残らず綺麗に記述してあげましょうね」
アカネがケイの隣に寄り添い、完璧な微笑みでお茶を注ぎ足す。
その温かな光景の真ん中で、レナは自分の座席に深く腰掛け、再びスケッチブックを開いた。
もう、かつてのような孤独な拒絶の線は、彼女のペンからは生まれない。ここには、自分の知性を認め、自分のデザインを必要としてくれる、最高の観測士たちがいる。
「さあ……見てなさいよ。あんたたちの最高に格好良い瞬間、この私が、オカルト研究会の、空見観測研究部のデザイナーとして、世界で一番綺麗なデザインに記述してあげるんだから……!」
ガリガリと、心地よい紙の音がバルコニーの中に響き渡る。それは、新部員・レナが自らの意志でこの部に帰属し、居場所のために魂のペンを執った、最高の決意のログ。
スタジアムを揺るがす全生徒たちの限界突破した大歓声。
それらを平熱の温度で優しく包み込み、すべての日常を祝福するために。
そんな彼女たちの輝きと共に、空見観測研究部の晄輪大祭は、どこまでも賑やかに、どこまでも誇らしく、その真なる物語の頁を、未来の蒼穹へとめくり続けるのであった。