閃光が中央区の上空で爆発的に弾けた瞬間、宇宙戦艦ソラノミの艦橋のコントロールパネルは、即座に「我が家」としての絶対的な後方支援体制へと移行した。
メインモニターを満たす真紅のアラート。それらを冷徹な青い解析ログへと次々と塗り替えながら、残された二人の家族は、戦場へ降り立ったセイカを支えるために一寸の無駄もない手つきでコンソールを叩き続けていた。
「主砲チャージ完了。因果障壁の出力を戦闘限界まで引き上げます。これより、セイカさんの迎撃航路上の障害をすべて物理的に排除します。私たちの家を脅かす不条理には、少々手荒なお仕置きが必要ですからね」
アカネはいつもの上品な笑みをその唇に湛えながらも、その瞳には戦闘用メイドとしての冷徹な闘志が宿っていた。彼女の手つきは極めてエレガントでありながら、寸分の迷いもない。彼女の担当は、ソラノミの誇る主砲の遠隔制御、艦体を守る因果障壁の最大維持、そしてセイカが三次元空間を縦横無尽に翔け巡るための絶対的な航路の確保であった。
「了解しました、お母さん。これより全演算リソースを色彩反応のリアルタイム解析、およびお父さんの未来予測補助、戦況予測のアップデートに回します。1ミリ秒の同期ズレも許しません」
ケイの瞳に、戦艦のメインフレームと同調する鮮烈な青い光が眩しく灯る. 彼女の担当は、色彩ペロロジラが放つエネルギー動向の完全な解析と、セイカの脳内へと直接同期される戦況演算のサポートであった.
二人は後方から、セイカが全力を尽くすための戦闘空間を完璧に保証する。しかし、メテオストライカーそのものの兵装制御や引き金の管理には、システム側から一切介入しない。それは、前線で引き金を引くセイカという一人の「記述者」に対する、家族としての、そしてお母さんと娘としての絶対的な信頼の証であった。
「お父さん、バックアップは完璧です。……あの不条理の記号を、私たちの日常から完全に消去してください」
ケイの祈りにも似た演算ログが、緑色の粒子ストリームを通じて、セイカへと手際よく届けられた。
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「これより、迎撃を開始します」
色彩ペロロジラの眼前、虚空に立ち尽くす天野江セイカの平熱の声が通信網に響く。
彼女が背負うのは、対因果律・高機動迎撃ユニット『メテオストライカー』は、彼女の背中に強固にマウントされ、巨大なバックパックとして機能していた。
その中央、セイカの背中で絶対的な存在感を放つ半永久機関――『ルミナス・コア』が、空間の底を揺らすような重低音とともに激しく拍動を開始する。
装甲の隙間や各部スラスターから、神秘的で美しい輝きを放つ特殊な光粒子が爆発的に空間へと放出された。
世界の上書きを拒絶するような緑色の光粒子は、彼女の背後から巨大な「緑色の光の翼」を形成し、真紅に染まったキヴォトスの夜空に、まるで天の川のような美しい尾を引いて広がっていく。
セイカの頭上で舵輪型のヘイローが高速回転を始めると同時に、彼女は背後に背負ったメテオストライカーの全武装の制御権を、自身の神経回路と同調させ、単独で完全に掌握した。
背後のウイングバインダーから、ルミナス粒子を纏った12基のフィンファンネルが一斉に射出された. 緑色の光の尾を引くファンネルは、空間の物理法則を無視した鋭い軌道で夜空を縦横無尽に翔け、瞬く間に色彩ペロロジラの巨体を網の目のように包囲した。
死角という死角から、ルミナス粒子によって限界まで増幅・安定化された超高出力のレーザーが正確に叩き込まれ、怪獣の侵食された概念装甲をジュウジュウと音を立てて切り刻んでいく。
「グルゥァァァッ!!!!」
全身を焼かれる痛みに色彩ペロロジラが激昂し、その歪に歪んだヘイローから、街一つを容易く消滅させるほどの概念的な熱線を口から解き放った。ドス黒い赤を帯びた破壊の光が、セイカを飲み込まんと真っ直ぐに突き進む。
だが、セイカの精緻な「眼」は、自身の未来視によってその熱線の軌道を数秒前に完全に、数理的な事実として見切っていた。
ルミナス粒子の質量制御効果により、メテオストライカーはその大質量を完全に無視した、慣性の法則すら超越した動きを可能にしている. 重々しい兵装を背中に背負っているとは到底思えないほど、その機動は軽やかで絶対的だった。
セイカが背中の「緑色の光の翼」を鋭く羽ばたかせると、彼女の身体は空中で直角に折れ曲がるような、物理的な限界を超えた超高速空中機動を披露した。ペロロジラの放った極大の熱線は、セイカの残像すら捉えることができず、ただ虚空を虚しく引き裂くだけに終わった。
空を舞うセイカの軌跡に沿って、美しい天の川のような緑の粒子ストリームが夜空を鮮やかに染め上げていく。
地上で見守る先生や生徒たちの目に映るのは、真紅の絶望を切り裂いて自在に躍動する、一筋の圧倒的な緑色の彗星であった。
ソラノミから放たれる長距離の因果障壁パルスが、ペロロジラの周囲から発生する未知の空間歪みを完全に相殺し、セイカのためだけの完璧な戦闘空間を維持し続ける。
その完璧な家族の援護を受けながら、セイカは背中からアームを介して前方に展開されたメテオバスターライフル、および各部砲門を次々と展開した. ルミナス・コアから枯渇することなく供給される無尽蔵の超火力。彼女は平熱のまま、凄まじい密度の波状攻撃を単独で制御し、巨大な怪獣を少しずつ、しかし確実に、逃げ場のない因果の袋小路へと追い詰めていった。
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激しい爆風と、緑色の光粒子、色彩の霧が中央区の上空で激しくせめぎ合い、戦闘が最高潮に達したその瞬間、ケイの鋭く張り詰め声が通信網を走った。
『お父さん、色彩反応の周期に致命的なズレを確認! 激しい波状攻撃によって概念装甲の再生が追いついていません。左胸の奥、第三層の隙間に――敵核の露出を確認しました! 露出時間、残りコンマ八秒!』
『了解しました。……射線上の不条理エネルギー、および空間抵抗、すべてソラノミの主砲で相殺しました。最終射線、確保です。……行ってきなさい、セイカさん!』
アカネの冷徹な一撃が、ペロロジラの放っていた防衛パルスを強引に、完全にこじ開け、混沌の空に一本のまっすぐな青い道を拓く。
家族の完璧なサポート、およびセイカ自身が未来視によって観測していた数兆の未来のログが、完全にゼロ秒の交差点で合致した。
セイカの眼には、ペロロジラの核が完全に無防備になり、世界の因果が勝利へと固定される、コンマ数秒先の未来の光景がはっきりと映っていた。
「そこですね」
セイカは背負ったルミナス・コアの出力を最大へとあげ、緑色の翼から圧倒的な粒子ストリームを噴射した。彼女の身体は質量を無視した超高速でペロロジラの懐へと肉薄する。
迫り来る怪獣の巨腕の未来軌道を、最小限の機動でかわし、12基のフィンファンネルが彼女の周囲に円環を成して整列した. 前方に構えたメテオバスターライフル、およびメテオストライカーすべての砲門が、緑色のルミナス粒子の輝きを限界まで吸い上げて青白く臨界点へと達し、空間を激しく震わせる。
全ての兵装を完全に敵の核一点へと展開し、セイカはいつも通りの平熱のまま、引き金を引いた。
「……フルバースト」
放たれたのは、全ての火力を完全に一本の絶対的な光の槍へと集束させた、壊滅的な一斉射撃。緑色のルミナス粒子によって限界まで増幅・安定化された極大の熱流は、ペロロジラが最後の悪あがきとして放とうとした反撃のエネルギーごと、その胸の奥深くに隠された色彩の核を、狂いなく正確に、概念ごと完全に撃ち抜いた。
「ガ……、グ、オ……、オォォォォォォ……ッッ!!!!」
色彩ペロロジラの巨体が内側から眩い緑色の光に収縮し、次の瞬間、爆発音すら残さずに、霧散するようにして完全に消滅した。
それと同時に、ペロロジラと因果の底で繋がっていた高空の「第七のサンクトゥム」が、その巨大な構造を維持できずに激しく自壊を始める。禍々しい真紅の尖塔が光の塵となってバラバラに崩れ落ち、キヴォトスを覆っていた血のような赤色が、潮が引くように急速に、完全に消え去っていった。
世界の日常を上書きしようとしていた不条理の侵食が、ここに完全に止まった。
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キヴォトスの空に、かつての美しい、誰もが知っている平熱の青空が戻ってくる。
地上でそれを見届けていた各校の生徒たちは、今度こそ本当に不条理が退けられたのだと知り、歓声を上げる気力すら残っていないまま、泥の上にへたり込んだ。互いの無事を喜び合う言葉すら、今は心地よい沈黙の中に溶けていく。
『……信じられませんね。概念を塗り替えるほどの規格外の色彩個体を、本当にたった一人で終わらせましたね、彼女は』
ヒマリが特設管制室の通信の向こうで、その全知のプライドを心地よく打ち砕かれたように、驚愕を隠せないまま感嘆の息を漏らす。
『結論。あの個体は例外。数理的な常識も、私たちが構築した戦略の前提すら通用しない、文字通りの規格外よ。……天野江セイカ、およびメテオストライカーの戦闘能力。私たちは、彼女の『眼』と『力』を完全に再評価しなければならないわね』
リオの毅然とした女性口調にも、隠しきれないほどの深い敬意と信頼が混ざっていた。彼女たちの知性は、目の前で記述された「一騎討ちの勝利」という絶対的な現実のログを、正しく受け止めていた。
戦い終え、背負ったメテオストライカーのルミナス・コアの出力を静かな巡航モードへと戻したセイカの端末に、シャーレの中央戦略管制室からの通信が繋がる.
『セイカ、本当にお疲れさま。君のおかげで、みんなが、キヴォトスが救われたよ。……本当に、ありがとう』
画面の向こうの先生は、ネクタイを緩め、心からの安堵と、これ以上ないほど誇らしさに満ちた微笑みを浮かべていた。
セイカは自身のヘイローの回転をいつもの平熱の周期へと完全に戻し、画面の中の先生を見つめ、少しだけ、本当に少しだけ、柔らかい返事を返した。
「……問題ありません。先生との約束ですから」
地上では生徒たちが互いに肩を貸し合い、救護騎士団の手を借りて傷を癒やし始める。宇宙戦艦ソラノミは引き続き、キヴォトス全域の因果観測、および残存するノイズの相殺処理を継続するために、青空の彼方へと静かに固定された。
世界は一時的な平穏を取り戻した。日常のログは再び紡がれ始める。
しかし、画面越しに視線を交わす先生も、あるいは背中のユニットに宿る緑の残光を静かに休ませるセイカも、完全に理解していた。
消滅した第七のサンクトゥム。それは、この危機の終わりなどでは決してない。
むしろ、この世界を、愛おしい平熱の日常を完全に終わらせようとする、「色彩の根源」へと至るための、ほんの入口に過ぎないということを。
キヴォトスの命運を賭けた本当の戦いのログは、まだ、始まったばかりだった。