真空の宇宙において、溜めという時間は、恐ろしいほどの無音と狂気に満ちていた。
大気圏外、高度数百キロメートルの漆黒の虚空。
かつて世界を揺るがした巨大人工要塞の崩壊現場は、いまや生命の存在を一切拒絶する絶対零度の死の静寂に包まれていた。微細な宇宙塵や、冷却された推進剤の結晶が、星々の光を反射して冷ややかに漂う中、天野江セイカの全身からは凄絶なまでの「存在の質量」が放射されていた。
セイカの細く確かな指が、過給された『メテオバスターライフル』のグリップを力強く、だが一切の力みを排して深く握り直す。
先ほどまでの激闘により、主砲の前半部分は過酷な熱負荷と色彩の侵食によって跡形もなく砕け散っていた。
しかし、彼女の手元に残された中枢のエネルギー収束回路と強固なグリップフレームは、なお滅びを免れて重厚な存在感を放っている。
そしていま、その手元から先には――かつての物理的な砲身など比較にならないほど美しく、そして禍々しい「光の砲身」が仮想形成されていた。
シアンブルーと純銀の光彩。
セイカの背後に広がる水色の巨大な光の翼から溢れ出る圧倒的な神秘が、失われた砲身の代わりに時空そのものを固定・構築していた。
ブワァァァァァァァァァン――!
セイカの全身を包む神秘エネルギーが、激しい渦を巻いてメテオバスターライフルの仮想機関へとなだれ込んでいく。
かつて『ルミナス・コア』から供給され、ライフル内部の超高密度コンデンサに残留していた濃密な高純度エネルギー。それが、セイカ自身が到達した『ひとつ上の世界』の絶対的な神秘と同調を起こしていた。
メテオストライカーが遺していった最後の残り火。
その消えかけていた命の火種に、セイカは自らの圧倒的な神秘と意志を注ぎ込み、完全な再点火を果たしたのだ。
周囲を取り囲む12基のフィン・ファンネル。
青と白に彩られたその超機動端末群は、セイカの思考スレッドと完全に同期し、一切の無駄のない幾何学模様を描きながら自律配置されていた。
それらは単なる攻撃端末ではない。
メテオバスターライフルから放たれる破格のエネルギーを完璧に指向・増幅・収束させ、不条理な確率改変すらも封殺するための「極大砲撃支援陣形」を形成しているのだ。
セイカの頭上に浮かぶ、船の舵輪を模した青白きヘイロー。
摩擦も、空気抵抗も存在しない真空の宇宙空間において、そのヘイローは無限の高速回転を継続していた。
キィィィィィィィィィン……。
耳朶を揺らすのではない。脳髄の最も深い部分、魂の根幹へと直接響き渡る高周波の精神駆動音。
ヘイローの回転に呼応するように、セイカの脳内において『空見の閃』による未来演算スレッドが、毎秒数億通りの規模で並列展開・処理されていく。
「――全照準、固定」
密閉されたバイザーの内部。
セイカの唇から漏れた声は、どこまでも冷徹で、どこまでも平熱だった。
視界には、無数の戦況ログや物理座標がミリ秒単位でスクロールしている。
対峙する巨大な怪物――『ナイチンゲール』の駆動フレームの軋み、装甲の縫い目から溢れ出る赤黒い泥の流体力学的挙動、干渉波の確率密度分布。
それらあらゆる変数が即座に計算され、彼女の網膜の上でただ一つの決定的な幾何学線となって収束していく。
セイカの指が、迷いなくライフルの引き金を絞り込んだ。
カチリ。
その極小の金属接触音が、この宇宙の物理法則そのものを書き換える最初の一撃の合図となった。
__________
直後――。
ドッガァァァァァァァァァァンッッッ!!!!!
音の存在しないはずの大気圏外において、まるで空間そのものが内側から叩き壊されたかのような、絶大なエネルギーの相剋音が振動として彼女の全身を叩いた。
セイカの手にするメテオバスターライフルから放たれたのは、もはや「射撃」という概念すら超越した、巨大な光の奔流であった。
シアンブルーの芯を抱いた、純白と深青の極大光柱。
それと同時に、彼女の周囲で幾何学陣形を組んでいた12基のフィン・ファンネルが、自律的に最大出力を開放。
ファンネルの砲口から放たれた12本のシアンブルーのビームが、中央の主光線へと綺麗に渦を巻きながら収束し、単一の、太く重厚な「絶対の閃光」へと昇華した。
宇宙空間全体を白銀と深青の光線が満たしていく。
直下に広がる地球の夜の静寂を照らし出し、漂う無数の宇宙ゴミを一瞬で蒸発させながら、その閃光は星なき深淵の闇を切り裂いて一直線に疾走した。
それは、暗黒の海を行く船が掲げる、絶対の絶対航路を示す道標。
対峙するナイチンゲールは、その巨躯の全身から禍々しい死の予感を察知していた。
怪物の胸部に埋め込まれたモノアイが、狂ったように赤く、不吉に明滅を繰り返す。
「ギ、ガアアアアアアアアアッッッ!!」
声なき不快な怨嗟が、色彩の波長となって宇宙空間を酷く歪ませる。
ナイチンゲールは自らの敗北と消滅という未来の可能性を拒絶すべく、残された巨躯を激しく身もだえさせた。
先ほどの過給射撃によって右バインダーと胸部装甲の過半を失っていたものの、その体内にはなお世界を侵食し、無へと還そうとする「色彩」の不条理な原動力が満ち満ちていた。
怪物は残存するすべての機関を限界を超えて過給。
背部の巨大スラスターから赤黒い噴照を撒き散らし、セイカから放たれた極大の閃光を真正面から迎撃すべく、不条理な全出力を解き放った。
__________
シュゥゥゥゥゥゥ……ズズズズズズッ!
ナイチンゲールの凄惨な破砕面、そして生き残っていた巨大な左バインダーの隙間から、まるで活火山が破裂したかのように莫大な量の「赤黒い粘着質の泥」が溢れ出した。
泥は無重力の真空へと広がると同時に、液体の物理法則を無視して即座に凝固・膨張。
何層にも重なる不気味な幾何学模様を描く、巨大な「色彩の不条理防壁」を正面空間へ形成した。
それは単なる物理的な装甲ではない。
キヴォトスの理そのものを歪め、概念を食い荒らす色彩の絶対能力――『因果改変』と『絶対再生』の権能が、その泥の一滴一滴に過密なまでに凝縮されていた。
ドズズズズズズズズズッ!!!!!
セイカの放った白銀と深青の極大光線が、ナイチンゲールの形成した赤黒い泥の防壁へと真っ向から衝突した。
空間が激しく歪む。
双方のエネルギーが接触した境界面から、赤と青、そして紫黒色の不吉な光粒子が天の川のような規模で周囲の暗黒へと吹き荒れた。
ナイチンゲールが試みたのは、単純な威力の相殺ではなかった。
怪物は自らに迫る光線の物理的波長、熱量、そしてセイカの神秘が描くエネルギー構造そのものを、色彩の侵食力によって「不条理に書き換え」ようとしたのだ。
光線の先頭部分が、赤黒い泥に触れた瞬間に急速にその色彩を濁らせていく。
深青の光が不気味な紫へと侵食され、推進エネルギーが熱的な意味を失って拡散させられていく。
色彩の防壁は、まるで底なしの沼のようにセイカの絶大なる一射を呑み込み、その勢いを削ぎ落とそうと蠢いた。
押し込まれる光芒。
ナイチンゲールの単眼が、勝機を確信したかのように妖しく明滅する。
もし、この場にいるのが過去のセイカであったなら。
あるいは『空見の閃』という可能性がなかったのであったなら、この不条理な因果の書き換えの前に攻撃を完全に無効化され、逆流する色彩の毒に呑み込まれていたかもしれない。
だが――。
セイカの平熱な表情は、ミリ単位の揺らぎすら見せなかった。
「……予測の範囲内です」
バイザーの奥で、セイカの双眸がシアンブルーの冷たい光を宿して冴え渡る。
__________
彼女の頭上で無限回転を続ける船の舵輪型ヘイロー。
そこから解き放たれる演算領域は、すでに「現在」の衝突現象を処理する段階を遥かに超えていた。
毎秒数億通りに及ぶ並列未来観測。
セイカの思考回路は、ナイチンゲールが色彩の不条理を用いて「どの瞬間に」「どの波長へ」「どのように物理法則を書き換えようとしているか」という果てしない確率の枝分かれを、事象が起こるコンマ数ミリ秒前にすべて読み切っていた。
書き換えられるなら――書き換えられる直前に、光線の固有振動数を微細に変調させる。
熱量を奪われるなら――奪われるエネルギーの物理的ベクトルを先回りして反転させ、逆に防壁の分子構造を崩壊させる熱衝撃へと転換する。
因果改変に対する、完全なる「先回り演算」。
ガコン、ガコン、ガコン――!
かつて未来が確定するたびに脳内で響いていた重い決定音は、いまや完全に消失し、流麗な連続体となって彼女の意識と同期していた。
セイカの手にするメテオバスターライフルの仮想砲身が、ミリ秒ごとにその色彩をシアンブルーから純銀、そして濃紺へと微細に変色させる。
それは、ナイチンゲールが起こす不条理な変化のすべてに対し、セイカの演算が「リアルタイムで最適解の波長を叩き込み続けている」ことの証であった。
衝突面において、絶望的な変化が起き始めた。
ナイチンゲールの赤黒い泥が、光を呑み込む速度よりも早く。
セイカの光線が泥の構造を内側から崩壊させる速度のほうが、完全に上回り始めたのだ。
パリパリパリパリッ……!
ガラスが割れ砕けるような不快な亀裂音が、因果の歪みとなって真空を伝わる。
色彩の防壁表面に、幾重もの白銀の光の亀裂が走り始めた。
__________
キィィィィィィィィィン――!
セイカのヘイローの回転速度が、ついに限界を超えた最高峰へと到達した。
摩擦も、質量も、空間の抵抗すらも置き去りにした完璧な幾何学的円運動。
そこから溢れ出る青白き光の演算リングが、幾重にも重なってセイカの背後、そして周囲の空間へ神聖なホログラムとして展開される。
セイカの視界から、すべての「無駄な可能性」が消え去った。
彼女の網膜にオーバーラップしていた、無数に分岐し、複雑に絡み合っていた未来の航路。
不吉な赤に染まる敗北の未来。
相殺し合って泥沼の消耗戦へと至る未来。
攻撃が逸れて敵を取り逃がす未来。
それら数億通りの不完全な可能性の枝葉が、無限回転する舵輪の圧倒的な処理能力によって、ミリ秒ごとにバッサリと削ぎ落とされ、切り捨てられていく。
そして――。
最後に残されたのは、ただ一本。
暗黒の宇宙空間をどこまでもまっすぐに貫く、目も眩むほどに美しく、透き通るシアンブルーに輝く「絶対の最適航路」であった。
ナイチンゲールの不条理な防壁の、左側第三層の接合部。
色彩の書き換え周期が、ミリ秒単位でわずかに滞る「因果の結び目の隙間」。
逃れられない、不可避の終着点。
「面舵、固定」
セイカの口から漏れた、静かな号令。
「――貫きます」
セイカが両手で保持したメテオバスターライフルの角度を、ミリ単位どころか、ミクロン単位の微小さで僅かに補正した。
直後
ナイチンゲールの不条理な防壁へと突き刺さっていた白銀と深青の極大光線が、まるで自らの意志と命を持つかのように、空間の歪みに合わせてその軌道を滑らかに変屈させた。
シュヴァァァァァァァァァッ!
吸い込まれるように。
極大のビームの奔流が、色彩の防壁に生じた目に見えないほどの微小な隙間へと、完璧な角度で滑り込んでいった。
ズガァァァァァァァァァンッッッ!!!!!
防壁の隙間を完璧にすり抜けた極大の光線が、ナイチンゲールの巨躯の真ん中――胸部から腹部にかけてのメインフレームへと真正面から突き刺さった。
ドカバキガキィィィンッ!
空間を叩き割るような絶大な破壊音が、通信回路を通じて爆発的に響き渡る。
先回り演算によって「最も効率的に構造を粉砕できる座標」へと叩き込まれた光線は、ナイチンゲールの強固な装甲を内側から一気に加熱・膨張・破砕せしめた。
ドカン! ドカァン! バババババッ!
怪物の巨大な胸部装甲が爆発的に弾け飛び、千切れ飛んだ金属フレームと、焼け焦げた赤き泥の塊が宇宙空間へと激しく飛散していく。
「ギ、ガ……アアアアッ!?」
ナイチンゲールが絶叫にも似た狂乱の干渉波を放ち、凄惨に破壊された胸部から莫大な量の泥を噴き出させて即座の再構成を試みた。
しかし、遅い。
あまりにも遅すぎた。
色彩の不条理な自己再生速度を、セイカの『空見の閃』による先回り攻撃のテンポが、完全に、そして圧倒的に凌駕していた。
組織が修復されようとしたコンマ数ミリ秒前に、次の光線の波長変化が叩き込まれ、再生の萌芽そのものが物理的・概念的に粉砕されていく。
同時に――。
セイカの周囲を浮遊していた12基のフィン・ファンネルが、まるで意思を持った猛禽の群れのように滑らかに跳躍。
ナイチンゲールを取り囲む全方位、絶対の死角なしの幾何学包囲陣形を維持したまま、シアンブルーの精密ビームを連続で叩き込んだ。
ドカン! ドカン! ドカン! ドカァンッ!
逃げ場のない全斜角からの先回り射撃。
ナイチンゲールが残されていた巨大な左バインダーを動かそうとした瞬間、その可動関節へファンネルのビームがピンポイントで突き刺さり、バインダーが根元から爆破・切断されて虚空へ飛散する。
異形のアームユニットが吹き飛び、巨躯を支えていた脚部フレームが熱線によって灰となり、霧散していく。
破砕、破砕、破砕。
削ぎ落とされていく怪物の巨躯。
やがて――何層もの重装甲と、不条理な色彩の泥の奥深く、その最深部に隠されていたものが、ついに白日の下に晒された。
ドクン……ドクン……。
不気味に、そして禍々しく胎動する、直径数メートルほどの赤黒い球体。
この怪物の命の芽吹きであり、キヴォトスの理を喰らい尽くそうとしていた不条理の元凶――『色彩のコア』が、剥き出しとなって宇宙の闇の中へ露出したのだ。
__________
すべての前振りが、いま終わった。
セイカの視界の中で、目障りな不確定要素や無数の戦況データがすべて弾き飛ばされ、ただ一つの目標だけが鮮明にクローズアップされる。
露出した、赤黒く蠢く『色彩のコア』。
セイカは体躯を僅かに沈め、手元で過給され続けるメテオバスターライフルを、その中心核の真真ん中へと静かに、そして寸分の狂いもなく固定した。
視界の中央に、美しく鮮やかなシアンブルーの『絶対照準マーク』が点滅し、完璧なロックオン完了を告げる。
逃げ場は、どこにも存在しなかった。
ナイチンゲールには、もはや身を守るための装甲も、射線を遮るバインダーも、攻撃を相殺するための泥すらも残されていなかった。
セイカの背後に大きく羽ばたく、水色の巨大な光の翼。
彼女の全身を包み込む圧倒的な神秘エネルギー。
そして、周囲を取り囲む12基のファンネルから供給される全出力。
それら全ての輝きが、セイカの手元――メテオバスターライフルの砲口一点へと、時空を歪めるほどの高密度で集約されていく。
胸の奥に湧き上がるのは、激しい勝利の狂喜ではない。
敵への憎悪でも、己の強さへの誇りでもなかった。
ただ――澄み切った、どこまでも平熱な覚悟。
ソラノミで過ごした穏やかな時間。
アカネが作ってくれた温かい紅茶の香り。
ケイの無邪気な笑顔。
大切な人たちが待つ、あの青い星へ帰るという、揺るぎない約束。
解くべき最後の数式を、いまここで完全に終わらせるために。
セイカの細く確かな指が、静かに、そして迷いなく引き金を絞り切った。
「――『空見の閃』」
透き通るような声が、漆黒の宇宙に静かに響いた。
「穿ちなさい!フル……バーストッ!」
__________
ズドォォォォォォォンッッッ!!!!!
放たれた最後の一射。
それは、広範囲を薙ぎ払うような太い光の柱ではなかった。
セイカの全神秘と、数億通りの演算が凝縮された、極限まで研ぎ澄まされた一本の「白銀と深青の光の槍」であった。
時空の層を鮮やかに斬り裂きながら疾走する光の槍は、重力も、不条理も、確率の壁すらも置き去りにして――。
露出したナイチンゲールの『色彩の中心核』の真ん真ん中へと、寸分の狂いもなく、完璧に突き刺さった。
ピキ……、パリィィィィン……。
中心核を貫かれた瞬間。
ナイチンゲールから解き放たれていた不快な因果の不調和音と、脈動していた赤黒い色彩の波長が――ピタリと、まるで最初から存在しなかったかのように完全に停止した。
ガガ……、ギ……。
怪物の胸部で不気味に輝いていた単眼の光が、急速に失われていく。
不条理な動きを見せていた巨躯の破片が、宇宙空間で完全に硬直する。
だが、そこにド派手な大爆発も、周囲を巻き込むような激烈な衝撃波も起こらなかった。
貫かれた中心核の亀裂から、透明で美しい青白き光が溢れ出すと――ナイチンゲールを構成していた赤黒い泥や、異形の金属フレーム、不条理な存在そのものが、まるで朝日に溶ける氷のように急速にその「存在感」を失っていった。
ハラハラと、大気のない虚空へ崩れ去っていく怪物の破片。
それらは世界に不吉な爪痕を残すことなく、無数の美しく、儚い光の粒子となって、外宇宙の暗黒の中へ静かに、静かに拡散していく。
爆音もない。悲沫もない。
ただ、世界を無へと還そうとした悪夢の残滓が、宇宙のチリとなって消えていくだけの、どこまでも美しい「静かな消滅」。
やがて、漂っていた光の粒子すらも漆黒の闇へと呑み込まれ――。
後には、元の平穏を取り戻した、果てしない外宇宙の絶対的な静寂だけが残されていた。
__________
すべてが、終わった。
静まり返った宇宙空間。
セイカの頭上に浮かんでいた船の舵輪型ヘイローの無限回転が、その役割を終えてゆっくりと、穏やかに速度を落とし始めていた。
回転が完全に止まり、方陣は本来の優しく静かな青白き光を点滅させながら、彼女の頭上で静かに滞空する。
背後に広がっていた水色の巨大な翼と、全身を包んでいた神秘エネルギーもまた、役目を果たしたように静かな光の粉となって消えていった。
周囲に展開されていた12基のフィン・ファンネルが、幾何学陣形を滑らかに解除。
深青と銀の光の尾を引きながら、セイカの背後へと集結し、元通りの綺麗な扇状の翼となって規則正しく浮遊配置された。
セイカは過給を終え、静かになったメテオバスターライフルのグリップから指を放し、その銃身をゆっくりと下ろした。
無重力空間の中で、セイカはゆっくりと身体の向きを変えた。
彼女の視界の先に広がっていたのは――。
星なき暗黒の外宇宙の中で、どこまでも蒼く、どこまでも美しく、生命の息吹に満ちて輝く大きな球体。
キヴォトスという、大切な仲間たちが、愛する人が、娘が生きる青い惑星であった。
セイカは左耳の三日月のイヤリングに、そっと指先で触れた。
アカネが彼女のために選び、優しくつけてくれた宝物。その温もりが、いまも確かにそこにあるかのように。
ソラノミを見つめながら、ソラノミの通信回路を通じて、大好きな人たちの待つ場所へ届けるように――。
セイカは、どこまでも愛おしく、温かな声で小さく呟いた。
「……帰りましょう」
ソラノミに、一筋の青き流星が、静かに帰路へとつき始めていた。