未来を統べる翼と、優しいメイドの家   作:天野江

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非合理的な祈り、あるいは鉄の境界線

 

 

 

 暗闇を切り裂き、巨大なサーチライトが私たちを射抜きました。

 現れたのは、これまでの洗練されたミレニアムのデザインラインとは一線を画す、無骨で、どこか……独特な造形の超巨大火力兵器。

 

 

『『アバンギャルド君』、発進』

「うわぁっ!? ダサ……」

 

 

 あまりのネーミングと外見のギャップに、モモイちゃんが思わず本音を漏らしました。

 

 

「たしかに、あんまり可愛いデザインじゃないけど……でも、あのデザインは冗談抜きでヤバいよ!」

 

 

 ミドリちゃんがデバイスの警告音に顔を青くしながら叫びます。

 

 

『……見た目は関係ないわ。これは純粋な機能美と、排除の論理を形にした結果に過ぎない』

 

 

 スピーカー越しでもわかるほど、リオ会長の声はどこか、ほんの少しだけ……拗ねたような、あるいは居直ったような響きを帯びています。

 

 

"本音がちょっと見えてるよ、リオ"

 

 

 先生が苦笑混じりに投げかけた言葉は、図星だったのでしょうか。

 

 

『……理解されないなら、もういいわ。そのままで構わない。システム、全稼働。目標、排除対象を殲滅しなさい』

 

「う、うわああっ!? 来るよ、なんかチャージしてるって!」

 

 

 モモイちゃんが悲鳴を上げ、通路全体が震動を始めます。

 アバンギャルド君の無骨な巨躯が蒸気を吹き出し、莫大なエネルギーがその巨大な砲身に凝縮されていきました。

 

 

"みんな気をつけて……来るよ!"

 

 

 先生の鋭い警告が響いた直後、逃げ場のない通路を巨大な光軸が埋め尽くしました。

 

 

__________

 

 

 

 

 

ドォォォォォン!!

 

 

 

 爆風が防壁を叩き、私は咄嗟に先生を物陰へと押し込みました。

 

 肺が焼けるような熱気。周囲ではエンジニア部の面々が設置したシールドビットが、耐えきれずに次々と火花を散らして砕け散っていきます。

 

 

「っ……、火力が計算と違いすぎる! 出力120%オーバー!? 嘘でしょ!?」

 

「ヒビキ、予備電源を回してくれ  盾が持たない……!」

 

 

 ウタハ先輩の叫びも、アバンギャルド君が放つ圧倒的な火力の咆哮にかき消されていきます。

 それはまさに「暴力による解決」の体現。

 

 

「チッ、図体の割にちょこまかと……! させねえよ!」

 

 

 ネル先輩が噴射装置を最大出力にして肉薄しようとしますが、アバンギャルド君から放たれる無数の誘導ミサイルがその進路を阻みます。

 

 

「あはは! これ、とっても手強いね! 私でも、この弾幕はちょっと避けきれないかも!」

 

 

 アスナ先輩の明るい声にさえ、余裕が消え始めていました。

 彼女の勘をもってしても、弾道計算に狂いのない「完璧な掃射」は死神の鎌となって迫ります。

 

 

『……計算通りね。あなたたちがどれほど優れた個体であっても、エリドゥの全リソースを背景にしたこの質量には抗えない」

 

「……くっ、一歩も前に出させないつもりですか。これがあの人の視た『障害』……!」

 

 

 私は瓦礫に身を隠しながら、銃のボルトを叩きました。

 けれど、アバンギャルド君の重装甲を貫く隙が見当たりません。

 私たちの攻撃は、その鋼鉄の肌を焦がすことさえ許されない。

 

 

「(……セイカさん。このままでは……あなたの演算結果に辿り着く前に、私たちは押し潰されてしまいます)」

 

 

 脳裏に浮かぶのは、今もどこかで意識を削り、私たちの「勝利」を探し続けている主の横顔。

 圧倒的な火力の前に、膝が屈しそうになります。

 一歩、また一歩と、アバンギャルド君の重い足音が死のカウントダウンのように響き、私たちは着実に後退を余儀なくされていました。

 

 

「先生……! 指示を……。このままじゃ、全滅の確率が上昇し続ける……!」

 

 

 ヒビキちゃんの切迫した声が響く中、要塞都市エリドゥそのものが激しく震動を始めました。

 通路の壁面が不気味な青い光を帯び、複雑な幾何学模様を描きながらスライドしていきます。

 

 

"な、何!? 床が……壁が動いてる!?"

 

「……セクター間の強制隔壁……!? リオ会長、私たちを分断するつもりですか!」

 

 

 コトリちゃんの叫びも虚しく、私たちの足元のプレートが急加速して前方へと弾き飛ばされました。

 

 

「先生! ウタハ部長!」

「モモイ! ミドリ!」

 

 

 叫び声が、閉鎖される巨大な防壁の向こう側へと吸い込まれていきます。気がつけば、広大な円形広場のような空間に取り残されたのは、私たちC&Cのメンバーだけでした。

 アバンギャルド君の重低音は、壁の向こう——先生たちのいるセクターへと遠ざかっていきます。

 

 

「チッ、姑息な真似しやがって……! おい、先生たちはあっちか!?」

 

 

 ネル先輩が忌々しげに防壁を睨みつけた、その時。無機質な広場の中心、照明が一点に集約され、一人の少女が音もなく姿を現しました。

 

 

「……お久しぶりです、C&Cの皆さん。……いえ。今の皆さんにとっては、『敵』と呼ぶのが正確でしょうか」

 

 

 感情の欠落した、硝子細工のように冷たく透き通った声。そこに立っていたのは、リオ会長直属の隠密武装——飛鳥馬トキでした。

 

 

「……第3のシナリオへの移行を確認。アバンギャルド君による先生および随行部隊の足止めを開始。……これより、私はリオ会長の命に従い、皆さんの『清掃』を執り行います」

 

 

 トキちゃんはメイド服に身を包み、泰然とそこに佇んでいるだけ。しかし、その隙のない構えと静かな威圧感こそが、彼女が「最強の掃除屋」の一員であったことを雄弁に物語っていました。。

 

 

「……トキ、テメェ……!」

 

 

 部長の目が、狂犬のような鋭さを帯びて細められました。

 

 

「先生たちに手出しさせると思ってんのかよ! 答えねえなら、そのツラ拝む前にスクラップにしてやんよ!」

 

「……先生の安全は保証されています。……皆さんが、ここを一歩も動かなければ」

 

 

 トキちゃんの無機質な瞳が私を射抜きます。かつて同じ部隊で背中を預け合った記憶など、すでにリオ会長の合理的な演算によって「不要」と断じられたかのように。

 

 

「(……セイカさん。……先生がいない、そして先生をアバンギャルド君という怪物が狙っているこの絶望的な分断……。それでも『勝機』はあると言えますか?)」

 

 

 脳裏に浮かぶのは、ソラノミの艦橋で、血の滲むような思いでモニターを凝視しているはずの主の姿。先生を守りに行くためには、目の前の「同胞」を打ち倒さなければなりません。

 

 

「……ふふっ、困りましたね。先生をあんな『ダサい』デカブツの近くに置いておくなんて……メイド失格です」

 

 

 私は愛銃を構え直し、静かに、けれど氷のように冷たい微笑みを浮かべました。

 

 

「……お掃除の時間です。エージェントは、速やかに片付けて差し上げましょう」

 

 

 アバンギャルド君の咆哮が遠い壁の向こうで響き、目の前ではトキちゃんの武装が高周波の駆動音を上げる。先生のいない戦場で、C&C対C&Cが、今まさに幕を開けました。

 

 

 

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