上空数千メートルで蒼いプラズマ流を静かに噴き上げ、安定したホバリング状態で待機する宇宙戦艦『ソラノミ』。その艦内に設けられた、乗組員および同行メンバーのためのリラクゼーション・ラウンジは、連日の過酷な戦局から解放された生徒たちがつかの間の休息を得るための穏やかな避難所となっていた。
壁一面に配置された大型の三層強靭観測ウィンドウからは、雲海の遥か彼方にゆらゆらと幻想的な蒼と緑の光芒を躍らせる極北のオーロラと、どこまでも地平線の果てまで広がる白銀の蒼氷原が見渡せる。しかし、完璧な二重防音システムと最新式の結露防止ヒーター付き暖房空調が常時稼働している室内は、外世界のマイナス48度という凄惨な極寒が嘘のように、心地よい温もりに満たされていた。
調査チームの集中解析活動が一時的に区切りを迎えたこの時間、セイカはソラノミの艦橋コンソールにて最新観測データの二次チェックへと戻り、アカネは艦内の備品および食料の管理・棚卸し作業に精を出している。先生たちも別の作戦区画にて、ヒマリやセイア、キサキにシロコたちと次の調査方針についての協議を重ねているため、ラウンジには生徒たちが何にも縛られず自由に過ごせる貴重な時間が生まれていた。
そのラウンジの中央、丸いローテーブルを挟んで向かい合って座っていたのは、ケイとエイミの二人であった。
エイミは柔らかなファブリックソファに深く腰掛け、片手に小さな紙カップのアイスクリームを持っている。露出度の高い水着姿のままであるが、ソラノミの暖かな艦内環境と体内の耐熱ギア調整により、彼女自身はいたって快適そうだ。
一方のケイは、膝の上に載せた小型戦術端末を素早く操作し、先ほどまでの氷原観測データをリアルタイムで整理・アーカイブしていた。調査の合間の休憩時間であっても、ケイは収集された生の情報をそのまま放っておくつもりはないらしい。
そんなケイの手元で目まぐるしく動く指先と液晶画面の数値を、エイミは冷えたスポーツドリンクのボトルを横に置きつつ、ぼんやりと眺めていた。やがて、彼女はふと思い立ったように口を開く。
「……ケイ、これ。食べて。……セイカから貰った、アイス。セイカ、これ美味しいって言ってた」
エイミは手にしていたアイスのカップと、添えられていた木製の小さなスプーンをケイの前へとそっと差し出した。正確には、セイカから「皆で食べなさい」ともらった複数のアイスのうち、最初から二人で分け合って食べられるようにエイミが用意しておいたものだった。
ケイは淡々とした動作で端末の画面から目を上げる。
「……確認。お父さんから提供された食品ですね」
「……ん。そう」
「……ですが、エイミ。貴方の分まで私に提供する必要はありません。これは元々、貴方がご自身の生体エネルギー補給、および嗜好品の摂取のために受け取ったものでは?」
「……そうだけど。一人で食べるより、二人で食べた方がいいし」
エイミは長い髪をぽてんと揺らし、特に深い意味を込めるでもなく、ごく自然体で答える。
ケイは思考回路のログをなぞるように、一瞬だけ沈黙した。
「……合理性を確認できません。一つのアイスを二人で分配した場合、一人あたりの熱量摂取量は単純計算で五十パーセントへと減少します」
「……そうだね」
「減少すると理解していながら、それでも共有するのですか?」
「……うん。ケイも食べた方が、美味しいと思うから」
あまりにも率直で、純粋な答え。
ケイは再び沈黙した。エイミにとっては、何一つ複雑な計算など存在しない、ごく当たり前の日常の動作だった。美味しいものを食べているとき、すぐ近くに友達がいたら分けてあげる。ただそれだけの話なのだ。
ケイはやがて、液晶画面をスリープモードにして端末をテーブルに置き、差し出されたスプーンを受け取った。
「……了解しました。では、味覚情報を共有します」
「……ふふ。そんな大げさなことじゃないよ」
「……そうなのですか?」
「……うん」
二人は同じカップから、一口ずつアイスを食べ始める。
ケイは含んだアイスの甘味、冷却効果、舌触りなどを一つずつ客観的に確かめるように、生真面目な顔で噛み締める。エイミはそんなケイの極めて真面目な様子を気にする風もなく、いつものマイペースでローテンションな動作で、のんびりとアイスを口に運んでいた。
対照的な二人の動作。しかしそこには、言葉に出さずとも互いを信頼し、気兼ねなく同じ空間を共有できる確かな関係性が漂っていた。
__________
アイスを綺麗に食べ終えたケイは、空になった小さなカップをテーブルの端へと静かに置いた。
「……評価結果。甘味の度合い、冷却感、口腔内における溶解速度、いずれも極めて良好です。お父さんが推奨した理由は論理的に理解できました」
「……でしょ。セイカ、こういうの選ぶの上手だから」
「……ええ。お父さんの味覚判断、および栄養素の選定能力は、室笠家の食料調達において絶対的な信頼性を有しています」
「……ケイ、セイカのこと好きだね」
「……当然です。お父さんですから」
ケイは一切の迷いもなく即答した。
エイミは「……ん」と小さく首を縦に振る。セイカがケイにとってどれほどかけがえのない大切な家族であるか、そしてケイがどれほど家族を誇りに思っているか、エイミもこれまでの戦いと生活を通じてよく知っていた。
少しの間を置き、ケイは自らの思考ログを整理するように言葉を続けた。
「……しかし、今回の共有行動については、私の中に未解決の疑問が残ります」
「……まだあるの?」
「人間行動の統計的データを見ると、家族以外の他者に対してここまで気兼ねなく親密に接する行動は、個体間の関係性によって顕著な差が生じます。……エイミ。貴方は、なぜ私にアイスを分けようと思ったのですか? 行動の動機を問います」
エイミは少しだけ首を傾げ、パチパチと瞬きをした。
「……友達だから」
あまりにも簡潔で、思考の余地すら挟ませない返答だった。
ケイは、再び端末を手に取ろうとしていた指先をぴたりと止める。
「……友達」
「……うん。ケイは私の友達だよ」
エイミは自分の言葉を補足しようともせず、ただ当然の事実としてケイを見つめる。
ケイはその言葉の響きを一つずつ噛み締めるように、ゆっくりと繰り返した。
「……理解しました。貴方は私を、明確に友人として定義し、扱っているのですね」
「……そうだよ。今さら?」
「……いえ。定義の確認です」
エイミは「……ふふ」と小さく笑った。
「……ケイらしいね」
ケイはその言葉を否定しなかった。むしろ、エイミから送られたその評価を受け入れたうえで、手元の端末のメモ用ストレージを開く。
そこに打ち込まれたのは、戦闘ログでも、環境観測データでもない。
『エイミ:友人』
画面に表示されたそのわずか一行のテキスト。ケイは一瞬だけその文字を見つめ、静かに保存プロトコルを完了させた。
ケイは「感情や友情が理解できない機械」などではない。彼女はすでにエイミと友達であり、他の仲間たちと過ごしてきた時間の重みも理解している。ただ、その当たり前に存在していた温かな関係性を、あらためて言葉として提示されたことで、本人なりの誠実な方法で大切な記録として受け止めたのだった。
__________
カチリ、と静かな駆動音を立ててラウンジの自動ドアが開き、一人の生徒が入ってきた。
『アビ・エシュフ』の定期作動点検と寒冷地適応パラメータの微調整を終え、休憩のために立ち寄ったトキであった。
背筋をピンと垂直に伸ばした独特の姿勢のまま歩み寄ってきたトキは、テーブルの上に置かれた空のカップと、ケイの端末画面を交互に見比べる。
「……アイス。共有の最中ですか?」
「……違うよ。普通に食べてただけ」
エイミがいつもの調子で答えると、トキは無表情のまま小さく頷いた。
「……了解。では、私もその任務に参加します」
「……もう食べ終わったよ」
「……」
トキは正確に二秒ほど、ピタリと動きを止めて沈黙した。
「……判断が遅かったです。悔やまれます」
「……うん」
ケイはトキの独特なやり取りに特別驚く様子もなく、食料管理システムへアクセスして新しいアイスの在庫があるか確認しようと端末を操作し始める。
その手元を見たトキは、視線をエイミへと戻した。
「……次回の共有任務が実施される際は、事前にスケジュールを共有していただきたいです。優先タスクとして登録します」
「……じゃあ、次は一緒に食べよう」
エイミはごく自然に答える。
「……承認。次回参加予約プロトコルを完了しました」
「……予約制なの?」
「……いいえ。冗談です」
トキの表情はピクリとも動かない。
エイミは「……ふふ」と小さく息を吐き、ケイは「……冗談だったのですか。予約テーブルの構築を中断します」と真顔で返答する。
トキはテーブルの横から空いている椅子を引き寄せ、二人の輪の中へと滑らかに加わる。
話題は先ほどまでの過酷な氷海調査の話ではなく、ソラノミ艦内での快適な過ごし方や、寒冷地仕様の食堂メニューの噂など、他愛もない日常の楽しみへと移っていった。
それからしばらくして、再び自動ドアが開いた。
厚手の防寒ジャケットの襟元を少し緩めながら入ってきたのは、レナであった。
「……何よ、あんたたち。こんなところに集まって、何コソコソやってるわけ?」
「……アイスの話」
エイミが答える。
「アイス?」
その一言を聞いた瞬間、レナの眉根がわずかに跳ね上がった。
「……お父さんが選んでくれたアイスです」
ケイが淡々と補足説明を加えると、レナの瞳が一瞬だけ、隠しきれない熱量を帯びて大きく見開かれた。
「……っ! べ、別に、セイカさんが何を選んだかなんて、あたしはそこまで気にしてないけど!? あんたたちが勝手に話してるだけでしょ!?」
テーブルの三人は、その分かりやすすぎる反応に特に驚く様子もない。
トキは淡々とした調子で指摘する。
「……レナ。声量が通常時と比較して十二デシベル上昇しました」
「うるさいわね! これはあたしの普通の声なのよ!」
「……測定データ上、明らかに大きいです」
「ケイまで便乗して言わなくていいの!」
エイミは顔を真っ赤にしているレナの抗議を気にする風もなく、自分のとなりの椅子を少し引いてスペースを空けた。
「……レナも座って。次は四人で食べようって話してたところだから」
「……四人で?」
レナは一瞬、言葉を詰まらせた。
三人が当たり前のように自分を「四人目」として数え、当たり前のようにその輪の中に席を用意してくれていることに気づいたからだ。
「……ふ、ふん! まあ、あんたたちが『どうしてもあたしと一緒に食べたい』ってそこまで言うなら、付き合ってあげなくもないけどね!」
「……レナ。誰もそこまでは言っていません」
ケイが一切の容赦なく淡々と事実を返す。
「そ、そういう細かいツッコミはいらないのよ!」
レナはツンと顔を背けながらも、用意された椅子へと当然のように腰掛けたのだった。
__________
レナが席に着いたことで、テーブルには一年生四人が揃った。
エイミは保冷ボックスのフタに手を置きながら、楽しそうに次の計画を切り出す。
「……今度は、もっと大きいのがいいね」
「……容量および質量を増加させる場合、事前にソラノミ艦内冷凍庫の空き保管スペースを確認・確保する必要があります」
ケイが即座に実務的な管理プロトコルへと思考を進める。
トキも垂直な姿勢のまま頷いた。
「……四人分の必要摂取カロリーおよび希望消費量を算出しましょう」
「ちょっと、あんたたち! たかがアイスを食べるだけなのに、なんでいちいち作戦会議みたいになってるのよ!」
レナが呆れたように声を張り上げる。
「……合理的な事前準備です」
「準備も何も、食料庫から持ってきて食べればいいだけでしょ!」
「……調達の申請をお父さんにお願いする場合、希望するフレーバーの種類をあらかじめまとめて提出する方が、調達プロセスの効率が上がります」
ケイが至極真面目にそう答えると、レナは不意に言葉を失って固まった。
「……セイカさんに、直接お願い……」
レナの脳内で、セイカに向かって「あの……アイスのフレーバーなんですけど……」と直接おねだりする夢のようなシチュエーションが爆発的に再生された。
「(……えっ、ちょっと待って!? セイカさんに直接希望を伝えるの!? ど、どうしよう、『レナは何味が好きなのですか?』なんてあの美しい声で聞かれたらあたし……あたし……っ!!)」
「……レナ? 思考が停止しています」
エイミに名前を呼ばれ、レナは慌ててゴホンと大きく咳払いをした。
「な、何でもないわよ! そ、それならあたしは……その……チョコレート系がいいわ! 濃厚なやつ!」
「……了解。レナの希望はチョコレート系」
「……私はバニラ系、またはミルク主体のフレーバーを希望します」
ケイが手元の端末に素早く入力していく。
「……私は、どれでもいいよ。みんなが好きなのなら」
エイミがマイペースに答える。
最後にトキが、少しだけ首を傾げて思考した。
「……私は、これまでに食べたことのない未知の種類を希望します」
「……味の系統ではなく、新規性を目的にするのですか?」
ケイが尋ねる。
「……肯定。未経験の味覚データを取得することは、エージェントとしての経験値を更新することに繋がります」
「ほら、またそうやって難しく捉える!」
レナのツッコミがラウンジ内に響く。
四人がそれぞれの希望を出し、それをケイが端末に几帳面にまとめていく。一見すると厳密なミッション計画のようにも見えるが、その実態は「次の休憩時間をどれだけ楽しく過ごすか」という、微笑ましい他愛もない相談に過ぎなかった。
効率を求めるケイとトキ、そこにツッコミを入れるレナ、そして全体をゆったりと包み込むエイミ。この構図こそが、一年生四人ならではの心地よいテンポを生み出していた。
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全員のアイスの希望を入力し終えたケイは、端末の画面に並んだメモを見つめながら、ぽつりと呟いた。
「……しかし。冷静に分析すると、今回の協議および共有行動は、氷海地域の調査効率や対預言者への戦術準備には直接寄与しません」
「……そうだね」
エイミは否定せず、静かに頷く。
「……それでも。こうして全員で集まり、生産性のない会話を交わすことには、論理的な意味が存在するのですか?」
ケイの純粋な問いに対し、トキも思考を巡らせてから口を開いた。
「……少なくとも。前線哨戒によるメンタル面の緊張状態は、著しく緩和されています」
「……それって、十分すぎるくらい意味があるってことじゃない」
レナが胸の前で腕を組みながら言った。
「調査とか戦闘とか解析ばかりが、ソラノミでの生活のすべてじゃないでしょ。難しいことばかり考え続けてたら、どんな優秀な頭脳だってパンクするのよ」
「……肯定。定期的な休息とリフレッシュは不可欠です」
トキが頷く。
「……でも、ただ休むだけじゃなくて。こうして友達と一緒に過ごす時間があること。……それだけで、十分なんじゃないかな」
エイミの穏やかな言葉に、ケイはしばらくの間、言葉を発しなかった。
ケイは計算によって最適解を出すことには長けている。しかし、「友達と笑い合って過ごす時間」の価値を、数値や数値化された評価値で表すことはできない。
けれど、数値化できないからといって、そこに価値が存在しないわけではないのだ。
「……理解しました。今回の時間は、従来の効率評価システムでは測定できない種類の価値を有しています」
「……そうそう」
エイミが微笑む。
「……『四人で過ごす時間』として、専用のディレクトリに記録しておきます」
ケイは端末を開き、新たなメモを作成した。
『休憩時間:一年生四名で共有。効率評価対象外。次回再実施を強力に希望』
「……ちょっとケイ、それ、まさか私たちの公式共有予定表に書いてるんじゃないでしょうね!?」
レナが身を乗り出して画面を覗き込む。
「……はい。次回の実施を確実に行うためのリマインダーです」
「……ふふ。すごくいいと思う」
エイミが満足そうに笑う。
トキは無表情のまま、小さく右手を挙げてピースサインを作った。
「……次回共有任務の開催を承認します。ぴーす、ぴーす」
「もう、なんなのよ本当……」
レナは呆れたように肩をすくめたが、その表情には隠しきれない温かな笑顔が浮かんでいた。
ケイは「非効率だからやめる」のではなく、非効率であることを理解したうえで、このかけがえのない時間を「もう一度過ごしたい」と願うようになったのだった。
__________
その頃、ラウンジの入口近くの通路──。
作戦コンソールでの観測データチェックを終えたセイカと、温かな飲み物をトレーに載せて運んできたアカネが、ガラス越しに四人の様子をそっと見守っていた。
ケイが端末に嬉しそうにメモを打ち込み、トキが無表情にピースサインを掲げ、レナが赤くなりながら抗議し、エイミがゆったりと頷いている。
一見するとまとまりのない、バラバラな個性の集まり。
けれど、そこには間違いなく、互いを思いやる温かな友情が存在していた。
「……良いお友達を持ちましたね、ケイは」
アカネが優しく目を細め、隣に立つセイカへと語りかける。
「ええ……。皆さん、それぞれ全く異なる背景と個性を持っていますが……だからこそ、共に過ごす中で新しい発見と学びが尽きないのでしょう」
セイカは無機質な紫色の瞳を和らげ、四人の姿を見つめながら、ごく微かに唇の端を上げた。
「……次は、もう少し大きなパフェのアイスを用意しておきましょうか」
「ふふっ。そうですね。四人分、最高に美味しいものを忘れずに用意しましょう」
二人はすぐにはラウンジの中へ入らず、しばらくの間、静かにその光景を見守っていた。娘が大切な友達と過ごす放課後のような時間は、親が余計な口を出さずに見守るべき、何よりも尊い時間だからだ。
やがてアカネは、四人の会話を邪魔しないよう、そっと自動ドアを開けてトレイの温かなドリンクをテーブルの端へと置いた。
ケイがすぐに気づいて振り返る。
「……お母さん。ありがとうございます」
「ふふっ。皆さんでどうぞ。あまり夜更かししすぎないでくださいね」
アカネは穏やかな笑顔を残し、セイカと共に静かにラウンジを後にした。
ケイはテーブルに置かれた湯気を立てるカップを見つめてから、三人へと向き直る。
「……追加の休憩資源が到着しました」
「……だから資源って言い方はやめなさいってば!」
レナが間髪入れずにツッコミを入れ、トキは「……水分補給、完了」と呟き、エイミは「……ん」と嬉しそうに微笑んだ。
一年生たちの温かな放課後は、まだしばらく続いていきそうだった。
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温かいドリンクを飲み終えた四人は、次の調査準備や各自の担当区画へ戻る前に、もう一度「次回のアイス計画」について確認を交わした。
ケイは、お父さんであるセイカに提出するための調達リクエストシートを端末上で完璧にフォーマット化している。
トキは、ソラノミ艦内の大型冷凍庫の保管可能スペースの数値を再計算している。
レナは、自分が希望した濃厚チョコレート系フレーバーの優先順位を絶対に譲らない姿勢を崩さない。
エイミは、そんな賑やかな三人を見つめながら、「今度は四人全員で、まったく同じ種類のアイスを食べ比べてみるのもいいかもしれない」と密かに考えていた。
結局、具体的にどのブランドのアイスを買うかまでは決まらなかった。
けれど、それで困る者は誰もいなかった。決まらないことすらも、次へと続く楽しさの一部なのだから。
「……じゃあ、次の休憩時間も、四人で食べよう」
エイミがゆったりとした声で言う。
「……メインスケジュールに優先タスクとして登録しました」
ケイが力強く答える。
「……実施を心より楽しみにしています」
トキが続ける。
「べ、別にあたしは楽しみにしてるわけじゃないけど……約束したんだから、誰も遅刻なんてしないで来なさいよ!」
レナはそう吐き捨てると、どこか嬉しそうな足取りで三人と共にラウンジをあとにした。
氷海での過酷な調査も、未知の敵との戦闘も、解き明かすべき神秘の解析も、まだ何も終わってはいない。
それでも、この空を飛ぶ移動宇宙戦艦『ソラノミ』には、四人で美味しいアイスを分け合って食べるという、かけがえのない約束が確かに刻まれていた。
その小さな、けれど確かな約束を胸に抱き、四人はそれぞれの持ち場へと元気よく戻っていくのだった──。