ユウカとノアが去ったあと、部室のドアが開いた。
「……セイカさん?」
柔らかな声。それだけで、張り詰めていた私の神経がふっと緩むのがわかる。
入ってきたのはアカネだ。手には温かい紅茶と、おやつの入ったバスケット。彼女はいつだって、私が一番「熱」を必要としている瞬間を見逃さない。
「ふふっ、ちょうどお昼の時間ですね。……今日は少し疲れた顔をしていますよ?」
私は分析装置から顔を上げ、彼女にだけ許した「緩んだ表情」で応える。
「……アカネ。……ちょうどいいところに来てくれた」
隣に立った彼女の手が、優しく肩に置かれる。その体温が、デジタルな思考に侵食されかけた私の脳を、現実へと引き戻してくれる。
「さっき、ユウカとノアがここに来ていたみたいですね。……廃部の話、ですか?」
……やはりお見通しか。
私は小さく頷いた。
「……ええ。でも、特別存続が認められたよ。宇宙資源の回収実績が、予算の厳しさを上回ったみたい」
口では淡々とそう説明するが、内心では安堵している。
この場所を失うことは、彼女との「日常」の一部を失うことと同義だから。
アカネがくすっと微笑み、私の髪を梳く。その指先が心地よくて、猫のように目を閉じてしまいそうになる。
「よかったですね。……でも、セイカさん。本当に一人で全部抱え込まないでください。私も……ちゃんと力になりたいんですよ? それとも、私が空見観測研究部に入りましょうか?」
その言葉に、胸の奥がチリりと痛む。
力になりたいという彼女の献身。入部したいという、私への歩み寄り。けれど、私は彼女を「こちら側」――過酷な因果の渦に、引きずり込むわけにはいかない。
少し照れくさくて、けれどそれ以上に守りたくて、私は視線を逸らしてから、逃げるように彼女を抱きしめた。
「……ありがとう、アカネ。
……君がいてくれるだけで、私は十分だよ」
私の腕の中で、アカネが幸せそうに目を細める。
「ふふっ……素直じゃないんですね。でも、そんなところも好きです。……さあ、紅茶が冷めないうちに一緒に飲みましょう。今日は特別に、セイカさんの好きな蜂蜜を多めに入れてきましたから」
蜂蜜の甘い香りが、私の世界を塗り替えていく。この穏やかな時間こそが、私にとって何よりも大切なエネルギー源なのだ。
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「ところで……セイカさん、また勧誘の手紙が届いていましたよ。今月だけで、もう二十通目。学園の掲示板を見て、あなたの『部活動』に興味を持った生徒たちが後を絶たないようです」
アカネがデスクに置いた封筒の束を見て、私は反射的にため息をついた。ソラノミの構造図を映したホログラムが、虚しく明滅する。
「……空見観測研究部、か。ただの天体観測部だと思われているんだろうね。それとも、放課後においしいお茶が飲めるサロンだとでも思われているのかな」
本質を知らない者たちの無邪気な好奇心。それが今の私には、少しだけ疎ましい。
「ふふ、どちらも間違いではありませんけれど。……ですが、中には本気で『空の向こう』を知りたがっている熱心な子も混じっています。……どうなさいます? 一人くらい、面接に呼んで差し上げてもよろしいのでは?」
アカネの悪戯っぽい提案。だが、これだけは譲れない。私の瞳に、観測者としての鋭い光が戻る。
「だめ。……アカネ、君も分かっているでしょう。この部の『部員』を増やすわけにはいかない。私だけで完結していなければならないの」
言葉が強くなるのを自覚する。けれど、これは傲慢ではない。一種の呪いだ。
「……ルミナス・コアの設計図と私が使う空見の波は外部に漏らしたくないからね」
永久機関、そして可能性を確定させる未来予知。
キヴォトスのパワーバランスを、あるいは世界そのものを崩壊させかねないこの力を共有するなど、論理的にあり得ない。この孤独な特権は、私一人で墓まで持っていくべきものだ。
「ルミナス・コアと空見の波。……それぞれ永久機関と未来を予見し、可能性を観測できる、セイカさん固有の能力。でしたっけ?」
「ええ。……このことは広めたくない」
アカネが私の手をそっと、けれど強く握りしめる。彼女の瞳には、私の危うさも、背負っているものの重さも、すべてを包み込むような深い理解があった。
「……わかりました。勧誘の手紙は、すべて私が丁重にお断りしておきます。『当部活は、現在定員に達しており、極めて特殊な感性を必要とするため、新規募集は停止中である』……と。これなら、誰も文句は言えませんでしょう?」
「……うん、ありがとう」
「ふふ……どういたしまして」
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彼女がいてくれれば、私はこの孤独な観測を続けていける。
窓の外、キヴォトスの空で瞬く星々のさらに高み。そこにある私たちの「家」であるソラノミも、きっと彼女の淹れた紅茶のように、今は穏やかな熱を帯びているはずだ。
アカネとの会話は出てくるけどそれ以外の人のセリフとかが全然出てこないᵕ̩̩_ᵕ
ルミナス・コアはガンダムOOに出てくるGNドライヴをイメージしています
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空見の波
集中時、目が光り周囲が遅く見える
セイカが観測する数多なる未来を確定させ、一気に制圧する力
発動するとき、ヘイローが音を立てて回転する
戦闘後は脳をフル回転させたことによる糖分消耗で疲労
絶望的状況でもヘイローの「ガコン」という音とともに空見の波による未来予知を確定させ一気に制圧