間に合えば……ですけど
エデン条約より数日前
アリウス自治区の境界。大気を焼き、重力に逆らうように着弾した私の背後で、メテオストライカーが蒼い残光を散らした。……廃墟の静寂を暴力的に引き裂くその音は、私の心臓の鼓動によく似ている。
「……着地成功。……ここが、絶望の震源地」
砂塵の先にいたのは、巨大な司教の姿をした……人工の「神」とでも呼ぶべきか。……得体の知れない、巨大な人型構築物。そして、その傍らで悦に浸るように立つ、異形の怪人。その男の空虚な瞳が、私を捉える。
「……ほう。私の用意した舞台に、招かれざる客人が紛れ込んだようだ。……空から舞い降りた鋼の天使、といったところかな? 君は一体、何者だ?」
「……天野江セイカ。……ただの、通りすがりの『お父さん』よ。……君が何者かは知らないけれど、その不気味な人形は……私の友人が見る未来には、不要なもの」
「『お父さん』? くくく……その華奢な体躯で、なんと愉快な冗談を! 私はマエストロ。芸術を解さぬ者に、この『秘跡』の美しさは理解できまい!」
芸術を解さぬ者と嘲笑うマエストロの指揮で、巨大な構築物が不気味な咆哮を上げ、法杖を振り上げた。……非論理的なエネルギー反応。……でも、私の隣には、それを解き明かす「娘」がいる。
「……ケイ。……敵の出力、及び構成材質の解析を」
『了解です、お父さん! ――解析終了、この敵、通常の物理法則を無視した『概念的な防壁』を持っています! 普通の火器じゃ、傷一つつけられません!』
「……だろうね。……だからこそ、この『ルミナス・コア』を、私は選んだんだ」
トリガーに指をかける。背負ったユニットが脈動して、ルミナス・コアの蒼い奔流が溢れ出した。私の紫の瞳が、コアの輝きと共鳴して静かに発火する。
「……エリナケウス、全77門……展開。……君の『芸術』という名の非論理を、私の『自由』で、上書きさせてもらう」
放たれた120cm高エネルギー収束火線砲は、あの巨大な人形の防壁を、あたかも薄い紙を焼くかのように容易く食い破った。……驚愕するマエストロを視界の端に追いやり、私は再び浮上する。
「……ケイ。……次。……一撃で、粉砕するわ」
『はい、お父さん! 次の射撃ポイント、固定しました!』
巨大な鋼の翼を羽ばたかせ、私は加速した。……世界を蝕む非論理に、私なりの「自由」を突きつけるために。
__________
「……これより、掃討を開始します」
私はメテオストライカーのスラスターを最大まで吹かした。
背後の翼が、青白いプラズマの粒子を撒き散らしながら、一気に高機動形態へと変形する。
あれが右腕を上げ、禁忌の魔術を起動させようとした。足元に巨大な魔法陣が広がり、逃げ場のない爆発が迫る。でも、遅い。
「アクセル」
私は重力を無視して垂直に跳ね上がった。
ただの飛行じゃない。空間を跳ねるような、三次元的な超高速移動。魔法陣の爆発が私の残像を空しく焼き払う中、私は空中で反転し、格納された砲門をすべて解放した。
「フィンファンネル、フル・オープン!」
翼から分離した六基のファンネルが、意思を持つ光の粒子となってあれの周囲を包囲する。さらに、私の両手には高出力ビームサーベルが収束し、腰部にはクスィフィアスを彷彿とさせるレール砲が展開された。
あれが咆哮し、無数の火球を放ってくる。
私はそれを回避しない。いえ、回避する必要すらない。
「ロックオン……全目標、マルチロック」
紫の視界が赤く染まり、あれの本体、放たれた火球、周囲の結界石……そのすべてを、私のヘイローが瞬時に計算し尽くす。
ガコン
再び、あの感覚。
世界が静止し、私の指先だけが「未来」を確定させる。
「狙い撃つ!」
メテオバスターライフル、両腰のレール砲、そして六基のフィンファンネル。計九条の極太の閃光が、一本の奔流となって聖堂の闇を白く染め上げた。
あれが放った火球は着弾する前にすべて光に呑み込まれ、奴の強固な障壁さえも紙細工のように焼き千切られていく。爆発の衝撃で聖堂が揺れ、土埃が舞う。
「……まだ、終わらせないわよ」
爆炎の中から現れた神もどきが、傷ついた体を無理やり動かし、最後の呪言を唱えようとする。けれど、私はすでに奴の頭上にいた。
自らの翼を大きく広げ、月明かりのない地下に「光の翼」を顕現させる。
それは、自由を象徴する蒼き閃光。
「これが、私の導き出した……たった一つの解です!」
私は急降下しながら、両手のビームサーベルを一本に連結させた。
光の刃が巨大な大剣へと膨れ上がり、あの存在のヘイローごと、その巨躯を真っ二つに両断する。
まばゆい光が溢れ、奴の肉体が因果の彼方へと霧散していく。
後に残ったのは、激しい戦闘の余熱で赤く焼けた石畳と、静かに翼を畳む私だけ。
私はゆっくりと地に足をついた。
肩で息をしながら、乱れた髪を指で整える。
「……お疲れ様、ケイ。……アカネ」
『……驚異的です、お父さん。今の戦闘機動、既存の戦術理論では説明がつきません』
『ふふ、セイカさん。まるで空を舞う剣そのものでしたね。……さあ、帰りましょう。美味しいお食事が待っています』
通信機から聞こえる家族の声に、私はようやく一人の女の子に戻って、小さく微笑んだ。
聖堂の闇は晴れ、守り抜いた明日への扉が、今、静かに開かれた。
__________
「……ケイ。……マエストロの逃走経路の追跡はできる?」
『……すみません、お父さん。……空間の連続性が断たれています。演算が……どうしても「そこには何も無い」という結果を返してきます。』
「……概念的な隠蔽、ね。……面倒。私の波を以てしても、まだ『鍵』が足りないということ? ……深追いはやめてほうがいいね。これ以上ここに留まるのはリスクが高いすぎる。……ケイ。……撤退しましょう」
私はそこから背を向け飛び立つのだった。
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アリウスの最奥、湿った冷気が立ち込めるマエストロの秘密工房。
そこには先刻の敗北の影など微塵もなく、ただ狂気じみた創造の熱量だけが渦巻いていた。
「……計算、演算、合理。ああ、美しい! 彼女が示したあの蒼き閃光……あれこそが、私の舞台に足りなかった『強制力』だ!」
マエストロの震える指先が、空中に浮かぶ巨大な巨神のホログラムをなぞる。
それはかつての司教のような温情ある姿ではない。すべてを統べ、すべてを否定する、冷徹なる「天帝」の威容。……その背中には、まるで世界を監視するかのような、巨大な円盤状のユニットが鎮座している。
「古き教義では、あの『自由』の論理は打ち崩せない。ならば、論理そのものを無に帰す、漆黒の概念を注ぎ込もう……」
彼が起動させたのは、深淵から手繰り寄せた禁忌の物質、『ネメシス』。
ドロリとした漆黒の泥が、巨大なフレームへと這い上がり、その形状を歪に、かつ神々しく変貌させていく。……鈍いグレーとネイビーの装甲が形成され、顔には冷徹なスリットが刻まれた。
「……ミメシスの闇で織りなす、因果の防壁。これならば、輝きさえも飲み込み、静寂へと導く。……名付けて、プロヴィデンス。神の摂理という名の、絶対的な『処刑者』」
マエストロの指揮棒が激しく振るわれると、プロヴィデンスの背負った巨大な円盤――『ドラグーン・システム』を模した、十基もの漆黒の概念兵装が展開された。……それは、戦場というキャンバスを、全方位からの死の数式で埋め尽くすための、究極の筆。
「天野江セイカ。……君が『自由』という名の希望を語るなら、私はこのプロヴィデンスで、すべてを『白紙』へと戻そう。……私の芸術を完成させるための、最後の一枚のキャンバスとして」
工房の奥底で、完成しつつあるプロヴィデンスが不気味に共鳴し、空間そのものを震わせる。
エデン条約という舞台の裏側で、セイカが守り抜いた「明日」を、摂理という名の絶望が塗り潰そうと動き出していた。
「くふふ……ふはははは! 楽しみだ、天野江セイカ! 次の幕が上がる時、君の『自由』がどこまでこの『天帝』に抗えるのか!」
闇の中で、プロヴィデンスのバイザーが血のような赤に発火した。
それは、セイカとマエストロが再び激突する、破滅へのカウントダウンだった。
プロヴィデンス(人間サイズ)がスポーンしました
これもマエストロがセイカちゃんの戦いを見て謎電波を受診したせいです。あーあ
とはいいつつも中に誰ものっていないので本家より圧倒的に弱いです。それでもこのキヴォトスではオーバースペックな気がするけど
強さ的には最強格より数段劣る
ただマエストロがセイカのことを思って()作ったからセイカ特攻が入ってる
某引っ張りハンティングで言うところのキラーELみたいなの持ってる
フリーダムみたいな戦い方って考えた時からプロヴィデンスを出そうとは思ってたけどどこで出すか迷ったのでヒエロムニスさんには退場してもらいました
マエストロが紹介しなかったので名前すら出ません
かなしいね