未来を統べる翼と、優しいメイドの家   作:天野江

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自由vs天帝

 

 

 

 プロヴィデンスが苦悶のノイズを上げ、その背負った巨大な円環が制御を失って火花を散らす。しかし、マエストロの狂気はまだ潰えてはいなかった。

 

 

「……素晴らしい! 素晴らしいぞ天野江セイカ! その輝き、その神秘の輝き! 予定調和を塗り替える一撃こそ、私の求めていた真の喜劇だ!!」

 

 

 プロヴィデンスの残されたドラグーンが、半ば強引に再起動する。壊れた操り人形のような歪な機動で、全機がセイカの頭上へと集結し、空間を削り取る最後の一撃を放とうとチャージを開始した。

 

 

「……往け、プロヴィデンス! その不条理で、彼女の『自由』ごとすべてを飲み干せ!!」

 

 

 だが、覚醒したセイカの瞳に、焦りは一欠片もなかった。無限回転するヘイローから溢れ出す深青の光は、もはや彼女の背後に、巨大な「翼」のような輪郭を結んでいる。

 

 

「……フィンファンネル」

 

 

 本来、その制御には高度な演算が必要とされるはずのフィンファンネルが、彼女の意識と直結し、雷光のような速度で射出された。ファンネルが空中で鮮やかな光の軌跡を描き、プロヴィデンスのドラグーンを一つ、また一つと撃墜していく。

 

「フリーダム」が戦場を支配するように、セイカは重力を無視した超高速の滑空を開始した。

 

 

「……もう、終わりだよ。……世界を、あるべき形に書き換える」

 

 

 彼女の背後から射出された六基のフィンファンネルが、超高機動で空間を駆け抜けた。ドラグーンが放つ「虚無」の礫に対し、フィンファンネルはあえてその射線上に割り込み、極小のビームで弾頭をピンポイントに迎撃する。

 空中で火花が散るが、セイカの歩みは止まらない。

 

 

「……マルチロックオン。……全事象、……固定」

 

 

 視界に映る数千のノイズが、一瞬にして赤いターゲットサイトへと変わる。

 メテオバスターライフルのメイン砲身、翼のように展開したフィンファンネルのビーム照射口、そして全身の神秘を収束させたエネルギーポータル。すべての銃口が、プロヴィデンスの中枢を捉えた。

 

 彼女は自らの翼で空を蹴った。その加速は、まさに「自由の翼」が空を舞うがごとき美しさと鋭さを持っていた。プロヴィデンスが右腕の大型複合兵装を振り下ろすが、セイカは「空見の閃」でその攻撃の「起こり」すら観測している。彼女は空中で身体を捻り、垂直に上昇。天井のアーチを蹴り、反転。重力を無視したその軌道でプロヴィデンスの死角へと入り込む。

 

 

「……そこ。無防備だよ」

 

 

 すれ違いざま、メテオバスターライフルがプロヴィデンスの右腕を根元から消し飛ばした。不条理のエネルギーが傷口から漏れ出し、死神のモノアイが初めて「恐怖」に震えるように激しく点滅した。

 

 プロヴィデンスは残るドラグーンを全機、セイカの周囲に再配置した。空間を圧縮し、逃げ場のない「死の檻」を完成させ、すべてを道ずれに自爆せんとする暴走。

 

 しかし、セイカは冷徹に、ライフルの銃口をその中心へ向けた。

 

 彼女の視界には、敵の全武装、ドラグーンの隙間、そしてプロヴィデンスの中枢を貫く「一本の光の道」が、完璧な正解として描かれていた。背後のフィンファンネルがライフルの周囲に扇状に展開し、無限回転するヘイローから汲み上げられた神秘が、砲身へと凝縮されていく。

 

 

「……これが、私たちの未来だ! ……散れェ!」

 

 轟音と共に、虹色の濁流が解き放たれた。

 メテオバスターライフルの主砲がドラグーンの包囲網を正面から突き破り、フィンファンネルから放たれた多角的なビームが、プロヴィデンスの四肢を瞬時に焼き切る。虹色の奔流は止まることなく、不条理の化身を内側から食い破り、その存在確率をゼロへと書き換えた。

 

 古聖堂の地下を埋め尽くしていた闇が、純白の閃光に飲み込まれて消えていく。

 

 静寂が戻った戦場。砕け散った石畳の上に、セイカは静かに着地した。無限回転していたヘイローは、元の穏やかな「ガコン」という刻みに戻り、彼女を支えていた神秘の光も、ゆっくりと霧散していく。

 

 セイカは、焦げ付いたライフルの銃口を下げ、肩で息をした。通信機を指で叩き、空の上で待つ「家族」へ向かって、いつになく力強い声で呼びかける。

 

 

「……アカネ、聞こえる? ……終わったよ。……今すぐ、帰るから」

 

『……! ええ、ええ……! お帰りをお待ちしております、セイカさん。最高の紅茶を淹れておきますよ』

 

 

 震えるアカネの声が、通信越しに響く。

 セイカは小さく微笑むと、寄り添うように戻ってきたフィンファンネルを従え、愛する家族の待つ我が家――ソラノミへと、力強く歩み出すのでした。

 

 

__________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マエストロは一人、静まり返った地下深層で、もはや物理的な実体を失った「戦場」の余韻に浸っていました。彼の前で繰り広げられたのは、既存の神秘の定義を塗り替える、あまりにも凄絶な「奇跡」の光景でした。

 

 

「……素晴らしい。ああ、素晴らしいよ、天野江セイカ」

 

 

 マエストロは震える指先で、空中に残された深青の神秘の残滓をなぞりました。

 

 

「君の『閃』が捉えたのは、単なる敵の弱点ではない。……それは、この世界に蔓延る『不条理』そのものの破綻だ。神の審判を騙る機械人形を、君はただ一振りの光で、あるべき無へと突き返した」

 

 

 彼は、セイカが最後に見せたあの姿を、脳内のキャンバスに幾度も描き直します。

 

 

「『お父さん』……ククッ、実に滑稽で、だからこそ美しい。君は女子高生という枠組みの中にありながら、家族を守るという一点の執念だけで、父性という概念をその身に降臨させた。それはもはや設定の領域を超え、君自身の魂を焼き尽くして生み出された『真実』だ」

 

「あのアカネという少女が完璧な調和を乱し、対等な愛を叫んだあの刹那……。君は観測者であることをやめ、自らが物語の『中心』へと躍り出たのだ。……あの一撃は、プロヴィデンスを討つための武器ではない。君たちが家族として生きるための、祈りそのものだった」

 

 

 彼はゆっくりと暗闇の奥へと足を踏み出します。その背中には、極上の悲劇を鑑賞し終えた後のような、満足げな寂寥感が漂っていました。

 

 

「……天野江セイカ。君が日常へと戻り、再び不器用な少女として微笑むとき、その背後に隠された『自由の翼』はより一層の輝きを増すだろう。……次はどんな不条理が君を襲うのか。そして君は、それをどうやって『正解』に変えてみせるのか。楽しみでならないよ、私のヒーロー」

 

 

 不気味な哄笑が聖堂の地下に反響し、芸術家の姿は夜の深淵へと溶けていきました。後に残されたのは、ただ静かに、そして確かに守られた聖堂の静寂だけでした。

 

 

 

 




タイトルが思いつかないよ( ;∀;)

そして勝手に「私のヒーロー」にされるセイカちゃん……
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