それでも俺は、戦車道が好きだ   作:トマトマトン

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閲覧ありがとうございます。
原作開始はまだまだ先の予定ですので、グダる可能性はありますが頑張って投稿していきたいと思います。

お気に入り登録や感想、評価お待ちしています。


第9話 初陣の舞台

 

 

——あの実戦から、しばらくして

 

 

西住家の庭。

踏みられた地面。

その中央で——三人が向き合っていた。

 

乾いた土の匂いが、わずかに漂う。

踏みしめた足跡が、幾重にも重なっている。

 

稽古の内容は、明らかに変わっていた。

 

これまでの基礎に加え、 実戦形式が組み込まれるようになっていた。

 

ただし——

それは、勇気にとって“新しい領域”だった。

 

(……やっぱ違うな)

 

息を整えながら、内心で思う。

 

もともと、みほとまほは、すでに経験している。

 

勇気がいない日。

二人は何度も、実戦を重ねてきている。

 

判断の速さ。

間合いの取り方。

迷いのなさ。

 

(最初は、ついていくのがやっとだった)

 

だが——

 

(……今は)

 

「前進、間隔を保て」

 

「了解」

 

「はい!」

 

踏み込み、間合い、止め。

足運びは揃い、ズレがない。

 

「右、詰める」

 

「了解」

 

「左、牽制」

 

「はい!」

 

連携が、自然に繋がる。

 

(……いける)

 

確かな手応え。

 

そして——

 

(……三人とも、変わってるな)

 

自分だけじゃない。

 

みほも、まほも。

さらに精度を上げている。

 

三人でいることで、 全体の完成度が引き上がっていた。

 

「そこまで」

 

しほの声。

 

三人が止まる。

 

わずかに息を整える中——

 

「次は大会に出る」

 

静かな通達。

 

「……大会?」

 

勇気が少しだけ眉をひそめる。

 

初めて聞く言葉。

 

その反応を見て——

 

「あなたは初めてね」

 

しほが淡々と続ける。

 

「小規模のものよ。小学生だけの大会、基礎と経験を見るためのものね」 

 

「……なるほど」

 

短く頷く。

 

「ルールは三対三の殲滅戦、トーナメント形式で、三回勝てば優勝」

 

必要な情報だけが、無駄なく告げられる。

 

「車両は各自一両——乗員は門下生の中から、小学生の者を選ぶ——連携も含めて評価する」

 

そのまま続けて、

 

「三人で出なさい」

 

視線が三人に向く。

 

「勇気——今回は、あなたが車長を務めなさい」

 

静かな指示。

 

「はい」

 

迷いなく返す。

 

(……車長、か)

 

短く内心で受け止める。

 

これまでも、車長も操縦手もやってきた。

どちらも経験している。

 

だが——

 

(今回は、車長で見るってことか)

 

しほの意図を、静かに汲み取る。

 

「三人とも、それぞれ自分の車両を指揮しなさい」

 

しほが続ける。

 

「各自一両。乗員の選定も含めて任せる」

 

(全員が車長——)

 

三対三。

それぞれが軸になる形。

 

「その上で——」

 

しほの視線が、勇気へ向く。

 

「勇気、あなたが隊長も務めなさい」

 

一段、重い言葉。

 

「……」

 

ほんの一瞬、間が空く。

 

「……俺が、隊長もですか?」

 

わずかに驚きが滲む。

 

(……みほや、まほじゃなくて——俺、か)

 

一瞬だけ引っかかる。

 

だが——

 

「ええ」

 

しほは変わらず淡々と頷く。

 

「全体の判断、連携、そして統率を見る」

 

(……なるほどな)

 

内心で整理する。

 

車長としての判断。

その上で、全体を見る隊長。

 

(試されてる、ってことか)

 

一拍。

 

「——負けは認めない」

 

空気が、わずかに張り詰める。

 

「……はい」

 

三人が揃って応じる。

 

そのあと——

 

「……去年も出たことがある」

 

まほが静かに言う。

 

「私とみほで優勝した」

 

「でも——」

 

わずかに間を置いて、

 

「当然だと言われただけだ」

 

「……まあ、そうだろうな」

 

勇気は軽く返す。

 

「勝つのが前提なんだろ?」

 

しほは何も言わない。

それが——答えだった。

 

(分かりやすい)

 

勇気は小さく息を吐く。

 

「準備をしておきなさい」

 

それだけ言って、しほは背を向ける。

 

会話は終わり。

 

だが——

それだけで、十分だった。

 

 

 

 

 

 

――大会会場(地方小規模戦車道大会)

 

 

広がるのは、整地された土のフィールド。

 

踏み均された地面に、緩やかな起伏。

所々に、簡易の障害物。

視界は開けているが、 完全に単調というわけでもない。

 

観客席は簡易的なものだが、そこにはそれなりの人が集まっている。

 

ざわめき。子どもたちの声。保護者たちの視線。

 

小規模とはいえ—— ここもまた、“戦場”だった。

 

 

その一角。

三両の戦車が並ぶ。

 

西住流の紋。 整えられた車体。 無駄のない配置。

 

その中央に——勇気。

 

(……これが大会か) 

 

静かに周囲を見る。

 

緊張は——ない。 だが、初めての空気ではある。

 

「勇気」

 

まほの声。

 

「今回はお前が隊長だ」

 

「分かってる」

 

短く返す。

 

「まほは左翼、みほは右翼でいいな」

 

「了解」

 

「うん!」

 

二人が応じる。

 

そのやり取りは自然だった。

 

(……変な感じだな)

 

つい少し前まで、自分は後ろを追っていた。

 

だが今は——指示を出す側にいる。

 

とはいえ——

 

(やることは変わらねぇか)

 

やるべきことをやるだけ。

それだけだ。

 

「第一試合、開始準備!」

 

係員の声が響く。

 

三人はそれぞれの戦車へ。

 

ハッチが閉まる。 外の音が遮断される。

 

 

 

 

 

 

■一回戦

 

 

戦車内

 

 

「前進準備」

 

勇気の声が、短く響く。

 

「いつでもいけるよ」

 

「問題ない」

 

みほとまほの声が無線越しに重なる。

 

(……さて)

 

小さく息を吐く。

 

「行くぞ」

 

 

 

 

 

 

――試合開始

 

 

エンジンが唸る。

 

三両が同時に前へ出る。

キャタピラが土を噛み、低く重い振動が車体を伝う。

 

(まずは配置——)

 

視界を走らせる。

障害物。 小さな起伏。 遮蔽物の位置。

 

(シンプルだな)

 

演習場ほど複雑ではない。

 

「中央は取らない」

 

即断。

 

「左右に展開、そのまま挟む」

 

「了解」

 

「うん!」

 

左右に広がる。

間隔は崩れない。

 

(連携は問題ねぇ)

 

そのまま前進。

 

やがて——

 

「敵、視認!」 

 

みほの声。

 

前方に三両。 こちらを警戒するように並んでいる。

 

(……遅いな……小学生だけの大会、か)

 

違和感。

 

(動きが——単純すぎる)

 

「そのまま行く」

 

止まらない。

 

「え、行くの!?……いいね、それ!」

 

みほが一瞬驚き、すぐに頷く。

 

距離が詰まる。

 

敵が動く——が、

 

(……やっぱり)

 

動きが直線的。

隠れる意識が薄い。

 

「まほ、左から崩せ」

 

「了解」

 

まほが鋭く外へ開く。

 

「みほ、正面牽制」

 

「うん!」

 

ドンッ!!

砲撃。

 

敵が慌てて動く。

 

(遅い)

 

反応が遅い。

 

「俺が右取る」

 

加速。

側面へ回り込む。

 

「撃て」

 

ドンッ!!

一両、撃破判定。

 

「もう崩れてる!」

 

みほの声。

 

崩れた陣形。

 

「そのまま押す」

 

間を詰める。

 

まほの一撃。

みほの追撃。

 

立て直す暇もなく——

すべて、沈む。

 

 

 

 

 

——一回戦終了

 

 

あっさりと、終わった。

 

戦車内に静けさが戻る。

 

外から、かすかに声が届く。

 

「ねえ、あれ……男の子じゃない?」

「ほんとだ……珍しくない?」

「西住流でしょ?すごくない?」

 

ざわめきが、わずかに広がる。

 

「……なんか、やたら見られてねぇか?」

 

勇気が小さく呟く。

 

「まあな」

 

まほが淡々と返す。

 

「この年代で男は珍しい」

 

「目立つのは仕方ない」

 

「うん、けっこう見られてるね」

 

みほが少しだけ口元を緩めて言う。

 

「……あー、そういうことか」

 

納得したように息を吐く。

 

「でも——」

 

一拍。

 

「実力で見られる方がいいけどな」

 

「そっちの方がいいじゃん」

 

みほがすぐに頷く。

 

「それはこれからだな」

 

まほが静かに言う。

 

その声には、いつも通りの厳しさがあった。

 

 

やがて、ざわめきも遠ざかる。

 

戦車内に、再び静けさが戻る。

 

(……なんだ、今の)

 

一回戦は——勝った。

 

だが——

 

(……弱い)

 

眉をひそめる。

 

違和感だけが残る。

 

 

 

 

 

 

■二回戦

 

 

——試合開始

 

 

再び、エンジンが唸る。

 

三両が前進。

前戦と同じような配置。 

 

だが——空気が軽い。

 

「右、遅い」

 

勇気が短く言う。

 

「中央、空いてる」

 

一瞬、視線を走らせる。

 

右の車両——わずかに出遅れている。

中央との間に、隙が生まれている。

 

(……繋がってねぇ)

 

「まほ、右を切り崩せ」

 

「了解」

 

まほがすぐに動く。

 

外側へ開き、角度を取る。

 

それに釣られるように——

敵の中央が、わずかに寄る。

 

(やっぱり、甘い)

 

「みほ、正面から押せ」

 

「うん!」

 

正面から圧をかける。

 

中央の意識が、完全に前へ向く。

 

その瞬間——

 

ドンッ!!

砲撃。

 

まほの一撃。

一両、撃破。

 

「そのまま詰めるぞ」

 

崩れた連携。

遅れる判断。

 

(見える)

 

敵の意図。

陣形の綻び。

全部が、はっきりと分かる。

 

「撃て」

 

「了解!」

 

ドンッ!!

さらに一両。

 

「そのまま詰める、崩れてる」

 

崩壊。

連携も、対応も——遅い。

 

(……同じだ)

 

一回戦と同じ感覚。

 

結果は——

 

――勝利

 

 

「もう終わり!?」

 

みほが呟く。

 

「だな」

 

まほも短く返す。

 

勇気は何も言わない。

 

ただ——

 

(やっぱり、弱い)

 

その感覚だけが、はっきりしていた。

 

 

 

 

 

 

■決勝戦

 

 

観客のざわめきが、わずかに大きくなる。

 

フィールドの空気が、少しだけ張り詰める。

 

決勝戦。

 

とはいえ——

 

(……どうだろうな)

 

 

 

 

 

 

戦車内

 

 

「油断はするな」

 

まほが言う。

 

「うん!」

 

みほも頷く。

 

「……ああ」 

 

勇気も応じる。

 

だが——

 

(たぶん、同じだ)

 

直感。

 

 

 

 

 

 

――試合開始

 

 

(……さっきよりは整ってる)

 

視界の先。

敵三両。 間隔は保たれている。

 

無駄な動きはない。

少なくとも——前の二戦よりは。

 

(陣形も、それなりに考えてる)

 

わずかに角度をつけた配置。

反応も、遅くはない。

 

(……でも、一手足りない)

 

「中央フェイント」 

 

指示を出す。

 

「みほ、引け」

 

「えっ……引くの?」

 

一瞬の戸惑い。

 

「そのまま下がれ」

 

「……分かった!」

 

みほが後退。

 

その動きに——

敵が食いつく。

 

(来たな)

 

中央へ意識が寄る。

 

「まほ、右から刺せ」

 

「了解」

 

まほが加速。

死角へ滑り込む。

 

ドンッ!!

一両、撃破。

 

「そのまま崩す」

 

間を与えない。

前へ出る。

圧をかける。

 

敵が動こうとする——が、

 

(遅い)

 

判断が遅い。

 

「みほ、戻れ」

 

「うん!」

 

すぐにラインへ復帰。

 

三両の形が整う。

逃げ場を塞ぐ。

 

「終わらせるぞ」

 

最後の一撃。

 

ドンッ!!

 

さらに一両。

 

残る一両も——

動ききる前に、

 

ドンッ!!

 

 

 

――決着

 

 

煙が晴れる。

 

静寂。

 

「……勝ったね」

 

みほの声。

 

「優勝だな」

 

まほが言う。

 

(……あっさりだな)

 

勇気はそう思う。

 

嬉しくないわけではない。

 

だが——

 

(手応えが、ねぇ)

 

あまりにも、簡単すぎた。

 

 

 

 

 

 

――大会終了後

 

 

三人は整列する。

 

周囲からは拍手。 称賛の声。

 

だが——

その前に立つのは、しほ。

 

「……」

 

静かな視線。

 

「優勝しました」

 

まほが報告する。

 

「ええ、見ていたわ」

 

それだけ。

 

一拍。

 

「当然の結果ね」

 

それ以上は——何もない。

褒め言葉も、評価もない。

 

ただの事実確認。

 

「……はい」

 

三人は短く応じる。

 

その空気は、どこか重い。

 

(……やっぱりな)

 

勇気は内心で思う。

 

横を見る。

 

みほとまほ。

二人は、わずかに表情を緩めていた。

 

(……慣れてるな)

 

去年も同じだった。

そういうことだろう。

 

(勝って当たり前、か)

 

小さく息を吐く。

 

だが——

 

(分かりやすい)

 

求められているものが。

 

「次もあるわ」

 

しほが言う。

 

「結果だけでなく——内容を詰めなさい」

 

「はい」

 

三人が揃って答える。

 

その声に迷いはない。

 

(……内容、か)

 

思い返す。

 

一回戦。 

二回戦。

決勝。

 

 

(……勝ちはしたけど)

 

一瞬の判断。

詰めの甘さ。

少し強引だった動き。

 

(……まだ荒いな)

 

勝てたのは事実。

 

だが——完成には遠い。

 

(特に、車長としては)

 

判断は通っている。

 

だが、最適かと言われれば違う。

 

(……まほとみほなら、もっと綺麗に勝ってたかもな)

 

そんな感覚が、わずかに残る。

 

そして——

 

(それでも)

 

今日の相手。

 

(……全部、同じだったな)

 

弱く見えた理由。

 

それは——

 

(あの一戦の印象が、強すぎただけか)

 

上位門下生との実戦。

 

一対一での、あの一度の戦い。

 

形式は違う。

今回は三対三。

 

それでも——

あれと比べれば、明らかに劣る。

 

(だから、簡単に見えた)

 

「……勇気」

 

まほが声をかける。

 

「なんだ」

 

「どうだった」

 

短い問い。

 

少し考える。

 

「……悪くはなかった」

 

正直な感想。

 

「ただ」

 

一拍。

 

「物足りねぇな」

 

その言葉に——

みほは少しだけ考えるように視線を落とす。

 

「うん……!」

 

小さく頷く。

 

「でも、あれじゃ全然足りない!」

 

少し強く言い切る。

 

否定ではない。

受け止めたうえでの言葉。

 

「次は、もっといい形にしよう」

 

まっすぐな視線。

 

「……ああ」

 

勇気も短く返す。

 

まほも頷く。

 

「課題は見えた。それで十分だ」

 

三人の認識は——揃っていた。

 

だが——

 

(これで終わりじゃねぇ)

 

むしろ——

 

(ここからだろ)

 

次に進むための一歩。

その感覚だけが、はっきりと残っていた。

 

 

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