それでも俺は、戦車道が好きだ   作:トマトマトン

2 / 12

閲覧いただきありがとうございます。
作者は初投稿ですので至らぬ点が多々あると思いますが
どうか暖かく見守りください


プロローグ

 

 

戦車道全国中学生大会――

 

 

「撃てーーーーーー!!」

 

ズドンッ!!

黒森峰中等部の重砲が火を吹き、砲弾が空気を裂いて一直線に突き進む。

 

乾いた爆音が空を震わせ、遅れて衝撃波が車体を揺らした。

耳鳴りのような余韻が、戦場全体に広がっていく。

 

次の瞬間。

 

「……撃ち返します!」

 

パァンッ!

軽やかな砲声。

 

聖グロリアーナ女学院中等部の反撃が、正確無比に放たれる。

 

ガァンッ!! カンッ!

重低音と鋭い金属音が交錯し、戦場に響き渡った。

 

弾が装甲を弾くたび、振動が足元から伝わる。

それは確かな“戦場の感触”だった。

 

 

両チーム残存車両数

 

黒森峰中等部 4両

聖グロリアーナ女学院中等部 6両

 

 

 

 

 

 

前半――戦況は黒森峰が押していた。

 

 

ズドンッ!!

再び響く砲声。

 

聖グロリアーナの一両が白旗を上げる。

 

「敵、残り6両!」

 

隊列は崩れていない。

各車の連携も、完璧に近い。

 

無線のやり取りも無駄がなく、全てが噛み合っていた。

 

このまま押し切れる――

誰もがそう思っていた。

 

だが――

 

(……いや)

 

春野勇気は、わずかな違和感を覚えていた。

 

(静かすぎる)

 

砲撃の応酬は続いている。

 

だが――何かが足りない。

 

(敵の“粘り”がない)

 

敵の動きが鈍い。

反撃の頻度も、明らかに少ない。

 

(こんなはずがない)

 

聖グロリアーナの戦い方は、もっと緻密で粘り強い。

 

(……誘っている?)

 

その考えが頭をよぎった瞬間――

背筋に、冷たいものが走る。

 

「一度、間隔を――」

 

指示を出しかけた、その時だった。

 

「――今です!」

 

パァンッ!

 

「っ!?」

 

乾いた砲声。

黒森峰の一両が、白旗を上げる。

 

「伏兵だ!警戒――」

 

パァンッ!

続けざまに、もう一両。

 

「くそっ……!」

 

(やっぱりか……!)

 

予測はしていた。

 

だが――

 

(判断が、一瞬遅れた)

 

その一瞬で、戦況は覆る。

 

「全車、散開!隊列を立て直す!」

 

即座に指示を飛ばす。

乱れかけた空気を、無理やり引き戻す。

 

(まだ終わってない)

 

崩れたままでは終わる。

 

だが――

立て直せば、まだ戦える。

 

「残りは!?」

 

「こちら残存車両数4両!敵は残り6両!」

 

数では劣勢。

 

それでも――

 

「……まだだ」

 

勇気の目は、死んでいなかった。

その瞳には、まだ戦場を見切る光が残っていた。

 

 

 

 

 

 

「……ここを抜ける」

 

 

視線はマップの一点に固定される。

指先が、そのルートをなぞる。

 

「低地を通って側面を突く。各車、間隔を保て」

 

低地――

 

雨の影響でぬかるみ、部分的に水が溜まっている地帯。

足場は不安定だが、敵の視線を切るには最適なルート。

危険と引き換えの、突破口。

 

『……ねえ、春兄。そこ、地面ゆるいと思う。このまま行くの、ちょっと危ないかも』

 

みほの声。

わずかに、不安が混じっていた。

 

「……問題ない。速度を落とせば通れる」

 

一瞬の間。

 

「ここで止まれば――包囲される」

 

理屈は通っている。 だが、それだけでは割り切れない何かがあった。

 

『……でも――』

 

『隊長の判断は合理的です』

 

エリカの声が割り込む。

 

『敵はすでに回り込みを開始しています。この状況で足を止める方が危険です』

 

「……だそうだ。各車、進め」

 

『……うん』

 

小さな返答。

 

(……信じてるんだな)

 

その声に、迷いはあった。 それでも従う意思があった。

一瞬だけ、胸が痛む。

 

戦車隊は低地へと進入する。

履帯が泥を噛み、重く沈み込む。

エンジン音が、いつもより低く唸る。

 

『……やっぱり変だよ、春兄。地面、思ったより緩い』

 

「……全車、速度を落とせ」

 

その瞬間――

 

「止まれ!それ以上進むな!」

 

(――遅い)

 

ズルッ、と。

一両の車体が大きく傾いた。

 

『うわっ!?履帯が滑る、制御きかない!』

 

地面が崩れる。

 

ガシャンッ!!

戦車は低地へと滑り落ち、水と泥に飲み込まれる。

鈍い衝撃音が、嫌に生々しく響いた。

 

『一両、行動不能……!』

 

無線が、一瞬静まり返る。

 

(……やってしまった)

 

胸の奥が、冷たく沈む。

 

「……救助に向かう」

 

反射的に出た言葉。

 

『待って、春兄!今すぐ戻ろう、早く助けないと……!』

 

みほの声が強くなる。

 

『……隊長、敵は接近しています』

 

エリカの冷静な声。

 

『ここで引き返せば残存戦力が危険です』

 

だが――

 

『……はあ、あんた状況見えてる?』

 

声のトーンが変わる。

 

――“隊長”ではなく、“あんた”。

 

『足場が崩れてるのよ。これ以上同じルートを使えば、被害が増える可能性があるのよ!』

 

(……分かってる)

 

全部、分かっている。

 

『でも……!』

 

みほの声。

 

そのとき――

 

『隊長、待ってください!こちら落ちた車両です!』

 

無線が入る。

 

『車体は動けませんが、意識はあります。大丈夫です』

 

「本当に大丈夫か、状況を報告しろ」

 

『軽い打撲です。他の三人も大きな怪我はありません』

 

少しだけ乱れた呼吸。

 

『だから試合に集中してください。ここで戻れば、他の車両が危ないです』

 

(……っ)

 

『……ほんとに大丈夫なの?』

 

みほの声が震える。

 

『はい。だから――隊長が勝ってください』

 

――後輩の声。

その言葉は、まっすぐだった。

 

(助けに行きたい)

 

その思いが、強く湧き上がる。

 

『……春兄』

 

小さく呼ばれる。

 

『……判断を、隊長』

 

エリカの声。

 

(俺は――)

 

勇気は目を閉じる。

一瞬だけ。

 

(どっちを選ぶ)

 

仲間を助けるか。

部隊を守るか。

 

(どっちも守りたい。だが、助けに行けば——他の全員が危険になる。でも……あいつらは今、あそこで——)

 

脳裏に浮かぶのは、さっきまで一緒に戦っていた後輩たちの姿。

笑っていた顔。

「大丈夫です」と言った声。

 

(……見捨てるのか?)

 

一瞬、呼吸が止まる。

 

(違う——)

 

ぎり、と奥歯を噛み締める。

 

(これは“見捨てる”んじゃない——全員を生かすための判断だ)

 

それでも——

胸の奥が、強く痛む。

 

そして――

 

「……行く」

 

目を開く。

その瞳に迷いはなかった。

 

「前進だ。ルートを変更。この地形は使わない」

 

絞り出すような声。

 

(……選んだのは、俺だ)

 

『……了解』

 

『了解しました』

 

戦車隊は再び動き出す。

 

 

 

 

 

 

試合後

 

 

終了のホイッスルが響く。

 

――黒森峰中等部の勝利。

 

歓声が上がる。

 

だが。

 

「……行くぞ」

 

その声に、喜びはなかった。

 

三人は急いで現場へ向かう。

足音が、やけに重い。

 

「無事か——!」

 

その声は、途中で止まる。

担架に運ばれる後輩たち。

 

「やりましたね隊長……勝ちましたよ……ちょっとやっちゃいましたけど、このくらい平気です!」

 

無理に笑う声。

 

(……なんで、そんな顔で)

 

勇気は言葉を失う。

 

もう一つの担架。

包帯が多く巻かれ、慎重に運ばれている。

 

「……え?」

 

みほの足が止まる。

 

「大丈夫って……言ってたのに……」

 

声が震える。

 

「……ああいうのはな、隊長を動揺させないためにそう言うんだ」

 

整備員の声。

 

「命に別状はない。ただ……復帰には時間がかかる」

 

「そんな……」

 

みほの目が揺れる。

 

「……助けに行けたはずなのに……!」

 

その言葉に――

勇気は、ゆっくりと口を開く。

 

「……俺が止めた」

 

(あの時、迷いはあった。それでも――)

 

「俺の判断だ」

 

(選んだのは、俺だ)

 

勝った。

 

それでも―― 

 

(守れなかった)

 

その事実だけが、重く残る。

 

「……あんた」

 

エリカが言う。

 

「……次は、同じことしないでよ」

 

それだけだった。

 

「……春兄」

 

みほが呼ぶ。

 

だが――

勇気は答えない。

 

――勝ったはずだった。

 

――それなのに。

 

胸の奥に残るのは、達成感ではない。

 

ただ一つ。

消えない後悔だけだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。