冥王星の彼女   作:メリーさんのアモル

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第三話「昼休みの風景」

 昼休み。中庭。

「ぽかぽかしてて〜気持ちいいねぇ〜」

 あなた特製のサンドイッチを昼食として完食したプルルートは、その満腹感の気持ちよさに身を委ねながら、ブルーシートの上で日向ぼっこに興じていた。

「そうだねぇ」

 勿論、その隣にはあなたもいて、プルルートと一緒に日向ぼっこをしている。

 真上で輝く太陽がぽかぽかした陽気をもたらし、二人の気分をほんわりとさせていく。

「絶好のお昼寝日和だよぉ〜。ほわぁ〜」

 そう言って、欠伸をするプルルート。

「朝はむりやり起きたもんね」

「うん〜。それに、授業中寝てたら先生に起こされちゃったし〜。あたし〜、もう眠くて眠くて〜」

「じゃあ、ちょっとお昼寝にしよっか」

「そうしよ〜」

 そう言って、二人はブルーシートの上で並んで寝そべり、青い空を見ながら目を閉じた。

 心地よい風がそよそよと二人を歓迎し、二人はめくるめく夢の世界へとそれぞれ旅に出る……はずだったが。

「おーい、こっちだこっち!」

「オーライオーライ! よし」

「ナイストス!」

 何やら中庭に騒がしい声が響き始める。

「なんだろう……?」

 あなたはその声に首を傾げながら、上半身を起こす。

 プルルートはまだ微睡の中にあるようで、横向きになってすぅすぅと寝息を立てている。

 その両手はいつの間にかあなたの左手を握っていて、その柔らかい手の感触にあなたはつい顔を赤くする。

 見れば、わざわざ中庭にまでやってきて、ビーチバレーの真似事のようなことをしている高等部の生徒が四人。

 中庭はプルルートとあなたがそうだったように、昼食を取ったりちょっとしたお喋りに興じる場所であって、スポーツをする場所ではない。

 そう言った遊びはグラウンドという別の適した遊び場所があるからだ。

「ちょっとあ なた達、何やってるのよ!」

 当然、そんな危険な行為が長く見逃されることはない。

「げぇ、優等生様のノワールだ」

 二階の窓からノワールが注意する。

 まだ高校一年生のノワールであるが、規律正しく自分にも他人にも厳しいノワールの活躍は中等部の頃から有名だ。

 ノワールに声をかけられ、注意が逸れたことで、ボールが明後日の方向に飛んでいく。

 それはあなたの視界にどんどん近づいていき、あなたは思わず両手で身を庇う。

 直後、それはプルルートの頭に直撃した。

「あ」

 と声を発したのは誰だったか。あなたかノワール、あるいはその両方だった可能性もある。

「いたい〜。なぁに〜?」

 プルルートが眠そうに片目で目をこすりながら体をもたげ、もう片手で頭を撫でる。

 周囲に視線を巡らせたプルルートがそばに転がるボールと、ビーチバレーのようなフォーメーションを決める四人をそれぞれ捉える。

「これ〜、君たちが投げたの〜?」

 プルルートが立ち上がりながら、高校男児四人に視線を投げる。

「ぷ、プルルート?」

 語尾が上がっている。眉尻が持ち上がり、目が座っている。

 頭の中で危険信号が光り輝く。

「な、なんだ、プルルートかよ。投げたわけじゃねーけど、それは俺達のだよ」

「そうそう、投げ返してくれよ」

 一方、四人はプルルートの怖さを全く知らない様子で、緊張感ない返答が返ってくる。

「ふ〜ん。そっか〜。そうなんだ〜」

 四人を迂闊と責めることは難しいだろう。プルルートは一見すればほんわかした天然少女であり、まさかその内側に恐るべき爆弾が眠っているとは到底思えない。

 ノワールとあなたが腐心してきたおかげもあり、学園生活の中で、プルルートが女神化したことはこれまで一度もなかったのだ。

(あぁ、そっか。プルルート、このところ変身出来なかったから、ストレスが溜まってるんだ。その上、眠っているのを邪魔されたから……)

 あなたはそう考えた。しかし、その考察はもはや遅い。

「中庭でボールで遊んでおいて〜、しかも、人にぶつけておいて〜」

「どうしたんだよ。早く投げ返してくれよ」

 そう言いながら四人のうち一人がプルルートに近づく。

「馬鹿、逃げなさい!」

 ノワールが遅すぎる警告を発するが、その意味を彼が理解するするのは手遅れになってからだった。

「謝りもしないなんて〜」

 プルルートを中心に光の柱が立ち上る。

 巻き込まれる可能性を感じたあなたは咄嗟に壁際に退避する。

「な、なんだ!? 女神化?」

 近づいていた男子生徒が困惑する。

 と思った直後、光の柱から黒い線状の何かが飛来する。それが鞭だ、と理解するより早く、激しくその男子生徒を打ち付け、男子生徒を残り三人の元まで吹き飛ばす。

「ちょっと許されないわよねぇ?」

 光の柱が消える。そこに立っていたのは濃い紫髪をロングに伸ばしたボンテージ風の衣装を身にまとった女神。

「こ、これが……あのプルルートの女神化した姿……なのか?」

 三人のうち一人が困惑したように呟く。

「そうよぉ。あたしは女神、アイリスハートよ。今からその名前をしっかりと体に刻み込んであげるわ……ねぇっ!!」

 アイリスハートが空中に身を躍らせた、と思った直後、アイリスハートは四人に一気に肉薄。舞うように鞭が振るわれ、四人がまとめて吹き飛ばされる。

「ここは中庭、みんなの憩いの場所よ。球技をする場所じゃない、知らなかったかしら?」

「た、たすけ……」

 鞭は容赦なく振るわれる。

「たすけて、ですって? あ なたがいうべきなのは助けの懇願じゃなくて、謝罪じゃなかったかしらねぇ?」

 アイリスハートのハイヒールが男子生徒の無防備な背中に突き刺さる。

「分かってる? あ なた達はあたしとあーくんの安眠を邪魔したのよ? ボールだって一歩間違えてたら、あーくんにぶつかっていたかもしれない。それで謝罪の一つもなしなんて、都合が良すぎるわ!」

 中庭は多くの教室や廊下に面している。すぐに騒ぎが広がっていく。窓から様子を見ている人影は一つや二つではない。

「ぷ、プルルート。もういいでしょ、ちょっとやりすぎだよ」

 あなたはハッとその事態に気付き、慌てて、プルルートに近づく。

「ちょっとあなた、危ないわよ!」

 ノワールがあなたに警告を飛ばすが、あなたは止まらなかった。

 女神が一般人を蹂躙した、などと噂になれば大変だ。これ以上の大ごとになる前に、プルルートの「パートナー」として、事態を止めねばならない、そう思った。

「もういい? あーくん、それを決めるのはあ なたじゃないわ。それに、こいつらはさっきから助命の嘆願ばかりで、一度たりとも謝ってないのよ、ねぇ!」

 しかし、アイリスハートはあなたの嘆願を受けても止まらなかった。

「よ、四人とも、謝って! じゃないと終わらないよ、これ」

「ご、ごめん……なさい……」

 それならば、とあなたは四人に声をかける。四人はなんとか絞り出すように謝罪を口にする。

「あらぁ、謝るべきは私だけじゃないわよねぇ? 危険に晒されたあーくんにも! そして、迷惑をかけた中庭の全員にも! 謝りなさい!」

 だが、アイリスハートの責めは終わらなかった。

「プルルート、本当にもういいよ!」

 このままではプルルートの方が悪役になってしまう。

 アイリスハートが責めを開始した直後はアイリスハートを賞賛する様子だった中庭の人達も、徐々に苛烈な責めを受け続ける四人に同情的な視線を向けるようになっている。

「もういいでしょ。またお昼寝の続きをしようよ、ね?」

「ダメよ。全員にちゃんと謝罪させるまで、あたしは止まらないわぁ」

 あなたは半ばアイリスハートに抱きつくようにして静止をかけるが、それでもアイリスハートは止まらない。

(プルルートが悪い方向に突っ走りかけていても、ボクは結局止められない。これじゃ、何がパートナーだ……。やっぱりボクはプルルートのパートナーに相応しくないのかな……)

 あなたの心は暗く落ち込んでいく。

 結局、アイリスハートの四人への責めは昼休みが終わるまで続いた。

 そんな事態になれば教師達も許してはくれない。

 昼休み直後の授業の後、プルルートとあなたは職員室へ呼び出されることになった。

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