バロックエンジン~男の娘と混沌と機甲傭兵~   作:福ノ権兵衛

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輸送車両護衛

9月20日 プリンス・ルパート

 

 アレックは先日鹵獲したゴーマン機の調整を行っていた。装甲を追加し、武装もオッドアローの物を流用した。

 

「ニック、機体の調整が終わったぞ。飯食いに行こうぜ。」

 

 工具箱に道具を入れて、ニックの部屋に入った。彼はパソコンで次の依頼を受けていた。

 

「分かった。こっちも終わる。」

「次はどんな依頼だ?」

「ピリオドっていう次世代兵装研究所の依頼だ。試作機を積んだトレーラーを護衛してほしいらしい。」

「場所は?」

「カナディアンロッキーさ。ジャスパーからレイク・ルイーズまで護衛する。」

「分かった。後でデータにセットしておく。」

 

 そう言ってアレックは先に外に出ようとした。しかし、ニックの卓上にあるデジタルカメラに目が止まった。

 

「そう言えばニック。お前、必ず仕事終わりに何か写真を撮っていたな。一体、何を撮っていたんだ?」

「ああ、猫の写真さ。これが仕事終わりの癒しなんだ。去年は珍しくカナダオオヤマネコの写真が撮れた。」

 

 そういうと彼はカメラに入っていた写真をアレックに見せる。手が長く尻尾が短いモフモフの猫が写っていた。

 

「随分デカい猫だな。」

「多分こいつはオスだろう。」

「じゃあパソコンの中にある写真データは・・・。」

「全部猫の写真さ。」

「人の写真とかないのか?」

「俺は撮らないな。撮るとしたら風景とかだな。」

 

 アレックは興味本心で聞いた。

 

「お前写真家になりたいのか?」

「いや、単純に猫が好きなだけさ。昔からな。あの愛らしくも野生的で自由な動物に心が惹かれるんだ。」

 

 その時のニックの表情は少し悲しそうだった。

 

9月22日 カナディアンロッキー

 

 北米大陸を横断する山脈、ロッキー山脈。その中でアルバータとブリティッシュコロンビア、ユーコンを通る山脈をカナディアンロッキーと呼ぶ。アスペンやロッジポールパインの木が繁茂し、グリズリーやムース、リスなどの動物が住まう。美しい大自然を持つこの場所は観光名所として有名だ。そんな場所に似合わない巨大な影が2つ。ニック達が駆るHAVである。

 

 ニック達は輸送車両の両翼に立ち、車両の側面を守る形で護衛していた。ニックはゴーマン機のカスタム機。右手にライフル、背面のサブアームで盾を持っている。アレックはコボルトに増加装甲と予備弾倉を取り付けた機体に乗っていた。

 

「ゴースト1、ニック。機体の調子はどうだ?」

「悪くない。が、多少クセがあるな。」

「まぁ、元が軽量機だから仕方ないさ。」

 

 アイスフィールド・パークウェイを走る2機。車両がサンワプタ峠に差し掛かった時、目前のアスファルトが爆音と共に吹き飛んだ。砂埃が晴れると地面には少し大きめのクレーターができていた。

 

「敵か!?」

 

 2人はすぐさま盾を構え車両をガードする。シーンと静まり返っていた。レーダーで探知しようとしても表示されない。2人に緊張が走る。辺りは山と森で囲まれている。敵は一体いつ、何処から狙っているのかわからないのだ。

 

 恐怖に駆られたのか最後尾の車両が逃げようと後退した。その時だった。重々しい破壊音と共に車の後ろが吹き飛んだのだ。ニックは空中管制機と連絡をとる。

 

「ゴースト1よりストーク。敵の攻撃を受けた。数は不明。至急応援を要請されたし。」

『了解した。10分後に到着する。その間に持ちこたえてくれ。各機、目視で状況確認の後に攻撃を開始せよ。』

「ゴースト1了解。」

「ゴースト2了解。」

 

 2人はセンサーやレーダーを用いて索敵する。すると、アルバータ山の方の森の中から銃声と共に弾丸が襲いかかる。一発がアレック機の装甲を掠った。

 

「森の中か!」

 森の奥に敵機が見えた。小型の機体でサブマシンガンを持っている。

 

「敵はコボルトタイプ。数は4、いや5。」

 

 反撃する2機。すると今度はサンワプタ山の方からも銃撃を受ける。森の中を縫うように駆け下りる影。足はアイゼンのようにスパイクが付いており、腹部の複腕はピッケルになっている。外見からして山岳地帯仕様であることが伺える。

 

「こっちも5機。」

「コボルト10機にスナイパー・・・。合わせて11か。」

 

 刹那、ニック機の右腕が鈍い音と共に吹き飛んだ。

 

「ゴースト1、大丈夫か?」

「また右腕をやられた。」

 

 アレックはサブマシンガンを構え森の敵に向かって撃つ。

 しかし、弾は森の木々に塞がれてしまう。敵は木の合間を通り抜ける。

 

「木が邪魔で撃てない。それでいて本気を出してない。」

「どうやら、俺たちを森へ誘い出したいみたいだ。そうすればトレーラーはガラ空きになる上、始末しやすくなるからな。」

 

 ニックは左腕でライフルを拾い上げた。森の中から依然と銃撃が続く。

 

「ッ!」

 

 何かがあたり、木の枝が揺れる。引き金を引くアレック。しかし、それと同時にバシュッという音と共に敵機のピッケルがハーネスのように射出される。そしてワイヤーの高速回転で避けた。

 

「一筋縄ではいかないか・・・うっ!?」

 

 後方から狙撃されるアレック。アスファルトの破片が飛び散る。彼は敢えて外したように思えてならなかった。相手の動きを封じ込め弱らせて、とどめをさす。”蛇の生殺し”、この状況にはぴったりの言葉だ。

 

「ゴースト2、損傷は。」

「掠っただけだ。だが、もう保たない。」

「分かった。俺がトレーラーを連れて離脱する。ゴースト2、悪いが殿は任せた。」

「了解したゴースト1。」

 

 ニックは無線で運転手と連絡して、トレーラーと共に走り始めた。アレックはリロードして、森に視線をうつした。

 

 サンワプタ山、アルバータ山両方面の敵機はトレーラーに向かっていく。アレックは前者の方に銃を向けて、引き金を引いた。弾の多くは木々に止められたが、わずかな弾は敵の装甲や関節を射抜いた。1機が横転した。木々の間隔は狭い為後ろの機体は回避できずそのまま衝突、爆発した。

 

 一方、ニックはスナイパーからの狙撃にさらされていた。道路のアスファルトを撃ち、進路を妨害する。ニックやトレーラーは当たらないように蛇行しながら、追いかけてきた敵を牽制する。

 

 しかし、狙撃を完全に躱せるはずもなく、上面を構えていた盾に120mm弾が直撃する。盾は下の方がごっそり削れていた。

 

「・・・まずいな。」

 

 接近してきた敵コボルト1機をタクティカルアックスで切り飛ばしながら呟いた。スナイパーもまた追跡しているのだ。道路は開けており狙われやすい。かといって森の中には敵がいる上、トレーラーの車幅や高さゆえに走ることができない。

 

 するとそこに無線が入る。

 

「ストークからゴースト全機へ。」

「こちらゴースト1。」

「ウルフ隊が間もなく到着する。場所を指定するからそこに敵を呼び寄せろ。」

「ゴースト1、了解。」

「ゴースト2、了解。」

 

 マップ情報が更新され合流ポイントが表示される。

 

「ゴースト2、そっちはどうだ?」

「多少は削ったが、まだ6機残っている。」

「合流ポイントが近いたら一気に突っ切るぞ。」「了解。」

 

 猛攻の中、応戦するニックとアレック。目標地点まで近づきつつあった。その道中、U字カーブに差し掛かる。トレーラの側面が出て的になりやすくなる。ニックはライフルで狙ってくる敵を牽制する。1機が飛び降りて上から襲いかかる。

 

「ニック!」

 

 アレックがマシンガンの引き金を引く。弾は敵の脚を撃ち抜き、着地と同時にそいつの脚は不可に耐えきれずバラバラになった。

 

「行け!」

「すまない!」

 

 カーブを曲がり切ろうとした時、ガスんっというけたたましい音と共に砂塵と破片がトレーラーの前を舞う。2人の頬に冷や汗が流れる。カメラで確認すると、トレーラーの前面片方が抉れるように破壊されていた。

 

「なんてことだ!」

「どうするゴースト1」

「仕方がない、俺が押す。パワーなら十分だ。」

「了解、援護する。」

 

 ニックはトレーラー後方に移動し、片腕で力一杯押し始めた。少しずつだが、徐々にトレーラーは動き出した。この気をチャンスに一気にたたみかける敵コボルト。それを振り払おうとするアレック。

 

 長い道のりを走る2機。ニックもアレックもすでに満身創痍の状態だった。猛スピードでアスファルト道路を駆け抜ける2機。スナイパーやコボルトの追撃を振り切ろうともがく。その時、敵の1機が爆発した。

 

「ゴースト隊、こちらはウルフ1。」

「ウルフ1、援護に感謝する。今どこにいる?」

「お前達からみて左の山だ。」

 

 ニックが左の方へ視線を向け、ズームすると傾斜を下る5つの機影が見えた。堅牢な装甲、油圧シリンダーの武骨な四肢、ラフタークレーン のような左右非対称の胴体、赤いモノアイが怪しく輝く。ドイツ製のHAV「ゲヴィヒト」だ。そのうちの1機がミサイルポットを放ち、もう一機の敵を撃破する。

 

「追撃者達はこちらが片付ける。ゴースト隊はここを離脱しろ。」

「ゴースト1、了解。」

 

 ニックはアレックと共にトレーラーを押し、アイスフィールド・パークウェイを走った。数秒後、後方から銃撃音と爆発音が響いた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 レイク・ルイーズにたどり着いた2人。アレックは積荷が別のトレーラーに移される所を眺めながらコーヒーをすする。彼の頭の中では仕事を終えたことの安心感よりも、自分達を襲った連中のことを考えていた。

 ニックは無線で応援に駆けつけたウルフ1から事後報告を聞いていた。

 

「ウルフ1からゴースト1、敵勢力を無力化した。任務完了だ。」

「ゴースト1、了解。こちらも仕事が終わった。追撃者達の正体は何かわかったのか?」

「1人に尋問をかけたところ、軍のある派閥に雇われた民兵だった。」

「派閥?」

「彼らは新参者のピリオドが気に入らなかったらしい。」

「そうだったのか。・・・ところで無力化した連中の中にスナイパーはいなかったか?」

「いや、その後付近を捜索したが、偽装用のネット以外は発見できなかった。」

「そうか。了解、ウルフ1。」

 

 ニックは無線を切り、ベンチでサンドイッチを食べる。彼の脳内もまた謎のスナイパーのことでいっぱいだった。直接命を狙うのではなく、相手を弱らせてトドメを指す。ニックからしてみれば相当手強く恐ろしい相手は初めてだった。

 

 

9月 とあるガレージにて 

 

 薄暗いガレージの中、1人の女性傭兵がパソコンを眺めていた。ピクシーカットした赤毛、少し筋肉質な体、左の碧眼の下には涙ほくろの彼女、ヴェロニカ・サンガーは画面に表示された支出額に頭を悩ませていた。

 

「「次世代兵装研究所が開発した試作機の奪取」、簡単な任務だと思ったが、まさかあたしがこんなミスをするとは・・・。」

 

 彼女は駐機した愛機「グラナーダ」に視線を向ける。8メートル未満のその機体は細身で女性的なシルエットをしていた。西洋甲冑を思わせる頭部にはカメラとレドームを兼ねた複合機器が増設され、背面には102mmスナイパーライフルを支えるサブアームとアウトリガーが取り付けられていた。

 

「弾薬費がこうも掛かるなんて・・・、これじゃロブスターと酒は買えそうにないな。」

 

 そう愚痴る彼女だが、ふとある事を思い出す。

 

「そういや、あの時の任務でゴーマンのバカから機体を奪った奴がいたな。満身創痍とはいえあそこまで粘る奴は初めてだ。」

 

 機会があれば会ってみたいもんだと考えるヴェロニカであった。

 

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