勇者パーティの荷物持ち、できれば実情を知られたくない 作:にもつもたない
今から一年ほど前、勇者パーティと呼ばれる連中が世界を救った。
そいつらは勇者と呼ばれる特別な存在と、それを補佐する者たちで構成されたパーティだ。
特に勇者はこの大陸一の国家の王女様で、更には大陸中で広まっている宗教の聖女、大陸一と歌われた魔術師の孫も参加している。
そして誰も彼もが抜群の容姿を持っているってんだから、まぁ人気が出ないはずもなく。
ここ数年、世界は滅亡の危機に瀕していて人々もピリピリしていたが、勇者パーティの存在は間違いなく救いになっただろう。
で、しかも実際に世界を救っちまうってんだからすごい話だ。
結果、大陸は完全に勇者パーティフィーバーに突入。
あちこちで吟遊詩人が詩を吟じ、勇者パーティを元にした劇も企画されているとかなんとか。
ただまぁ、正直俺みたいなしょーもない冒険者の男には、縁遠い話だと俺は思っていた。
世界が滅亡しようがしまいが、やることは変わらない。
その日の食事にアリつけるだけの銭を稼いで、明日のことなんて考えずぱっと使う。
そんな生活で十分だったんだ。
でも、俺はこの勇者パーティのことを知っている。
知りすぎるほど知っていた。
何故かって?
それこそ俺が聞きたい。
なんだって俺は――勇者パーティに
+
俺が冒険者ギルドを訪れると、決まって空気が一度静まり返る。
それを避けるためにピークの時間帯をずらしてギルドにやってくるわけだが、それでも多くの冒険者がこちらを見るのだ。
どれもが、俺に対するどこか敵対的な視線。
無関心であるなら、まだいい。
だが露骨にこちらへ嫌悪の視線を向けてくるものもいる。
まだ、声をかけてくるものがいないだけ、マシかも知れないな。
こうなってしまっては、依頼を受けてギルドを去るだけでもストレスだ。
そのうちまた拠点を変えなくてはならないだろう。
勇者パーティでの旅を終えてから一年、俺は周囲からのやっかみを受けるようになっていた。
ぶっちゃけ俺なんてほとんど話題にならないから、最初のうちは俺が”荷物持ち”だなんて誰も気づかない。
だけどいつの間にか噂が広まって、気がついたらこうなっているのだ。
そうなってくるともう、まともにそこで活動することは難しい。
しばらく放置しておけば、話題に上がることもなくなるだろう……と思っていたが、一向になくならない。
こんなことなら、貰った報酬でしばらく行方をくらましたほうがよかったな。
いや、まだ報酬は残ってるから、今からでも行方をくらませてもいいんだが。
とりあえず拠点を変えれば数カ月は持つから、ずるずるとそのまま冒険者を続けてしまっていた。
「あー、依頼を受けたいんだが」
「はい、少々お待ちください」
幸いなのは、ギルドの受付は特に俺へ反応を示さないこと。
職務に忠実なのか、冒険者のやっかみには興味がないのか。
どちらにせよ、仕事をしてくれる分には非常にありがたい。
とりあえずこの仕事が終わったら、次の拠点をどこにするか決めないとな。
そろそろ、勇者パーティの旅が終わってから最初に拠点とした街へ戻ってみるか、案外バレないかもしれん。
ダメなら別の街にすればいいだけだ。
とか、そんなことを思いつつ依頼を受け終わった時だった。
バン、とギルドの扉が開いて、ローブ姿の少女が中にはいってきた。
「なっ――」
思わず、目を見開く。
ローブの少女は、フードを目深に被っているから、その容姿までは伺い知れない。
周囲からも、そこまで注目を集めている様子はなかった。
どっちかというと、俺に向けられた視線のほうが多いだろう。
でも、俺は気付いてしまった。
なんというか、その雰囲気で――というかフードからこぼれるその
まずい、と思ったときにはもう遅い。
そして、視線を一身に集める中俺は――
「会いたかったですわ!
その少女に、抱きつかれた。
――空気が、完全に凍りつく。
殺意じみた視線を向けていた冒険者の視線が殺意に変わる。
一部の興味本位といった様子で視線を向けていた連中は、面倒事を察して視線をそらす。
先程まで普通に受付をしていた受付嬢ですら、なんだかしらんがそれはもう驚いた様子でこっちをみていた。
俺は即座に抱きついてきた少女を引っ剥がすと――
「ひゃん」
「すまん、ギルドの個室を借りたい!」
「は、はい!」
大声でさっき依頼を受けた受付に、そう呼びかけた。
よかった、勢いで押し通せば普通に話は聞いてもらえるようだ。
何にしても、とりあえずこの少女を――わがまま
+
「――それで、どうしてここに来たんですか。ひいさま」
「あら、行けなかったですか?」
「行けないというか……目立つでしょう。しかもいきなり旦那様なんて」
「それは事実ですもの」
それから、俺はギルドの個室を借りてひいさまと話をしていた。
そこはもともと、人に聞かせられない話をするために用意された部屋で、手軽な金額で借りることができる。
まさに今回のような状況にはうってつけの場所だ。
「それに、きちんと言いつけ通り顔はこうして隠しました。外の人たち、私の正体に気付いてはおりませんのよ?」
「それは……まぁありがたいですけどね。ルナンはどうしたんです」
「…………撒いてきました」
「ええ……」
「だってあの子、わたくしと旦那様の感動的な再会を邪魔しようとするんですもの」
感動的な再会だったか? いやまぁ、ひいさまがそれでいいなら、いいんだが。
話をしている相手――ひいさまはゆっくりとフードを脱いだ。
そこから現れるのは、この世のものとは思えない美貌。
背丈は小柄で、百五十をギリギリ超えるかと言ったところ。
愛らしい顔立ちに、金の髪。
俺みたいな粗野な冒険者ですら、言葉で飾り立てたくなってしまうほどの美しさを、眼の前の少女は持っている。
「それにしても、何をしに来たんですかひいさま」
「何を……とはまた冷たいですわね。このわたくし――」
そして、胸に手を当ててひいさまは言う。
「勇者ミリフィナが、旦那様に会いたいとおもうのは、そんなにいけないことですの?」
ミリフィナ。
勇者ミリフィナ。
この世界を救った勇者パーティの勇者様その人にして、この大陸一の国家、グランタールの第五王女。
かつての俺の雇い主でもある。
この少女について、荷物持ちなんて名目でパーティに男が加わっていたら、そりゃまぁ話題にもなろうというものだ。
まぁ実際は荷物持ちどころではなかったんだが。
「いやまぁ、少なくとも周囲に正体は露見してませんし、会いに来る分にはいいんですけどね。何もルナンを撒いてくることはないでしょうに。一人は危険ですよ」
「むう、わたくしは仮にも世界を救った勇者なのですよ? そこらの輩に遅れを取ることなんてありません」
「万が一を考えてほしいんですよ」
「で、でもぉ……」
では、そもそも一体なんだって俺が勇者パーティに加わったのか?
本来の勇者パーティは、優秀かつ身分が確かな連中だけで固められたパーティだ。
俺みたいな、平民で素性の知れない冒険者が加わるような代物ではない。
しかしだというのに、紆余曲折の末俺は荷物持ちとなった。
といっても、荷物持ちというのは周囲へ説明するための建前でしかないのである。
これが建前になっているのか? という議論はさておいて。
もっと根本的な理由は、これまでの会話からでも明らかだ。
「わたくし、愛する人といっしょにいたいのです! そのためにこうして、時間を作ってここまで来たのですよ?」
外部の人間に語れるわけもない。
ああ、まったく。
一体全体、どうしてこんなことになってしまったんだろうな……?