決闘者セアミン(♂)   作:へるしぃーぼでぃ

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不確定“性”原理

 

 

 

「しかし改まって、セアミ君って普通の精霊じゃないわよね」

 

俺はハンバーガーにあー、と大口を開けて齧りついた時、氷が不意にそんな事を言ってきた。

昼休み。

昼食を食べに学食へ赴き、晴れていたのでせっかくならテラス席で優雅にランチタイムと洒落こんでいた俺、氷、遊姫の三人。

デュエル学園は大学のキャンパスのように、敷地の一角が一般にも開放されている。

なのでここの学食はフードコートみたいな感じになっており、色々な店舗が展開されていた。

遊姫がステーキをもきゅもきゅ頬張りながら喋る。

 

「藪()ら棒にど(びぼ)したのさ(びばぼば)(ぼうび)

 

「こら遊姫。食べながら喋らないの」

 

氷は自分のジェノベーゼをクルクル巻きながらそう指摘し、ひと口パクリと綺麗に食べた。

遊姫がまだモグモグしている間に、先に口の中のバーガーを飲み込んだ俺が答えた。

 

「そうか、やっぱり氷から見ても俺って異端な精霊に映るよな。例えば今、俺はこうして飲み食いしてるけど、他の精霊は飲食しないし」

 

俺はフライドポテトを手に取り、摘む。

ふにゃふにゃの細いポテトだったが、塩味が染みていてうまい。当たりのポテトだ。

 

「そうね。普通の精霊は基本、人間界の物事に干渉しないわ。せいぜいボディランゲージでの意思疎通くらいが関の山よ」

 

それぞれの昼食のラインナップは、俺はテリヤキバーガーとチーズバーガーに、ポテトとコーラ。

氷はジェノベーゼにアイスコーヒー。

遊姫はステーキ300gに、山盛りご飯にピッチャーお冷や。食後にパフェも食べるらしい。

遊姫の喉がごくんと動き、お冷やを飲んでようやく話に入ってきた。

 

「ぷはーっ。……言われてみれば確かに、セアミ普通にご飯食べてるね」

 

「そうなのよね。セアミ君があまりにも普通に日常を過ごしているから、私も今更ながら気付いたのよね。というか遊姫こそ気付きなさいよ。遊姫はこれまで何回もレイロゼと食事しようとして、二人とも食べてくれなくてその度に落ち込んでたじゃない」

 

「そうだけどさぁ。セアミが人間味あり過ぎてボクは疑問すら浮かんでなかったよ。……ハッ!?もしかしたら精霊界のルール的なのが変わって、今ならレイたちも食べれるようになったのかも!?」

 

遊姫は早速とばかりに2枚のカードを掲げる。

そして彼女の背後に赤と青の二対のハニカム構造の光の格子が現れ、そこから二人の少女が出現した。

 

輝くプラチナブロンドと絶対領域が目に眩しい、レイ。

 

小柄な身を黒い軍服に包んだ、銀のツインテールとなびくマフラーが可愛いロゼ。

 

遊姫のデッキの要のモンスターが、食事の席に顕現した。

遊姫は二人の前に説明無しでいきなり、フォークに刺さったステーキを一切れ差し出した。

 

「はい、二人とも。あーん」

 

しかしレイは困ったように笑い、ロゼは無表情でふるふると首を横に振る。

やはり生粋の精霊は、人間の飲食物は摂取しないようだ。

というかそもそも身体が半分透けてるじゃないか。

もうこの時点で俺と本物の精霊は明らかに違う存在だ。

俺が確信を深めている横で、遊姫がしょんぼりする。

 

「そんなぁっ、話が違うよ氷!」

 

「一緒に食事をしたい気持ちは分かるけど、誰も出来るなんて一言も言ってないでしょ。私のせいにしないで」

 

そう言いながらも氷の膝の上には氷水(ヒスイ)のエジルがちょこんと乗っていた。

その手にはパスタを三(まき)くらいしたフォークが握られ、エジルの小さな口元に寄せられている。

……が、肝心のエジルはストローを咥えており、フォークをガン無視してシャボン玉をフワフワと吹き出していた。

エジルはそもそも食事自体に興味が無いようだ。

口では遊姫に言い返しているが、氷のその表情は露骨にガッカリしていた。

 

「うーん。それじゃあ本物のセアミンならもしかしたら?」

 

俺も一応、流れに便乗しておく。

そしてカードのセアミンを取り出したのだが……──、そもそも出現して来ない。

ウチのセアミンは何故か人前では出てきてくれないのだ。

 

「うぅ……レイとロゼにもこの美味しいお肉を食べさせてあげたいのに……。もぐもぐ、おいしい」

 

遊姫はいつの間にかレイにフォークを握られ、逆にあーんされていた。

ロゼがナイフでキコキコとステーキを一口サイズの正方形に切り、それをレイが刺して遊姫の口元へ運ぶ。

……遊姫がイケメン系美人だから、なんだかレイロゼを侍らせるチャラ男みたいな構図になっている。羨ましい事してるな遊姫。

エジルは黙々とシャボン玉を飛ばし続けている。

 

「ということはやっぱり、俺は純粋な精霊じゃない事が確定だな。まぁ中身は人間だし……」

 

「え?中身が人間って、セアミが?」

 

「どういう事?」

 

俺がポロッと零した言葉に二人が反応する。

あれ?そういえば話してなかったか?

 

「そういえば何やかんやで、まだ話してなかったか。実は俺は前世の記憶があって……──」

 

俺はいわゆる異世界転生者である事や、遊戯王は存在するが数あるホビーの一つでしかない事などを打ち明けた。特に隠す事でもないしな。

ホビアニ世界の住人である彼女たちなら、こんな荒唐無稽なトンデモ話も受け入れてくれると思ったのだ。

案の定、遊姫はビックリした様子だったが直ぐに受け入れてくれた。

 

「へー、違う世界かー。まぁ精霊界もあるんだし、他に異世界があっても不思議じゃないか!しかもそっちの世界でも遊戯王があるんだね!凄い偶然だなー」

 

「……遊姫、偶然じゃないわ」

 

「え?」

 

氷は顎に手をやって考えるポーズになり、至極真面目な顔で語り始めた。

 

「多分、私たちの世界の方が後追い(・・・)よ。セアミ君の居た世界が先にあって、私たちはそこから遊戯王に特化して派生されたマルチバースの世界として展開されたのかも……?」

 

「え?え?なんか急に難しい話になった?」

 

突然の氷の考察に遊姫が困惑している。

かくいう俺も、まさか氷がこんなに真面目に話を聞いてくれるとは思ってなかった。

正直「へーそうなんだ、なんだかスゴいねー」くらいの遊姫みたいな反応で良かったんだが、氷はその辺をテキトーに済ませられないタチらしい。性格的にそりゃそうか。

 

「ほら、私たちの世界は『1枚のカードから始まった』って言うじゃない?あの話と今聞いた話を合わせると、セアミ君世界のカードが起点となって私たちの世界が作られたんじゃないかしら……。だとすると……」

 

なおもブツブツと、俺たちそっちのけで考察を捗らせる氷。

どうやら俺という存在が彼女の中のツボを突いてしまったようだ。

呆気にとられる俺に、遊姫がヒソヒソと耳元で囁いてきた。ちょっ、近ッ。

 

「氷の知的好奇心スイッチが入っちゃったみたい。こうなると長いから、テキトーに相槌打ちながらご飯食べちゃお」

 

「お、おぉ……」

 

「ちょっと、聞いてるの遊姫!?私はこう思うんだけどどう思う?」

 

「聞いてる聞いてる。でもボクに聞かれても困るから、あとでそういうのに詳しい叔母さんに聞いてみるよ。ただでさえセアミみたいな可愛い子が大好きだから、食いついてくるのが目に見えるなぁ」

 

珍しく氷がボケで、遊姫が冷静にツッコむ逆転現象が起きていた。

氷はSF的なのが好きなのか。いつもはクールな彼女だが、ちゃんと年相応な面もあるんだな。

たまに飛んでくる氷からの質問に答えつつ、そんなことを思いながら俺はバーガーを平らげた。

レイとロゼとエジルは俺たちから少し離れたところで、シャボン玉を順番にプカプカ浮かせて遊んでいた。

 

 

 

 







「まぁまぁ氷。ボクのパフェでも食べて落ち着きなよ。はい、あーん」

「セアミ君は男の子だけど、本物の精霊セアミンの性別はアッチの世界でもコッチの世界でも確定されてないのよね?もしかしたらその不確定さで時空に“揺らぎ”が生じてッあむ。……あら?二人とももう食べ終えたの?いつの間に」

「あ。戻ってきた」

「氷はスイーツも好きだからね。氷が暴走した時はこうして捧げ物をすると落ち着いてくれるよ。はい、アイスコーヒーも飲んで」

「ごく……、ふぅ。つい興奮してしまったわ。あ、ところでセアミ君。ちょっとスカートをたくし上げてくれないかしら?」

「遊姫。氷さんがまだ暴走してる。もっと捧げ物が必要だ」

「いや、これはシラフだね。……これはもうセアミ、これはもう氷の言うことを聞くしかないよ!ハァハァ」

「性別が謎のはずの精霊セアミンに対して、男の子として確定しているセアミ君はいわば特異点なのよね。もし、喉仏以上に強固な『証拠』を私たちが観測した場合、もしかしたらこの世界に何か影響が出るかもしれないっていうのが私の立てた仮説よ。だから、ね?ちょっと布を一枚捲るだけで私の仮説が立証出来るかもしれないから、良いわよね?ダメ?うんうん、分かった。じゃ、捲るね?」

「ツッコミが不在になった!アナタたちの主人がご乱心ですよ!助けてレイ!ロゼ!エジルさん!」



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