決闘者セアミン(♂)   作:へるしぃーぼでぃ

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実体化する精霊たち

 

 

 

 

それはある日の事だった。

なんちゃってデュエル講師の学園生活にもすっかり慣れてきた頃。

遊姫たちは座学の授業に向かい、暇を持て余していた俺は学園の屋上でボーッと過ごしていた時だった。

はるか上空にはサファイアドラゴンとルビードラゴンの番が飛んでおり、その二匹が遠目にもじゃれ合っているのが見える。

 

この世界では珍しくない、普通の光景だ。

 

昨日なんかF・G・D(ファイブゴッドドラゴン)とSinトゥルース・ドラゴンがバチバチにやり合ってたし。

それに比べれば今日はたいへん微笑ましい光景だ。かつてはバニラモンスターで最強を誇っていたサファイアドラゴンさんも、今じゃ可愛いもんだ。

そんな二匹のじゃれ合いは、ヒートアップしてきのか次第に翼がもつれ合い、落下してきた。

 

「おいおい。なんか丁度、俺の所に落ちてこないか?」

 

まぁ本物の精霊は物質に影響を及ぼさないから、たとえ落ちてきてもスゥ、とすり抜けるだけだ。

そう思って再びボーッとする作業に戻る俺。

だがそんな俺の隣に、突如としてブオン!と緊急テレポートのゲートが開いた。

そこからセアミンが飛び出してくる。

 

「うお!?何もないのに出てくるなんて珍しいな、セアミン」

 

「……」

 

飛び出てきたセアミンは手をグーパーして、何やら自分の身体を確かめていた。

セアミンが出てきてくれるのはデュエル後の一撃(600LP)報酬の時くらいだ。

なのでこうして前触れなく出てくる事は滅多にない。というか初じゃないだろうか。

俺は嬉しくなってセアミンの顔を見るが、目が合ったその顔はどこか真剣な空気を帯びていた。

そしていきなりおかめヘッドギアが装着された。

ブオン、と赤く光る目元に俺はビクリとする。

 

「その微動だにしない面の被り方怖いって!……って、なにナニ何!?」

 

おかめヘッドギアセアミンが無言でズンズン近付いてくる。

ワケが分からない俺は目をギュッと瞑ると、耳元で可愛らしい声が囁かれた。

 

「ここは危ない」

 

「え?セアミン喋っ、ッうおぉ!?」

 

手を引かれる感触。

次いでフワリと浮遊感に襲われる。

恐る恐る目を開けると、俺は空中に居た。

オレンジの巨大な金魚──セアミンのカードイラストに居るヤツ──の背にいつの間にか乗って、俺はセアミンと共に上空を漂っていた。

ビュオオオ、と風切り音が高度を物語る。

だが突然の飛翔に驚く間もなく、直後、入れ替わりに落下してきたサファイア&ルビードラゴン二匹が無人の屋上に墜落した。

 

ドゴオォオン!!と激しい衝突音。

 

屋上はヒビ割れ、校舎がグラグラ揺れる。

ヒビの中心では二匹の朱と蒼のドラゴンが、激突した衝撃で気絶していた。

俺はその光景に愕然とする。

 

「え……ウソだろっ!?何で精霊が人間界のモノに影響を与えてるんだ?」

 

精霊は基本、人間界の物質に干渉できないはずである。逆もまた然り。

ちょっとした物を短時間持ち上げたりくらいなら出来るみたいだが、今みたいに激しい衝突をする時は精霊ボディがサラサラと消えて精霊界へ還っていくのを何度か見たことがある。

さっき言ったFGDとSinトゥルースも、ビルにぶつかると光の粒子になって消えていったし。もちろんビルは無傷だった。

だから今回の場合も、本来なら墜落時、ドラゴンたちは霧散するはずだ。

 

「どういう事だ?もしかしてあの二匹も、俺みたいに中身が人間だったりするエセ精霊なのか?」

 

「違う」

 

考え込む俺に、再びの可愛らしい声が耳元で囁かれる。

振り向くと、おかめヘッドギアを解除したセアミンがジッと俺を見つめてきていた。

 

俺は耳を疑った。

 

セアミンはこれまで一言も喋ったことがなかったのだ。

いつも一撃ぶっ叩いて去るだけで、ろくにコミュニケーションを取れたことがない。

驚きに固まる俺に、セアミンがまた言葉を発した。

 

「見て」

 

精霊セアミンが指し示した先は、眼下の歌舞伎シティ。

その光景に俺はさらに目を見開いた。

 

──電線に絡まりギャースカ騒いでいるカースオブドラゴン。

 

──大くしゃみのカバザウルスが、くしゃみしてゴルフネットを倒壊させていた。カバザウルスは「え?」みたいな顔をしている。

 

──吟幽獅神ペサンタが、四対の翅に遊戯王の目のマークの模様を輝かせて飛びながら、いつもより数段摩訶不思議な詩をシティ中に響かせていた。

 

「な、なんだコレ……っ」

 

空中の視界から得られた情報から推察するに、デュエルモンスターズの精霊がすべて実体化しているようだった。

 

人々は突如物質に干渉しだしたモンスターたちに戸惑い驚き、逃げ惑って大混乱だ。

というか精霊たちも混乱している様子である。

遠目にデカいモンスターが目立っているが、おそらく街に下りればさらに様々なモンスターが氾濫している事が窺えた。

 

「セアミン、これは一体……!?」

 

「分からない。とりあえず着地する」

 

狼狽える俺に対し、冷静に返すセアミン。

俺たちを乗せたオレンジ金魚は元居た屋上へ。

俺とセアミンはヒビだらけの屋上に降り立った。

目の前には横になって気絶しているが、それでも見上げる巨躯のルビー&サファイアドラゴンの二体が。

 

(……セアミンが避難させてくれなかったら、俺は今頃ぺちゃんこだったな)

 

今更ながら背筋が凍る。

恐る恐るサファイアドラゴンたちに近付き、蒼く輝く鱗にペタペタ触る。

やっぱり、触れる。

だが触れた瞬間、サファイアドラゴンはキラキラと光の粒子になって消えていった。

残されたヒビ割れの跡地には、サファイアドラゴンのカードが1枚パタリと落ちていた。

 

「カード化した……?もう何がなんだか……。セアミン、これは一体……?」

 

困惑する俺は、縋るように隣のセアミンに視線を向けた。

精霊セアミンは俺と同じようにルビードラゴンのカードを持ちながら、首をコテンと傾げて言った。

 

「さあ?」

 

「さあって……」

 

……いや。そりゃ、精霊の方も困惑してるみたいだしセアミンが分からないのも当然か。

しかし危険な状況だというのは分かった。

モンスターが実体化なんてしたら、当然人間にとって危なすぎる。

 

「ひとまず、遊姫たちが心配だ」

 

サファ&ルビドラゴンたちの落下の衝撃で校内の人たちは続々と外に避難していた。

その中に、初代遊戯並みの髪色髪型の目立つ遊姫と、青髪ロングの氷を見つけた。良かった、無事だったか。

 

「とりあえず、遊姫たちと合流しよう。セアミン、さっきみたいにその金魚に乗せてくれないか?」

 

何故か浮遊能力を有している、セアミンのカードイラストの背景や設定画に映っているこの金魚。コイツにタクシーしてもらおう。

現在地は5階の屋上だし、校舎内はさっきの衝撃で倒壊の心配がある。空を飛べるなら飛んでもらおう。

俺が頭の片隅でそんな事を思っていると、セアミンに手を引かれた。

 

「下りるだけなら、ノウメン号に頼る必要はない」

 

「ノウメン号ってこの金魚の名前?いやでもせっかく飛べるなら活用してっ、え?」

 

セアミンに手を引かれるまま、俺とセアミンはひしゃげたフェンスを乗り越えて空中へダイブしていた。

その身ひとつで。

 

「ちょ!?!?ええええええ!?!?!?」

 

バタバタ暴れる和服。

耳を支配する風切り音。

一瞬で乾く涙を流す俺の脳内に、走馬灯のようにセアミンの情報が流れた。

 

──セアミンは高い所から落ちてきて舞うのが好き。

 

「ッだからって俺も巻き込むなぁあああ!?」

 

泣き叫ぶ俺に地面が迫る。

その直前、グイと俺の体をセアミンが抱き抱えた。

そしてセアミンの和服の文様がサイケデリックに輝くと、謎の力が働いてフワリと着地した。

心臓がバクバクする俺。

 

「ぅぉおお……生きてる……」

 

死んだと思った……前世でスカイダイビングした時より恐かった……5階から落ちる方が地面が近くてリアルな死を感じる……

走馬灯がよぎった俺をお姫様抱っこで抱えたまま、セアミンは遊姫たち避難してきた人たちの輪の中へと合流した。

 

「あ、セアミ!、と精霊セアミン!」

 

「いや、どっちがどっち……?多分抱っこされてる方がセアミだと思うんだけど」

 

遊姫が俺を見つけて小走りで、氷が困惑の声を上げながら近付いてくる。

俺とセアミンが並ぶと確かに見分けがつかないが、絶賛青い顔をしているのが俺です。

遊姫がテンション高く喋る。

 

「セアミが精霊セアミンと触れ合ってる……、噂は本当なんだ!聞いてよセアミ!なんか急に精霊たちが実体化してるんだって!」

 

「それに精霊が大量に顕現してるの。いつもはこんなに一斉に人間界に押し寄せることは無いのに……」

 

二人がスマホを見ながら情報収集している。

どうやら遊姫たちも現状をうっすら把握しているらしい。

それにしても遊姫、テンション高いな。まぁデュエル大好きっ娘だから、ヤバさより楽しさが勝っているのか。

 

「おい、ヤバいぞアレ!」

 

そんな感じで遊姫たちと情報共有していると、誰かが叫んだ。

彼らの指差す方を見ると、そこには超巨大モンスター『壊星壊獣ジズキエル』が街を闊歩していた。

 

ズシン、ズシンと動く度に地面が激しく揺れる。

 

ジズキエルもまた困惑しているのか、直接的に破壊行動は起こしていないが、移動するだけでその尖った体の端っこがビルなどに当たり、徐々に被害が拡大していた。

俺らはそれをぽけーっと眺める。

……いや、デカ過ぎてもはや見上げるしかないのだ。こんなのどうしろと……

 

「やっぱ、モンスターが具現化すると被害がやばいよな」

 

「そうね。このままだとその内、取り返しのつかない事故が起きるんじゃ……」

 

俺と氷が目の前の現実と、少し先の未来を思って戦慄する。

周囲の人たちも最悪の未来を想像してザワザワとする中、一人ソワソワしていた遊姫が言った。

 

「ねぇねぇ、もしかしたらこれ、いけるんじゃない?」

 

そう言う遊姫の手には、『閃刀姫─レイ』のカードが握られていた。

彼女の言いたいことは、その場のデュエリスト全員が分かった。

遊姫がそれを確かめるように、先陣を切って叫ぶ。

 

「さぁ来い、レイ!」

 

遊姫がカードをデュエルディスクにセット。

ハニカム構造の赤い格子が出現し、そこから人の姿が現れた。

プラチナブロンドの髪。

膝丈のスカート。

そして赤い刀身の刀を持った凛々しい少女『閃刀姫─レイ』が、遊姫の隣に立った。

 

遊姫が目を輝かせて、しかし恐る恐る彼女に近付く。

 

「れ、レイ?」

 

「……遊姫、だね?はじめまして」

 

ニッコリと微笑む美少女に、俺たちデュエリストは全員ハートを撃ち抜かれた。

遊姫が喜びを爆発させる。

 

「おぉおお!レイと喋れたぁ!やったぁ嬉しいぃい!!」

 

「私もお話出来て嬉しいよ。けど、今はちょっと喜んでる場合じゃないかな?」

 

レイがその美しい顔をキリッと引き締める。

戦士の顔だ。

その視線の先には、訳が分からない現状に苛立ったのか、ジズキエルが今にも破壊衝動を解き放たんとばかりに全身が黄金色に発光していた。

レイが叫ぶ。

 

「遊姫!私に武器を!」

 

「ッ!、うん、行くよレイ!ドロー!……引いたカードは『閃刀術式─アフターバーナー』!」

 

遊姫がドローした魔法カードを見せると、レイの身体が炎に包まれ『閃刀姫─カガリ』の姿へ換装される。

そしてドゥ!と飛び上がると、炎を纏うレイが目標に向かって突進した。

 

「せぇええい!!」

 

「ッッ!?」

 

爆発的な推進力を得た炎の太刀が、大怪獣を貫いた。

貫かれたジズキエルは何が起こったのか分からぬまま、斬り裂かれた箇所からキラキラとその姿を霧散させていった。

ヒラヒラとカード化したジズキエルが、遊姫の手元に落ちてくる。

 

「やったぁ!凄いぞカッコイイぞレイー!!」

 

はしゃぐ遊姫の元にレイが戻ってくる。

アフターバーナーの効果が切れ、カガリの装備も消えて元のレイの姿に戻る。

遊姫が手を上げながら近付き、察したレイも手を上げる。彼女たちはハイタッチした。

氷が呟く。

 

「なるほど。目には目を、歯には歯を、……そして精霊には精霊をぶつけるのね!」

 

そうして氷もデッキから1枚のカードを取り出した。

 

「私はエジル・ギュミルを召喚!」

 

地面から氷がパキパキと固まり、それが人型を形成して『氷水啼(ヒスイテイ)エジル・ギュミル』が顕現した。

碧の瞳が氷を見つめ、洞窟に反響するような声が紡がれた。

 

「……氷」

 

「わ。あ。意外と大きいね、ギュミル」

 

意気揚々と召喚した氷だが、ギュミルの存在感に少し及び腰……いや、照れているのか?頬を薄ら赤く染めていた。

ギュミルがそんな氷の頭をヨシヨシしている。満更ではなさそうな氷さん。

 

氷さん、もしかしてお姉さん属性がお好き?

 

俺が訝しんでいると、ギュミルの翡翠の瞳がキッとこちらを睨んできた。

え、あ、ジロジロ見てすみませんっ。

ギュミルがその透明な手を俺の方に向け、そこに氷塊が生成されていく……っえ、そんなに気に食わなかった?

 

「ちょ、待っ」

 

氷弾が射出。

俺の顔の横を通り過ぎ、背後のシーホースに着弾した。

 

「ブルホォオ!?」

 

悲痛な声を上げてカード化するシーホース。

どうやら俺は後方から襲われかけていたらしい。

無表情なギュミルはもう睨んでおらず、今だにセアミンにお姫様抱っこされている俺に近付くと、頭を撫でてきた。

セアミンとギュミル二人の無表情に挟まれる俺。

なんか俺、すごいヒロイン扱いされてるな……一応男なんですけど……

 

「うおお!よく分からんが俺達もモンスター召喚だー!」

 

遊姫と氷に触発され、周りのデュエリストたちも一斉にカードを取り出しモンスターを召喚。

野良精霊たちと応戦していた。

初代遊戯王ドーマ編クライマックスの、リアル召喚戦争みたいになっていた。

 

「うおー!みんな強い!」

 

「好き勝手召喚出来るから、とんでもないモンスターがそこら中を飛び交ってるわね。私もSモンスターのギュミルを呼べたし」

 

「……めちゃくちゃカオスな状況だけど、何とかなりそうな感じになってきたな」

 

どういう理屈で精霊が具現化したのかは謎だが、暴れる野良精霊はデュエリストたちが召喚するモンスターに次々と討たれ、カード化していく。

そりゃこの世界の人間基本みんなデュエリストだから、モンスターを召喚して使役する事が知れ渡ったら秒で解決するか。

出現してる野良精霊もそんなに強いステータスではないし……

俺はギュミルによしよしされながら、モンスターが飛び交う光景をもはや他人事のように眺めた。

 

「よーし、ボクもまだまだ行くよっ、ドロー!魔法カード『サンダーボルト』発動!」

 

とりあえず学園周辺の騒動は、こうしてその日の内に終息した。

 

 

 

 

 

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