精霊実体化騒動から、世界は変わった。
今まで不干渉だった精霊と触れ合えるようになったのだ。遊戯王を中心として回るこの世界で、それは劇的すぎる変化だった。
「はい、レイ、ロゼ。どうぞ♪」
「ふふ、ありがとう遊姫」
「ありがと」
遊姫が育てたカルビの焼肉を、レイとロゼが紙皿に受け取る。
彼女たちは太陽の下で肉汁煌めく肉を箸で持ち上げ「これが本物のお肉……」とひとしきり眺めた後、パクリと頬張った。
途端、目を輝かせる二人。
「んー!?美味しい!!」
「この世にこんなに美味しいモノがあったなんて……」
「あはは!じゃんじゃん食べてねー!」
遊姫が自分の紙皿に肉を確保しながら、次々に網に肉を投入していく。
遊姫の朗らかな声が、シティの真ん中を流れる目の前の大河に気持ちよく響いた。
俺は鉄板の上で焼きそばを焼きながら、そんな川辺の光景を見守る。
「BBQなんて一体いつぶりだか……」
「あ、セアミお皿空いてる!はいどーぞ」
「あ、ありがとう遊姫」
精霊が実体化して数日。
簡単に言うなら、精霊との共生&討伐である。
「こら遊姫、また肉ばっかり食べて。野菜も食べなさい」
「はーい」
遊姫の隣に並ぶ、麦わら帽子とサングラスを掛けた氷が、じっくり焼いた野菜を山盛りの肉の上に彩り良く乗せる。
遊姫も別に肉一辺倒ではないのか、普通に受け入れてバリバリむしゃむしゃ食べ始めた。
「レイとロゼも、お野菜も美味しいわよ」
「これがお野菜……、生の食材がこんなに……!」
「(目を輝かせ無言で咀嚼し続ける)」
この通り、現代の豊富な食材ですっかり餌付けされてるレイとロゼ。
遊姫も一緒にご飯を食べれてご満悦の様子だ。遊姫の紙皿に乗っていた山盛りの肉はいつの間に食べたのか空になっており、新たな肉を獲得している。
「おかわり」
美少女たちの絡みを眺めていると、裾をクイッと引っ張られた。
口元がソースで汚れたセアミンだ。
「はいはい、どうぞセアミン」
半袖短パンサンダルの俺は、差し出されたセアミンの空の紙皿に焼きそばを盛りつける。
セアミンは無表情で、しかしズルズルと美味そうに食べた。姪っ子の相手してるみたいで可愛い。
川の方では
「平和だな……」
つい先日まで精霊VS人類の図式が成り立とうとしていたのがウソのような、のどかな光景だった。
──騒動後、カードから召喚されるのを『精霊』、野良の精霊を『モンスター』と区別するようになった。
元々すべてのモンスターを『カードの精霊』と称していたが、
壊星壊獣ジズキエルがいい例だ。
あの巨体だと本人に悪意がなかろうと、動くだけで街に被害が出る。
そういうモンスターは精霊の力を借りて
そういうわけでデュエル学園の生徒であっても、成績上位者にはモンスター討伐の依頼が舞い込むようになった。
まだまだ暴れてるモンスターは多いので、
今俺たちが歌舞伎シティの生活水を賄う大河川に来ているのも、この川で魚型モンスターが暴れて川が氾濫しているという被害で調査に来ているのだ。
俺たちの他にも学園生徒が何人か配置されている。この川はデカいからな。
なので決して遊びに来ているわけではないのだ。
「セアミー、ボクにも焼きそばちょうだーい」
「はいはい。本当に食いしん坊だな、遊姫は」
イヤごめん、完全に遊びに来てるわコレ。
BBQする必要性、まったく無いからな。
一応、朝からこの場所で張っているのだが、モンスターの影の形も無いのでお腹を空かした遊姫が「そうだ、BBQしよう!」と提案したのだ。自由かっ。
そんな訳で俺がアメイジング・ドラゴンを召喚して空中タクシーする事により、スムーズに買い物を済ませて今に至る。
仮にも仕事中にBBQとか、中々の破天荒ぶりである。楽しいけども。
「それにしても、まったくモンスターが現れる気配がしないわね」
サングラスを額に掛けた氷が、目の前を流れる川を見渡す。
確かに、こんなに開けた視界なのに問題のモンスターは影も形もない。
よっぽど深く潜っているのか……。この川は水深あるらしいし。
水属性水族である
と、俺が疑問視し始めたところで、
その方向は、下流。
「うん?なんか川がバシャバシャしてる?」
遊姫が目を細めて下流を見る。
しばらくすると、そのナニかが激しく水しぶきを上げながら遡行してきた。
そしてザッパアァン!と巨大な魚影が飛び上がる。
「コイツは……ジェノサイドキングサーモンだ!」
いやデケェ!
川幅いっぱいあるぞ!流石は暗黒海のヌシ。
というか川に居なかったのは、もしかして海に行ってたからか?元気すぎるだろ。
ドパアァン!と着水し、川の水が河川敷に氾濫してくる。
「うおっ、危なっ」
俺はセアミンの
遊姫とロゼもレイのイーグルブースターで空を飛び、氷は
「あー!お肉がー!?」
遊姫の悲痛な声が聞こえてきたが、まぁ暢気にBBQしてたのが悪いな。
取り敢えず、あの巨大サーモンが今回の獲物らしい。
しかしデカいな。いざ実物を目の前にすると、例えバニラモンスターだろうと普通にビビる。どうやって倒すか……
「くそー!お肉の仇だ!行くよレイ、ロゼ!」
俺が相手のデカさにビビっていると、遊姫が『合体術式─エンゲージ・ゼロ』を召喚して空中からジェノサーモンを真っ二つにした。
ドッパアァン!!と攻撃の余波で川がモーセの如く割れ、水中に潜んでいた他のモンスターたちも根こそぎ刈り取られる。容赦ねぇ……
川が再び氾濫するのを、
俺が迷っている内に全部解決してしまった。遊戯王世界の住民は逞しいな……
討伐は一瞬で終わり、キングフィッシャーの上に集合する。
「多分、このモンスターが今回のお騒がせ犯人でしょうね」
ジェノサイドキングサーモンのカードを回収した氷が、そのカードをひらひら見せる。
コイツも多分泳いでただけだろうが、そのあまりの巨大さ故に被害が出ていたのだろう。
まったく、元よりトンデモ世界だったが、さらにとんでもない世界になったもんだ。
「本当に、なんで急に実体化なんてしたんだろうな」
「でもなんか、楽しいよね!こうしてカードの精霊たちと触れ合えるなんて夢みたいだよ!」
遊姫がレイとロゼ、二人と両手で手を繋いでブンブン振る。
遊姫は無邪気だな。
でも正直、同意だ。
遊戯王が覇権を握るだけでなく、精霊が存在してその上触れ合えるなんてデュエリストの夢のような世界だ。
リアル召喚戦争もなんだかんだ見応えあるし。
「よーし。お仕事も終わったし、帰りになにか食べて帰ろう!」
「いやさっきまでお肉食べてたじゃない。まだ食べるの?」
BBQを中断されてまだ腹ペコらしい遊姫に、氷が呆れながらもその後に付いていく。
そんな帰路に着こうとした俺たちに、足下から「ぜよぉお!」と雄叫びが響いてきた。
同時にキングフィッシャーの身体が大きく揺れる。
「わわっ!?なに!?」
「どうしたのキングフィッシャー!?」
キングフィッシャーが突如カードに戻り、川に落ちそうになった俺たちは再び空に飛んで河川敷へ着地する。
そして俺たちが居た水面に、浅黒い肌をした半裸男がシャチの背の上に立っていた。おいおい、ここ川だぞ、なんでシャチが居るんだ……
突然の淡水適応シャチに驚く俺たちに、その上に乗るガングロ男がギロリと睨めつけてくる。
「さっきの川を割った攻撃は、貴様らかぁあ!?」
叫ぶと同時に、シャチから飛び上がってきたその男がその手に持つ銛を突き出してきた!
「危ない!」
その刺突をレイが刀で払う。
その影から臨戦態勢になったロゼが飛び出し、半裸男へ斬り掛かった。
だがそこへ川から二本の銛が交差して迫り、ロゼはバックステップでこれを躱した。
互いに距離が開く。
俺たちの目の前には、浅黒半裸男が三人並んでいた。
「大丈夫かァ初代ィ!?」
「ああ、ナイスフォローぜよ二世、三世!」
「突っ走り過ぎだぜェ初代!ワシらも混ぜろィ!」
「……コイツら、伝説のフィッシャーマンたちか!?」
伝説のフィッシャーマン及び二世、三世が、俺たちに怒声を放ち銛を突きつけてきた。
なんで川から登場して来るんだよ。ジェノサーモンを追ってお前らも海から遡上して来たのか?
「ワシらの獲物を横取りするに飽き足らず、ワシらも斬り掛けおってェ!許さん!いざ尋常にデュエルじゃあ!!」
「え?え?彼らはモンスターよね?モンスターがデュエルを仕掛けてきた?」
「いいね、受けて立つよ!」
よく分からない勢いのまま、困惑する氷の横で遊姫が率先してデュエルを受け入れる。
フィッシャーマンたちはさっきレイたちと斬り結んで分が悪いと思ったのか、リアル召喚戦争ではなくデュエルを仕掛けてきた。
そういうパターンもあるのか。まぁモンスターとデュエルする展開はアニメGXでもあったし、一応は納得できる。
しかしコイツら、デッキ持ってるのか?
……と思っていたら、空中からサアア……と光の粒子が彼らの手元に集まり、カードの束が形成された。そこら辺は精霊仕様か。
ヤツらは銛をデュエルディスク代わりに構え「さぁ、こっちは準備万端ぜよ!」「ぜよ!」「ぜよ!」と元気に宣言する。ぜよ。
「まさかモンスターの方からデュエルを仕掛けてくるなんて……。まぁ、普通にデュエルすれば良いだけなのよね?」
「細かいことはいいじゃん。本場のモンスターとのデュエルだよ?テンション上がる!」
「勝敗
よく分からない流れのまま、俺たちはそれぞれ目の前の相手とマッチアップした。
「「「デュエル!」」」