「ただいまー」
俺が精霊というだけで借りられたたアパートに帰ってきた。
今日はメテオ・ブラック・ドラゴンをリアル召喚で撃退し、その後に黒蠍盗掘団の面々とデュエルを繰り広げるというずいぶん古めかしいラインナップとの戦いだった。
先行ダスト・シュートなんか使ってきやがって……。
イラストが黒蠍─罠はずしのクリフだからって普通、禁止カード使ってくるか?
手札がセアミン3枚だったから事なきを得たものの……
(……ん?そういえば俺、この世界のレギュレーション知らないな)
俺はMDしかやっていないので、なんとなくMD基準で考えていたが、環境が変わればルールも変わる遊戯王だ。この遊戯王世界に禁止カードとかあるのだろうか?
俺はそんな気付きを得ながら、ソファにどっかりと座った。
「あー、楽しいけど疲れたー」
「おぅ、おかえりぃマスター!お前ら、マスターのご帰宅だァ!」
俺の一人暮らしのはずの空間に、ほかの人物の陽気な声が響いた。
ツンツンした青と紫の髪。
室内でもピカリと光る、縁の尖ったグラサン。
洒落臭いアニキこと、娑楽斎がテンション高く出迎えてくれた。
そんな彼の号令に、ワゴンとスパイダーがビカビカ光るエクストリーム・セッションのデカい人形を引き連れて奥から出てきた。
「ッよ、マスターのご帰宅ゥ!」
発光するサイリウム型の撥で宙に浮かぶサイキックドラムをドンドコ叩く二人。
その二人に続いてセアミンが、広げた扇子片手に無表情で踊りながら俺の横に来た。
娑楽斎が叫ぶ。
「Yeah!盛り上がってきたなァ!ド派手に行くゼ!セッションん、スターt」
「いやご近所迷惑すぎる!家でセッションしないでくれ!」
「あ、ハイ」
実体化したP.U.N.K.な精霊たちが、俺の部屋に大集合していた。
◆◇◆◇
先程まで俺と一緒に黒蠍団と戦っていたはずだが、何故か彼らは俺より先に自宅に着いていた。君たち緊テレした?
危うく閑静なアパート住宅地に盛大なパレードが響き渡るところであった。
さて、遊姫や氷のレイ、エジルたち同様に、俺のP.U.N.K.たちもこうして実体化を果たしていたワケだが。
その結果、俺の慎ましい一人暮らしは激変。突如始まる、大所帯での共同生活。
今、俺が帰宅してきただけでエクストリームセッションしようとしていた様に、彼らは隙あらば騒ごうとするのだ。騒がしいアート集団である。
でも正直、楽しい。
部屋も広くてよかった。
一人じゃ持て余していたスペースを、今では彼らがセッションする場として活用していた。でも屋内でのセッションはほどほどにな。
台所からディア・ノートがお盆を持ってやって来た。
「あ、マスターおかえりー。丁度お夕飯のチャーハンが出来たところだよー」
セアミンとの双子である彼女が山盛りのチャーハンを持ってくる。
途端、再び騒ぎ出すP.U.N.K.メンツ。
「いよっしゃぁ!愛してるぜディアちゃん!」
「うむ。夕餉の支度、ありがたい」
「……」
「……いただきます」
「ありがとう。いただきます」
娑楽斎、ワゴン、スパイダー、セアミン、俺の順で声を上げる。
テーブルの中央に山盛りチャーハンが置かれ、各自取り皿を取って席に着く。
隣のセアミンはすでに自分の分をよそっていた。はやっ。
「「「いただきます」」」
そうしてカチャカチャ食べ出す俺たち。
娑楽斎が「旨いぜディアちゃん」と褒め、皆も感想を言いながらガツガツ食べる。
ディア・ノートが「えへへ、やった」と微笑んだ。可愛い。
そんな微笑ましい食卓を眺めながらチャーハンを頬張る。うん、旨い。
まさか大好きなP.U.N.K.モンスターたちに囲まれて食事をする日が来るとは。人生何が起きるか分からんな。
舌鼓を打ちながら彼らの顔ぶれを眺めていると、ふと気付いた。
あれ?なんか一人居なくない?
「そういえばライジング・スケールは居ないのか?」
サラシ海竜っ子片ジト目カクレという、属性盛り盛り少女が見当たらなかった。
P.U.N.K.内では新参だが、その強力な効果でデッキパワーを2段階くらい引き上げてくれたP.U.N.K.の立役者が食卓に付いていないのだ。
この世界でのデュエルでも絶賛大活躍してるし、居ないなんてことは無いと思うんだが……
俺の疑問に娑楽斎が「おいおい、マスター。寂しいこと言うなよ」と尖ったグラサンを親指と中指でクイッとした。
「ライちゃんはずっと此処に居るぜ。なぁ?」
娑楽斎がそう言って手を置いたのは、
黒子の中の青い目がユラユラ揺れる。
え、どういう事だ?
俺の疑問の視線に、ワゴンがこほんとわざとらしく咳払いした。
途端、セアミンとディア・ノートがスパイダーの背後にしゃがみ込み、ワゴンがサイキックドラムとサイリウム撥で軽くドコドコドコと打ち鳴らす。
「いよっ、御開帳ォ〜!」
娑楽斎の鬨の声。
スパイダーの黒子衣装がバッ!とセアミンとノートに引っ張られ、中から肌色が眩しいライジング・スケールがカードイラストのポーズまんまで登場した。
唖然とする俺。
「え……っぇえ!?スパイダーの中身がライジング・スケールだったのか!?」
「そうだぜぇ。知らなかったのかマスター?」
バカなっ、そんな情報はどこにも……っ
ネタばらしされた今、改めて考えてみる。
・他のP.U.N.K.の服はカラフルなのに、スパイダーとライスケの服装は黒を基調にしている。
・ライスケだけやたらと露出が派手。→黒子から解放された姿?
・スパイダーは人形浄瑠璃を操り、ライスケは籠手を操っている。
・片側の青目
……見た目だけでも結構共通点ある……かな?
俺が無遠慮にライジング・スケールを見つめていると、彼女はぶっきらぼうに言った。
「マスター、ジロジロ見すぎ」
「え、ごめん」
まぁカードの設定は明確に定まってる訳じゃないし、この世界ではスパイダー=ライスケなのだろう。
個人的には結構しっくり来る説だし。
考え込む俺の前では、黒子をパージしたライスケを中心に再びセッションが開始されていた。
「よっしゃ!じゃあマスターにライちゃんのお披露目会を開催するぜぇ!」
娑楽斎が即興で舞台背景を壁に描き、ワゴンが
ギター型の和琴をギュイギュイ鳴り響かせる。
それに合わせて和服を靡かせ舞うNo-P.U.N.K.たち。
またセッションが始まってしまった。もう俺にはこのP.U.N.K.たちは止められないぜ。
突如始まったセッションに俺はもはや諦めの境地で眺めていると、不意にセアミンが俺に近付いてきた。
「一緒に、踊ろ?」
「え、俺も?いやいや、俺は踊ったりとかした事ないし」
ガワはセアミンだが、中身の俺はリズムに乗って体を動かすというのが昔から苦手なのだ。ましてや踊るなんてハードルが高すぎる。
俺が尻込みしていると、セアミンがさらにグッと顔を近付けてきた。
「大丈夫。教える」
「そうですよ、誰しも最初は初心者です」
「早く来い、マスター」
ノートとライスケにも呼ばれれば、もうやるしか無い雰囲気だ。
俺は意を決して、差し出されるセアミンの手を取り立ち上がった。
途端、俺のセアミンボディが淡く発光。
半袖短パンから勝手に和装姿に換装された。自らの肉体にも舞踊を催促されてる……
「くそっ、絶対ヘタだけど笑うなよ」
「はっはっは!初めての方が踊らせ甲斐があるぜ!」
娑楽斎の陽気な笑いに、 和ギターをジャンジャカ鳴らして盛り上げるワゴン。
もはや俺はヤケクソで扇子をバッ!と広げた、その時。
──ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
しまった。うるさくし過ぎたか。
この家を尋ねてくる人間なんて遊姫たちくらいしか居ないが、もう遅い時間だ。彼女たちでは無いだろう。
という事は十中八九、近隣住民からのクレームだろう。さっきからドンチャン騒ぎまくってたからな。
「なんだァ?せっかくイイところだったのによ」
ガックリする娑楽斎たちを背に、「いや俺らが悪いから。セッションはまた今度、外でな」と俺が対応に出る。
内心、踊らなくてよくなってホッとしてたり。
だがそんな俺の心を見透かしたのか、一緒に付いてきたセアミンが「うん、また今度」と耳元で囁いてきた。
セアミンの吐息と声に背筋がゾワリとする。やだセアミン、踊りに関してだけ積極的すぎ……っ
俺は逃げるように玄関をガチャリと開けると「騒がしいぞ、隣人」と予想通りな内容の、低い声が降りかかった。
俺は平身低頭で謝る。
「すみません、騒がしくして。今後は気を付けるので……」
「ぬっ、貴様は……ッ!」
「?」
相手の謎の反応に顔を上げると、その顔は知った顔だった。
ゴテゴテと胸や額に付けた赤い宝石、足元まで伸びる大仰な赤いマント。
燃えるような赤髪に、他人をナチュラルに見下すような鋭い目つき。
知った顔というか、知ってるカードと言うか……
「えーと……、凶導者アルベル?」
またの名をデスピアの導化アルベル。もしくは
烙印シリーズのラスボスとでも言うべき彼が、そこに居た。
「ぬ、我を知っているのか。……しかしまさか、隣人が特異点とは……っ」
尊大な態度は崩さないが、何故か狼狽した様子でブツブツ呟くアルベル。
というか俺もビックリだ。
まさか他の精霊もアパートを借りて暮らし始めているとは。
もう完全に実体化が根付いてるな、精霊たち。たくましい。
どうでもいいけどアルベルはアパートよりタワマンとかの方が似合うと思います。
俺はそんな事を頭の隅で考えながら、アルベルの発した言葉の中から無視できない単語を拾った。
「『特異点』って俺の事か?もしかして、俺がこの遊戯王世界に男のセアミンとして転生した事について、お前が何か関わっているのか!?」
俺はつい期待と懐疑の眼差しを向ける。
ラスボスの裏に潜む真の悪役みたいな雰囲気を醸すキャラ、アルベル。
ここ最近の事象や、俺をこの世界にセアミン♂として転生させた犯人だと言われても納得しかない人選である。
俺がそんな視線を向けるのは道理だろう。
果たして、俺の問いにアルベルは「フッ」と鼻を鳴らした。
「知らん。何それ、怖……」
「ぇえ?」
予想外の反応に思わずガクッと力が抜ける。
この反応、完全に限りなくシロだ。
俺の転生理由にこのヴィラン風人物はまったく関与していないらしい。
だったら何故俺の事を特異点などと呼ぶのか、と恨めしげな視線を向けると、アルベルの方も俺の事を懐疑の目でジロジロ見ていた。
「ふむ。それにしても貴様、本当に男なのか?どこからどう見ても小娘ではないか」
「それには同意する。でも男です」
服装も今はミニスカ和装だし、そう思われるのは仕方ない。俺だって今だに受け入れきれてないし。
というか、意外とフツーに会話してくれるな、アルベル。
アパートの玄関というシチュエーションもあってか、ただのガラの悪いお兄さんっぽく見えてきたな。悪役顔とか思ってゴメン。
と呑気に思っていたら、アルベルがスッと俺の頭に手をかざしてきた。
「まぁそんな事はどうでもいい。まだ接触する気はなかったが、隣人とあっては仕方ない。我が眷属たる獣を返してもらおう」
ズズズ……と鎖状に連なるホールが、俺の体の周りをグルグル囲んできた。
は?眷属?え、ちょ、急に何をッ
「ダメ」
狼狽える俺の後ろから、オーガナンバーの鬼面を被ったセアミンが鬼の拳でアルベルをグーパンした。
「ぬっ!?」
アルベルは咄嗟にホールを盾状に展開すると、バックステップ、2階である玄関から駐車場にシュタッと華麗に着地した。
オーガナンバーの仮面を解き、俺と並ぶセアミン。
階下から見上げてくるアルベル。
一気に臨戦態勢だ。さっきの和やかな雰囲気はどこに……?
アルベルが顎に手を添え、先より数段冷たい眼差しで俺たちを見比べる。
「ふむ、やはり見た目は瓜二つだな。同一の個体が同じ空間に顕現する事は、今のところ貴様ら以外見られない現象だ。興味深い」
殴られたにも関わらず、何やら考え込んでいるアルベル。どうやら科学者気質らしい。
というかいきなり襲おうとしてきたか?セアミンのお陰で助かったけど、俺にナニする気だったんだ。
やっぱり見た目通り、ガラが悪いじゃないか。ちょっと心を許しかけた俺がチョロ過ぎた。
再び警戒心を抱き、階下のアルベルに話し掛ける。
「俺の事は知らんと言ってたけど、やっぱり何かしらの訳は知ってそうだな。ちょっと話を聞かせてもらおうか、アルベル」
俺は心の手のひらをクルクルし、少し語気を強めて駐車場に飛び降りた。
セアミンも俺に続いて隣に着地。無表情でシュ、シュ、(っ・・)≡⊃とシャドーしている。
さらに続いて他のP.U.N.K.たちも「お?ケンカかぁ?」「助太刀致す!」と家から出てきて、アルベルを取り囲んだ。
なんだか一気にアルベルが可哀想な構図になったが、しかし腐っても悪役。
ニヤリと不敵に嗤うアルベル。
すると電灯に照らされる彼の影が蠢き、そこから
なるほど。さっき言ってた「眷属を返せ」ってのは、俺が持つドルイドヴルムの事か。
アルベルが再び問うてくる。
「我から貴様に話すことはない。眷属を我に返せば、この場は見逃してやろう」
「俺からは聞きたいことがあるから、見逃さないのはコッチだ。……というか隣人なんだから、今見逃されたとしても今後逆に気まずいと思うんだが……」
「……、それもそうだな。では、どうする?このまま戦うか?」
アルベルの目が妖しく光る。深淵の獣たちが「グルル……」と唸った。
P.U.N.K.たちもそれぞれ武器を構え、一触即発の雰囲気になる。
おいおい、
「デュエルだ、アルベル。こんな場所で精霊たちがドンパチしたら、アパートが壊滅するぞ」
「同感だ。我もせっかく手に入れた住居を失うのは避けたい。そのデュエル、受けて立とう」
住む所を失うのはアチラも避けたいらしい。
高圧的な態度こそ崩さないが、どことなく庶民的な感じが拭えないな、このアルベル。
彼も突然人間界に実態化して苦労してるんだろう。
俺が勝手に親近感を抱いていると、アルベルは殺風景な駐車場を一瞥して言った。
「デュエルは良いが、この場所では些か趣に欠けるな。こうしよう」
アルベルが指をパチンと鳴らすと、彼と俺の足下にブオン、と巨大なホールが浮かび上がった。
「うおっ!?落ちッ……ない?このホールって、空間の裂け目的なヤツじゃないのか?」
「これは“穴”として完成する前に、空間が歪んだ段階で固定し足場にしたものだ」
「……意外と万能なんだな」
俺とアルベルを乗せたホールはそのまま徐々に浮き上がる。
高度を上げていく俺たちに、足下のセアミンたちが「高い所、いいな」「うぉい!俺たちも乗せろぉ!空中浮遊羨ましいなぁ!」とちょっと呑気な感想を叫んでいた。俺の心配もしてくれよ。
そんな精霊たちが米粒ほどになるまで、ホールの足場は浮かび上がる。
辺りは闇。
夜の帳がとっぷり落ちた、星と月だけが光源の夜空の中、俺たちは相対した。
上空に移動したことで、強い風に吹き付けられる。
「わざわざ高所でデュエルかよ……。やっぱ悪役が似合うな、アルベル」
「良い景色だろう?……さて、舞台は整った。喧しい隣人への躾を始めよう」
それは本当にゴメンなさい。それに関してはマジで気を付けます。
新たに出現させた手のひらサイズのホールが連なり、アルベルの腕に即席のデュエルディスクが装備された。そういう風にも使えるのか、ホール……
俺も長い
俺たちの視線が鋭く交錯し、同時に叫んだ。
「「デュエル!」」
スパイダー=ライ助同一人物論は、noteで見つけたP.U.N.K.狂いの人の考察を参考にしました。凄い熱量の記事だった…