決闘者セアミン(♂)   作:へるしぃーぼでぃ

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カード至上主義社会

 

 

 

──それから三日後。

 

「はぁはぁ、お嬢ちゃん可愛いねぇ。良かったらおじさんと……デュエル、しない?」

 

停滞の終焉(スタグレイション・エンド)

 

「あぎゃあああ!?!?」

 

朝から変質者の断末魔の叫びが響き渡る。

俺はこの街──歌舞伎シティにてひたすらデュエルに明け暮れていた。

別に遊んでいたわけじゃない。

身を守るのも、生活費を稼ぐのも、何をするにしても。

すべてをデュエルで賄えるのだ。このカード至上主義社会なら。

 

──怒涛の数日だった。

 

和服姿で道を歩けば精霊だと指差され、曲がり角を曲がる度にデュエルを申し込まれる始末。

どうやら精霊に勝つとそのテーマのカードが一式手に入るらしく、それはもうデュエルを挑まれまくられた。

パートナー云々は今のところジュラックお姉さんしか主張してないので、これはガセだと思われる。

そんなデュエリストたちを返り討ちにする度、この世界の通貨であるDP(デュエルポイント)がジャラジャラ手に入った。

振込先はセアミンのおかめヘッドギアである。お面を装着すると、面の内側が近未来的な画面を映し出すのだ。

そして勝者の権利を行使してこの世界の常識を教えてもらいつつ、ポイントで服を買いアパートを借りて(精霊というだけで無条件で借りられた。それでいいのか……)、俺はようやく生活基盤を築いて落ち着けたところだった。

 

今は半袖短パンサンダルと、非常にラフな格好である。

 

和装してないセアミンはそんじょそこらの中坊……いや小坊にしか見えないため、辻デュエルは激減した。

そんな普通の格好になった事でようやく平穏な日々を送れるようになった所だったが、今度は朝から変態ロリコンおじさんに絡まれてしまった。

 

変質者はどの世界にも居るらしい。

 

しかしこの世界はカードゲームが法みたいな所があるので、法に則ってデュエルでブチのめしたところだ。

あと普通にソリッドビジョンのデュエル楽しいしな。落ち着いてデュエル出来るなら積極的にやりたいのも本音だ。

道端に這い蹲るおじさん。

負けたダメージか興奮か、妙にハァハァと息を荒らげていた。

 

「ぐぅ!対戦ッ、ありがとうございました……!」

 

と思ったら力尽きた。

最後には礼節は尽くすから、この世界の変質者はなんだか憎みきれない。

カードゲームに支配された世界観だからか、根っからの極悪人みたいなのは居ないようである。

俺も一応ぺこりと頭を下げてから、その場を後にした。

 

「すごい!めちゃくちゃ強いねキミ!」

 

……と思ったら、今度は子どもに絡まれた。

道端でデュエルしていたのだが、通行人が皆足を止めて観戦していたのだ。おいおい、通学・通勤中じゃないのかよアンタら。

そんな野次馬の中から俺に話しかけてきたのは、すっごい目をキラキラさせた中学生くらいの、黒・金・赤と妙にカラフルな髪の毛をツンツン尖らせた、ブレザーの制服の少年。

 

……なんだかやたらと顔が良いな。

 

幼いながらも宝塚とかに居そうなほどの美形だ。

背丈は俺より目線一個分高い程度なのがもったいないほどの美少年である。

腕には旧型の、実物のカードをセットするデュエルディスクを装着している。

特徴的な髪型、整った顔、わざわざ重いデュエルディスクに現物のカードのデッキか。これはもしかして……

俺が詮索している間にも、少年はグイグイ来る。

 

「ボクよりちっちゃいのに“暗黒界”のおっちゃんを倒すなんて凄いね!?この人、ここら辺じゃけっこー強いんだよ?いつもハァハァ言ってる虚弱体質だけど」

 

あ、単に体力がない人でしたか。

そうなると普通に心配になって振り向いたが、おじさんは他のギャラリーのおじさんに肩を貸してもらい、きちんと介抱されていた。

俺がホッとしていると、少年の後ろから同い年くらいの青髪ロングの勝気そうな少女が進み出てきた。

目のやり場に困るレベルのミニスカートとノースリーブが目に眩しい。そのブレザー、魔改造され過ぎだろ。

 

「ちょっとユウキ!そんなちっちゃい子にいきなりグイグイ迫らないの!」

 

ユウキと呼ばれた少年は「え?ごめん、良いデュエルだったからつい興奮して……」と一歩引いて謝ってきた。

俺は「大丈夫」と首を振りながら、その名前を聞いて確信した。

ユウキ。

漢字はまだ分からないから確定ではないが、『遊』の文字が入るだろう名前。

……やはりこの少年、この世界の主人公では?

訝しむ俺に対し、少女(ヒロイン)も一緒に頭を下げてくる。

 

「急にゴメンね、アナタ。でもさっきのデュエル、本当に凄かったわ。あ、私たちはそこの歌舞伎デュエル学園中等部の生徒で、私は(こおり)って言います。怪しい人じゃないから安心してね」

 

「別に怪しくはないでしょ」

 

「こんなちっちゃな子に急に話しかける人は十分怪しいわよ。……さて、アナタのお名前を聞いてもいいかしら?」

 

夫婦漫才を前に、俺は頭を巡らしていた。

名乗られたからには名乗り返すのが筋だが、名前どうしよう、と。

この三日間はデュエル三昧で名乗る暇すらなかった。

セアミンと名乗ってもいいが、パチモン♂の自覚があるので憚られた。誰に対するものでもないが。

かといって前世の名前は男だったから、今のセアミン(容姿)に似合わなすぎるしなぁ。

……。

 

「……セアミです」

 

なんの捻りもないが、元ネタの世阿弥でいいか。俺にネーミングセンスは無い。

氷は「セアミちゃんかぁ」と呟き、ユウキは「ちょっと変な名前だね!……いやバカにしてるつもりは無いって!」とジロリと氷に睨まれていた。

ユウキがゴホン、とわざとらしく咳払いする。

 

「ねぇセアミ、次はボクとデュエルしようよ」

 

「ちょっとユウキ、また急にそんな事……。セアミちゃんも困るよね?」

 

「いいですよ」

 

「え、いいの?」

 

この世界の主人公のレベルがどんなものか気になるしな。

主人公の実力が分かれば、より明確にこの世界の基準が分かるだろう。

この世界じゃ遊戯王の強さは生活に直結するので、そういう情報は死活問題だ。

ユウキは無邪気に「やったぁ!」と元気よくバンザイした。なんかいちいち所作が可愛いな。

 

「しょうがない、デュエル馬鹿なんだから。……でも、やるからには勝ってよね?」

 

呆れたように言う氷を余所に、ユウキは「ああ、もちろん!」とデュエルディスクをウィーンガチャンと可動する。

俺も今は精霊の姿ではないので、先日購入した腕輪型の新型デュエルディスクを構えた。

自然な流れで路上デュエルだ。

 

「それじゃセアミ、早速やろう!デュエル!」

─【LP8000】

 

「デュエル」

─【LP8000】

 

どうでもいいけど、君たち学校はいいのか?

 

 

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