プロデュエリスト&Dホイーラーである恐竜族使いの遊姫の叔母、珠羅とのアツい深夜のライディングデュエルから一夜明け……
──時刻は昼時。
「遅刻だ……」
ぼんやりした頭で起き上がった俺は思わず呟いた。
カーテンから差し込む陽光は生暖かく、時計を見るまでもなく日が高い事が察せられた。
このセアミンボディ、夜更かしに耐えられなかったようである。
俺はカーテンをシャッ、と開け、学園の講師業は完全に遅刻である事を無事確認した。
「とりあえず、誰かに連絡しないとな」
俺の立場は非常にユルいといっても、無断欠席はあまりに外聞が悪い。
寝起き一発目の行動は、謝罪だな。
そう思ってスマホ機能付き腕輪型デュエルディスクを見る。多分理事長辺りからは連絡が来てるだろうと思っていたのだが……
「あれ?特に誰からも連絡来てない……」
そんな事あるか?
あの理事長は精霊である俺に
無断欠勤なんてしたら、いの一番に安否確認してくる人だと思っていたのだが……
「まぁ一旦お詫びのメールを送って……、学園に行くか」
とりあえずベッドから起き上がって支度に掛かる。
というかP.U.N.K.の皆の誰かが起こしてくれても良かったんじゃないか?
そう思って部屋から出ると、着崩した甚平姿の青髪長髪のイケメン野郎が「ふあぁ」とアクビしながら廊下を歩いていた。
「うおっ、誰だキサマっ」
俺の反応に彼は「えぇ?そりゃないぜマスター。俺だよ俺」とどこからか取り出した特徴的なグラサンをスチャリと掛けた。
「あ。なんだ娑楽斎か」
青髪イケメン野郎は娑楽斎だった。お前そんな顔面整いだったのか……
無事に身分証明できた娑楽斎が「やれやれだぜ」とグラサンをしまう。
「おそようさん、マスター。……つっても俺らも今起きたトコだけどなァ。なーんか今日はダリィんだよなァ」
お前らも寝坊かよっ。
そう言ってどちゃクソイケメンなその顔をしんどそうに歪ませる娑楽斎。
ダルいと口では言っているが、そのアンニュイな姿もサマになっていた。イケメンめ。
……いやでもホントに調子悪そうだな。
「すまん、見慣れない顔だったから反射で。……それより大丈夫か?精霊でも体調が崩れる時ってあるんだな」
「んー……体調っつーか、精霊の力がどっかに吸われてる感じなんだよ。セアミンたちもグッタリしてるぜぇ」
娑楽斎が親指を向けた先のリビングに向かうと、そこにはP.U.N.K.の皆が勢ぞろいしていた。
しかし全員にどこか覇気がなかった。
よれたパジャマにナイトキャップをナナメに被った、無表情で床に大の字で横たわるセアミン。
キッチリ着こなしたナイトウェアで、「あ、ますたぁおはよー」と椅子に座るディア・
少しはだけた寝巻きで、寝てるんだか起きてるんだか分からない糸目のワゴンが「むぅ、セッションする元気が湧かぬ」と呟く。
その背におんぶされてまだ寝てるライジング・
「なんだ?全員調子が悪いのか?」
俺は寝起きでダルいだけだが、彼らはそれを加味しても具合が悪そうだった。
俺は床に落ちているセアミンを抱っこしてソファに下ろして介抱すると、彼女が口を開いた。
「……誰かが凄く精霊の力を使ってる。はた迷惑……」
そう言い残すとセアミンは目を瞑って……、寝た。
なに、精霊の力ってそういうシステムなのか?
娑楽斎も椅子にどっかりと座って忠告してくる。
「学園の方で強力な精霊が何かしてる気配がビンビンすんぜ。出掛けんなら気を付けろよ、マスター」
「マジか。じゃあ誰からも連絡ないのはそういう……?」
俺が呑気に寝ている間に、世間では何かが起きているようだ。
そう思っていた矢先、誰かから通話が掛かってきた。
通話の主は……遊姫だった。
俺は一も二もなく電話を繋げる。直ぐに元気な──しかし緊迫した声音が部屋に響いた。
「あ!セアミ繋がった!セアミ今どこに居るの!?」
「うおっ、どうしたんだ遊姫?そんなに焦って。俺は今起きたところで、家に居るけど」
「!、あは、ボクも今起きたところ!ッじゃなくって!それよりもヤバいよ!ボクもよく分かってないんだけどさ……」
どうやら遊姫も夜更かしの影響で寝坊助だったようだ。
寝坊仲間で一瞬だけ楽しそうな声を上げた遊姫だが、しかし直ぐに深刻な声に戻った。
やはり何か、重要な何かが起きてるらしい。
息を整えた遊姫が、その内容を喋った。
「何だか学園が大変な事になってるみたいなんだ」
◆◇◆◇
「起きたら珠羅さんの書置きがあって『学園で大規模なモンスター騒動が起きてるみたいだから、出動してきます』ってあったんだ」
あのまま電話越しに遊姫と待ち合わせ場所を決めて落ち合うと、俺たちは学園へと向かっていた。
髪をセットする時間も惜しかったのか、遊姫はカラフルなロングヘアをストレートのままでやってきた。
普段の男装を見慣れてると、髪を下ろしたただけで倍増しで美少女に見えるな。かわいい。服装は相も変わらずパンツスタイルだけど。
ちなみに俺はいつもの半袖短パンスタイルです。
遊姫は珠羅の書置きとやらの紙をわざわざ持ってきていて、それを俺に見せてくる。
その文言の下には続いて「起きても来ちゃダメよ?自宅待機!」と注意書きが書いてあった。
「来ちゃダメって書いてあるけど……」
「いやいや、ボクも最初はそうしようとしたよ?だけど珠羅さんだけじゃなくて、氷とか他の友達も連絡が着かないんだ。こんな状態じゃ家でジッとなんかしてられないって!」
他の人も連絡が着かないのか。それは確かに心配だな。
鎮圧に向かったであろう珠羅とも連絡が取れないのも、事態の深刻さに拍車を掛けている。
果たして学園では今、一体何が起きているのか。
「?、こんな建物、あったっけ?」
そんな感じで電車と歩きで移動し、もう少しで歌舞伎デュエル学園に着こうかという時。
ふと、遊姫が立ち止まって周囲をキョロキョロしだした。
俺も同じく違和感を感じて、すっかり見慣れた街並みの中から見慣れない建物を見つけた。
「白い……教会か?」
シティと名乗る街並みの中に似つかわしくない、中世風な石造りの建築物。
しかもひとつだけではない。
進むにつれて街並みそのものが、見慣れない異国の地の趣きへと変わっていくではないか。
気付けば通行人も居なくなっており、俺と遊姫はさながら異界入りした様な状態になっていた。
物言わぬ白亜の壁の圧迫感が凄い。
「えー!?さっきまで歌舞伎シティに居たのに、いつの間にか全然知らない街に来ちゃった!?」
「いや。来たって言うか、俺たちが入ったのか……?」
ちょっとパニック気味な遊姫を落ち着かせながら、俺は少し考える。
こんな教会チックな建物が並ぶ街など知らないはずだが、しかし何処かで見たような景観なんだよな……
俺が心当たりを探っていると、遊姫の隣にレイとロゼ、それにエクレシアとアルバスが現れた。
彼らの表情はどこかやつれ気味で、少し元気が無いように見える。
それでも気丈に周囲を警戒するロゼが、学園のある方を向いて呟いた。
「朝からずっと嫌な気配を感じていたのは、これのせいか」
「それに、とてつもなく強い精霊の力が働いている。この感じ……敵対してたスペクトラに似てる」
レイも険しい表情でその方向を見る。
スペクトラ──閃刀姫ストーリーに於いての敵国……ロゼがかつて所属していた陣営だ。
そんな国単位の存在が何かしているっていうのか?ヤバくないか、それ。
俺が戦慄していると、エクレシアが「ここは……」と声を漏らした。
「これ、『教導国家ドラグマ』じゃないでしょうか?私がかつて住んでいた国……」
言われて、俺はようやく合点がいった。
あまり使用される機会は無いのでうろ覚えだったが、たしかに雰囲気が清廉だった頃であるフィールド魔法✧『教導国家ドラグマ』と瓜二つだ。
遊姫が「えぇ?」と唸った。
「っていう事は、フィールド魔法が発動してて、ボクたちはその中に入っちゃったって事!?」
「そうみたいだな。モンスター騒動の次はフィールド魔法が展開か……」
次から次へと、どんどん現実を侵食してくるな、精霊の力は。
アルバスが自身の手のひらを見て呟く。
「これだけの規模の精霊の力の発現をどうやって実現してるのかと思えば……、
目を凝らせば、精霊である彼らの身体からサアァ……と光の粒子が街へと吸い込まれていた。
娑楽斎たちも「今日はダリィ」と零して元気が無さそうにしていた理由はコレか。
どういう原理で精霊の力を収集しているのかは謎だが、このフィールド魔法が諸悪の根源の様である。
通信機器も圏外だし、今までの騒動とは一線を画す状況だ。
俺がそう考えていると、街の中央と思しき小高くなっている白亜の城の一角が突如、ボゴオォン!と崩壊した。
「あ!あれはレクスターム!」
遊姫が叫ぶ。
昨日、俺を散々苦しめたダイノルフィア・レクスタームが、ドラグマの街並みを破壊しながら突き進んでいた。
同時に、空を縦横無尽に駆ける鎧武者の何者かがレクスタームの牙と剣戟を交わし、散る火花が遠目に見えた。
珠羅さんは絶賛交戦中かっ。あの相手は……もしかして『教導の騎士フルルドリス』か?
しかしあの移動スピード……、ドラグマという異国情緒の中をDホイールで爆走してるようだ、珠羅さん。
このワケが分からない状況の中、破天荒なその珠羅の行いは見ていて安心感と清々しさを与えてくれる。
「珠羅さん頼もしすぎだろ……」
「うん。珠羅さんはこういう時凄く頼りになるんだよ!でも珠羅さんばっかり頼るのもアレだし、ボクたちも何か……、ん?」
遊姫が何かを見つけて指を差した。
「あ、あそこで何か動いたよ!……モンスターかな?」
身構える俺たち。
そして俺たちの目と鼻の先──白無垢の建物の陰から現れるは、ふよふよと浮く無機質な身体をしたモンスター。
アレは……
「あれは……デスピアンか?」
デスピア下級モンスターの、悲劇のデスピアン。
つい先日、アルベルが扱っていたモンスターだ。
その1体が現れたのを皮切りに、さらに別の建物から喜劇のデスピアンも現れ、それらがワラワラと一斉に数を増していく。
「うわわわ!?なんかいっぱい出てきた!?どうしよう!?」
「完全に囲まれた……、やるしかないか?」
精霊たちが本調子じゃない今、モンスターに囲まれた今の状況は非常にマズい。
幸いにしてデスピアンたちのステータスは高くないから、魔法・罠を駆使すれば強行突破できるか?
俺たちがそれぞれデッキトップのカードに手を掛けた、その時。
デスピアンの群れがピタリと止まり、その奥からカツ、カツ、と靴音が響いてきた。
「おやおや、まさか学園の外に居たとは。貴方は本当に破天荒ですね」
聞く者を安心させるような鷹揚な声。
荘厳な法衣を纏った一人の男が、俺たちの前に現れた。
「この人は……」
「お前は……大神祇官!」
話だけは聞いていた