歌舞伎デュエル学園に外部精霊講師として招かれてから、数日が経った。
講師と言っても特に何か強要されるわけではなく、実質的に校内を自由に出入り出来る権利を持たされた部外者だ。
なので俺は気が向いた時に学校に赴き、生徒たちとデュエルしたりボーッとしたりして気ままに過ごしている。
一応、校内に入る時はひと目で精霊と分かるよう、
というか当初、私服(半袖短パンサンダル姿)で校内をウロついてたら俺の方が色々大変な目に遭ったのだ……
具体的には、イキった男子生徒からナメ散らかせられ、女子からは「カワイイ〜」と取り囲まれて揉みくちゃにされたのだ。
セアミンの見た目は小学生ぐらいにしか見えないロリ……いやショタ?だからな。
中学生が相手だと、そんな姿はナメられるしマスコット扱いも受けて当然だった。
その点、精霊姿だと皆一歩引いた対応になる。
この世界ではカードの精霊というのは、生意気盛りな中学生といえど一定の敬意を払う存在らしい。
精霊姿だと男子は真っ当にデュエルを挑んでくるのでそれをブチのめせばいいし、しつこい女子にはおかめヘッドギアを被れば「それは可愛くない!」と言って勝手に離れてくれる。
精霊ボディをありがたく思った瞬間である。
そんな感じで平和な日常を過ごしていたのだが、しかしある一点が学園生活にちょっとだけ支障を来していた。
それはトイレ問題である。
精霊と言われれば、もっと神聖というか神秘的というか、とにかく人間とは異なる
しかしこのセアミンボディには、普通の人間のように生理現象が存在していた。精霊のくせに。
「まぁ、それに関して俺が困ることはないんだが……」
俺はもはや慣れた動作でしゅるりとスカートをたくし上げ、タイツをちょっと下ろして小便器の前に立った。
「うぇえ!?」
「ちょっ!?セアミさん!?」
先に用を足していた二人の男子生徒が、隣に立つ俺を見て素っ頓狂な悲鳴を上げた。
俺はこれにも慣れた様子で言葉を掛ける。
「なんだ?いくら男同士とはいえ、ジロジロ見るのはあまり関心しないな」
「え!?いや、そういう訳じゃ……っ、すみません???」
「……」
沈黙する思春期男子二人。
すまんな、小便終わったらすぐに居なくなるからこの一瞬だけ勘弁してくれ。
しかし身も心も、俺は立派な男なのだ。
それに俺はお披露目デュエルが終わった後、その場できちんと周知していた。自分の性別が男だという事を。
だから俺は堂々と男子トイレを活用しているのだが、他に利用者が居ると毎回こんな空気になってしまうのだ。
俺だって最初の内は配慮した。
初めの数日こそメッチャ遠い人の居なそうなトイレに行ったりしていたのだが、しかしそこでも男子生徒と出くわすことがあったので、もはや今は逆に堂々と利用していた。
そもそも、俺が男である事は周知したんだし、実際に男なのだから何も問題はないはずである。……ダメか?
隣の男子二人は……めちゃくちゃ居心地悪そうにチラチラソワソワしていた。
どうやらダメそうだ。
俺は無心で用を足し終えた。
手を洗っている間もずっと背中に視線を感じるが、無心。
気持ちは十分分かる。分かるが……俺は男、男だぞ!
こんな感じで、俺というより男子生徒の情緒の方に少々支障を来していた。もうそろそろ慣れてくれっ。
しょうがないから小便のみの場合でも個室を使うか検討中だ。けど、いちいち座るの面倒くさいんだよなぁ……
そんな胸中でトイレから出ると、女子トイレから出てきた男装の麗人・遊姫とバッタリ会った。
「あ、セアミ。……、……///」
遊姫の視線が、俺の顔から男子トイレの標識へと向き、そして俺の下腹部へ向かう。
そして耳から顔から赤くなっていく。
目の前でそんな顔でジロジロ見られたら、流石に俺もなんだか恥ずかしくなってくる。
というか股間をガン見し過ぎだ、お姫様!
支障というか、この子に関してはどう対応したらいいか非常に困っていた。
俺は苦言を呈す。
「あの、遊姫さん?さすがに見つめ過ぎというか……」
「へぁ!?な、なんの事かな!?ッ別に、セアミってホントに生えてるんだぁとか、そんな事思ってないよ???」
思ってるじゃないですか。まだ横目でチラチラ見てるし。
この様に、遊姫はちょっと俺に対してだいぶ性癖を拗らせていた。
セアミンにちんちん付いてるのがそんなに気になるか。……気になるか。気になるな。
遊姫の後からトイレから出てきたキツ目美人の氷が、ため息まじりに俺に注意してきた。
「セアミ君。あんまり遊姫の性癖を壊さないであげて?」
これ、俺が悪いのか?
男子生徒の方はともかく、遊姫に関してはこれもう本人の
まぁ、普段は天真爛漫なイケメン系美少女が赤い顔でモジモジしてる様は、可愛い。
可愛いが、眼前の人間から性的に見られている場合ってどう対処したらいいんだ?相手がいくら美人でもいたたまれないぞ、これ。
困り果てる俺を尻目に、俺の後からいそいそと男子トイレから出ていく男子生徒二人に気付いた遊姫が、彼らにそっと近寄った。
「ねぇねぇ、ちょっと」
そしてその二人の肩にガッチリ組み付き、何やら耳打ちする。
「ねぇ君たち、セアミの……その……アレ、見た?本当に付いてた?」
「え?え?遊姫さん?ちょっ、近……!?」
「アレって……
「そう、
「付いてるのをハッキリ見たわけじゃないですけど、俺たちの隣で一連の動作をしていたから確実に付いているかと……」
「ホ、ホント!?……ち、ちなみに一連の動作って?男の子って立ったままするんでしょ?どどどどんな風に?」
「コラ遊姫!逆セクハラしないの!」
氷の一喝で遊姫の背筋がピャッと伸びる。
ついでに男子二人は氷の眼光に睨まれ、そそくさと退散していった。
遊姫、いくら興味があってもそれはちょっとアウトだ……ドセクハラすぎる……
可愛らしく「えへへ?」と笑ってもダメだ。ギルティ。
氷がクソデカため息をつく。
「ごめんねセアミ君。ウチのムッツリど助平エロエロ遊姫がご迷惑を」
「ちょっと!?なんか凄い不名誉な言葉が名前の前に付いてるんだけど!?ボクはそんなムッツリドす……けべ……ェ……とかじゃないよ!!」
「言葉にするのは恥ずかしがるのか、遊姫」
「そうなのよ。そういうのがムッツリだっていうのに。……でも、セアミ君に出会う前はこんなのじゃなかったのよ?責任取ってよね」
「え?やっぱり俺のせいなのか?」
やはりセアミン♂が遊姫の性癖を破壊してしまったらしい。
しかし責任と言われても、どうしたらいいんだ。
俺は遊姫をチラリと見る。
バチッと目が合った。
途端、真っ赤な顔で挙動不審になる遊姫。
「っあ、あぅ……、ボ、ボクはエッチじゃなーい!氷のバカー!」
そう言ってピュー!とどこかへ走り去っていく遊姫。
やれやれといった風に、それを歩いて追いかける氷。
一人残された俺は、推定主人公から向けられる情欲にどう対応しようかと頭を悩ませた。
ホビアニのキャラなら性欲とは無縁のハズなのになぁ。
しかし今俺がいるこの世界は、現実。
一見ホビーアニメみたいだが、実際に遊姫たちはちゃんと生きた人間なのだ。そりゃ生々しい視線のひとつやふたつ、向けてくる。
好意を寄せられていると言えば聞こえは良いが、このままじゃいつかR18展開まっしぐらになってしまうッ。セアミン♂の貞操の危機を感じる。
去っていく彼女たちの背を見送りながら、俺は今後の学園生活での身の振り方を考えるのであった。