範馬刃牙VS陸奥九十九〜修羅の門と刃牙道と〜   作:中村鹿男

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第八話 STAND AND FIGHT

 舞子が神武館の廊下を歩いていると神武館談話室から人の気配を感じた。扉を開け、中を覗いてみれば、そこには陣雷と青年が椅子に座ってテレビを見ていた。

 

 青年は癖毛で目が大きく、中性的でどこか挑発的な顔立ちをしていた。美青年と言って差し支えないだろう。小柄に見えるがよく見ると全身が太い。もちろん肥満ではない。鍛え上げられた筋肉が衣服を押し上げているのだ。テレビに映し出されているのは、陸奥九十九と不破北斗の試合だった。

 

 「で、ここでフライングニールキック」

 

 陣雷が呟くと、青年は

 

 「早いね…うわ。すげェ…」

 

 と嬉しそうに笑う。

 

 「でも、これ、刃牙でも」

 

 「うん、躱せる」

 

 「範馬刃牙…」

 

 舞子がうわごとのように呟くと2人が同時に振り返った。

 

 

 「ちょっと、陣雷さん!!!どう言うつもりですか!?!?」

 

「そうだぞ!!!お前、なんでコイツがここにいる!!!」

 

 舞子とマッイイツォの2人から同時に責められる陣雷だったが、まぁまぁ…と制する。

 

 「2人とも落ち着いて。今朝、会ったんだよ、刃牙と。そんでツレになって、俺の家来るってなって」

 

 「子供じゃないんだから!!!」

 

 舞子は声を荒げる。

 

 「遊びに来るのはまだ分かるけど、だからって九十九対策を一緒にする必要はないじゃない!」

 

 「見てみたくないですか?万全の範馬刃牙が陸奥九十九に挑む姿…それに、多分、陸奥はこんなの気にしないですよ」

 

 こともなげに陣雷は言ってのけた。

 そして、陣雷は言わなかったが、刃牙には不思議な魅力があった。なぜか、コイツの為に何かしてやりたい。そう思わせる人間力が刃牙にはあるのだ。

 

 騒ぎにも関わらず、刃牙は画面上の陸奥九十九に見惚れていた。画面にはアリオスキルレインとの対決が映し出されていた。

 強い…本当に強い。技が多彩、力が強い、それ以上に…。

 

 あら、なんの騒ぎ

 

 と凛子が顔を出した。皆、そろってそちらを見る。

 

 「ふたりが!!!」

 「陣雷さんが!!」

 「この馬鹿が!!」

 

 3人が同時に声を上げた。

 凛子は画面に見入っている刃牙を見つけた。

 

 「俺が連れてきたんす。陸奥九十九対策を一緒に考えようって」

 

 「陣雷くんって馬鹿ね」

 

 クスクスと笑う凛子。

 

 「でも、好きよ。その馬鹿さ」

 

 「皆さん、陸奥九十九って…どんな人ですか?」

 

 刃牙は画面から目を離さずにつぶやいた。

 刃牙は尋ねずにはいられなかった。

 先ほど、画面上の陸奥九十九は不破北斗を四門の朱雀で屠った。さらにブラジルのバーリトゥード大会でレオンと言う強豪を玄武と言う技で殺したと言う。

 一体、彼はなぜそこまで戦うのか、何が突き動かすのか。彼の試合は結果だけ見れば凄惨。しかし、どの試合も清々しい味わいがある。不思議な人だと刃牙は思う。

 

 3人がこの青年に引き込まれる。

 舞子は不思議な青年だなと思う。すごく子供っぽいようで、どこか大人びていて、優しそうででも非情そう。そして、どこか似てる…

 

 「強い!!!」

 

 陣雷は刃牙の隣でそう言い放った後、うんうんと何度も頷いた。

 

 「そうだな…強い…強い男だ。戦いが強いだけではなく、ハートも強い。…強いが…どこか放っておけない男だ」

 

 マッイイツォも顎に手をやり、目を瞑って話す。

 

 全員が舞子の方を見た。

 舞子はカーッと顔が赤くなったあと、言い放つ。

 

 「馬鹿!!!世界一の大馬鹿よ!!!世界一の負けず嫌いッッッ!!!!」

 

 「それは違う。世界一の負けず嫌いは俺だよ」

 

 刃牙は画面から目を離さずに答える。

 舞子がグッと口をつぐんだ後、何か言い返そうとした時、

 

 「いや、世界二位だ」

 

 見れば入り口に陸奥九十九が立っていた。道着が汗で全身くまなく湿っている。

 

 「陸奥九十九…さん」

 

 と刃牙。

 

 「範馬…刃牙…」

 

 と陸奥九十九。2人は数日ぶりに目を合わせた。

 

 

 で…なんで昼ごはんみんなで食べてるのよ!!!

 

 神武館の食堂で、刃牙を含め、陸奥九十九、陣雷、マッイイツォ、舞子で長机を囲み昼食を食べていた。

 

 ご飯に味噌汁、ニラ玉、シャケ、ほうれん草のおひたしが並ぶ。一心不乱に男たちは飯にありついていた。

 

 「すいません、頂いちゃって、美味いっす」

 

 刃牙は申し訳なさそうに軽くお辞儀を舞子にする。

 一見ただの礼儀正しい青年だが、彼こそが世界最強とも言われている範馬刃牙なのだ。舞子は、あ、いえ、と曖昧な返事をしてしまう。

 

 「刃牙くんの好みにあって良かったわあ。ね、もし良かったら特別コーチとしてウチに来てよ」

 

 凛子の言葉に今度は刃牙がえ!?あ!?と面食らう。流石の刃牙も凛子の前ではたじたじになり、マッイイツォがふふ…と微笑むと、陣雷がちょっと〜!!!ダメですよ!!!刃牙を特別コーチになんて!!!と止めに入る。

 

 あまりにも…あまりにも和やかすぎる…ッッッ!!

 

 刃牙は心の中で思わず叫んだ。

 百戦錬磨の猛者である刃牙にしても初体験。

 近々、死闘を演じる男と食卓を囲み、敵地であるにも関わらず、歓迎され、冗談が飛び交うことなど、初体験であった。

 

 あまりにも…あまりにも神武館という懐は深い。

 それもそうだ。自分の道場の実力者である海堂を倒した陸奥九十九をまだ客人として道場に置いているのである。

 

 「九十九さん、飯食ったら、散歩しねェっすか?」

 

 えっっ

 

 と神武館の面々は声を上げた。

 

 深い懐、ならば敢えてそれに飛び込む。

 刃牙は自然とそう言っていた。そうするのが当然の流れだと感じたからだ。俺はこの人をよく知りたい。よく知った上で…不破北斗やレオン、姜子牙のように命を賭けて戦いたい。そう思ったのだ。

 

 「いいよ」

 

 陸奥九十九はあっさりと答えた。

 

 

2人は河川敷を歩く、ブラブラとあてもなく。

 死闘を演じる…文字通り、お互いの命を賭けて戦う。陸奥九十九との試合は必ずそうなる。なのに殺し合う相手とこうして昼下がり散歩をすると言うのは、不思議な気持ちだった。しかし、嫌ではない。むしろ心地よい。

 お互いに言葉数は少ない。でも、それでいいのだ。

 

 「九十九さんってさ…家族いんの…?」

 

 刃牙はなんの気なしに尋ねる。

 

 「じいちゃんが田舎にいるだけ。親父は会ったことないし、母は病で倒れて…兄は……亡くなった」

 

 九十九は刃牙とは目を合わせず、川の方を見ながら言った。

 

 「ウチはさ…親父がいて、兄貴がいて、母さんは昔…死んでる…」

 

 「兄貴…いるのか?」

 

 「うん、腹違いで。ジャック兄って言うんだけど、俺と全然似てないだ」

 

 「そうか、俺も兄貴とは全然似てない。俺と違って優しい人だった」

 

 「そうなんだ。そうか。うん。いいね。ジャック兄は…優し…くは…ないかな…強いけど」

 

 「範馬家は強い男ばかりなんだな」

 

 「親父がああだからさ…陸奥家はどうなの?」

 

 「全員強い。爺さんも、そのまた爺さんも、そのまた爺さんもな」

 

 「そうなんだ。実はさ、俺も詳しくないんだけどさ、ウチのじいちゃんが範馬勇一郎って言って…」

 

 話は弾んだ。思いの外、いや、むしろ、想像通り?

 それで、日が暮れて来たとき、刃牙は、じゃあ今度はウチ来る?と陸奥九十九を家に招待した。陸奥九十九は黙って刃牙の後に続いた。

 

 

 座して花山薫が持って来た酒を2人で少しずつ傾ける。

 話は尽きなかった。まるで久しぶりに会った親友が合わずにいた日々を埋めるように話し続けた。

 互いにアメリカで過ごした日々を語り、九十九はブラジルでの生活を話すと、刃牙は中国で過ごした日々を語る。

 

 天才の名を欲しいがままにする2人の若者が、破顔して語り合う姿。2人の戦う姿を知るものならば、信じられないほど寛いだ姿だった。

 

 

 梢は刃牙の家の前で一瞬、ハッと固まる。

 夜、刃牙の家に遊びに行ったら、誰かが部屋の中にいるのだ。気配でわかる。そして刃牙は…今、とても楽しんでいる。

 梢の直感がそう告げていた。

 

 女…!?嘘ッッッ!?浮気ッッッ!?嫌ッッッ!?最低ッッッ!?殺ッッッ!!!???

 

 走ってドアノブを回し、部屋の中に押し入る。

 そこには女の代わりに、飄々とした青年が1人、刃牙と酒を酌み交わしていた。

 

 「あ、梢、このひとは陸奥九十九…俺が近々戦う人」

 

 「陸奥さん、どうも…」

 

 梢はおずおずと頭を下げた後、先ほどまでの取り乱した自分を恥じ、顔を赤らめ台所に立った。陸奥九十九…陸奥九十九って、あのTHE Apexの!?

 

 「よかったらつきだし作りますよ。陸奥さんは食べれないものありますか?」

 

 努めて冷静に梢は問いかける。

 

 「ない、ありがとう」

 

 そう言った後、陸奥九十九はまた刃牙と向かい合い、滔々と話し続ける。刃牙はそれを興味深そうに聞く。

 

 台所でもやしを炒め、かまぼこを切りながら梢はチラリと2人の姿を見た。そしてちょっと妬いた。

 刃牙があんなに楽しそうにしているのを見るのは久しぶりだったからだ。

 まるで兄と戯れているような、旧知の友と思う存分語り合っているような…近々戦う人…刃牙はそう言った。その言葉がざらついたヤスリのように梢の心を削るのだった。

 

 そんなモヤモヤを断ち切るように、梢は皿に料理を盛ると、「さ!できたわよ!」と明るく2人に料理を振る舞った。

 

 

 「九十九さんは、なんで戦うんですか?」

 

夜も更けて来たところだった。刃牙と梢と陸奥九十九の3人は和やかに話し続けていた。最初は緊張した面持ちだった梢もこの頃には口で手を押さえ、クスクスと何度も笑っていた。

 

 そして、なぜ戦うのか?と刃牙は陸奥九十九に尋ねる。この日に限ってはもう恥じらいも何もない。すんなりとその言葉が出て来た。梢は刃牙の顔を心配そうに覗き込んだ。

 陸奥九十九は考えている様子だった。

 それは…と言ったあと口をつぐんでしばらく考えていた。そし答えた。

 

 「…stand and fight。立って、そして戦いなさい。恩人に教えてもらった言葉だ」

 

 「stand and fight…いい言葉だ」

 

 刃牙は噛み締めるように言った。それだけで充分だった。陸奥九十九を知れた。

 

 

 部屋に日の光が差し込んでくる。

 刃牙は梢の膝の上で寝ていた。

 その夜は大いに飲み食べ話したのだった。そして刃牙は途中で目を擦りウトウトと梢に寄りかかって眠りこけてしまったのだった。

 梢と陸奥九十九はその姿を見るでもなく見ている。

 

 「今日はありがとう、そろそろ行く」

 

 陸奥九十九は立ち上がった。

 

 「こちらこそ、ありがとうございました。刃牙、とっても楽しそうだったから…もう行くんですか?せっかくだから…」

 

 梢は朝食も、と言おうとしたが九十九は軽く微笑んで玄関に向かった。梢もその後に続く。

 

 そして家を出る前に振り返り見送る梢に言う。

 

 「刃牙が起きたら伝えてくれ。存分にやり合おうと」

 

 梢にはその言葉の意味が痛いほど理解できた。

 つまり、今度会う時は…命のやり取りになると陸奥九十九は言っているのだ。

 

 

 部屋に戻ると、刃牙は起きて胡座をかいて窓の外を眺めていた。その視線の先には…

 そんな刃牙に、梢は立ったまま話しかけた。

 

 「いい人だったわね」

 

 「ああ、いい人だ」

 

 「でも、戦うのね」

 

 「ああ、戦う」

 

 「なんで」

 

 梢がハッキリとした口調で尋ねる。

 

 「それは、俺が範馬刃牙であの人が陸奥九十九だからだ」

 

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