御式内。
会津藩御留流(藩外に伝えることが禁止されていること)武道であり、合気道の祖となった大東流合気柔の源流になったと言われている。
会津藩は江戸時代、徳川家光の異母弟・保科正之を祖とする親藩(御家門)の代表格であり、徳川宗家を支える「忠義」を家訓の根幹としていた。そんな会津藩が、徳川宗家を守るために考案された秘伝。それこそが御式内である。文献のみに残されており、その全容は未だ明らかになっていない秘伝中の秘伝である。
文献によると、殿中(江戸城内)での使用を想定されたそれは正座の体勢から始まるとされている。
無論、陸奥九十九は御式内を知らない。しかし、陸奥圓明流は御式内を知っている。100年以上前、時の陸奥圓明流後継者『陸奥天兵』が御式内の使い手『西郷四郎』と対決している。陸奥のDNAがこの状況の最適解を陸奥圓明流千年の結晶である陸奥九十九に取らせたのであった。
パックマン!?
刃牙の脳裏にビスケットオリバが思い出される。
全身の筋肉を隆起させ、球体となり、完全な防御姿勢取るビスケットオリバの必殺技である。
隙だらけのようで隙がない…それは似ている。異質なのも似ている。でも、違う…もっと…スマートで、もっと危険な何か…
「動かねェのならよぉ…」
刃牙は近づき、陸奥九十九の顔面に強烈なミドルキックを見舞った。蹴りが九十九の顔面に当たる。その瞬間、刃牙の視界が反転した。地面が上、天井が下。そのまま急加速。
つまり…投げられているッッッ…!!!早いッッッ!!!受け身ッッッ!!!無理ッッッ!!!衝撃の準備ッッッ!!!!
受け身が取れず背中からモロに砂の上に叩きつけられた。肺の中の空気が全て押し出され、鋭い痺れと痛みが同時にやってくる。しかし、刃牙はそれでも瞬時に立った。
べっっ!!!と口内の血を吐き出し、陸奥九十九を睨む。九十九は敢えて視線を合わせず、静かにやや斜め下、砂の上を見つめる。
ミドルキックが当たる瞬間、陸奥九十九は刃牙の足を両手で絡め取り、瞬時に床に投げたのだ。
御式内。その正体は、360度全方向からの攻撃に対してカウンターの投げを放つ究極の盾であった。
舐めやがってッッッ!!!
刃牙は陸奥九十九の目の前までジリジリと近づいた。
「攻撃を防ぐために座り込む…まるでトンチ…九十九さん、じゃあよォ〜…『九十九さん、この虎、縛り上げてくれぬか』」
ゆっくりと刃牙は座る陸奥九十九の手を取った。
攻撃が防がれるなら、攻撃を前提としない動きをすればいい。優しく刃牙は九十九の手を取り、少し引っ張る。
その時、刃牙が動いた。
刃牙は自らの右足で上から九十九の頭を押さえ込むと、左膝を九十九の顎にぶち当てる為に跳ね上げる。
上顎うわあぎとと下顎したあぎと…噛み砕く虎の顎になぞらえた秘技…虎王である。
しかし、九十九の顎を捉えることなく、下顎は宙を切る。虎王よりも早く九十九が刃牙を投げていた。
これは…!!!さっきの投げと…ッッッ違う!!!
「阿呆…ッッッ!!!未熟過ぎるッッッ」
範馬勇次郎が吐き捨てるように言う。
いかに御式内が強力と言えど、陸奥九十九からすれば使い慣れない付け焼き刃。御式内を釣り餌にして、本命を放つ。九十九が放ったのは…
再び刃牙の視界が反転。
と同時に、刃牙の頭部を陸奥九十九は思いっきり蹴り上げた。
陸奥圓明流…雷…投げて反転した相手の頭部を下段蹴りで粉砕する陸奥圓明流の技のひとつである。
飛翔した虎は雷によって落とされたッッッ!!!
流石の刃牙も脳が揺れ、骨軋み、肉が裂ける。
頬がパックリと切れる。
きりもみしながら砂の上に落ちる刃牙。
目が白黒し、視界がチカチカと点滅する。
それでも、それでも尚、刃牙はすぐに立って構えた。手負の虎に回復を許すほど陸奥圓明流は甘くない。
陸奥九十九は既に追撃の構えを見せていた。
陸奥九十九の流儀…
それは相手に全力を出させて、更にその上をいき勝利を掴む。偶然などと言う言い訳はさせない、完全なる勝利。故にスロースターターと言われている陸奥九十九。しかし、この日に限っては火がつくのが早かった。それはひとえに刃牙に対する信頼からである。
範馬刃牙は…範馬刃牙の全力は…
追い詰められた時にこそ発揮される…
耐えれるだろ…?刃牙…
陸奥九十九の目が語りかける。
無茶言うなってッッッ!!!!
陸奥九十九が刃牙の胸にポンと拳を置いた。
超A級の緊急事態ッッッ!!!人体…どころか命の危険ッッッ!!!無慈悲にも今度は陸奥九十九の虎が鳴いた。
虎砲
拳の当たった箇所に、自分のパワーを全て叩きつける陸奥圓明流の技である。
刃牙は神がかり的な反射神経で後ろに飛び退き、避けた…ッッッ!!!刃牙は避けたッッッ!!!
しかし、刃牙の…範馬の血が告げる…
まだ危機は脱していないッッッ!!!これは虎砲ではないッッッ!!!
これは…ッッッ!!!無空波ッッッ!!!
無空波 陸奥圓明流の奥義である。
虎砲と同じ軌道で放たれる。しかし、違うのは当てた拳を腕を激しく振動させ、全身のパワーを衝撃波に変えて相手に叩き込む。直接当てずとも、衝撃波は宙空を伝わり、相手に叩き込まれる…不可避の奥義である。
喰らえば勝負が決するッッッ!!!
陸奥九十九は奥義を放っても、刃牙はこの危機を絶対に脱すると思っている。だからこそ放った。
全力を見せてくれるだろ?
つくづく陸奥九十九…考えが、技術が、冷酷さが、クソ度胸が…どれもが雄弁に刃牙の眼前にいる男が陸奥九十九であることを語っていた。
なら、範馬刃牙を叩き込んでやらァ!!!!
避けるのが不可避なら…ッッッ!!!!
刃牙は九十九の拳に向かって拳を叩き込んだ。
打撃の際、稼働する関節、数十箇所を完全に固定。
それにより、クッションがなくなり、打撃力の最大化ッッッ!!!!刃牙の拳は鉄球となり無空波を貫いた。
剛体術である。
無空波と剛体術。拳と拳がぶつかり合う。
奥義×奥義
ガツンッッッ!!!!と肉と肉と骨と骨が当たって砕ける音がした。
同時に後ろに飛ぶ刃牙と九十九。
立ち上がり構えた2人は2人とも右腕をだらんと垂れ下げ、指があらぬ方向に折れ曲がっていた。2人の右拳は完全に砕けた。
「…ど…どうなるんだ!?」
陣雷が叫んだ。