範馬刃牙VS陸奥九十九〜修羅の門と刃牙道と〜   作:中村鹿男

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第十五話 欠伸

 

 あ、刃牙くん

 刃牙さん

 刃牙ッッッ!!!

 

 皆さんお揃いで。九十九さんは?

 

 屋上に行くって言ってたわよ。風に当たりたいんだって。

 

 そうですか。

 

 身体はもういいの?

 

 ええお陰様で

 

 ありがとね

 

 何がですか?

 

 お見舞い、きてくれて

 

 

「九十九さん」

 

 羽生大学病院の屋上。陸奥九十九は手すりにつかまり、風に当たっていた。

 

 「刃牙、身体はもういいのか?」

 

 「うん、昨日からトレーニングも再開してる」

 

 「タフだな」

 

 「ハハ…九十九さんは?」

 

 「もう大丈夫だけど」

 

 「みなさんが…」

 

 「ああ、うるさくてな」

 

 うるさくてな、と言っているが表情は柔らかだった。

 

 「そう言えばさ、俺たちが勝手に戦ったから大変だったらしいよ。当日来る予定だった客が『刃牙と九十九の試合を見せろー!!!』って…それでさ、代わりに誰が戦ったと思う?」

 

 刃牙がニヤリと笑って悪戯っぽく言った。

 

「誰が戦ったんだ?」

 

 「神心会と神武館の交流試合が行われたんだってさ」

 

 陸奥九十九は流石に驚いている様子だった。

 

 「すごいな」

 

 「うんすごい」

 

組み合わせはこうだった。

 

第一試合 末堂厚VS陣雷浩一

第二試合 加藤清澄VSイグナシオダシルバ

第三試合 愚地独歩VS龍造寺 巌

第四試合 愚地克巳VS海堂 晃

 

 「大盛り上がりだったらしいよ」

 

 「だろうな…でどうなった?」

 

 刃牙は交流戦の詳細を事細かに語った。それを興味深く九十九は聞いた。ベンチに座り話し込む。2人は話しながら時に笑い、時に2人で考え込んだ。

 

 

 「なるほど。面白かった」

 

 陸奥九十九は満足気につぶやいた。

 

 「うん、俺も見たかったよ」

 

 「刃牙…」

 

 「なに?」

 

 「あれは引き分けだ」

 

 試合のことを言っているのだ。刃牙は困ったように笑う。

 

 「決着の際…どちらが高みに立っているか、頭の位置、頭部の標高が上にある者、見下ろしている者こそが勝者。それが俺の基準だ。勝ったのはあんただよ、九十九さん」

 

 「俺は、勝つ時は実力で勝つ…それが俺の基準だ。あれは偶然だ。だからアレは引き分けだ」

 

 あんた、お前…

 

 「「頑固だなぁ…」」

 

 2人は同時に言って、顔を見合わせて笑った。

 

 「お互い、納得いってないなら…もう一度やろうや」

 

 刃牙は言った。

 

 「…約束が増えていく」

 

 「烈さんとも戦うんだって?」

 

 「ああ、もちろん。でも、その前に会わなければならない男がいる」

 

 「誰だい?」

 

 「灘・真・神影流当主…神戸にいるらしい…とても強い男だそうだ…元々、刃牙と会わなければそちらに行く予定だった」

 

 「そうかい、じゃ、しばらくしたら街を出ていくんだね?」

 

 「ああ」

 

 刃牙は立ち上がり、屋上から出ていく、そして振り返らずに九十九に言った。

 

 「ならさ、旅立つ前にウチに来てよ。また料理振る舞うからさ」

 

 

それから数日後の夜、刃牙は大量の料理を作っていた。唐揚げ、ステーキ、ちゃんこ鍋、蟹、レタスのサラダ、炊飯器いっぱいの米。

 今日、陸奥九十九が来る…!!!!

 

 チャイムが鳴り、刃牙はすぐに玄関へ走っていき、扉を開けた。

 

 いらっしゃい!!!

 

 と声をかけると、そこにいたのは陸奥九十九以外にも、陣雷とマッイイツォ更に後ろには舞子までいた。

 

 「すまない、どうしても来るって聞かなくて」

 

 陸奥九十九が珍しく顔を顰めた。

 

 「俺はブラザーだからな。ムツにどこまでも着いていく」

 

 とマッイイツォ。

 

 「おいおい、刃牙と飲むって言って俺を誘わないのは水臭いだろ」

 

 と陣雷。

 

 「わ…私は…みんなが刃牙くんに迷惑かけないか心配で…あ、これお土産です」

 

 と舞子は菓子折りを刃牙に渡す。

 こ…こんな大勢…部屋に入るかな…と思うと同時に…こんな賑やかな夕食…久しぶり…だ…と刃牙の頬は自然と緩んだ。

 

 「入ってよ、夕飯用意してるから」

 

 「俺は酒持ってきてるぞ」

 

 と陣雷が紙袋から日本酒を取り出す。

 5人が部屋に入って座った時、再びチャイムが鳴った。刃牙が出るとそこには梢が立っていた。

 

 「お母さんが刃牙くんの家にお友達がたくさん入っていくの見たから…これ、お裾分け持って行けって…」

 

 手には重箱を持っていた。

 刃牙は、ありがとな、梢もご飯食べていけよ。と彼女を家にあげた。

 

 楽しい夜になった。

 陣雷が早々に酔っ払い、マッイイツォは酒が進むと普段より饒舌になった。刃牙と陸奥九十九は競い合うようにご飯を食べていった。途中、梢と舞子が2人で台所に立って付き出しを作ると、今度は酒を酌み交わした。

 陣雷がまず眠った。次にマッイイツォが寝た。

 九十九と舞子、刃牙と梢の4人が夜更け前まで話し込んでいたが、舞子が目を擦るとコクンと眠り込んだ。すると梢も足を伸ばして眠り始めた。

 結局、全員で雑魚寝することになった。

 刃牙と陸奥九十九だけが起きて、酒を飲み交わし続けた。

 

 話は尽きなかった。

 

 陸奥圓明流…恐れ入ったよ…うっとりするほど強かった。俺にも教えてよ。

 

 企業秘密だ。刃牙、アレはなんなんだ?あの、トリケラトプス…

 

 ははは…教えてくれねえんなら俺も教えねえよ。そういや、親父来てたな…親父の隣にいた人…九十九さんの知り合い?

 

 ああ…まぁ…そうだな…

 

 なんだよ

 

 ……親族みたいなもんかな

 

 

 明け方…刃牙は別れが惜しかった。それでも別れはやってくる。

 

 「そろそろ行くよ」

 

 九十九が言うと立ち上がり、刃牙は玄関まで見送った。玄関口で陸奥九十九は振り返り、刃牙に言った。

 

 「刃牙、またな」

 

 「九十九さんも元気で」

 

 2人は固く握手を交わした。

 

 さよならではなく、またな…良い言葉だ。

 陸奥九十九は朝の光輝く中に消えて…行く前、刃牙の後ろから足音が聞こえてきた。

 

 「私も一緒に行く!」

 

 「ブラザー!!!」

 

 舞子とマッイイツォは、今日はありがとね!刃牙くん!と刃牙に言うと、走って彼を追いかけていく。

 3人は光の中に消えて行った。

 

 

 刃牙は部屋に戻る。陣雷がイビキをかいて眠り、梢もスヤスヤと静かに横たわっていた。

 刃牙は座布団を枕に梢の隣で横になった。

 

 その途端、刃牙の肉体を満足感と疲労感が駆け抜けた。刺激的な日々だった。それが終わってしまった。陸奥九十九は光の中に消えて行った。

 

 その時、刃牙は大きな欠伸をした。

 それは…退屈…?弛緩…?なんだ…?刃牙は目を瞑り、

 

 まぁ…とにかく…立って戦い続けるかァ…

 

 と呟くと眠りの中に落ちて行った。

 

 

 

 

 徳川光成はスカイツリーの地下366メートルにいた。震えていた。そこは巨大ラボ…そして、目の前には特注のカプセルに入った甲冑を着たミイラ。

 闘技場での陸奥九十九の立ち姿を見た時、徳川は決心した。

 夢を夢のままで終わらせない。陸奥九十九と範馬刃牙の戦いも夢では終わらず実現した。夢とは見るモノではなく、実現するモノなのだと確信した。

 

 「早く目覚めて下され、宮本武蔵さん♡」

 

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