範馬刃牙VS陸奥九十九〜修羅の門と刃牙道と〜   作:中村鹿男

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第三話 親父

 範馬刃牙は自宅の薄暗い地下で全身から汗を吹き出しながらトレーニングをしていた。

 リアルシャドー。思い描くは強敵。

 いつもは明確に相手を脳内で構築する。

 しかし、今日に限っては違った。自然と『構築されていく』。

 

 身長は自分よりも僅かに大きい171センチ。体重はおそらく70キロ前後。道着を羽織っている。格闘家としては小さい。ライト級、重くてもウェルター級?しかし、『そいつ』が纏うオーラはスーパーヘビー級を凌ぐ。

 

 俺みたいなヤツだなッッッ…!!!

 

 刃牙は感じる。コイツは…『あの夜』を超えてくれるのか…ッッッ!?

 

 こうして思い返すのは何度目だろうか。

 あの夜は現実だったのか?と確かめるように何度も思い返す。父を打った拳の感覚を、父に打たれた甘い痛みを。

 

 父を超えんと過ごした18年間の思いが結実した。

 己の最大を差し出し、父も最大を差し出した末の握手。和解。他に何を求めようか、他に何が手に入ろうか。

 

 父は若くして頂に立った。

 そして、すぐに踏み出せる道がないことに気がついただろう。だからと言って踏み出さないわけにはいかない。道を探す歩みを始めた。

 刃牙自身も、これまでの18年間の目標が結実した今、道を探さねばならない。

 

 ある意味、『成人』。これまでは範馬勇次郎への道を歩けばよかった。でも、もう、巨大な親父、範馬刃牙は道を示してくれない…!!!だから『あの夜の先』に行かねばならない…この数ヶ月、刃牙は焦りにも似た気持ちを抱いていた。俺はどこに行けばいい?この構築されていく男は…俺に…何を…

 

 電話が鳴った。

 男が霧散し、集中力は途切れ、刃牙はふっ…と息をついた。

 梯子を上り、電話に出たら徳川光成であった。

 

 「刃牙…時間あるかの…?」

 

 

 徳川邸に呼び出され、和室の襖の前まで案内される。入る前からそこに誰がいるのかを刃牙は感じ取った。それは範馬の血が持つ超A級の危機察知能力なのか?それとも、中にいる男があまりにも『規格外』だからなのか…

 

 襖越しにも、その威圧感、圧倒的なオーラが漏れ出ている。刃牙が襖を開けるとそこには見知った男が座っていた。デカい。鍛え上げられた肉体のデカさ…と言うよりも、存在がデカい。吐く息すらデカい。そう言う男だ。

 範馬勇次郎は座布団の上で胡座をかいて座っていた。

 

 「オヤジ…」

 

 「座れ。刃牙」

 

 

 向かい合ったまま黙る2人。

 刃牙は思う。

 

 なんでオヤジが?

 胡座かいてるけど姿勢いい

 黙っててちょっと気まずい

 じっちゃんの狙いはなんだ!?

 

 気を紛らわすように、刃牙は出された湯呑みを掴んで無造作に口をつける。

 

 「なってない」

 

 勇次郎は静かに、しかし、圧倒的な質量を含んだ声で言った。

 

 「礼儀や作法に囚われ、食を楽しむと言う本質を忘れるのは愚の骨頂。しかし、お前の所作は目に余る」

 

 「…ッッッ!!!」

 

 急な指摘に思わず言葉が出てこない。刃牙が言い返す前に範馬勇次郎は話し出した。

 

 「右手で湯呑みの蓋をつまみ、左手に受けて手前に傾けて雫を落とす。右手で持ち、左手を添える」

 

 そう言って茶を一口飲んだ。

 らしくない。まったくらしくない言動、行為。細かく作法を指導するなど…範馬勇次郎らしくない。

 刃牙は思い当たる。まさか…

 

 『正しい挨拶 正しい言葉遣い 正しい装い 正しい接し方 正しいマナー……………俺は一度だって教えられたことがない』

 

 親子喧嘩の前、シティホテルで言った自身の言葉を父は気にしていた……のか……???

 これって…もしかして……教育……????

 

 鮮やかな感動が身体を駆け巡る前に刃牙の全身が総毛立った。

 

 「いくら出来が悪かろうが流石に気がつくか」

 

 勇次郎は悠然と茶をまた飲む。

 隣の部屋に誰かいる!?床から微かに伝わる足の運び、そして襖越しに感じる異常…警戒度MAXにならざるを得ない…危険度SSS級の脅威。

 

 「隣の部屋にいるヤロウ…どこのどいつだッッ」

 

 「分からんか」

 

 「分かる訳が…ッッッ」

 

 そう言って立ち上がった刃牙。

 その時、襖が開いて徳川と男が刃牙と勇次郎の眼前に現れた。

 

 徳川は「どっちのハンマだ♡?」とちゃめっけタップリに言い放つ。

 

 刃牙は、ハッと息を呑んだ。

 

 コイツ…(リアルシャドーで構築された)アイツじゃんッッッ

 

 それ以上に驚いたのは、刃牙はその男が誰か知っていた。表の格闘技界でトップ…格闘技界の台風の目と呼ばれている男…確か…千年…不敗……???強いことは知っていた。でも、交わることがない世界の住人だと思っていた。

 

 「親父に似ず…いい面構えだ…陸奥九十九」

 

 勇次郎は呟いた。

 

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