「親父を知っているのか?」
「知っていたらどうする?」
「…いや…興味ない…」
「ほぉ…」
「あんたと戦いたい…ハンマ…」
「範馬勇次郎じゃ…」
徳川光成は歓喜に震えた表情。
「時に…ジジイ…俺たちを並べてどっちがいいなど…よほど死にたいらしいな…」
勇次郎に睨まれ、ひぃ…と小さく声を上げる徳川。
「だが…このような『手土産』…今回だけは許してやろう…」
勇次郎の狂気の目が、陸奥九十九を捉えた。九十九はそんな勇次郎の気を受け、小さく笑った。
2人の覇気がぶつかり合い、空間がグニャリと曲がったように徳川には見えた。
「ちょちょちょ…お前らッッ!!!待て…!!!待ってたんかッッッ!!!」
顔を顰め、目に涙を溜めて今にも泣きそうになりながら叫ぶ。
「こ…心の準備が…ッッッッ!!!範馬と陸奥の対決などッッッッ心臓が持たんッッ」
「待てよ」
小さく、しかし、ハッキリとした、有無を言わさぬ声で刃牙が言った。
「なに2人で勝手に話を進めてやがる」
刃牙は立ち上がると陸奥九十九と向かい合う。
「陸奥九十九は俺と戦う」
議論の余地もない、まるで天地開闢の時から決まっていた運命のように刃牙はつぶやいた。
範馬勇次郎の髪が総毛立ち、射すくめられれば常人ならすぐに逃げ出すほどの眼力でもって刃牙を見た。
小僧ッッッ
たとえ息子だろうと、自分の獲物に手を出そうとする『障害』に勇次郎は激怒したのだ。しかし、刃牙は堂々たる態度で勇次郎に言う。
「俺と陸奥九十九、勝った方とヤればいい。陸奥九十九が俺に負ければそれまでの男、勝てば範馬刃牙を喰らってより強くなった陸奥と戦えますよ。父さん」
勇次郎の頭髪がすーっと萎えていく。
言葉にはしなかったが、勇次郎は息子の精神的な成長を感じざるを得なかった。
泣き叫び、すぐに嫉妬し、あまつさえ失禁する跳ねっ返りの小童。
かつての刃牙ならば、『イチャイチャとノロケてんじゃねェェッッ』とでも言って間に割り込んでいたことだろう。
好きにしろ。
範馬勇次郎は立ち上がり、襖を開けて部屋を出ていく。出ていく前、振り返り陸奥九十九と範馬刃牙を見た。
上がってこいッッ…俺の前までッッッ!!!
勇次郎が消え、青年2人が向き合った。
刃牙の心は猛り狂っていた。
圧倒的なジェラシー。ようやくこちらを見てくれた父。そんな父が目を奪われるほどの強者。かつての刃牙ならば嫉妬を闘志に変え、挑みかかっていただろう。しかし、今の刃牙は胸の内に炎を秘めて、陸奥九十九をじっと睨み付ける。
一方、陸奥九十九は薄い笑みを顔に浮かべていた。
お互い美青年と呼んで差し支えのない容姿である。しかし、2人とも怖い顔をしていた。
「で、これでいいかい?陸奥九十九さん?」
「どちらも倒す。願ってもない」
お互いの視線と視線がぶつかり合い、闘気と闘気がぶつかり、2人の周りの空間がグニャリと歪んで見えた。
「ひぃぃい♡♡すごいことになっちゃった♡♡♡」
徳川光成は歓喜のあまり、大声で叫んだ。
表で最強と言われている千年続く殺人拳の継承者陸奥九十九。裏で最強と言われているオールラウンダーの格闘家、範馬の血の後継者範馬刃牙。
2人の視線が交わった。