範馬刃牙VS陸奥九十九〜修羅の門と刃牙道と〜   作:中村鹿男

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第七話 烈海王は考える。

 刃牙が陣雷と対決している同時刻、陸奥九十九は不思議な中国人と立ち会っていた。

 

 そこは川原の近く、人気がないトンネルの中、2人の男が向き合っていた。

 烈海王と陸奥九十九である。

 

 「先日の、THE Apex…見させていただいたッッッ!!!」

 

 鋭く、熱く、真っ直ぐな男だった。自然と陸奥の口元はニィ…と笑っていた。この男は強い…それもとびっきり…

 

 「君が倒した呂家はいわば中国拳法の闇。いずれは立ち会わねばならないと思っていた」

 

「それで立ち会いを『所望』するわけだ」

 

 「是非とも君の陸奥圓明流を『堪能』したいッッッ!!!しかし…」

 

 不意に烈海王の覇気がふっとなくなり、温和な目つきになり陸奥九十九を見つめる。

 

 「君は、近日、我が友、範馬刃牙と試合することになっているらしいな。刃牙より先んじて戦うことは避けたい…だから、刃牙と戦ったのち、私と戦うことを約束してくれ」

 

 陸奥九十九はこの男のことがすぐに好きになった。

 きっと、この烈海王と言う男は、『刃牙と戦ったあと、俺と戦ってほしい』。その一言を言うためだけに朝早くから陸奥九十九を待っていたのだ。律儀で義理堅い男なのだろう。

 

 「いいよ…もちろん…なんなら…今からでも」

 

 陸奥九十九はニィ…とまた笑うと烈海王を見据えた。烈海王は陸奥の中に眠る修羅を見た。

 それはピクルの野生でも、範馬勇次郎の巨凶でも、範馬刃牙の鬼でもない、異質なエネルギー。バトルジャンキーではない、もっと純粋な『戦いの結晶』に触れた気持ちだった。

 これほどの男が地下闘技場に現れなかったとは…

 空手界の伝説、龍造寺鉄心の思惑がそこにはあったと聞くが、彼はなぜ陸奥九十九を地下闘技場から遠ざけたのか…烈海王の頭に疑問符が湧いてくる。

 

 「…君は範馬刃牙を舐めている。手負で勝てる相手ではない。いや…違うな…もっと言うと…私は望んでいる…範馬刃牙と陸奥九十九が…万全の状態で全力で戦う姿を…」

 

 チラリと陸奥九十九を見る烈海王。

 いい戦士だ…少しの隙もない。鍛え上げられた闘志が迸っている…

 身体中がうずく…言葉とは裏腹、烈海王は拳を出したくて、蹴りを出したくて仕方なかった。この男に…私の全てをぶつけてみたい。その上で、どちらが上か……ッッッ!!!!

 

 軽く咳払いした。

 

 「…と…とはいえ…拳士がこうして出会ったのだ…どうだ?…く…組手ぐらい…してみては…」

 

 「あんたも好きだな…烈海王」

 

 揶揄うように九十九が言った。

 陸奥九十九の言葉に、更に顔を赤らめる烈海王。

 うっっ…ウルサイッッッ!!!と首を振った。

 

 

2人はゆっくりとした動きで攻防を繰り返していた。

 ゆっくりとお互い打撃を打ち合う組手は空手でも行われることが多い。お互いの動きの確認、さらには読み合いはまるで格闘のチェスである。達人の挙動はたとえゆっくりでも避けることが出来ないと言われている。

 

 陸奥と烈海王の『ゆっくり組手』はうっとりするほど美しかった。

 お互いの洗練された拳が、蹴りが滑らかにゆっくりと繰り出されると、相手が的確に防ぎ更に優美な打撃で返す。それは卓越した技術を持つピアニストとギタリストのセッションのようでもある。遠くから見ればきっと踊っているように見えただろう。

 

 烈海王の口元にも、陸奥九十九の口元にも笑みが浮かぶ。

 

 烈海王は、うっっ…ううう!!!!

 と歯を食いしばる。

 

 しまったッッッ!!!これでは…まるで…『生殺し』ではないかッッッ!!!なまじ肌を合わせたから…尚タチが悪いッッ!!!拳を打ち込みたい欲求が…ッッッ!!!欲望がッッッ!!!抑えきれないッッッ!!!!しかし…が…我慢ッッッ!!!!

 

 これほどまでの強さ、技術、精神…

 範馬刃牙に勝るとも劣らないッッッ!!!

 組手をする内に脳内に思い浮かんだのは、師匠郭海皇の姿だった。陸奥九十九の力量はそのレベルまで達しているのか…ッッッ!!!!

 

 陸奥九十九の拳は言葉以上に雄弁に陸奥九十九を烈海王に語りかけてきた。

 殺人拳…陸奥圓明流の使い手…修羅の如く戦いを求め続ける…相手が同じ修羅とあらば命のやり取りも厭わない。しかし、快楽殺人鬼とは違う。むしろ…逆…優しい男…彼の中には冷酷さと情熱とほんの少しの寂しさが共存している…

 怒り…悲しみ…そして強すぎる意志…いろんな顔を持つ…まるで…修羅のよう…

 

 烈海王は思う。死ぬぐらいなら…殺すぐらいなら…敗北ぐらい受け入れればいいものを…いや…愚問だ。気持ちは分かる。己の培った全てをぶつけ、勝利し、存在証明する喜びを知っている。しかし、彼の異常性はその不敗神話にある。

 烈海王は無類の拳士である。しかし、無敗ではない。千年敗北を知らない陸奥圓明流の気持ちを推しはかることは出来ない。一体、陸奥九十九の闘争理由は…

 陸奥九十九の道は修羅道。修羅の門を潜り続けたその先に…一体…陸奥九十九はどこにいくのだ…!?

 不敗の証明とはつまり…永遠に証明できない命題…

 

 思考の迷路に烈海王が陥った時、ふっ…と陸奥九十九は息を吐いた。それが合図だった。

 

 「いい稽古だった。烈海王」

 

 陸奥九十九はそう言って構えを解いた。

 

 「謝謝」

 

 烈海王は一礼し、フンッッッ!!!と鼻息荒く呼吸を吐いた。

 

「拳から伝わってきた…烈海王さん。あなた、優しい人だな…手に取るようにあなたのことがわかった」

 

 ふ…ふん!!!と烈海王は照れ隠しに横を向いた。

 

 「烈海王。必ず…また…」

 

 そう言って走り出そうとした陸奥九十九は振り返り、烈海王に尋ねた。

 

 「あんたと刃牙、どっちが強い?」

 

 「悔しいが、私は一度、刃牙に敗れている…ッッッ」

 

 「それは…『怖いな』」

 

 陸奥九十九は徳川の庭園であった青年の姿を思い出した。

 

 「範馬刃牙はどんな男だ?」

 

 考えたのち、烈海王は答えた。

 

 「少し、君に似ていると思う」

 

 陸奥九十九は少し笑った後走り出した。もう後ろは振り返らなかった。

 

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