とある動画プラットフォームに投稿された一本の動画。
その動画は本人の知名度と話題性もあって瞬く間に広がった。
―――尚、その暫く後には衛生省の記者会見が行われることとなる。
「―――あーあー。はい世間で話題沸騰中のカスゲーRTAはっじまーるよー」
日本で先行発売された仮面ライダークロニクルのRTA動画。
投稿者は背後のゴツゴツとした石の壁に背を預け、首筋や額に冷や汗を浮かべながらも説明を続ける彼。
SNS上では錯氏-Sakuと言う名義で機械音声ツールを用いて活動しているRTA走者であった。
「最初に言っておきますが、このゲームは正真正銘のクソです、命を失いたくなければやらないようにしましょう。では動画をご覧ください。ちなみにこの映像はなるべく早く投稿するため、編集を最低限にしています」
画面は切り替わり、街中を歩いている自撮りの男性が映し出される。
「あっあー、こんにちは。生声では初めましてですね。今話題の仮面ライダークロニクル、最速クリアRTAはっじまーるよー!―――てなわけで只今、店頭にて購入手続きが終わりました。発売開始から30分弱、走り出しとしてはまぁ良い方でしょう。事前にこちら側で定めるレギュレーションとして、ライドプレイヤーへの変身前にタイマースタートし、ラスボスを倒せばタイマーストップとなります。他者にクリアされる等で完走失敗、記録不成立となります。変身後は動画の撮影が難しいことを予想して、事前にある程度の事前認識とチャートの擦り合わせ、共有をしておきます」
「本作は究極のゲームと銘打った幻夢コーポレーションの売り出す完全新作、力作感ありありの現実とゲームが融合する新時代のゲーム機器及びソフトとなっています。ソロゲーと違ってクリア条件がゲムデウス討伐で全員一律となっていることから周回要素は多分無し。その上、誰かがクリアすれば終わると予想し、長期間の発売、プレイしてもらう事を見据えたかなりの高難易度だと思われます。何なら死にゲークラスのハイパー難易度もあり得るでしょう。きっと恐らくあってます」
「詳細なチュートリアルはテンポ感等を考えると無いでしょうし、Q&A的なヘルプガイドもあるかどうかすら分かりません」
「有志ウィキを参照することもリアルタイムアタックという都合上難しいです、中ボスを倒した人、もしくはそれを見ていた人のウィキが完成する頃にはその倒した人とは大きな差が開くでしょうし、その間に他者にクリアされれば完走失敗です。細かいチャートの調整等はムズかしいということですね。……しかし、現在分かっている情報で細かい小技を考え、使うことは可能です」
「バグスター、本作における敵キャラは基本的にボスクラスの敵の近くに沸くみたいです。そのためRTAとしてレベルを上げるためにはボスバグスターに近づかなければなりません」
「
「―――と、歩いて裏路地まで来たところ暴れてるバグスターっぽいのが居ましたね。戦っているライドプレイヤーは3人。シルクハットをかぶったソルティバグスター、及びオレンジのザコバグスターと戦っていますね―――変身するので、タイマースタート」
タイマーが開始し、ポケットにスマホをしまうのと同時に映像がNO SIGNALに切り替わる。
カメンライダークロニクル!
―――荘厳な音楽が鳴り響き、Sakuはライドプレイヤーへと変身を終えた。
「色々試してみましょうか―――help」
《―――はーい!呼んだ?ポッピーピポパポがゲームをナビゲートするよ!》
「予想的中―――聞きたいことは主に二つ、簡潔にお願いします。拡張要素の有無とその詳細、死亡ペナルティについて」
《はいはーい!このゲームにはカスタマイズボーナスっていう各種機能と引き替えに基礎能力の強化や追加等が出来るよっ!後者に関してはヒミツ!ゲームオーバーになった時のお楽しみ!》
「……なるほど。結構重めと考えてよさそうですね。撮影と録画は?」
《なーんと録画録音機能も搭載済みだよっ!ふつーに起動したーいって思えば起動できるし、手振れ補正も完備してるスグレ物!》
「映像圧縮とスマホへの動画ファイル転送は?」
《変身を解除してスマホにクロニクルガシャットを近づけてみよう!》
「……OKです、録画開始。ここからは一人称画面をメイン画面としてお送りします」
NOSIGNALから移り変わり、画面が一人称へと切り替わった。
《それじゃあ頑張ってねー!》
そう言ってナビゲーターは姿を消した。
「―――とりあえず、各種スペックの確認からいきましょう」
適当なオレンジ色のバグスターを捕まえ、ソード形態のライドウェポンで切り付ける。
HIT!
「一発」
切り付けて転んだオレンジ色のバグスターを蹴り―――
HIT!
「おお、格闘でもヒットするんですね。これで二発目」
―――更に起き上がったバグスターウイルスを
HIT!
「三発」
HIT!
「四発」
HIT!
「五発」
五発目を当てた直後、オレンジのDNA配列のようなエフェクトとなり、バグスターウイルスは消滅した。
「格闘ヒット1発+剣四発で死にましたね。使用感的に四発当てて格闘よりも剣振り回した方が早そうです。攻撃による威力の差は未検証。次、銃の形態でいきます」
形態を変化させまたもや大量にいる雑魚バグスターを遠目から狙って、弾丸を撃ち込む。
HIT!
「一発」
向かってくるが上手く距離を取りつつ二発目を発射。
HIT!
「二発」
HIT!
HIT!
HIT!
HIT!
「三」
「四」
「五、六と―――」
バグスターがエフェクトとなって消える。
「射撃硬直は通常15F、連射モードだと6F程度、切り替えは20F無いくらいでしょうか?慣れればもっと早く出来るかもですね。威力は多分、単撃ちだとレベル比例のダメージ固定、トリガー長押しでの連射はそれよりも威力が若干下がるといった感覚」
「少し個人的に気になることがあるので試してみましょう―――」
そう呟きながら、ボスへと歩き出す。
「―――銃で牽制、ついでにボスに対してハメが効くかを確認します」
背後から一発目の単発銃弾を撃ち込む、だがHITエフェクトは出ず、多少の火花が散り、ソルティバグスターが前に仰け反っただけであった。
「む?貴様、なんだその豆鉄砲は!フッハッハ、レベルが足らんぞぉ!」
襲い掛かってくるソルティバグスターに対してもう一度、銃弾を放つ。
さらに近距離戦にもつれ込む。
素早く形態変化を行って短剣のモードで放つ突きを入れるも、ソルティバグスターの片腕で容易に止められてしまう。
然し、そのまま形態変化からの至近距離で弾丸を単発で叩き込む。
生じた隙を突いて、後ろに大きく飛び、距離を広げながら、間髪入れずに連射モードで五〜六発程度の弾丸を一気に打ち込む。
「グゥ……!」
「ふむふむ、HIT判定にならずとも、銃であれば多少の怯みは確定であるっぽいですね。うまあじ」
武器を構え直す―――と、そこで
「―――させるかよっ!ソルティはおれが攻略してやるっ!」
―――他のライドプレイヤーの横やりが入る。
「ボス格を削ってくれるのはありがたいですね。トロフィーは恐らく最後の一撃が参照されるので此処は待ちましょう。時間が無駄なので雑魚でも倒してレベル上げしておきます」
襲い掛かるバグスターに対し、胸部への逆手突きから繋げた二段突き、さらに切り払いを行い、形態変化からの銃弾を一発撃ち込んで片づける。
「今度は四発……ダメージ量はやっぱ変動っぽいですね―――」
マイティアクションX!
―――反対側からそんな音が聞こえる。
そちら側に目を向けるとライドプレイヤーとは一味違ったピンク色のライドプレイヤーのような存在が駆け出して来ていた。
「危険だ!バグスターに近づくな!」
「―――何」
そう言いかけた瞬間、死角からのソルティバグスターのダメージを食らってしまい吹き飛ばされ、映像に断続的なノイズが走る。
その後、数分間の砂嵐が続き―――
《……ーム内にはバグスターの他に、レアキャラの仮面ライダーも出没するよ!》
先程、Sakuの質問に答えていたポッピーピポパポが再び現れていた。
《仮面ライダーはゲームの攻略に役立つ!ゲーマドライバーとライダーガシャット、それに!ガシャコンウェポンを隠し持っているよ!》
視線がピンク色の仮面ライダーに集まる―――
《見つけ次第、ぶっ倒してレアアイテムをゲットしよう!!》
《―――さあ、一番にラスボスに辿り着くのは誰かな?世界一のヒーローを目指して―――れっつげーむ!!!》
「―――なあ、仮面ライダーってあれかな?」
ライドプレイヤーのその一言により、無邪気な悪意が解き放たれた。
「じゃあ、レアアイテムをゲットしてまずはレベルを上げよう!」
途端に仮面ライダーへと襲い掛かる彼以外のライドプレイヤー。
「……カスゲーですね、挙動的にNPCだとすれば意味がわかりませんし、仮面ライダーというのもNPCではなくHUM、プレイヤーキャラクターでしょう。問題は仮面ライダー、即ちレアキャラと称された人物が明らかに運営側では無いことです。それどころかこの状況自体知らないようですし―――」
仮面ライダークロニクルのガシャットを取り出し―――
「総じて意味が分かりません、中断しましょう」
―――変身解除を行う。その瞬間、
「……ガッ、痛ッ……!!!」
―――彼の心臓に激痛が走る。
「―――いっ……ッハァ、ハァ!……ゴホッケホッ!」
「ッ――そこの!大丈夫ですか!?」
「とっととアイテムを寄越せ!」
「痛っ、あぁもう、やめろ!俺は敵じゃない!」
「くそっ!」
マキシマムマイティアクションエックス!マキシマムガシャット!
LEVEL-MAX!!!
大きな鎧のようなものを纏った状態で飛び上がり、起きた剣圧によって群がるライドプレイヤーを怯ませてゆく仮面ライダー。
「―――うわぁぁぁ!」「あ、あの仮面ライダー強すぎる……!」「くそっ、逃げるぞ!」
「―――っ、まだまだ……!」
逃げ出す多数のライドプレイヤーと、まだ立ち向かおうとするライドプレイヤー一人に対して―――。
ガッシューン!!
「―――僕の勝ちです、ゲームは終わりですよ」
―――一方的に変身を解除し、矛を収める仮面ライダー。
既にゲームではなくなった以上、一般人相手に襲い掛かるわけにもいかず、仮面ライダーに続いて変身解除を行うライドプレイヤー。
「―――ッ!?ぐぁっ!」
顔を歪めて、心臓を抑えるライドプレイヤーだった男性。
Sakuの症状も収まっておらず、より悪化していた。
「っ―――大丈夫ですか、二人とも!……症状が酷い、CRに搬送しないと―――すぐに応援を呼びます」
「……いえ、俺―――、私は大丈夫です。そっちの人を優先してください」
「っ何言ってるんですか!」
「……至って健康体だった私含め、ゲームを中断した瞬間、二人ともこうなったということは原因はこのゲームでしょう。このクソゲーは日本全国で同時に発売されている、これ以上被害が広がる前に少しでもこの事実を拡散します。おそらく彼よりも病状は軽いので気にせずに行ってください」
壁に背中を預け、震えを抑えた指先でスマホを取り出しクロニクルガシャットとスマホを近づける。
「ッア……ぐぁっ」
「―――……救急車は僕が呼んでおきます。僕もなるべく早く戻ってきますが、先にこの場所に救急隊員が到着したらその指示に従ってください。絶対に此処を動かないように」
男性が強く苦しむ様子を見て、苦心しながらもそちらを優先することにしたようだ。
「……えぇ、はい。わかりました、ありがとうございます」
男性に肩を貸しつつ、大通りに出るために移動する仮面ライダー、の中身である白衣姿の青年。
「―――行きましたね、スマホでの録画も一旦止めます。お疲れさまでした」