「ところでさ店長、店長はなんでこのぉ、なんだ、喫茶店だっけ?
こんな珍しい店やってんの?食事処ってわけでもねぇし、ねーちゃんがいるわけでもねぇし、飲み物屋?っていうのは随分と珍しいだろ」
そう言われてグラスを拭く手を止めた、なんでって言われても、こう、飯屋よりかは簡単そうだし、隠居すんのにも速いし、まぁスーツ着てグラス拭いて適当に茶でも入れとけばなんとかなるかと思っただけだけど、それを口に出すのもダサいから適当なテンプレ言い訳をしておく。
「コーヒーを飲むと、落ち着くでしょう?外を見れば速足で歩く人ばかりで、ここにはゆとりが足りないと思ったんですよ、それこそがこの街に必要なんじゃないかとね」
そう言いつつ、ゆっくりお湯を回してコーヒーを入れる。
ポタポタと徐々に落ちるコーヒー、華やかな香り、立ち込める湯気、ポッドからカップに移して客の前に出す。
「いい香りでしょう、ほんの一杯の為に手間を掛けて、香りを楽しみ、苦みと付き合い、温かさを享受する。
この1杯は熱いのでグイッと飲む事は出来ません、ゆっくりじっくり楽しむ物です。
湯気を見て、ゴポゴポという音に期待し、香りを楽しみ、苦みを味わい、温かさを受け取る、五感でゆっくり楽しみ、休む、自分の為の贅沢な時間、そういう物が道行く方々には足りてないと思うのですよ」
サービスです、どうぞ、とお客様の前にコーヒーを差し出す。
ありがとうと受け取り、香りを楽しむお客様。
「うーん……拘りってやつだな、アタシがフィーディングランプを磨くようにあんたはグラスを磨くし、フロントストラップにチェッカリングを刻むように豆を刻んで、マガジンを入れるようにお湯をコーヒーに入れて、そしてアタシに提供される」
一口飲んでグラスを置いた。
「何が良いとは上手く言えねぇけどよ、コイツは良いもんだと漠然と思うんだよな、確かに店長の言う通り贅沢だと思うぜ」
チビチビとコーヒーを飲みテーブルに出した銃を分解して整備している彼女、店内で点検整備をされるのは正直思う所が無いでは無いのだが、他のお客様もいないし、警邏隊の彼女を追いだす程の事でもない。
そうこうしている間に彼女は別の隊員からの呼び出しを受けて、サボってんのがバレちまったよと言いつつ、獲物をほんの10秒程で組み立てて出て行った。
またのご来店をお待ちしております、と声を掛けて俺はグラスを拭く作業に戻ったのだった。
これは街で唯一の喫茶店で色々なお客さんとダラダラ絡むだけのお話