「いらっしゃいませ、お好きなお席にどうぞ」
「はぁ、えーっと……一人だとカウンターのが良いですかね?」
「他のお客様もおりませんし、どちらでも大丈夫ですよ」
そういって、二十代男性と思われるお客さんはカウンターに座った。
「ところでここのお店は、それほど高くないって聞いたんですが本当ですか? うちの上司が『値段が安いし良い店だ』って言うんですけど、どうにも……」
「うん? うちは全然お高くないですよ。こちらメニュー表になります」
「どうも……本当に銅貨三枚とかで注文できるんですね? もっとお高いお店だと思ってましたよ」
「まぁ、その場で飲むドリンクがそれほど高額だと中々商売が難しいでしょう。まぁ、お安めでもあんまり入っていませんが」と、苦笑しつつ答えた。
「いえ、ここの店構えといいますか、外から中が見えますが、かなりこう、綺麗じゃないですか?」
「ええ、お客様があまり来店されませんので、暇つぶしによく清掃をしているんですよ。まぁ飲食店ですし、そういうのに気を使ってるというのもありますけども」
「それに中の照明も高級感があると言いますか……こう、お高そうな雰囲気? っていうんですかね。椅子もほら、赤くてふかふかな椅子ですし、グラスも光を反射してピカピカしてますよ。店内もただ明るいんじゃなくて、こう、ふんわりした明るさっていうんですか? そういうのがもう、お高そうなお店な感じがして」
まぁよくあるオールディーズな純喫茶風のお店にしただけなんだが、このほぼ中世みたいな世界観だと確かに高級店っぽく見えるのか。なんだかんだステレオタイプな喫茶店を目指して拘ったから、意外と嬉しい評価だ。
「内装には結構拘りましたので、そう言って頂けるのは嬉しいですね。」
「ええ、まるで貴族のサロンみたいじゃないですか、それに立地も商店街の大通りにありますし、そうなるとやはり値段もかなり高いんじゃないかと予想していたんですよ」
「まぁ、このあたりの働く方々がちょっと座って一息入れられる場所をという思いからこの場所でお店を始めたんですが、中々難しい物ですね。」
「失礼ですけど、あんまりうまくいってない感じですか?」
「そうですねー、正直まぁ……貯金がありますので当分は大丈夫ですが、やはりお客様で一杯の店内も見てみたいですね」
あんまりお客様が来ない喫茶店の中、メニューを吟味してるお客様と店長だけのゆったりとした時間が流れる。
飲み物頼んだらなんかスイーツをおまけして常連になって貰おうと画策する店長の、グラスを拭く音だけがその場には流れていた。