「へっへっへ、旦那ぁ、儲かってますかい?」
そう言って入ってきたのは、昔ダンジョンへ一緒に潜っていた仲間のシーフだった。
「お久しぶりです、ご壮健でしたか?」
「相変わらず難しい言葉遣いしやすねぇ! 元気でやんすよ!」
とりあえず席に案内してメニューを渡す。
「話には聞いてやしたが、本当にお店を開くとは思いやせんでしたよ。旦那はダンジョンで稼いでも使ってる様子がなかったですから、お金を持ってるのは知ってやしたが、何に使うかと思えばまさかお店を始めるとは思いやせんでしたよ」
とりあえず、よくわからないという彼女が指差した「コレとコレ」を作る。コーヒーのブラックにチーズケーキ。通なチョイスだ。甘い苦いの組み合わせは無限に食べられてしまう。
「しかし旦那、料理できたんですかい? というか大通りで店出してるなら家賃が高けぇんじゃ? この値段でやっていけるんです? 旦那は金勘定が適当だったから、あっしはちと心配になりやすよ」
コーヒーを淹れている間の雑談。さっきから痛い所をグサグサ刺される。
「まぁ知っての通り、最後のダンジョンアタックで出た宝箱の中から『若返り薬』が出ましたからね。馬鹿みたいな値段で売れましたし、お互い一生生活には困らないでしょう? 冒険者なんてヤクザな商売を続ける理由は無くなりましたけど、何もしないのは手持ち無沙汰でしてね……。まぁ、だから稼ぎをそれほど求めてないというか、暇つぶしの道楽なんですよ」
「それにしても、ちょっと値段設定とか酷すぎやしませんか? 銅貨三枚って、ここは貧民街じゃありやせんぜ?」
「疲れた時にさっと甘い物を飲んで、さっと仕事に戻る。ちょっとした相談をするのに腰掛ける場所。その程度の『ちょっとした日常の一瞬』を想定していたんですよ。一瞬にそこまでお金は出せないでしょう? まぁ、そもそもほとんど誰も入らないとは予想外でしたが」
コーヒーを飲み終わってほっと一息ついている彼女に、おかわりのラテと豆を差し出す。「久々に会ったんだから、もうちょい話しませんか」と。
「勿論でやんす、旦那の様子を見に来ただけでござんすからね。ダンジョンで暴れつくしてた旦那がお店なんて出来るんかいと思ってやしたが、立派にこなしてらっしゃるじゃありやせんか。あっしは安心しましたよ。まぁお金の心配のない道楽だってのはちとアレですが、それでも何もしないで腐るような隠居生活で暇で精神が歪んじまう人ってのもおりますからね。旦那がそうならなさそうで安心致しやした。……まぁ本当は、また道楽で金を使ってたら『一緒にダンジョン潜らないか』って誘いに来たんでやんすけどね。その心配は無さそうで」
「またお金に困ってるんですか? お互い一生分は稼いだでしょう?」
「いうてもねぇ旦那、あたしんちのガキ共は多くいやすし、金あるなら学校くらい行かせてやりたいもんでしょ? ウチは下に9人はおりやすからね。そいつら学校に行かせて、親を食わしてやって、毎日の飯を用意して、ちょっとの晩酌なんてして。そうやって財布を覗き込みやすとね、いくら金があっても寂しいもんでさぁな。貧乏暇なしっての、あれ事実でやすぜ」
カラカラ笑う彼女に「相変わらず苦労人ですね」と言葉を返す。「まぁ、あなたとならダンジョンに潜っても別に構いませんよ」
「旦那、ダメでやんすよ。ダンジョンてのは命がけなんですから、せめて潜る理由は自分の理由じゃないといけやせん。人に言われたからで死地に行くってのは、良い判断とは言えませんぜ」
「まぁ、私とあなたの中ではありませんか。友人に協力したいと思うのは普通の事でしょう? ダンジョンに潜る理由なんて、そんなもんでいいと思いますけどね」
「旦那ってそういう所ありやすよねぇ……。まぁ、あっしに貢いで嫁に迎え入れてやろうってんなら、それでもいいですけど?」
「なんでそうなるんですか。論理の飛躍凄くないですか」
「旦那はそういう所がいけないんだと自覚したほうが宜しいですぜ? ま、長居しすぎやしたね。また来やす。いいお店ですし知り合いにも紹介しときやすぜ」
「おっ、それは助かります。是非是非、良いように盛って話しておいてください」
「はっはっは、そこまでしなくとも別に大丈夫でやんすよ。それじゃ!」
そう言って彼女は店を出て行った。昔馴染みとする昔話というのは、どうしてこういい気分になるんだろうか。グラスを拭きながら、次のお客様を待った。