超かぐや姫! ヤチヨのかくれんぼ   作:夜叉竜

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 今回は行進が少し遅れました。中々時間が取れなくて………

 ドンドン評価が上昇していってる……やばい、すごく嬉しい。頑張って書いていきます。

 ではどうぞ!


第4話 燐祢の夢

 温かなお湯につかっているような心地よい微睡みの中に、無邪気な笑い声が響く。

 それは数年前から燐祢が見るようになった懐かしく、温かく、少し寂しい夢。

 鬱蒼とした森の中を燐祢は笑いながら駆けていき、その傍には少年の親友がいつも一緒にいた。二人はいつも一緒に過ごし、遊びまわっている。特にかくれんぼが好きで、しょっちゅう森からは「もういいかい」「まぁだだよ」の声が聞こえていた。

 だが、いつまでも一緒に遊んでいることはできなくて、さよならの時、親友はいつも泣いていた。だから、燐祢はいつも言うのだ。

 

 また、会えるから、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「また、あの夢か……」

 

 クーラーが効いているにも関わらず全身を濡らす汗と鉛でもこびりついているような気だるさに燐祢は薄く息を吐く。

 数年前から見るようになったあの夢を見た後は決まってこうだ。ちゃんと寝たはずなのに体はまるでマラソンでもしてきたかのように疲れていて、頭も徹夜でもしたかのように働かない。

 だというのに、それをあまり不快に感じていない自分がいるのだから不思議だ。

 いったい何なのだろうと考えながらもそもそと燐祢はスマフォを手に取り、時間を確認する。時刻は5時。いつも通りの起床時間だ。

 昨夜の騒動であまり寝れていないはずなのにいつも通りの起床とは、習慣とは恐ろしいものである。

 のそりと起き上がった燐祢は大きく欠伸を漏らしてから立ち上がって水で顔を洗えば少し目が覚める。

 ふう、と小さく息を吐いて燐祢は日課に取り掛かることにする。

 寝巻代わりの半袖短パンのまま押し入れから二振りの木刀を取り出すと、まだ寝てるであろうお隣に配慮して普段より静かに外に出て、アパートの庭に向かう。

 木刀のストラップを手首につけて飛ばないようにして改めて握りなおし、だらりと両手を下げた状態で目を閉じ、数度呼吸をする。

 それだけ。それだけで、燐祢の意識は研ぎ澄まされる。頭にこびりついていた疲れがこそぎ落とされ、思考が明瞭になり、周囲の音が遮断され、意識が木刀と周囲にのみ向けられる。

 いける。そう思った瞬間、燐祢は両手の木刀を静かに振るっていた。

 振るう、振るう、振るう、振るう、振るう、振るう、振るう。とめどなく流れ続ける小川のように静かに、しかし間断なく。

 それは剣舞だった。まるで神へ奉納するかのような厳かな舞い。

 実家が剣術道場だったからか、燐祢はよく剣を振るっていた。両親の話では、物心つく前から木刀に触っていたらしい。同年代の子供たちが興味を持つ物への興味も持って行ったが、落ち着きたいときや、何か嫌なことがあった時は決まって道場で黙々と木刀を振るっていた。彼にとって剣とは、もはや体の一部となっていた。

 それを知っていたからか、知人の多くは燐祢がアクセサリーの道を選んだ時、ひどく驚いていた。幸いにも家族はその道を応援してくれたおかげで燐祢は迷わずこの道を選ぶことができた。

 もっとも、この道を選んでも燐祢は剣を捨てることはできず、休日明けの時になまった体をほぐすという名目でこうして剣を振っているのだが。

 一心不乱に剣舞を舞う事数十分。漸く満足したのか燐祢は大きく息を吐いて木刀を下す。

 早朝とは言え夏真っ盛り。高い気温も相まって全身汗だくになってしまっている。だが、対照的なまでに全身を心地よい疲労感が包んでいる。

 その疲労感に身をゆだねてしまいたくなるが、それに逆らって燐祢は自室へと戻るとシャワーで汗を洗い流す。

 着替えを終えたらすぐさま燐祢は朝食の準備に取り掛かる。

 手早くトーストと目玉焼きを3人分作ったらそれを持ってお隣に向かい、

 

 「お~~い、酒寄さん、かぐやちゃん。朝飯持ってきたぞ~」

 

 直後、勢いよくドアが開き、

 

 「ごはん!?燐祢が作ってくれたの!?オムライスある!?」

 

 満面の笑みを浮かべたかぐやが出迎えてくる。その姿を見た燐祢は数度瞬きをしたのち、

 

 「……………なんか、また成長してないか?」

 

 10代前半から彩葉と同年代にまで成長したかぐやに燐祢は軽く頬を引くつかせながら項垂れている彩葉に問いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねーねー、彩葉と燐祢がいつも見てるこの人は誰?好きなの?」

 

 3人で朝食を済ませた後、燐祢が自室に戻っている間に彩葉は素早く身支度を整え、慌ただしくフライパンを振るっていると、タブレットをいじっていたかぐやが尋ねてくる。タブレットに映っているのは先ほどまで見ていたヤチヨの配信だ。

 

 「月見(るなみ)ヤチヨ。AIライバー。推し。分身もできて歌って踊れて八千歳っていう設定。陸堂さんは推してないとは言ってるけど、間違いなくあれは推してる」

 「えー、AI?ロボットって事?ヴェー、おもろー?」

 

 かぐやが盛り上がったように椅子代わりのちゃぶ台を揺さぶる。その間に彩葉は火を止めてフライパンを片付ける。

 そのタイミングで軽くノックされ、は~い、とドアを開ければ、燐祢が立っていた。

 

 「ほれ、酒寄さん。今日の弁当だ」

 「いつもすいません、陸堂さん」

 「金は貰ってるから気にするなって。で、かぐやちゃんの昼飯なんだが……」

 

 そこで燐祢は彩葉の部屋のコンロのお皿に乗っている灰褐色の物体の山を見て、すっと表情を消す。

 

 「おい、酒寄さん。あのカロリーに対し全力で喧嘩を売っている物体はもしや………」

 「えっと……あの子のご飯である……粉と水のパンケーキです………」

 

 気まずげに視線を逸らす彩葉の後ろでかぐやがすぐさまパンケーキモドキを頬張ると顔をグネグネと歪ませ、

 

 「くそまじぃ……」

 「当然だ。それは食い物じゃない。食い物のような何かだ」

 「ちょ、そこまで言わなくてもいいじゃないですか……!」

 「言うわ!栄養どころかカロリーすら取れないものを食べさせようとすんな!それのせいで自分がぶっ倒れたことを忘れたのか!?」

 

 痛いところを突かれ、むぐっ、と彩葉がうめき声をあげ、燐祢は深いため息を漏らす。

 

 「とりあえず、かぐやちゃんの昼飯は昨日買っておいた菓子パンで我慢してもらおう。あと、できる限り早く帰ってくるようにする」

 「本当……いろいろとすいません。それじゃあ、かぐや。私たちもう出るから、陸堂さんが帰ってくるまで家で大人しくしててね」

 「え~~!やだやだやだー!」

 

 直後、かぐやは彩葉と燐祢目掛けて突っ込んでいくと二人の手を掴む。

 

 「ちょ、ちょっと!?」

 「お、おい……!」

 

 彩葉は慌ててかぐやを引きはがそうとするが、存外強い力で簡単には引きはがさせない。

 

 「一緒いて!」

 「無理だって!学校休めないんだから!」

 「待って!やだやだ!」

 「やだやだって言われてもなぁ……今日課題を提出しないと単位が取れないんだ。できるだけ早く帰ってくるようにするからさ、いい子で待っててくれないか?」

 

 燐祢は子供に言い聞かせるようにかぐやと目を合わせて優しく言うが、かぐやはいやいやと言わんばかりに燐祢にぐりぐりと頭をこすりつける。

 

 「おかしいよ。宇宙人だよ?こんな不審者部屋に置いて出かける、普通。そんなに学校って大事なわけ?」

 「それ自分で言うのかよ……」

 「命より大事!」

 

 彩葉はかぐやの両目を見据えてはっきりとそう言う。

 

 「あんたとかかわったのは私のせいだけど、もう全部元に戻す。陸堂さんもそれでいいですよね?」

 「あ、いや、元に戻すって………どうするつもりだ?」

 「月に帰ればいいんですよ。これたのなら帰れるでしょう?」

 「ううん。帰り方わかんない。それに、ここって面白そーだし」

 

 何とも能天気な発言に彩葉が顔をしかめていると、

 

 「………はぁ、だったら家に来るか?」

 

 頭を掻きながら燐祢がその提案すると、え、と二つの声が重なる。

 

 「正直、このままじゃぁ酒寄さんへの負担が大きすぎる。特に高校生活を送りながらじゃ、かぐやちゃんの面倒は見きれないだろ。その点、俺は大学だからある程度は時間の融通が利く。だったら俺のところで面倒を見る方がまだマシだろ」

 「むむむむ、それは………どうし「ダメに決まってるでしょ!?」お、おぉ?」

 

 大きく声を張り上げた彩葉にかぐやが驚いたように目を丸くし、燐祢もぽかん、と呆けた表情を浮かべる。

 直後、彩葉ははっとした表情を浮かべ、顔を真っ赤にしながらわたわたと手を振り回す。

 

 「あ、いや、えっとですね………燐祢さんは自分のお店を出すためにすごく頑張ってるの!普段から迷惑かけているのにこれ以上なんて本当に言語道断!人の頑張りを邪魔するなんて論外!絶対にありえない!だからダメ!」

 「じゃ、じゃぁ、どうするんだ?」

 「とにかく、早く帰る方法思い出して!今日一日で!分かった!?」

 

 彩葉の気迫に気圧されたのかかぐやは口をつぐんで後ずさる。

 

 「それじゃあ、行きましょう、燐祢さん。行ってきます」

 「あ、ちょっと待て……ごめんな、かぐやちゃん。これ、今日の昼飯。ちゃんと食べてな。俺が出るときはちゃんと声をかけるから、それ以降は外には出ないでくれよ?地球って色々と面倒だからさ。出かけるなら、あとでいくらでも付き合うから」

 

 燐祢が菓子パンをかぐやに押し付けて外に出るとすぐさま彩葉も続き、扉を閉める。

 

 「なぁ、酒寄さん。ちょいとあたりが強すぎやしないか?いやまぁ、確かに酒寄さんからすれば面白くないとは思うけど……」

 「何言ってるんですか。燐祢さんの夢、何ですよね。ずっとそれを目指して努力してきたんですよね?だったらそれだけを追いかけていればいいじゃないですか。いらない苦労を生込む必要なんてないですよ。と言うか、燐祢さんはあの子に甘すぎます。もっと厳しくしていいと思います」

 

 ジト目で捲くし立ててくる彩葉に燐祢はまいったなぁ、と苦笑を浮かべ、

 

 「まぁ、確かにその自覚はあるんだが、なぁんだかなぁ……あの子、生まれたばかりっていうのを差し引いても、どうにも放っておけないんだよ。どこかの誰かさんと同じでさ」

 「………なんですかそれ」

 「さぁな。ほら、早く学校に行ってこい。俺はもうしばらく残ってるから」

 

 むすっとした表情で燐祢を見上げていた彩葉だったが、流石に時間がないと悟ったか、頭を下げてからアパートを後にする。

 その背を見送った燐祢はやれやれ、と首を鳴らしながら自室へと戻っていく。その際、彩葉の部屋からかぐやの不貞腐れたような声が聞こえてきた。




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