超かぐや姫! ヤチヨのかくれんぼ   作:夜叉竜

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 執筆時間が取れず時間がかかりました。


第5話 燐祢のお説教

 「くそっ、結構遅くなっちまった……」

 

 茜色に染まりかけた空の下、にじむ汗をぬぐいながら燐祢は早足で帰路についていた。

 彩葉が登校してからしばらく。美大に登校した燐祢は課題を提出した後、今日受ける予定だった講義のほとんどをキャンセルし、最低限の講義だけを受けて早めに帰るつもりだった。

 だが、受けた講義が予想以上に長引いた上に、さぁ帰ろうというタイミングで友人から食事に誘われてしまい、結構遅くなってしまっていた。

 食事の誘いは最初は断ろうとしたのだが、以前世話になった礼と言われては断りにくく、食事だけならと付き合ったのだが、友人が最近ツクヨミをやり始め、ヤチヨの良さを語りだしたのが運の尽き。予想以上に話が盛り上がってしまい、解散となった時にはすでにいい時間となってしまっていたのだ。

 かぐやは大人しくしてくれているだろうか、と不安に駆られながら燐祢は速度を上げる。

 一応家を出るときに暇つぶし用にゲーム機を貸してあげたが、それが彼女の好みに合っているかは分からないし、昼食はただの菓子パンだった。不満を覚えていてもおかしくはない。

 夕飯はかぐやのリクエストを聞いてあげよう………彩葉の言う通り、自分はかぐやに甘いのか、なんて考えた所でアパートが見えてくる。

 カンカンと階段を上がる途中で、不意に燐祢は足を止めると、鼻を引くつかせる。

 

 「なんだ?やけにいい匂いが………」

 

 首を傾げながら燐祢はにおいの元をたどり、更に困惑した表情を浮かべる。匂いのもとは彩葉の部屋からだった。

 おかしい。粉と水のかたまりをパンケーキ等と考えている者の冷蔵庫の中身(推定)でこんな食欲をそそる香りがする物ができるわけがない。と言うかそれ以前に今あの部屋には料理ができる者はいないはず………

 どういうことだと頭を疑問符で埋め尽くしながらも、とりあえず燐祢はドアの前に立ち、軽くノックをする。だが、中にいるはずのかぐやからは何の反応もない。

 不審に思いドアノブに手をかければ、カチャリと言う音と共に何の抵抗もなくドアが開き、燐祢の頭が急速に冷えていく(醒めていく)

 そのままドアを開けると、燐祢は部屋の中を覗き込み、

 

 (人の気配、及び隠れている気配、無し

  物色の形跡、及び隠ぺいの形跡、無し

  争った痕跡、及び隠ぺいの形跡、無し

  台所、調理の形跡有り

  結論………料理をして外出した?)  

 

 冷静(・・)にその結論に至った瞬間、燐祢はくそっ!と思わず毒づいた。

 どうやって料理の材料を調達したのかは分からないが、それは今重要ではない。今重要なのはかぐやが外出しているという事だ。

 あの好奇心旺盛な少女が外に興味を持ち、外出する可能性をもっと重く見るべきだった。

 どこに行った、と燐祢は必死に頭を巡らせる。かぐやがいきそうな場所を考え、すぐに朝の光景が思い浮かぶ。あの様子から考えると自分か彩葉のところぐらいしか思い浮かばない。しかし、当然ながら彼女には彩葉の高校の場所も、自分の美大の場所も教えていない。たどり着けるわけがない。おまけに赤ん坊だった時を含めてもかぐやの移動範囲はこのアパート周辺だ。土地勘は全くと言っていいほどない。これではいったいどこに行ったのか、いつ外出したのかすら全く分からない。

 こんなことなら思い切って美大に連れて行って待っててもらうんだった、と燐祢が歯噛みしていると、不意にスマフォに着信が入る。

 手に取り、そこに表示された名前を見て燐祢は小さく顔を歪めるも、

 

 「もしもし、酒寄さんか!?」

 『………はい、陸堂さん』

 

 何やらひどく憔悴した彩葉の声が聞こえてくるが、燐祢にそれを気にする余裕はなかった。

 

 「すまん!今ちょい……いや、かなり厄介なことになった!かぐやちゃんが家にいない!とりあえず、今から警察……」

 『あ、それなら大丈夫です………はい………』

 「大丈夫ですって……どこにいるのかすら分からないんだぞ!?そんな暢気なこと……」

 『かぐやなら……私のところにいますから……』

 「……………は?」

 『ですから………かぐやは今、私と一緒にいます………』

 

 なぜ、どうして、どうやって、疑問が頭を埋め尽くし、動けない燐祢をよそにスマフォの向こうからバタバタと音がし、

 

 『あ、燐祢帰ってきたの!?あ、部屋の中見てないよね!?ダメだよ勝手に見ちゃ!私が帰るまで外で待っててね!』

 

 元気溌剌なかぐやの声を最後に通話が切れ、スマフォからツーツーと言う電子音が鳴る。

 それを聞きながらリンドウは呆然とその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彩葉からの通話があった後、部屋に戻る気分になれなかった燐祢がアパートの階段に腰掛けていると、

 

 「あ!燐祢いた!おかえり!」

 

 その声に顔をあげればこちらに向かって満面の笑みで駆け寄ってくるかぐやとその後ろを幽鬼のようにおぼつかない足取りでついてくる彩葉が見えた。

 燐祢はすぐさま立ち上がるとかぐやのもとに駆け寄り、

 

 「かぐやちゃん、大丈夫だったか!?」

 「へ?大丈夫って……?」

 

 訳が分からずきょとんとした表情を浮かべるかぐやを見て、燐祢は

 

 「何か、怖いことはなかったか?変な奴につけられたりもしてないか?」

 「え?うん。大丈夫だけど………」

 

 首を傾げるかぐやを見て、燐祢ははぁ~~~、と安堵したようにその場にしゃがみ込む。

 

 「どうやら、大丈夫だったみたいだな………」

 「え、なになに?燐祢ってばかぐやのこと心配してたの?いや~~、そっかそっか~~燐祢はかぐやの事大好きなんだねぇ」

 

 嬉しそうにかぐやがにやけていると、不意に燐祢が顔を上げる。そして据わった目で正面から見据えられ、かぐやは思わず身を固くする。

 

 「どうして勝手に外に出たんだ?外に出るなって言ったよな?」

 「えう。それは……だって、借りたゲームとか全部やっちゃって、つまらなくて……」

 「早く帰れず、連絡もしなかった俺も悪かった。でもな、外に何があるのか何も教えていないんだぞ。何かあったらどうするつもりだったんだ?」

 「それは……その………」

 

 言いごもるようにもごもごと口を動かすかぐやの目を見据えて燐祢は続ける。

 

 「そうだな。つまんないのはつらいし、きついと思う。そんな風にさせたのは悪かった。でもな、外にはいろんな危険がある。それこそ、取り返しのつかないこともな。もしも何かあったら、二度と俺や酒寄さんに会えなくなってたかもしれないんだぞ。それでもよかったのか?」

 「それは………いやだ……」

 「なら、しばらくは外に出るなら俺か酒寄さんと一緒に出てくれ。何かあってからじゃ遅いんだからな」

 「…………うん。ごめんなさい」

 

 しょんぼりと肩を落とすかぐやを見て、燐祢は気まずげに頭を掻き、

 

 「いや、すまない。攻めるような言い方をしちまった。かぐやちゃんは悪い事はしてないよ。でも、危ないことをしたのは確かだ。そこは、気を付けてくれ」

 「うん……」

 「よし、そんじゃぁ、この話はここで終わりにしよう。何はともあれ無事でよかった」

 「うん……あ!ちょっと待っててね!」

 

 慌てて階段を駆け上っていくかぐやを見送ったのち、燐祢は彩葉に目を向ける。

 

 「すまんな、酒寄さん。今回は迷惑をかけた」

 「いえ……別に………」

 「いやいや、偶然とはいえかぐやちゃんを見つけてくれたんだ。本当に助かった……」

 「いえ、私は見つけていません。かぐやが私を見つけたんです……」

 「………え?どうやって?」

 「分かりませんけど………あまり考えないようにしています……」

 「お、おう……ところで、なんかすっごい死にそうな顔をしてるんだが………何かあったのか?」

 

 その瞬間、彩葉の纏う気配が一気に死人のそれに変わり、燐祢は狼狽える。

 

 「ど、どうしたマジで!?マジで何かあったのか!?」

 「……………かぐやが……」

 「か、かぐやちゃんが………?」

 「私のお金で………勝手にスマコンを………買ってました………!」

 

 爆弾を解除したらもっと強力な爆弾を投げつけられた気分になった燐祢は再び呆然とその場に立ち尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いや~~~、最初に匂いを嗅いだ時、すごくおいしそうだと思ったが、本当においしかったなぁ」

 「ええ、本当ですよね。ひょっとしたら陸堂さんよりも……」 

 「ちょっと気にしてるからやめてね。お袋に数年かけて叩き込まれた技術が生後5日に負けるとか本当に傷つくからね」

 「ごめんなさい。でも、私陸堂さんの味付け、結構好きですよ」

 「……そっか。嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」

 「え………あ、え、えっと……た、食べ慣れてる味ってことですから!」

 

 顔を赤くしながら捲くし立てる彩葉に燐祢は変わらず嬉しそうに笑みを浮かべる。

 彩葉の部屋の台所の調理の形跡はかぐやが料理をした跡だったようで、二人(・・)はそれで夕食を済ませたのだが、それがまたすごくおいしかった。

 おいしい夕食を満足いくまで堪能し、二人は満ち足りた表情を浮かべ、

 

 それとは対照的な歪み切った表情でかぐやはもそもそと最後の粉と水のパンケーキを口に運んでいた。

 

 「うぅ……ごめんなさい……もう絶対にあんなことはしません………」

 「あったりまえだ。他人の金を勝手に使うなんざ完全な泥棒だぞ。犯罪だ犯罪。しっかり反省しろ」

 

 満ち足りた表情から一転、厳しい表情で睨みつけられ、かぐやは更に縮こまってしまう。だが彩葉は同情する気にはなれなかった。警察に突き出されてないだけマシと考えるべきだろう。

 かぐやのお金の無断使用を知った燐祢はかぐやに特大の雷を落とし、その罰として今日のかぐやの夕飯は燐祢が食べ物のような何かと称した粉と水のパンケーキ(お残し禁止)となったのだ。

 まぁ、これぐらいは当然だろうと考えながら彩葉はお腹をさすり、

 

 「あのさぁ……結局どうするつもりなの?マジでここでは匿えないよ?」

 

 蛍光灯を見上げながら彩葉は続ける。

 

 「ただでさえ親に無理言って一人暮らししてるんだし、面倒ごとはごめんなの。何かあったら速攻で実家に送還されちゃうからさ……」

 「でもさぁ……他にどこに行けばいいの?もし捕まっちゃったらかぐやちゃん解剖されちゃうかもだし~」

 「月に帰ればいいでしょうが。頑張って帰り方思い出しなよ」

 「がんばってるけどむずかしい~~ぐぬぬ」

 

 口直しのジュースを飲みながら唸るかぐやを彩葉は呆れたように眺める。あ、燐祢にちゃんと話を聞きなさいと小突かれた。

 それを見ながらはぁ、と彩葉はため息を漏らし、

 

 「じゃぁ、迎えが来るまでだからね」

 「いいの!?」

 

 かぐやはぱっと顔を輝かせ、対照的に燐祢は驚いたように目を丸くしている。

 

 「なんですか、その目……」

 「ああ、いや。朝はさっさと出て行けって言ってたから以外でな……」

 「冷静に考えたら放り出すわけにもいかないでしょう。それに、この子を拾ったのは私の責任とも言いました。だったら、帰るまで面倒を見る責任もあると思いますので」

 「まぁ、そうかもしれんが……それで自分を潰しちゃ意味ないぞ。大丈夫なのかそこんところ」

 「それは……大丈夫です。うまくやりますから」

 

 何とも不安になる返答である。目を逸らしているのも不安に拍車をかけている。

 しょうがない、と燐祢は息を吐き、

 

 「乗り掛かった舟だ。俺も付き合うとしますか」

 

 今度は彩葉がえっ、と声をあげるが、燐祢は小さく肩をすくめ、

 

 「もうここまで来たら泥船だろうとタイタニックだろうと最後まで乗船する覚悟だ。それに、かぐやちゃんも料理できるとは言え、しばらくは俺が飯を作る必要はあるだろうしな」

 

 そう言われては彩葉は何も言えない。なまじ燐祢の味付けが好きと言ってしまった手前、断ることもできない。

 

 「じゃあ、かぐやちゃん。しばらく俺たちが君の面倒を見るけど、さっきも言ったが、一人で勝手に外出はするなよ?もしも出かけたくなったら必ず俺か酒寄さんに声をかけるんだ」

 「うん、分かった。一緒にお出かけだね!」

 「ま、そうなるか。あと、俺の部屋には勝手に入らないようにしてくれるか?」

 「え、ダメなの?」

 「細かくて、大事なものがいっぱいあってな。無くなると困るんだ。かぐやちゃんも無くしたくないものってあるだろ?」

 「うん!犬DOGEは無くしたくない!」

 「犬DOGE?」

 

 これ!とかぐやが差し出してきたのは卵型の携帯ゲーム機だった。

 

 「これは?」

 「燐祢、ゲーム貸してくれたでしょ?それで、彩葉は何を持ってるのかなって探したら見つけたの!」

 「お前……また……」

 「いやまぁ、それは別に使ってないのでいいんですけど……」

 「はぁ………とにかく、そういうわけでな、もしも遊びに来るなら事前にきちんと連絡してほしいんだ。そうしてくれるならいくらでも遊びに来て構わないから」

 

 分かった!とかぐやが返事をした瞬間、彩葉のスマートフォンがアラームを鳴らす。

 

 「あ、もうこんな時間!この時間までに予習を終わらせるつもりだったのに……」

 「まぁ、しょうがないだろう。じゃあ、俺は部屋に戻る。またツクヨミでな」

 「なに?どこ行くの?またかぐやを置いてくいくの?ごめんなさい!本当に反省してるから!もう絶対にしないから置いて行かないで!」

 

 燐祢が立ち上がろうとした瞬間、かぐやが慌てて彩葉も巻き込むように抱き着いてくる。

 

 「ちょ、ちょっと落ち着いてかぐや!ち、近い近い!」

 「お、落ち着けってかぐやちゃん。ちょっとツクヨミに行くだけだ。どこにも行かないから」

 「行くじゃん!かぐやも連れてって!」

 「それは……確かにそうだな。矛盾だなぁ」

 「無理だって。スマコンがないと………あっ」

 「そういえば持ってたつうか、買ってたな……連れていくしかないな。とりあえずかぐやちゃん。放してくれ。俺のスマコンは部屋にあるから取りに行かないと」

 

 不満げな表情をしながらかぐやは渋々燐祢を開放する。じゃあ、また後でと燐祢は彩葉の部屋を出ていく。

 彩葉はスマコンを装着すると二人で隣り合わせに座る。かぐやもすでにスマコンを付けている。

 

 「行くよ、せーの!」




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