とにかく、これからまた執筆を始めていきます。
これからまた、よろしくお願いします。
頭上の太陽から強烈な日差しが降り注ぎ、周囲の気温をじりじりと高めている。早朝ではないとはいえ朝方にこれでは今日も殺人的な気温になりかねない。
常人なら運動をためらうような気温の中で、燐祢はひたすらに剣舞に没頭していた。どれほど振っているのか、燐祢はすでに汗だくとなり、シャツは濡れて体に張り付き、鍛え抜かれた体が浮き出ている。
周囲から少し遅れたが燐祢の大学もつい先日夏休みに入った。課題もそれなりに出されているが、それでも長期の休みに変わりない。自然と燐祢のルーティンの剣舞も頻度を増すと言うもの。
振って、振って、振り続ける。周囲の気温も、流れる汗も気にならないと言わんばかりに一心不乱に。
それから少しして、満足したのか燐祢は大きく息を吐きながら木刀を下す。首にかけたタオルで流れる汗をぬぐい、水分補給をしようと顔を巡らせた所で燐祢はようやく、いつの間にか見学者がいることに気付いた。
庭の木陰の下にいつの間にかかぐやと彩葉が立って、燐祢を見つめていた。燐祢の視線に気づいた彩葉は少し照れたように軽く頭を下げてくる。対しかぐやは微動だにしない。ただただまっすぐに、彼しか見えてないと言う様に燐祢を見つめ続けている。
「酒寄さんにかぐやちゃん。どうしたんだ?」
「あ、いえ。実はちょっと陸堂さんにお願いがあって探してたんですが……」
「すごい!すごいすごいすごいすごい!すごいよ燐祢!」
動き出した瞬間、かぐやは目を輝かせ、興奮したように頬を紅潮させながら満面の笑みを浮かべて燐祢との距離を詰める。
「お、おぉ、そうか?」
「うん、そうだよ!すごかった!すごいよ!すごいすごい!」
「語彙力無くなっちゃってるじゃない」
小さく苦笑を浮かべながら彩葉は燐祢に彼の水筒を手渡す。
「いや、すごいって………そんな面白いものじゃないと思うんだが……」
水筒の中身をあおりながら燐祢が言うと、かぐやは勢い良く首を横に振り、
「そんな事ないよ!すごく、すごく……………きれいだった!すごくきれいで、かっこよかった!」
「全く……ちょっとは落ち着きなさいよ」
ぶんぶんと手を振り回すかぐやに呆れながら彩葉は彼女の襟元を掴んで後ろに下がらせる。
「あはは……ま、ありがとう。それよりも二人とも、俺に何か用があったんじゃないのか?」
「あ、そうだ!燐祢、KASSENのこと教えて!」
「KASSENって……ツクヨミのKASSENか?」
燐祢が彩葉に視線を向ければ、彼女はその通りと言う様に頷く。
「そうそれ!配信のネタをさがしてたらこれかなって!最初は彩葉に教わろうとしたんだけど……」
「私は講習とバイトがありますから時間がなくて。それで陸堂さん、KASSEN強いじゃないですか。だから代わりに教えてもらったらって私が言って……言い出しっぺなので、私もお願いに来た次第で」
「なるほど、そういう事ね………まぁ、確かにKASSENは比較的得意だが……」
「そうそう。燐祢ってKASSENで結構強いんだってね。かぐや驚いちゃった。それに配信もしてるんだね」
「まぁ、小遣い稼ぎにな。仕事にするつもりはないから本格的にはしてないけど」
「とにかく!ゲーム上手なんでしょ?教えて!」
「教えてって簡単に言うけど……俺、感覚派なんだよなぁ……うまく教えられる自身が全くないんだが……」
「まぁまぁ、とりあえずやってみようよ!やってみたら以外いけるかもしれないし!」
「またそんな勢いだけで…………」
渋る様に口をへの字に曲げる燐祢を見て、かぐやがいつものように目を潤ませながら上目づかいで見上げてきて、
「ねぇ、お願い燐祢……かぐやの事、助けて?」
渾身のおねだりを繰り出してくる。またか、と彩葉が判目を向けてくるがそんなのかぐやは気にしない。その顔にむぅ、と燐祢は顎に手を当てて考え込み、
「ま、少しぐらいなら大丈夫か。基本的なルールや動かし方ぐらいなら教えてあげられると思うし、いいぞ」
「本当!?やったぁぁぁ!」
ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ね回るかぐやにやれやれと燐祢が苦笑を浮かべていると、
「…………あの、私が言うのもなんですけど、課題とか、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だって。俺の夏休みは始まったばかりだしな。余裕は十分にある。というか、俺よりも酒寄さんだ。ちゃんと休んでるんだろうな?
「いや、それは………は、はい」
そういう彩葉の顔は燐祢に向けられていない。逸らされている顔に燐祢は小さく顔をしかめ、
「本当なんだろうな?後でかぐやちゃんにも確認を取るが?」
「だ、大丈夫です!本当に大丈夫です!今日だって、少し元気貰いましたから!」
そこまで言って、はっと彩葉は目を見開き、わずかに顔を赤らめるが、燐祢はそれに気づかずに首を傾げる。
「元気って………俺なんかやったか?朝飯はいつも作ってるし……」
う~~む、と唸る燐祢を見上げ、彩葉は小さく口元を曲げながらほっとしたようなため息をつき、
「じゃぁ、かぐやの事お願いしていいですか?私はこれから講習なので」
「ああ、それは構わないが、本当に大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。それでは」
小さく頭をさげて彩葉はカバンを手に歩き去っていく。
「あれ、彩葉は?」
「かぐやちゃんがはしゃいでいる間に講習に向かったよ」
「そっか~~。それじゃぁ、燐祢。KASSENの事お願い!」
「それはいいが……いつやるんだ?」
もっとも、かぐやの性格を知っている燐祢はある程度予想「今日!」通りである。
「やっぱりか……まぁ、構わないけど、ひとまずシャワーを浴びてきていいか?汗を流したいからな」
「うん、分かった!じゃあ準備できたら言ってね!」
そう言ってかぐやはパタパタとアパートに向かって走っていく。
元気だねぇ、とその背中を見送りながら水筒を再び呷る。
――――――――――――――――
「あ!この練習配信するからそのつもりで!」
「え!?いや、それは、下手したら炎上するかもしれないぞ!?」
「大丈夫大丈夫!前に近くにお兄ちゃんのような人にお世話になってるって言った時そこまで荒れなかったから!」
「いや、だとしても流石に………!ああ、もう………」
――――――――――――――――
「かぐやっほー!かぐやだよ~~!今日の配信、始めるよーー!今日はね、初めてのKASSENをやるよーー!」
:かぐやっほー!
:かぐやちゃんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
:ついにかぐやちゃんもKASSENに参戦か……
:歓迎しよう、盛大にな!
ツクヨミ内、KASSEN専用フィールドでいつも通り満面の笑みで宣言するかぐやを燐祢は横合いから複雑な表情で眺めていた。
流石に新気鋭のライバーだけあって配信直後にもかかわらず大勢の視聴者が集まっている。間違いなく自分の配信以上の人が集まっているであろう盛況さだ。
ここに顔を出すのかぁ、と胃のあたりをさすっていると、
「それでねぇ、今日はKASSENの事を教えてもらうためにゲストを呼んだんだ!それじゃぁ、どうぞーー!」
嬉しそうにこちらに手招きをしてくるかぐやを見て、もう逃げられないか、と腹を括ったように燐祢は息を吐き、
「ほい、ご紹介にあずかったゲストのリンカだ。一応俺も配信してるから知ってる人が居るかもだが、まぁ、その………よろしく」
小さく苦笑を浮かべながら燐祢が前に出た瞬間、
:え?
:嘘だろ?
:これマジ?
:ざわ……ざわ……
:ゲストって、鬼刃!?
:かぐやちゃん、凄い人呼んじゃったよ。
:鬼刃に教わるのか……これは化けるぞ……
:え、ていうか、確か今日の配信のゲストってお隣のお兄ちゃんみたいな人って……もしかして、鬼刃がお隣さん!?
「おお、すっごい反響が来てる!本当にリンカってすごかったんだね!」
一気にざわつきだしたコメント欄を見て、興奮したように絡んでくるかぐやに燐祢は小さくため息をつく。
「そんな暢気な……はぁ。かぐやちゃんが言ってたかもしれんが、一応かぐやちゃんとはお隣さんだ。まぁ、色々と世話を焼いている関係だな」
:かぐやちゃんとお隣とか
:何それ、うらやま
:確かリンカって大学生のはずだから、本当に近所のお兄さんって感じか……
:お義兄さん、かぐやちゃんをください
「まぁ、そうだな。かぐやちゃんがもう話してると思うが、飯を作ってやったり、配信の手伝いをしたりとかしてるかな。あと、最後のコメント、別にかぐやちゃんの恋愛に口を出すつもりはないがそれでもどこぞの馬の骨を許すほど寛容にはなれんぞ。かぐやちゃんに求婚するなら最低限この子と最後まで添い遂げる覚悟を持ってから出直してこい」
:あ、はい
:シスコンじゃないか
:かぐやちゃんならやむ無し
:これはお兄……いや、鬼兄ちゃんですわ
コラボによる炎上を心配していた燐祢だったが、芦花たちの言う通り、存外盛り上がっているように思える。
この分なら大丈夫かな、と胸をなでおろしていると、かぐやが早速言わんばかりに声を張り上げる。
「それじゃぁ、今日はリンカにKASSENについて教えてもらうね。ご指導お願いします!」
「何度も言うけど、感覚派でそれなりに動けるってだけだぞ?」
:それなり?
:もしかして自覚ない?
:まぁ、確かに鬼刃より強い人もいるが………
:はい、俺この人のこと知らないんだけど、そんなに有名なの?
:有名も何も、リンカってKASSENで有名な配信者だぞ。
:プロじゃないから配信は不定期だけどプレイスキルが半端じゃない。
:KASSENの勝率は常に6割越え。いつだったかのSETUNAの負けるまで終われません配信じゃあ、50人抜きを成し遂げてたっけ
:50人抜き!?
:マジかよ……とんでもない人が出てきちゃったよ……
:で、鬼のように強いから、いつの間にか鬼刃って呼ばれるようになったってわけ。
:でも、そんなすごい人なのにあまり話を聞かないぞ?それに、そんなにうまいのならプロになってるんじゃ……
:いや、一時は本当にプロゲーマーとしてスカウトを受けてたんだけど、本人が断ったんだよ。他にやりたいことがあるからって。で、いつの間にか話自体がなくなったみたい。その後、リアルが忙しいからってしばらく配信を休んでたから……
:マジかよ……もったいないなぁ……
:そうなんだよ。でも、個人の強さもヤバいけど何よりもヤバいのが……
「まぁ、とりあえずあれだな。野郎のトーク何て聞きたくもないだろうし、さっそく始めるか。かぐやちゃん、武器は何を使うんだ?」
いつの間にかかぐやの配信なのに自分が話題の中心になってきてる気がして、燐祢は慌ててかぐやに問いかける。
「かぐやはねぇ、これ!」
そう言ってかぐやが取り出したのは巨大な4本の竹を束ねて作られた巨大なハンマーだった。
「おうおう、また随分とごついものを持ってきたなぁ……」
「うん、これでドカーンと行っちゃうよ!」
豪快にハンマーを振り回すかぐやに小さく苦笑を浮かべながら燐祢も自分の相棒を取り出す。彼の手に握られたのは燐祢の背丈ほどもあろうかと言う長さをしたシンプルなデザインの大太刀だ。
「さて、それじゃぁ、始めるけど、俺は感覚派だからな。習うより慣れろ。早速SETUNAで試合でもしよう。思いっきりきていいぞ」
「OK!」
二人が互いに向き直り、得物を構える。そして試合が開始すると同時にかぐやのハンマーが勢いよく炎を噴き出して加速、猛スピードで燐祢目掛けて振り回されるが、彼はバク転で強烈な一撃を回避する。
「いきなりロケットスタートとは、随分と積極的だな!」
「へへーん、ドンドン行っちゃうよ!」
その宣言通りかぐやは巨大なハンマーを燐祢目掛けて縦横無尽に振り回す。
「っと、おいっ!ちょっと、容赦が、無さすぎじゃ、ないか!?」
「だってリンカ、思いっきり来ていいって言ったじゃん!」
「いや、言った、けども!」
:でも全部避けてるよな
:すご、当たりそうで全然当たってない……
:さすがは鬼刃……
あたるどころか掠るだけでも致命的と思われる猛撃だが、当たらなければ意味がない。一見するとかぐやが一方的に攻め立てているように見えるが、燐祢は嵐の如き攻撃を全て紙一重で回避し続けている。
こうなってくるとかぐやもムキになり始めたのか、更に攻撃が激しくなるが、燐祢はそれすらも回避し続けながらかぐやを見る。
(すごいな……多少は練習しただろうけど初めてでここまで動けるとは……これは本当に化けるかもしれない………だったら、マジで行くべきか)
「そんじゃぁ、今度はこっちから行くぞ」
そう言った瞬間、燐祢は振り下ろされるハンマー目掛けて太刀を抜き放ちながら切り上げる。直後、甲高い音と共に致死の一撃は勢いよく弾かれる。
「うえぇ!?」
ハンマーにつられて万歳の体制となったかぐやに燐祢はすかさず切りかかる、とっさにかぐやは身をひねって回避してそのまま後ろに下がるが、燐祢はすかさず距離を詰めてその勢いで太刀を突き出す。
「なんのぉ!?」
かぐやは更に身をひねって回避すると、ハンマーがそのまま変形、ロケットランチャーのようになり、銃口を燐祢に突きつける。
撃たせない、と燐祢が距離を詰めようとした瞬間、ランチャーから放たれたウナギが燐祢に襲い掛かる。
「はぁあ!?」
それを見て素っ頓狂な声をあげながらも燐祢は素早く下がってウナギを回避する。
「ちょっと待て!なんでウナギぶっ放してんだ!?兎と月をモチーフにしたなら普通餅だろ!?」
「う~~ん、うなぎのほうがおもしろそうだったから!それにウナギとウサギって似てるし!」
「いや、確かに一文字違いだし、母音は同じだけども!」
:違う、そうじゃない
「おりゃぁ!諦めてぬるぬるになっちゃえ!」
何とも言えない音と共に自身に向けて乱射されるウナギを前に燐祢は鞘に手を伸ばす。直後、鞘に持ち手と刃が現れる。
「かば焼き大量生産じゃぁ!」
一瞬で二刀流となった燐祢は二刀を振るい、殺到するウナギ全てを撃墜すると一気にかぐやとの距離を詰める。
ウナギが通用しないと察したのか、かぐやはランチャーをハンマーに戻すが、それを見た燐祢の手の中で二刀がさらに形を変える。刃と持ち手が格納された鞘の口に太刀の柄の先端が接続。一瞬で太刀は長大な柄と刃を持つ長巻と呼ばれる武器へと変わる。
一気に長さが倍近く伸びた太刀を見て、ヤバいと感じたのかかぐやは後ろに下がると同時に、燐祢は長巻を勢いよくかぐや目掛けて投擲する。とっさに後ろに下がってしまったかぐやにそれを回避する術はない。
呆然とするかぐやに長巻が突き刺さったのはその直後だった。
―――――――――――――
「うがぁぁぁぁぁ!ま~~け~~た~~!く~~~や~~し~~い~~~!」
バタバタとかぐやは手足を振り回しながら地面を転げまわる。
あの後、かぐやは燐祢と幾度か試合をしたのだが、結果は全て燐祢の快勝だった。
:あの、鬼刃さん?かぐやちゃんは初心者ですよ?
:ここはお兄ちゃんとして勝ちを譲るべきでは?
「生憎とそこまで優しくはなれんな。勝負事だからこそ、最低限勝ちに行くのは当然だろ」
それに、と燐祢は転げまわるかぐやを見て、
「うん、そうやって悔しがれるのなら、かぐやちゃんは強くなれる」
「うぇ?」
かぐやがきょとんとした表情で上体を起こし、燐祢を見上げる。
「上達するのに一番重要なのは悔しいって感情だ。悔しがれるぐらい本気なら、間違いなくもっと上を目指せる」
「そう?かぐや、もっと強くなれる?」
「ああ。その悔しさを大事にしていけば、絶対にな」
「そっかぁ………よし!それじゃぁ、かぐや強くなる!そしていつかリンカより、ううん。ツクヨミで最強を目指す!」
「ははっ、夢が増えたな。その意気だ」
こぶしを突き上げて宣言するかぐやを見て、燐祢は満足げに頷く。
「それじゃぁ、この後は他の対戦モードを一通りこなす感じでいいか?」
「うん、お願い!」
「了解。それじゃぁ、とことん付き合いますか」
「あ、芦花、真実!」
「かぐやちゃん、燐祢さんとの練習終わった?」
「うん、もうバッチリ!これから勝って勝って勝ちまくるぞぉ!」
「お~~、凄い意気込み……って、燐祢さんは?一緒じゃないの?」
「なんかね、私が頼みに行ったとき、課題で悩んでる様子だったから、あまり付き合わせちゃダメかなって思って……」
「そっか、そういう事なら仕方ないね。私たちだけで配信盛り上げよっか」
「それじゃあ、人食い鬼が来ても返り討ちにするつもりで頑張ろ~~!」
「人食い鬼?なにそれ」
「う~~ん、そうだね.......まぁ、ツクヨミに伝わる都市伝説みたいなものかな。何でもKASSENで対戦相手の喉を食いちぎって倒すプレイヤーがいるんだって」
「食いちぎるって········そんな事できるの?」
「う~~ん蹴ったり殴ったりでダメージは入るし、出来ると言えば出来ると思うけど........」
「でも、検証した人はいないみたいだから分からないんだよね」
「まぁ、でも、実際のところは噂だけなんだよね。動画もないし、噛みつかれたって言ってる人もいないからさ」
「うん、そうだねぇ。そもそも、いくらゲームでも人が人に噛み付いて、あまつ食いちぎるなんて出来るとも思えないしねぇ」
「そっかぁ.........でも大丈夫!人食い鬼が来てもやっつけちゃうもんね!」