どうせなら、キャンバスは白いほうがいい   作:中山の補題

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前話のタイトルミスってました。凡ミスにもほどがある。
今回も読んでくれてありがとうございます。


6月、ウキウキ?な日々 裏③

プレイヤー情報を写すウインドウが閉じられ、慣れ親しんだいつものが始まる。

自分の体が小さく丸まり、大きな桃に包まれた。その後風呂敷に包まれチームのホームである天守閣上空までトキに運んで落とされ……

 

「よっと」

 

着地する。中学時代には廃人に片足突っ込んだこともある私にとってはこのルーティンはミスりようがない。だけど……

 

私は相手チームのホームを見るウインドウを開く。そこに映されていたのは桃からうまく出れずおもっいっきり地面に落下して動けずにいる清水の姿だった。

 

『ふふふっ……し、しみず、……だ、だいじょうぶふぅぅ!!』

 

予想していたとはいえ本当に起きてしまうとは。思わず全体VCを入れてしまったじゃないか。映像を見れば顔真っ赤だし清水。外見は結構きりっとしててかっこいいのに、中身はこれなんだよなぁ。

 

「い~ろは。作戦はどうする?」

 

芦花が私の横までスキップしながら寄ってくる。そして私の肩によりかかりながらこの試合の進め方を聞いてくる。

 

「んー、そうだなぁ。まずあっちがやりそうな戦術は…二つ。

 一つ目は初心者である清水をあの二人が全力でサポートするやり方。一番無難だけど、正直言ってそれじゃ私達には勝てない。そして二つ目、こっちが本命。清水を一人にしてFreeStyleとM4Kenの二人でツーマンセルを組んで攻めるやり方。清水に負担はかけるけど、こっちのほうが断然勝率は高い」

 

私の言葉に真実が疑問の声を上げる。

 

「え~ほんとに?

 いくらなんでも初心者に手厳しいんじゃない?清水君初めてのKASSENなんでしょ?」

 

「そうだね。河木君も対戦相手が私達のレベルじゃなければ一つ目の作戦で清水を動かしただろうけど……、河木君は勝てない作戦は絶対やらない。この前の大会で私はそう感じたから」

 

「りょ~かい。彩葉様の言う通りってね。

 …で? その読みを経てどんな作戦を彩葉は考えたの?」

 

「答えは単純。相手の狙いは得意の連携で突破しつつ、そこに私たちが戦力を投入すれば隙をついて清水にオブジェクトを触らせる。だったら私達も同じことをすればいい。こっちは2対2を決着つかせないように遅延させて、一人の清水を倒してがら空きの本陣を狙う。そうすればいくらあの二人でも本陣に戻ることは出来ない」

 

「えっぐ。

 ほんとに初心者に厳しい人がここにいたわ。…なんとなくわかっているけど、清水君のところに誰が行くの?」

 

「え? それは…………」

 

 

 

 

 

勿論私に決まってる。

 

既に試合は始まり先ほどの作戦会議で話した通り、私は一人で行動し芦花と真実はペアで動いてもらっている。マップを確認すれば相手は予想通りの動き出来てくれているので、こなままいけばこの試合は一瞬で終わりをむかえてしまうけどそうはならないという確信がなぜか私の中にあった。

 

トップレーンを単身進んでいると、遠くに人影を見つけた。おそらくあちらは私に気づいていないだろうし少しご挨拶でもするか…なっ!

 

私は武器を思いっ切り清水へとぶん投げる。初心者はおろか中級者でも防御するのは難しいであろう一撃は正確に清水の体を切り裂く…ことはなく、清水が召喚したであろう人形に阻まれてしまった。ふむ、なるほど。

 

「へぇ……

 そういう能力なんだ。正に説明通りだったってわけね。

けど、明らかに普通の人形師とは違う。召喚してから動作に移るまでのタイムラグが短いし、そもそも普通の人形なら受けた瞬間大破してる。けどまだまだ元気みたいだし、耐久力も桁違いだね」

 

私は清水の前へと姿を見せる。あの一撃を無傷で切り抜けるのは正直言って予想外だった。

体力の半分は持ってけると思ったのだが。なかなかどうして、清水はセンスがあるらしい。

 

「酒寄さーん。僕まだプレイして30分くらいのペーペーなんですけど、いきなりその攻撃は容赦なさすぎない? 僕の体真っ二つになるところだったんですけど……。

ていうか! なんで僕のところに来てるの!?

 行くなら絶対あの二人の方でしょ。

 あちらさんの方が僕よりも、ものすごーく強いと思うけど?」

 

「え? もう忘れたの清水。

 別れるときに行ってくれたじゃん。私と一緒にKASSENをプレイしたいって。

 折角こんな偶然を引けたんだから、いい機会だし応えようかなって」

 

そうだ。何も私はこの試合に勝ちたいだけで初心者である清水に突貫したわけではない。別れる前に言ってくれた言葉を私なりに解釈したまでだ。

 

「酒寄さん……にやけ顔、隠せてないよ。どれだけ僕と戦うの楽しみにしてんの!?」

 

「なによ、そんなに怖がって。

 そこは少しくらい嬉しがってくれても……いいんじゃない!!」

 

そう言って私は地面を強くけりだす。勢い良く切りかかる私に対し、清水は再び砂の兵士を召還して応戦してくる。さっきは一撃で吹き飛ばされていたけど今回は攻撃を受け止めてるのではなく、受け流すことでうまく対処している。しかし、そう簡単に対処できるほど私は甘くない。速く鋭い攻撃で兵士たちの体勢を崩し、その隙を逃さず一気に振りぬくっ!

 

攻撃を受けた兵士2体は当然ながらを受けきれず、一体はその形を失った。残った1体は何とか持ち堪えている。

今までの情報から兵士の性能をまとめると、耐久性はそこそこあるし、攻撃力も悪くない。だが私の速さにはついてこれてはいない。無理に力押しせずに速さを生かして崩していけば必ず清水へ攻撃は通る。

 

そしてその瞬間は今に訪れようとしていた。

 

「もらったっ!!」

 

1分以上打ち合ってようやく最後の兵士を破壊することに成功した。もう清水を守る盾は存在しない。私は清水の左肩から反対側の脇腹へと袈裟斬りを繰り出す。清水はその攻撃が届くのを見守ることしか……!?

 

突如として目の前に2体の兵士が出現して私の攻撃を受け止め、カウンターまで決めてきた。こんな隠し玉まで持ってるのは想定していなかったけど、思わぬコンティニューに私は内心喜んでいた。しかし気になることが一つ。今さっきの私の攻撃に、清水自身何の反応もしていなかった。防御が間に合わないにしても無意識で何かしら反応するものだけど。人形たちへ繰り出した攻撃への対応は素晴らしい反応だった分、不自然に感じられた。

 

「ねぇ……僕がこの勝負に勝ったら、明日の賄いで1品作ってよ。この前食べさせてもらった豆腐ハンバーグ美味しかったし、酒寄さんのほかの料理もたべてみたいなって思ったんだよね。どう?」

 

なんかハイテンションになってるな清水。新しい玩具を買ってもらって、はしゃいでいる子供みたいだ。でもその気持ちはわかってしまう。自分が一つ上に上がったと感じるあの感覚はなんともいい気分になる。丁度いい、今私も清水に聞きたいことができた。

 

「いいよ。じゃあ私が勝ったら……、

 一つ清水に聞きたいことが出来たからそれについて聞こうかな」

 

「その条件乗った。モチベーションも上がってきたし、続きと行こうよ」

 

交渉成立。この勝負に負けられない理由が増えてしまった。武器を握る手に思わず力が入ってしまう。清水も槍を構え正に準備万端といったところ。それに続いて清水の兵士たちも攻撃姿勢を整えたところで…消えた。

 

「は?」

 

気づいたら目の前まで接近していた砂の兵士が武器を私に振りかざそうとしていた。私はそれに何とか反応し受け流す。息をつく暇もなく2体目、3体目の兵士たちがさっきまでとは比べものにならない速さで襲い掛かってくる。さっきまで簡単に押し返せたのに…今度は私がガードを崩されそうになっている。それに加えてさっきから清水自身も攻撃に参加してきて、正直うっとうしい。兵士たちに比べれば大した攻撃ではないけど、今の私は攻撃を見分けるほどの余裕がないのですべてに反応して対応するしかない。そうすると当然さばききれない攻撃が出てくるわけで、じわじわと私のHPが削られていく。このままの状態を維持されたらいつか私は負ける。…しょうがないな、私も隠し玉使うしかない。いつか兄と戦う日がまた来るかもと思いずっと隠していたがそんな日が来るかも知らんし、よく考えたら対戦したくもない。そんなしょうもないことよりも清水とのこの勝負の方が私にとっては大事だのだ。そう思いウルトを使おうとした瞬間、

 

兵士たちの動きが止まり、砂へと還っていった。

なぜ? 単純に時間切れ? それとも清水がミスをしたの?

分からないがこれは大きなチャンスであることに変わりはない。私は初撃のように力強く地面をけり攻撃を仕掛ける。私は武器をシンプルに水平に薙ぐ。清水は何とか反応し弾いたけど、がら空きだ。これで終わり…

 

ほんとに?

 

これでこの勝負は終わるの?

 

そんなわけない、これは………罠だ。

 

武器を振るう手を止めて力をためる。例え罠だとしても、それを意に介さない程の速さでやってしまえばいい。

 

「いい狙い。センスいいね清水。

 これは次に一緒にプレイするのが楽しみかも。けど……

 作戦が成功するまでは顔に出さない方がいいよ。ばれちゃうから……ね!」

 

溜めた力を一気に開放し、居合切りで清水の背後へと回る。清水が防げるはずもなく、攻撃はクリーンヒットした。物凄い勢いで清水のHPは減っている最中だろう。

 

これでやっと……

 

グサッ。

 

「えっ?」

 

私は音がした足元を確認するため目線を下げると、そこには地面に清水の持つ槍が私の足の甲を貫いて地面深くまで刺さっていた。

 

「酒寄さん、少しの間だけおとなしく捕まっといて。直ぐにお迎えが来ると思うから……」

 

やばい、動けない。そう思ったときには時すでに遅し。周りにはぞろぞろと砂の兵士たちが集まりさすまたでこちらをつついてくる。

 

「えー、私もしかしてだけど………詰んだ?」

 

私のその疑問に答える人が存在するわけもなく、ただ時間が過ぎるのを待つしかないのであった。

 

 

 

 

 

 

あの後、トップレーンにテレポートで飛んできたFreeStyleこと鈴村君に助けて?もらったり、天守閣で1対2の試合の勝敗を決める戦いが始まると思ったら清水の槍がすでに使い物にならなくてどうしようもない状態になったりした。そんなこんなで私達がゲーム自体には勝ったわけではあるが、まぁ何とも言えない内容ではあるわけで。

まぁその他にも理由はあるけどとにかくあちらさんの方に声をかけることにしたのだ。二人にもそのことを話したらあっさり了承してくれたのでお言葉に甘えさせてもらった。

2,3分程度探しているとそれらしきグループを見つけた。近づいていくと段々と話し声が聞こえてきて、内容も鮮明になっていく。

 

「いやぁ~面目ない。

 まさかウルト後にあんな副作用あると思わなかったよ」

 

さっきのゲームの振り返りか。

……なるほどね、いきなり清水の動きと兵士の動きがよくなったのはやはりウルトのおかげだったんだ。ウルト終了後に一定時間槍の特殊能力が使えなくなるのは大きいデメリットだけど、それに見合う強さは間違いなくある。自分でいうのも恥ずかしいけど、私が初心者相手にあそこまで手こずるのはまず有り得ない。初心者の清水をあそこまで私に食らいつかせたあの槍の性能……清水が真にあの槍を使いこなしたときが楽しみだ。

 

「まぁ、しゃあないやろ。それよりもよく酒寄さんをあそこまで追い込めたな。

 マジ才能あるで清水。今後が楽しみやな」

 

槍の能力もあるけど、普通に清水の戦闘技術が予想よりも2倍いや3倍は高かったのも事実だ。人形師である以上あの兵士たちの操作は清水がやっているはず。あの速さで動く人形の動きをあれだけ正確で連続的に実行させるのは正直言って頭おかしい。それも複数体でそれをやっているんだからなおのことだ。普段の雰囲気からは感じることができない、清水眞白の持つ特異性といえばいいのだろうか?間違いなく私のような凡人とは脳の作りが違う。脳内で清水の評価を爆上げしつつさらに近づいていく。もうそろそろ清水の背中に私の手が届くくらいまで……

 

「そうそう! マジでよかったよ。

 いやぁ~清水のウルト中の動きやばかったなぁ。あの状況、俺だったら酒寄さんみたいに対応できないかもなぁ」

 

「それは嘘でしょ、私をSETSUNAでぼっこぼこにしたくせに」

 

気づいたときには口をはさんでいた。ホントは後ろからいきなり肩つかんで驚かせようとしてたのに。

 

「お疲れー。いやぁ~、さっきはなかなかにグットゲームだったね」

 

「久しぶりにここまでゲームで白熱したよー」

 

芦花と真実も私に続く形で話しかける。目の前の男4人組は、さっきまで対戦相手としてしのぎを削っていた相手にいきなり話しかけられて驚いている。その中でいち早く再起動を果たした清水が疑問をなげてくる。

 

 

「酒寄さん、葛野君と戦ったことあるんだ?」

 

「前に少しね。5先で2本しか取れなかったけど」

 

「俺から言わせればカズ相手に5先で2本奪えるアンタに驚くけどな。

 こいつからまともに1本取れるだけ凄いはずやのに」

 

「まぁそこは……。

 ゲーマーの意地ということで」

 

私から言わせれば、あの兄とずっとやりあっていた私があそこまで1vs1で圧倒されるとは思わなかった。はじめの3試合は全く葛野君の動きに対応できなかった。しかしその後少しづつ対応できるようになりなんとか2本返すことに成功。そのままの勢いに乗れると思ったのだがダメだった。一度対応されると自分の動きを見失うプレイヤーが多い中で、葛野君は私の対応を逆手に取るやり方で応戦してきた。結果、私の対応するやり方では葛野君の手札の多さをつかみきれず敗北したというわけである。世界は広いなぁと改めて感じた出来事でもあり、そんなプレイヤーが自分と同じ学校の同級生であることから世間の狭さも感じた一幕だった。

 

「てかなんで会いに来てくれたんだ?

 あんまり親交があるわけじゃないだろ俺ら。清水と酒寄さんはともかくさ」

 

「そう!そこ!

 気づいたら彩葉と清水君がすごい仲良しになってるからさー。

やっぱり気になるじゃん、清水君ってどんな人なのかとか、その友達はどんな人たちなんだろうって」

 

「私と芦花は東京出身だからね~。勿論、清水君の名前ぐらいは知ってたけど、噂話ばっかり飛び交っていたから、全くって言っていいほど人となりの方は不明瞭なんだ」

 

そういうことだったのか。あっさりついてきてくれたものだから何も思わなかったけど、二人にはそんな思惑が。

 

……っておい。なんか清水の顔赤いんですけど。

頭をぽりぽり掻きながら、恥じらいの表情をしているですけど?

コイツ……、異性からのアプローチに耐性がなさすぎる。私には入学式日にいきなり話しかけてきたくせにこの差はなんなのか。私ってそんなに女性らしくないのだろうか、もしそう思われているのだとしたら早急にその認識を改めさせる必要があるな……。

 

「今日こうやって対戦相手として君の戦う姿をみて、今こうやって会話してなんとなくだけど分かったよ。清水君、君はなんていうか………面白い人だね。私も普通に君に興味が出てきちゃった。……というわけで、これから友達としてよろしくね!」

 

「よろしくね~」

 

それにしたって芦花は人との距離をつめるのが上手い、おまけに可愛いし。これは男の子を勘違いさせる悪い女ですわ、良い娘だけど。

……絶対にこの事は本人には言ってはいけない。芦花はあの感じですごく繊細な子だということを私は知っているからだ。

 

「あっ、そっちの3人組もよろしく~」

 

そしてものすごく軽く扱われるAbsoluteのメンバー。流石に可哀想だけど…

 

「なんか雑やな……。まぁええけど」

 

「異論はないな、なんか複雑だけど」

 

「明らかに清水とゆかいな仲間たちって感じだよな。別に構わないけど」

 

……なんか良いらしい。懐が広いな、清水の友達をやっているだけはある。

 

 

 

 

芦花と真実のおかげでいい感じの雰囲気になり、今日初めてちゃんと話しているとは思えないほどに会話は弾んでいる。このまま何気ない会話が進んでいくと思っていたが、唐突に葛野君がいいネタをぶっこんでくる。

 

「そういや来月の期末テスト前に妙な行事あったよな。えっと……」

 

「芸術鑑賞会ね。ほかの学校でいう遠足に近いものなんだろうけど、まさか期末テスト前にやるなんてね。元々は今月にやる予定だったらしいけど。」

 

延期にした理由は詳しくは明かされていないので分からないが、恐らく学校側の問題ではないのだろう。私としては延期することは一向にかまわないのだが、なぜ期末テスト前になってしまったのかだけは不服だ。まぁそこら辺のスケジュールしか空いてなかったのだろうけど。

 

「劇団雨季のミュージカルな。演目はそのままだったらライオンキングのはずだ」

 

そう。内容がとてもいいのだこの芸術鑑賞会。

ミュージカルを見れるだけでも儲けものなのにそれどころかあの劇団雨季を貸し切りである。自分の入った学校の強さをひしひしと感じる。今の私の生活基準ではミュージカルを見るのは時間的にも金銭的にも不可能に近いので、こういった形で体験できることは本当に恵まれていると思う。

 

「それってかなり自由に動けたよね?」

 

「ああ、班みたいなものは作らないらしいし、ミュージカル見た後は各自解散だ。

 正直思い切ってるよな、うちの学校」

 

「じゃあさ! ミュージカル終わった後、遊ぶ?このメンバーでさ。

 せっかくここで仲良くなれたんだし」

 

おっと。そういう感じ?

 

「その話乗った! 

 鈴村君たちはどうする?」

 

「断る理由がないな。カワとカズ、お前たちは?」

 

「「異議なーし。」」

 

私を除く全員はすぐさまOKの返事。そうなると視線は一気にこちらに向けられる。

芦花と真実からは期待を寄せられている目線を感じ、清水からは対照的にいかにも心配という目線が私の顔を射貫く。

 

「酒寄さん! 俺もバイト入れるから一緒にがんばr……「えっ、全然行くけど。」」

 

「清水の賄いのおかげで食費は抑えれてるし、何より祖母からの仕送りが強化されて物がそろってきたからね。後最近はヤチヨグッズに高額の品が少ないし。

 ていうか清水にお金の心配されるなんて心外なんですけど? そういうあんたはどうなの?」

 

本当に清水の賄いや祖母からの仕送りは欠かせない存在だ。それらは私の生活を健康で文化的な最低限度の生活なものに引き上げてくれている。先月までは、芦花と真実達の前では強気なことを言ってはいても、内心ではずっとお金のことを考えてることなんてざらだった。今も生活は中々に苦しいけど、4月と5月の悪夢のようなころに比べたら十分に生きていけるレベルだ。

 

……後なんか高校生になってからヤチヨグッズ妙に良心的な値段の物が増えたんだよな。また、強固な転売対策が施行された。おかげでちゃんと私のような人にも回ってくる。そんなところまで配慮してくれる私の推しは、やはり神だ。

 

そんな私の生活事情はおいておき、私と同じくあのボロアパートで独り暮らししている清水はどうなのだろう。お金があるのならわざわざ住む場所じゃないし、清水の出身地は東京のはずだ。私が言うのもなんだけど、複雑な事情があるのは間違いない。

 

「あんまこういうこと友達に言うのあれなんだけどさ。

色々あって、小金持ちなんだよね僕」

 

い、色々…ね。まぁおそらく芸術関係で稼いだお金なんだろうけどそんなになのか。確かに絵画とかにはマニアも多くいるだろうし、そういう人たちは決まって大金持ちと決まってる。天才画家と称された清水の作品を物凄い値段で買いに来る人が多くいたのだろう。余計あのボロアパートに住んでいる理由がわからない。

 

「じゃ、じゃあ皆さん参加ということで~、今日は解散しよっか?」

 

真実がなんとか締めていくれた。こういう所で真実は本当に頼りになる。普段はのほほんとしたマイペース娘だけど、ここぞというところで声が出るのはとても助かる。

各自解散の流れになるところで私は清水に声をかける。私がゲーム終わりに4人を訪ねた一番の目的は、清水に賭けの報酬を貰うためであり、私自身も払うためでもある。

 

私の言葉にキョトンとしながらも清水は笑顔で了承してくれた。芦花と真実を見送り二人きりになったところで清水がこちらによって来る。

 

「それで? どうしたのいきなり呼び止めて。」

 

腰に手を当てて清水が聞いてくる。

もっともな質問だ。清水目線から考えれば、わざわざ二人きりになるまで待たなくてはいけないような何か重要なことのように思える。でも実際、私からすればそのぐらい大事……になるかもしれない。

 

「賭けしたでしょ私と。勝ったら何するかって。

 それを精算しようと思って。」

 

「あれね。確かにそんなこともありました。ちなみに勝負の判定は?

 流石に酒寄さんの勝利だよね。」

 

「いや、あれだけの拘束を受けたならほぼ死んでいるようなもんだし、引き分けだと思う。」

 

「それじゃ、どちらも罰ゲームなし?」

 

「うーん、それでもいいんだけどさ。どっちも罰ゲームっていうのはどう?」

 

「OK! それでいいよ。」

 

ずるいな私。この話の流れでどちらも罰ゲームを受けようと言ったら、清水なら絶対に頷いてくれるとわかってやっている。それもこれから私は清水が触れられたくないと思っている所に踏み込んでいこうとしているのかも。今までのあたしなら絶対にやらないことだし、今後やるかもわからない。

 

それでも知りたいと思ってしまったから。

もう止まることはできなかった。

 

「そう? ならそういうことで。お詫びに条件では明日だけだったけど一週間は頑張って作るよ。」

 

「ねぇ、聞いてもいい? 早速なんだけどさ」

 

「えっ? 勿論。どーんとこい」

 

 

「ねぇ、」

 

どんとこいと言われたのにビビる私。もう一度清水の顔色を窺うように問いかける。

 

「なんだい、酒寄さん?」

 

いつもの清水だ。私の目をちゃんと見て、優しい表情をしている。その姿を見て私も覚悟を決めた。

 

「清水ってさ、もしかしてだけど左目……見えてない?

 今日のKASSEN中で打ち合っていた時、明らかに清水から見て左側の攻撃の反応が右側に比べて遅かった。それに無理やり首を動かして右目を使おうとしていたようにも見えたし。けど、日常生活では全くそんな様子がないから……

ごめん、他人が踏み込んで良いとこじゃないよね。わすれt「いいよ、酒寄さん。」

 

初めは強く持っていたはずの覚悟が途中から風船から空気が抜けていくみたいになくなっていく。そんな情けない私の心情を理解したのか、清水は途中で割って入ってきた。

 

「別にどうしても隠したかったわけじゃない。地元の人なら知ってる人もいるにはいるしね。その通り、僕は生まれつき左目がほとんど見えない。

小さい頃はそれでかなり苦労したっちゃしたけど、今はご覧の通り。酒寄さんでもなかなか気づかないぐらいには上手くやれるようになったからね。そんなに心配してもらうようなことじゃないよ。」

 

「そう……なんだ。

 ごめんね、少しセンシティブなことに触れちゃって。別にだからどうこうってわけじゃないんだけど、確認したくて」

 

やはりそうだったのか。私も今日の横島さんの噂話を聞かなければ気づくことはなかっただろう。清水がどれだけその域に達するまで努力を積み重ねてきたのか。私では到底想像できるものではないだろう。

 

「いいよ。そりゃ気にもなるでしょ、目が見えてないって可能性知ったら。

 ……もしかして、これからエスコートとかしてくれる感じ? カッコイイ~」

 

「からかわないでよ。まぁ必要だったら全然するけどね」

 

知った以上…いや知ろうとした以上、私はその責任から逃げるつもりはない。これまで沢山助けてもらった分は何としてでも返す。これは母からの教えでもなんでもなく、自分がそうすべきだと思っているから。それは借りは必ず返すとかそういう意味もあるけれど、私は清水と対等な関係を崩したくなかった。

あと……、

 

 

彼の目に映る私は、なるべく格好いいものであってほしい。

 

 

そんな想いを私は、この心に抱いてしまっていたから。

彼の助けになりたいと、そう思った。今の私よりも幾分かはかっこよくなれる気がしたから。

 

 

ああ、来月……楽しみだな。

 

本当に東京に来てよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?年前

 

Side ?

 

仕事で東京に訪れ今しがた用が済んだので、今から京都まで帰る。その駅までの道のりでふと横を見ると垂れ幕が掛かっている。内容は……中学生以下の絵画コンクールか。今は雨も降っているし、雨宿りがてら覗いてみるのもいいかもしれない。そう思って美術館へと足の向きを変えた。

 

 

……流石に美術館に展示されるだけはある。どの作品も素晴らしい出来栄えだ。私自身、絵ではないが芸術家の一人としてとても感性が刺激されるのを感じる。若い人の作品というのもまたいい。卓越した技術や積み重なる経験は薄いのかもしれないが、それを補うだけのパワーが……!?

 

気づいたら足が止まっていた。それはほかの作品とはあまりにも違いすぎたから。目の前の絵に描かれているのはただの花畑。そう、絵ではなかった。私の目の前にあるのはコンクリートの壁ではなく一面に広がる草花で、私の足が踏みしめているのはタイルなのではなく柔らかい土。そう私の認識を固定化してくるような代物が目の前にあった。

 

優秀賞、作者は清水眞白さん。

題名は「彩」。

 

…世の中には天才がいるものだ。会えるものならこの清水さんにぜひ会ってみたい。そう思い私はそこから離れた。申し訳ないが、私はほかの絵を見る気にはなれなかった。

 

外に出ると未だ雨は降っていた。腕時計を見るとそろそろ帰りの新幹線の時間が迫っている。急いで向かわなければ、そう思って歩こうとすると、横のベンチに一人の男の子が座っている。そのベンチの上には屋根がないので、勿論彼の体は濡れてしまっている。そんな状態でいる子供を放っておけるはずもなく、私は声をかける。

 

「君、大丈夫? 保護者……お母さんはおらへんの?」

 

「お母さん?

……先生ならお仕事でいない。僕、一人でここまで来たし」

 

小さい声でしかしはっきりと答えてくれる。中々できた子だ。うちの子達にも負けてない…いや紅葉さんの教育を受けているうちの子達の方が、……ってなに考えてるんだ。

 

「そうか。今日午前中は雨降ってなかったもんなぁ、傘忘れてきちゃったか」

 

男の子は小さくうなずく。私は隣に座り傘の中に彼を入れてやった。

 

「君はこのコンクールの入賞者の子かい?

 良かったら題名とかお名前教えてくれないか。一通り全ての絵は見てきたんだ」

 

私の問いに彼は少し警戒するそぶりを見せながらも答えてくれた。

 

「清水眞白、「彩」」

 

「きみがっ!?」

 

そうか、これは運命なのかもしれない。こんな幸運が舞い降りてくることはそうないだろう。

しかし、あの絵を描いたのが娘と年が全く変わらない少年だとは思いもしなかった。

 

「素晴らしい絵だったよ。まるで自分が違う世界に引きずり込まれたかのような感覚だった。君の絵がもっと見たい、そう思わされたよ」

 

そんな私の称賛をよそに清水君は不満そうな態度をあらわにする。

 

「けど、最優秀賞じゃなかった。

 今度こそは取れると思ったのに…」

 

「成程ね。確かに…それは残念だったなぁ」

 

私からすれば曖昧な評価によってつけられた順位なんて気にする必要はないと思ってしまうが、それは私が大人だからだろう。この年頃の子達は順位や点数に敏感だ。それは全く悪いことではないし、良い結果が出ればその子も自信が持てるだろう。唯、清水君のような素晴らしい絵を描ける子が雨の中思い詰めなくてはいけないほど大事なものではない。

 

「先生と約束したんだ……次は絶対一番になるって。

 だから……」

 

「そうか。

けど、雨の中傘もささずにベンチに座っているのは良くないんやない?

その先生にも怒られてしまうで、恐らく一番取れなかったことよりもずっと」

 

「………うん。そうだね」

 

その後は私がさらに絵の感想を言ったり、清水君が普段の学校生活で抱いている悩み事等について話した。話していくうちに彼の先程までの暗い雰囲気から変化していくのを感じた。

 

賢く、強い子だ、もう大丈夫。それに、私にも時間がないしここまでだろう。私はベンチから立ち上がり、最後に清水君へ声をかける。

 

「なぁ清水君。いつになってもかまへんから、いつか滝の絵を描いてみてくれへん?

 好きなんよ、清らかな水が上から下へと流れていくその様が」

 

「えっ……うん、いいよ。

 おじさんにはお世話になったし、そのお礼ということで」

 

「そうか! けど流石に釣り合ってない気がするなぁ。

 そうだ、この傘あげるよ。家に帰るのに必要だろう?」

 

「え、でもおじさんも…」

 

「私は大人だからね。途中で買って帰るさ。

 …ほら」

 

そう言って私は、傘を彼の手に握らせた。

彼は手の中にある傘をじっと見つめている。そんな彼を見ながらそっとそこを離れた。

 

「ねぇ! おじさん。

 名前はなんて言うの? 絵描いたら知らせないと…」

 

私は後ろに振り返って答える。

 

「私の名前は…

 

 

 

 

 

 

BAMBOOcafeに置いていった傘をみて昔を思い出す。中々に年季が入った傘だ。どれくらい使っているのかは僕には知る由がない。何故ならばこれは僕が買ったものではなく、人からもらったものだからだ。それも全く知らない人から突然に。

あの日、僕は傘をくれたおじさんに名前を聞いた。おじさんが見たいといっていた滝の絵を描いたとき、おじさんに絶対にみてもらいたいと思ったから。

おじさんは名前を答えてくれた。しかし、雨音ではっきりとは聞こえず不完全な形となってしまった。

 

「朝久さん。僕の絵はちゃんと貴方に届いたのかな。……そうだといいけど」

 

あの人にはとても感謝している。あの人の助言で僕は画家として大きくなれた。今はこんな風になってしまったが、それでもいつか感想を聞いてみたいと思う。

そういえば、朝久さんも京都弁を話していた気がする。だからなのか、僕が妙に始めから酒寄さんに対して好意的な印象を持っているのは。

 

「酒寄さんにも朝久さんがほめてくれたあの絵を見てもらいたいなぁ」

 

彼女は何と言ってくれるだろうか。

あの彩とりどりの花畑を見て。

 




お気に入り登録ありがとうございます。
少しでも増えているのを見ると嬉しい気分になれるので、私のメンタルケアに一役買ってもらっています。
ああ、もう一度。超かぐや姫!を劇場で見たいなぁ。
そう思いながらなんとか仕事する日々であります。
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