どうせなら、キャンバスは白いほうがいい   作:中山の補題

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お久しぶりです。6月に入って残業が増え始め中々執筆することができませんでした。
気づいたらもう7月で、こっちに現実が追いついてしまいました。5月くらいまではある程度のペースでかけてたんですけどね。
今回も読んでくれてありがとうございます。


7月、バタバタな日々 表①

来たる7月6日。七夕を前日に控えた本日は、芸術鑑賞会当日である。

中学生まではこういう学外行事となると学校に集まってバスで移動というのがデフォルトだったが、今回は現地集合。

つまり劇団雨季の劇場がある浜松町までは生徒たちで各自移動することになる。劇場はJR山手線浜松町駅から徒歩で10分弱の距離にあるため、基本的には電車移動する学生が大半になるだろう。かく言う僕もその一人であり、今から最寄り駅まで向かおうとしている。

勿論僕一人で向かっているわけではなく、隣には酒寄さんがいる。僕たちが一緒に行く理由はこれといって無いのだが、逆に言えば行かない理由の方も無い。ならば一緒にいこう、そう思えるくらいには僕たちの仲は深くなっていた。

 

 

……しかし、7月6日となればもう日本の夏真っ只中だ。この立川も中々に暑く、7月ともなれば30度を超える日も出てくる。ここで生まれ育った僕もこの暑さには毎年やられてしまうのだが…。どうやら隣にいる御方はそうではないらしい。

 

「すごいね酒寄さん。

 暑くないの? 今日の東京は30度越えらしいけど」

 

かく言う僕はまだ朝だというのに額から汗は出ているし、喉は水分を欲している。既にこの日本の夏にやられている情けない僕とは違い、酒寄さんはいつも通りの姿だ。口から暑いの一言も出てこないし、だるそうな感じもない。

 

「忘れたの清水? 私は京都出身だよ。

 このぐらいの暑さは日常茶飯事、あっちは盆地でろくに風さえ吹かないんだから。

 風が吹いてくれる分こっちの方がだいぶまし。

 そういう清水は……辛そうだね。清水が夏の京都に行ったら干からびちゃいそう」

 

「ふっ…言い返す言葉もない。僕は冬生まれで夏男とは真逆な生き物だからね。

 かなうなら夏は一歩も外に出たくない……んだけど夏はねぇ~、

 世界がガラッと変わるというか。そういう一瞬は見逃したくないんだよなぁ」

 

口からこぼれる本音。昔のように風景を描けやしないのに心はそこへ向かっているらしい。そんな自分自身に驚いてると酒寄さんから反応が返ってくる。

 

「ふーん、そういう観点で季節を考えてるんだ。流石、天才画家の清水眞白」

 

「おいおい、元が抜けてるよ酒寄さん?」

 

先月から僕のことは色々と酒寄さんに知られてしまったようで。けどまぁ知られて困るようなことではないので清水的にもオールオッケーである。左目については予想外で気まずくなっちゃうかなぁ、それは嫌だなぁと思っていたら酒寄さんのイケメンぷりが発揮されたるイベントになっただけだった。くっ、やはりラブコメの主人公なのか酒寄彩葉…!

 

「はぁ…。今日もスケッチブック持ってきてるの?」

 

「もっちろん!

 流石にミュージカル中に開いて描くことはしないけど…その後は別。

 いろんな光景、その一瞬を線で残していきますよ」

 

「意気込みはいいけど、ホントにそんなに描けるの?

 一か所にそんな長く滞在できないでしょ、山や川じゃあるまいし」

 

当然の疑問。まぁ天才と呼ばれるのは自分でもあんまりピンときていないが、僕には天から……いやどんな人かもわからない母から授かったモノがある。

 

「僕は映像記憶能力が結構発達しているんだ。ちゃんとこの眼でみたものだったら覚えてられるし再現できるんだよね。お陰様で一夜漬けを失敗したことはないよ」

 

酒寄さんは驚いているのか目を見開いて僕の目を凝視している。そんなに見つめられたら照れる……という感じの視線ではない。ぐわっという感じで少し怖ささえも感じてしまう。

 

「清水……そんなTHE・天才みたいなとんでも能力持ってたの?

 ……ていうかそんなの持ってたら文系教科一位総なめじゃん、なんであんた文系……特に歴史であんなにいつも苦戦してるの。教科書流し読みしてるだけでも…」

 

「そうだね。

 けどねぇ酒寄さん。映像記憶って、覚えたいものを見ないとできないんだよね」

 

「はぁ? 何当たり前なことを。清水、まさかあんた……?」

 

「その通りだよ酒寄さん。

 僕はね、歴史なんてものは教科書を見るだけでも嫌になるくらいには好ましく思っていないんだ」

 

次は口が閉じなくなった酒寄さん。結構リアクション大きくて良いんだよな、酒寄さん。

とは言え酒寄さんほど馬鹿真面目な人からすれば勉強しない、教科書さえも開かないなんて言われたらこんな反応になるか。

 

「はぁ、羨ましいったらありゃしない。

 そんなことができるんなら私の今の生活180度変わるわよ……」

 

「そうかなぁ、結局酒寄さんは今と同じような生活送ってそうだけど。

 でも思ってるほど万能でもないんだよ? ずっと覚えていられるわけじゃないし。

 たまに不完全なままに再現しちゃうこともあるし」

 

僕の少し?苦しい言い訳に酒寄さんは納得のいかない様子である。しかし、今日は勉強とは離れることができる日。気分を一新して楽しみにいくべきだ。

 

「まぁ僕の話は置いておいて、今日の話をしようよ。

 折角今日は羽目を外すって決めたんだしさ。

……酒寄さんはミュージカルとか演劇みたいなもの見た経験ってあるの?」

 

「えっ、あーうん。

 お父さんがそういう所連れて行ってくれたから、そこそこ経験あるよ。

 今回の劇団雨季は初めてだけど」

 

わざわざ自分の休日を使って子供にそういう芸術に触れさせる。なんて良いお父さんなんだ。まさにこの親にしてこの子ありといったところだろう。実際にあったことないくせに何を言っているんだというのはご愛嬌である。

 

「僕は全く経験ないから、楽しみなんだよね。

 やっぱり迫力とかすごいのかな」

 

「そうだね。私が幼かった時の経験ってのもあるだろうけど、凄くインパクトを受けたことは覚えてるよ。その日の夜はなかなか寝付けなかった、頭の中に焼き付いて高揚感が収まらかったんだ」

 

そう言った酒寄さんの顔は凄く穏やかな顔で、酒寄さんにとってお父さんとの時間がとてもいいものであるかが伺える。女子高生ともなるとお父さんのことが段々とうざったくなると聞いたことがあるけど、酒寄さんはそういうこととは無縁そうだ。

 

 

こんな風に話しているうちに最寄り駅に到着した。目指すは浜松町駅、JRの改札口を通り中央線から神田へ。そして神田から乗り換えて京浜東北線から浜松町駅へと向かう。その道中50分弱の道のりであり、思ったよりも大変かもなぁというのが……

 

現在朝の満員電車で押し込められている僕の感想である。しかし、幸運ながらドア付近でおしくらまんじゅうをしている集団から外れて座席の前に二人とも陣取れたのは良かった。隣で立っている酒寄さんの顔色を窺うと少し疲れてそうな様子。僕はそんな酒寄さんに小声で話しかける。

 

「酒寄さん大丈夫?

 こっから神田まで結構あるけど」

 

「ん……まぁ大丈夫。

 久しぶりの人混みでびっくりしてるだけだと思う。それにしてもやっぱり……朝の東京の通勤電車は凄いね。こっちに来てすぐのこと思い出すよ」

 

「そっかぁ。僕はこっち出身だし、慣れてるというか……受け入れてるけど。酒寄さんまだこっちに来て4ヶ月くらいだし大変だ。でもまぁ日常生活は立川で完結してるし、無理に慣れようとするものでもないよね」

 

そんな僕の言葉の後、突如電車がブレーキをかける。それにより僕は一気に慣性の法則で体が持ってかれる。辺りの人たちも同様に体を傾けている。そうなれば電車内は隣の人によっかかる構図となるのだ。そう満員電車でよく起こるいつものあれの完成である。

そうなってしまえば、感じるのは人間の重さと7月という季節による汗の匂い。

……のはずだったが今回はなんか幸せな感触やいい匂いなんだけど、これは世界がバグったのか?

 

「ご、ごめん清水。今体勢直すから待ってて」

 

……成程ね。世界がバグったんじゃなくて、変化してたのか。確かにいつもはこうなる時寄りかかってくるのはサラリーマンの方々だけど、今回は酒寄さんだったからあまり重さも感じず柔らかな感触と……って、流石にキモイぞ自分。

 

「だ、大丈夫。全然重くなかったしむしろ心地よかったです、ハイ」

 

自分が何を口走っているかも理解せずにとにかく返事をする。

しかし目の前でどんどん赤くなる彼女の顔を見て、自分がやらかしてしまったことを察してどうにか弁明しようと考えるがこの満員電車の中でそんなことができるはずもなかった。

僕たちの間に何とも言い難い沈黙が流れ、結局浜松町につくまで近しい状態が続いた。途中で軽い会話はあったもののよそよそしい感じになってしまいすぐに途切れてしまう。満員電車の中だし会話がそうずっと続くわけではないにしろ、流石にこれから同じものを一緒に楽しんでいくことができるのか心配になる。そんなことを考えているうちに改札から出て待ち合わせ場所へと向かう。待ち合わせ場所といっても南口改札付近の広いスペースで渋谷駅のハチ公みたいな場所ではない。チャットで鈴村君達3人に今どこにいるかを聞くとまだ到着していないと返信が来たので、酒寄さんの方にも状況を確認して共有しておこう。

 

「酒寄さん、鈴村君達まだこっちに到着してないって。大体後10分くらいでこっちに来れるらしいけど、そちらはどんな感じ?」

 

「大体同じかな。

 芦花と真実もまだこっちには到着してないって」

 

「じゃあ暫くはまだ二人きりで待たないとだね」

 

「そう、だね……」

 

き、気まず。さっきのことが未だに尾を引いていて、とてもあと十分二人きりで待てる感じじゃない。別にこの場だけならスマホでもいじって時間をつぶせばいいのだけなのだが、その対応は些か不誠実な気がする。不幸な事故とはいえやってしまったものは本当で、謝罪の一言でもいわねば男……いや人間として廃ってしまう。そんな自分のままでは、次の夏休みで帰省する時に姉ちゃんに頭どつかれて昼めし抜きにされることは間違いない。それだけならまだいいが、先生に

 

「同級生の女の子の胸部を触ってしまったのにも関わらず、有耶無耶にして帰って来ました」

 

なんて報告できるわけがない。……あの人なら爆笑するだけな気もするけどっ!

そうだ。

僕はここで本当に変わらなくちゃいけない。中学生までの僕とは違うんだ。言わなくちゃいけないこと、言いたいことはちゃんと口に出さないと。

 

「酒寄さん! さっきのことなんだけど……

 

「えっ! あっ…いや、さっきのあれは事故d…

 

「ごめん! 完全に触りました。

状況が状況だっただけに故意ではなかったことを信じてほしいけど、やったことがあれだから…。本当にごめん」

 

勢いに任せて言葉を並べる。とにかく謝罪の言葉を彼女に伝えたかったのでそれ以外のことは自分でもよくわからなかった。

 

「……いいよ、わざとじゃないことなんてわかってるし。

 これでギャーギャー騒いで清水を責めたら、嫌な奴すぎるでしょ。もしかして…私そんな風に思われてる?」

 

「そんな訳がなかろうです! 

酒寄さんは優しくて可憐な素敵な女性です!」

 

また脊髄反射で言葉を返す。けど考え出したらこんな風な言葉は僕に言えるはずもない。ここまできたらやり切れ清水眞白。

 

「な、なんか勢いが…。

 ま、そういうことだから気にしないで。この件はもうおしまいということで」

 

酒寄さんのお言葉に胸をなでおろしながら僕は感謝の気持ちを伝える。

 

「寛大な心に…感謝します。このことは墓までもっていくから安心して」

 

「墓まで…ね。

じゃあ墓に持っていく前に当事者として聞くけど。わ、私の…その、むねはどうだった?

 

僕は頭と耳がおかしくなってしまったのか。そう思ってしまうほどに今酒寄さんの口から発せられた言葉が衝撃的だった。なんで? どういう意図でこんな発言を。さっきのまでの慈悲深い彼女は何処に行ってしまったのだろうか。僕に完璧なとどめを刺そうとしている?

その割には何とも弱弱しい言葉で自信なさげに言うものだから、彼女の心のうちが余計分からなくなる。彼女の方を見ると、酒寄さんは長風呂でも入ってきたのかといいたくなるほど顔が真っ赤で明らかに余裕なんてものは存在しない。心の方も色んな色がこんがらがって明らかにいつもの酒寄さんではない。

 

「あの~、やっぱり怒ってる?

 僕に変なこと言わせて警察に突き出してやろうとか…」

 

「そんなわけないじゃん!!

 これは………うん、あれだから。私は結構恥ずかしい思いしたのになんか誠実に謝られてサラッと終わるの少し悔しいというか、私の中に微かに残っている女としての矜持といいますか…」

 

自分でおしまいって言ったのに。結局一番恥ずかしい思いしてるのは酒寄さん自身な気がするけども。けどやられたな、ここまで言わせてしまったなら男として答えないわけにはいかないのだろう。コミュニケーションとは難しい。

 

「……じゃあ言うよ。頼むから恨みっこなしね」

 

僕の言葉にコクンと頷く酒寄さん。朝からすごいことになったなぁと遠い目をしながら

僕は口を開く。

 

……凄く、柔らかかったです。女の子ってこんな感じなんだなぁって思い…ました」

 

………反応が返ってこない。僕たちは何をしているのだろうか。折角元に戻りそうな雰囲気を即ぶっ飛ばしてしまった、くそう。

 

「……清水」

 

この現状になっていることを後悔しながらも隣から聞こえた呼び声に僕は反応する。

 

「なんだい? 酒寄さん」

 

「ごめん……ほんとに」

 

声の調子からもかなり落ち込んでいることがわかる。確かに酒寄さんらしくはなかったけど、これは夏の誘惑のせいということにしておこう。誘惑されたのは誰なのかは定かではないけれど。

 

「……いいよ。これもまた思い出ということで。

 朝から刺激的でこの後も楽しみになってきたぐらい」

 

まぁ結局のところ、良い思いしたのは僕なのだし。これ以上気を落とさせてしまうのは単純に嫌なのでここは一肌ぬいでやらんと。

 

「あーなんか、喉乾いたな。

やっぱり夏は汗かいちゃうし水分補給は必須ですな。

というわけで酒寄さん、自販機でジュースでも買いに行こう。

一本くらいおごりまっせ」

 

「え。う、うん?

 ……いや違うでしょ」

 

酒寄さんは困惑しているご様子。この状態の酒寄さんなら押していけばイケるか……?

 

「あら、喉乾いてなかった?

 それとも……自販機では物足りないということか。しょうがないなぁ、少し遠いけどタリーズコーヒー行きますか!」

 

「清水?

さっきあんな突拍子もないことを言った私が言うのもなんだけど、一回落ち着いて。

私も喉はもう色々あってカラカラで自販機に行くのは賛成なんだけど、奢るのはなしだから。

………なんなら奢るべき人間私でしょ。よし、清水今すぐ自販機行こうか?私奢るから」

 

くそ、正気を取り戻した。しかし走り出したのはこちら、譲るわけにはいかないのだ。

僕は主導権を渡さないように酒寄さんの説得を開始する。

 

「いやいやいや酒寄さんや。

 前にも言ったけど僕小金持ちだから。こういうのはおごらせて、僕に格好つけさせてくださいよ~」

 

「おいこら。それ暗に私が缶ジュース一本さえ奢れない経済状況だってこと言ってるでしょ。はい!私の心と名誉を傷つけました。その罰として私の言うこと聞いておごられなさい。

というか缶ジュース奢ったくらいで格好はつかないでしょ……」

 

くっ、手強いし正論も入れてくる。中々の口の強さだ。論理のくそもない僕の言葉ではいくら並べても最終的な言い合いでは勝てない。ならば………、

 

「このままじゃ結論は出ないのは明白。ここはじゃんけん一本勝負といこう酒寄さん」

 

実力で勝てないならば、後は天命に任せるほかない。

僕は手を握締め体の前に突き出した。そんな僕の様子に感化されたのか酒寄さんの方も自らの右手を僕の方へ向けた。

 

「いいよ。どうなっても恨みっこなしの一本勝負、勝った方が奢る。勿論二言はないよね?」

 

「勿論! じゃあいくよ………。

 

 

 

「「最初はグー!」」

 

 

 

「あっ、二人共お待たせ―」

 

 

「あっ芦花」

 

いつの間にか到着していたらしい綾袖さんに声をかけられて酒寄さんが反応を返す。

………今だ! この隙をつくしかない。

 

「じゃんけんポン!」

 

目線を外した酒寄さんの意表を突く奇襲攻撃。いくらすべてのことを人よりも高いレベルでこなせる超人といえど、人間であることからは外れることは出来ない。

 

「あ、ちょ………」

 

とっさにじゃんけんを挑まれたときに人間が思わず出してしまうのはグー。故に僕が出すのは……パーだ!

 

結果は………予想通り。僕の勝利だ。

 

「ふっ、僕の勝ちですな。

 じゃ、酒寄さん?約束の通りだから。後で自販機見つけたら好きなやつ教えてね」

 

反則技を使われて負ける。そんなことを酒寄さんが認められるはずもなく不満の声が上がる。

 

「清水? 流石にこんなやり方じゃ勝ちとは言えないんじゃない。真剣勝負に奇策は無粋でしょ」

 

「いやいや、酒寄さん言ってましたよね?

 『どうなっても恨みっこなしの一本勝負、二言はなし』って。自分で言ったことは守った方がいいんじゃない?」

 

まさかこのような形で自分の発言に苦しむとは思わなかったのか、酒寄さんは苦そうな顔で悔しがっている。そんな僕たち二人の姿に理解できないといった顔で綾袖さんと諌山さんが問いかけてくる。

 

「どうしたの二人とも。なんか殺伐としてない?

 この楽しい一日の始まりの朝とは思えない発言が飛び交ってるけど」

 

「あーいや、それは。大したことないんだけどね?

 単純に飲み物一本奢りのじゃんけんをしていただけで…」

 

そうだね、内容自体は大したことないね。

そうなってしまった過程を深堀されるのはちょっと危ないけど。それを同級生に話すにはあまりにも恥ずかしすぎる。

 

「え~ 彩葉が奢りじゃんけん?

 本当~? 奢るのはお金的に遠慮したいし、奢られるのは自らの矜持的にもっと嫌がりそうなあの彩葉が?」

 

凄く驚かれている。酒寄さんのことをよく理解している二人からするとそんな風に思われてしまうのか。そんな二人の顔を見ると我が子の成長を目の当たりにして感動している親御さんみたいになってる。同級生だよね君たち?

 

「私にだって飲み物奢るくらいの甲斐性はあるから!

 こうなったのは………今日が楽しみでテンションがおかしくなってたということにしといて…」

 

嘘は言ってない。うまいな酒寄さん、嘘をいうときは真実も混ぜるといいことをよく知っている。僕はそれを先生から教えてもらったが、僕はうまく活かせていない。何故ならばませるどころか全部ぶちまけて嘘として機能しなくなるからだ。姉ちゃん相手に嘘をついては秒でばれてお仕置きを食らっていた僕からしたらうらやましい限りだ。

 

「え~彩葉~。そんなに楽しみにしてくれてたんだ。

 嬉しいな、実はちょっと心配だったんだよ?

もしかしたら彩葉の負担を増やしてるだけなのかもって」

 

そう語る綾袖さん。僕にもその気持ちはわかる。

僕も先月のあの酒寄さんの言葉はやせ我慢というか強がりだったんじゃないかと不安だったが、今日の朝からの彼女を視てもそういう雰囲気は感じ取れなかった。それどころかほのかに感じられるのは楽しみだなという期待感が彼女のまわりを形作っていた気がする。

 

「負担なんて………そんなわけない。

 友達が誘ってくれた遊び、そのすべてに応じることは私には確かにできないけど。

私だって二人と一緒に色んな所、遊びに行きたいよ」

 

僕たちの間で流れる感動的?な雰囲気。学園青春ドラマのワンシーンかなと錯覚しそうになるその様を僕が割って入るわけにもいかずただそれを眺めていると…

 

「あのーごめん。

遅れたし、いきなり会話に割って入んのも申し訳ないんだけど、そろそろ出発した方がいいかもだ」

 

何時の間にか合流していたらしい鈴村君の言葉を聞いてスマホで時刻を確認してみると確かに時間的な余裕はなくなっていた。

 

「それに……うちの学校の生徒も増えてきて目立ってるぞ、お前ら。

 有名人なのそろそろ自覚した方がええ。特にそこの学年トップ2」

 

河木君の忠告を聞いて改めて周りを見ると、確かにうちの学校の制服を着ている同級生たちが増えておりこちらをちらちらとみている。

 

「まぁ有名なことは悪くない…だろ、うん。

 スズの言う通り時間ないし、とっとと会場に行こう。いくら今回の芸術鑑賞会のスケジュールが自由度高くても流石に集合時間は守らないとヤバイしな」

 

葛野君の言葉に異を唱える人がいるはずもなく僕たちは足を進め会場へと向かっていった。

 




明日もう一話投稿する……したいです。
評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます。
何としてもエタらせず、書き続けたいと思います。
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