どうせなら、キャンバスは白いほうがいい   作:中山の補題

2 / 11
原作に入るまでの一年間+数か月はおそらくこの形式で展開します。
表:清水 裏:彩葉 視点での話。
ひと月に最低2本の話がでます。

そしてかなり重要なお話です。表の方の前書きに書いたオリジナル設定ですが一つかなり重要?(かなり違いがある)なものがあるので先に報告します。原作で、彩葉の父親である朝久は37歳(彩葉6歳)で亡くなります。しかしこの創作では彩葉が小学生高学年くらいまで生きてもらいます。(てか娘と息子の晴れ姿を見てから死んでくれ頼むよ。結局子供は親に自分の成長した姿見せたいんだ。)それにより登場人物に変化が加わってくると思います。どうぞご容赦お願いします。


4月、中々悪くない日々 裏

―○○のプライベートの話が聞きたい、ですか?

 さっきまでの私の研究の話から話題180度変えますね…

 ○○なんていつも皆さんの前にお出しする姿となんら変わらないですけど。

 私の前なら違うだろって?

 まぁ全く同じかと言われたら、そうではない気がしますけど…

 大体ひとのプライベートの話なんてべらべら喋るものでも…

 えっ、○○の許可は取ってある?私なら、信頼できるから構わない?

 はぁ~、そこまで言うならしょうがないか。

 覚えてなさいよ○○…

 で? あいつのプライベートでしたっけ?

 は? どうせならもっと深堀してほしい?

 出会いとかその後の関係の変化とかしりたいです?

 いい度胸してるね~、あなた。

 ま、いいでしょう。私の話もひと段落したしね。

 

「○○、いや高校時代語るならあいつ呼びでもいいか…

 あいつと出会ったのは高校の入学式の日で…」

 

 

 

 

15年前

 

第二話

4月、悪くない日々 裏

 

顔に日の光が当たり、まぶしさで目を覚ます。この東京、立川の地に降り立ってから一週間以上は立つが、まだこの狭いアパートの部屋に慣れていない。今日は、ここから3年間通う高校の入学式である。かなり不安ではあるが、どうにかするしかない。そんな少し弱気な自分に発破をかけるため勢いよく立ち上がって流しへと向かい顔を洗って歯を磨く。そして、朝食をとっていく。自業自得ではあるが、懐事情が厳しい私は業務用スーパーで買ったフレークを少量の牛乳で浸して食べる。一人での食事には慣れてきたがどうしても少しだけ寂しさを感じてしまう。その時、思わず頭の中で母の言葉を思い出してしまった。

 

―「今でも彩葉はすぐに泣いて帰ってくると思ってます。甘ちゃんやから。」

 

何度消し去ろうとしても甦ってくるただ正しい母の言葉は、私の脳裏にこべりついているようだった。

 

食器を片付け、色々と身支度を整える。スマホを確認すると、集合時間から考えても正直今から出発するにはかなり早い時間であった。しかし、今の私はどうしても居ても立っても居られなかったので思い切って学校へ向かうことにした。

さっきまでの弱気な自分から逃げるようにドアを開き、年季が入ったぼろい階段を降りていくのであった。

 

 

自宅周辺である立川や国立はそこそこ探索した。その中で感じた特徴は坂道が多く急であること。そして歩いても歩いても途切れることはなく広がる住宅街の景色だ。本当にここら辺は家しかない。

学校までの道は、事前にリサーチ済みで、何なら複数回行っているため間違えることはない。というか初めての土地だったとしても地図アプリさえあれば迷うことはない。恐らく方向音痴の人が聞けば怒るだろうが、残念ながら酒寄彩葉からすれば首をかしげて終わるだろう。

10分ほど歩いて高校へと近づいてきてはいるが、歩いていても道ですれ違うのはスーツを着ているサラリーマンばかりで、未だ同じ制服を着ている人を見ることはない。やはり早すぎたのかと後悔しているうちに、桜の木もない学校までの一本道の果て、つまり学校に着いてしまった。学校名と入学式の文字がでかでかと書かれている立て看板が立てかけられている校門をサラッと抜ける。家族連れならば写真撮影でもするのだろうが、こちとら一人である。人が集まりだす前に早く立ち去ってしまいたかった。

 

校舎へと入り、自らのクラスを確認する。

 

「えっと、1-8か。」

 

普通科は1学年8クラスなため、一番後ろのクラスに配属されたということだ。だからって何か変わるわけではないが、少し教室が遠いなぁというどうでもいい感想を浮かばせながら歩き始める。階段を上がって、突き当りまで行くとそこに1-8の教室があった。教室の中にまだ人はいないことなんて分かり切っているのに、少し緊張してしまう。深呼吸し、意を決しドアをスライドさせた。

そこには―

 

誰もいなかった.

 

「そりゃそうでしょ、なにビビってんだ私。」

 

自分自身に呆れて思わずため息が出てしまう。こんな感じで大丈夫なのか私、と思いながら確認した出席番号から自らの席を探す。席はちょうど黒板と正対する位置で、ここなら先生の書いた板書がすごく見やすいなという感想が浮かぶ。なんとまぁこの少女は学生として模範的である。

そして、席に座る。時間がたっぷりあるため、この時間をつぶす何かが必要である。

そして少女がカバンから取り出したのは…

 

 

青チャート数ⅠAである。入学式の日から青チャ開く学生が果たしているだろうか? 

いやいない(逆説)。てかなんでもってんの?真面目もここまで行くと恐怖の域に達するだろうが、これを地でいくのがこの少女、酒寄彩葉である。とはいえ彼女もJKである。自分がどうみられるかは気にするお年頃だ。もし集中して同級生が入ってきているのを気づかず、入学式の日から青チャートで一人勉強してるこの光景を見られたらどうしよう、と不安な気持ちもあったはず……だったが、一度読み進めてしまえば集中モードに突入し、周りのことや時間のことは気にしなくなっていった。

 

 

対称式の基本公式か……、軽く覚えておこう。導出もできるけど、覚えていた方が効率的だ。

公式の暗記へと集中したそんな時、ガラガラとドアが開く音が聞こえて意識が現実の中へと戻ってくる。誰かが教室に入ってきたようだ。やばい、結局懸念していた通りのことが現実に起こってしまった。振り向かないように横目で姿を確認すると、制服から男子であることは分かった。もし女子ならば、少々勇気を振り絞って声をかけることもあっただろう。しかし、はじめてのクラスメートの会話が男子生徒で自分から話しかけるというシチュエーションは少々上京したての15才の少女には早かった。まぁそれはあっちも同じでしょ、入学式の朝から勉強してる奴に話しかける勇気なんてないない、と心の中で結論付ける。考えていてとても悲しくなるが、こうなった以上貫いていくしかないのだ。いきなり踏ん張りどころだぞ、酒寄彩葉。

そう気合いをいれ、改めて参考書へと意識を映してしまうことにした。

しかし、ここで少し予想外のことが起こる。

 

えっ、席私の後ろなん!?

思わず、お国言葉が心の中でもれてしまうくらいには動揺してしまっている。

これでは逆に話さない方が不自然な流れじゃない?と思ってしまう。しかし幸い?にも、この雰囲気が男の子の方にも通じたのかカバンから何かを取り出して過ごしているようだ。

とはいえ、流石にさっきまでのように集中なんぞできるわけはなく明らかに効率が落ちていた。しかし、だんまりを決め込んでしまった手前今更話しかけるのは…と手をこまねいていた所に

 

「あの、少しいいですか?」

 

遂にきてしまった。この入り的にただ事じゃない感じもしてきたな。彼の次の言葉を少し警戒しつつ返事を返す。

 

「ええy…、あっ…いいですよ?」

 

あっぶね、方言出るとこだった。てかなぜ疑問形で返した?疑問を疑問で返すなよ。なんかわからんけど、私乱されてるな。落ち着かないと。

 

「少し話しませんか、まだ時間はあるし、何よりほら…えっと、入学式の日から自習をする真面目さんとしてのよしみといいますか…」

 

真面目さんっていえば聞こえいいな。けど入学式の日から青チャート開いてる女が自分の前の席なんて正直怖かったよね、ごめん。しかし、目の前の彼は単純に会話がご所望らしい。もう正直、こちとら勉強してるどころではない心境だ。

 

「はぁ~ 変に緊張して損したわ」

 

そんなことを思っていたらつい心の声が漏れてしまった。こうなれば私もふっきれてみよう、なんて。

 

「いきなり声掛けられて何言われるかと思ったけど、おしゃべりのお誘いね」

 

ひさしぶりに同年代の子と話すため少し緊張してしまう。それをほぐすために一拍おく。

 

「いいよ、先ずは自己紹介からかな」

 

彼の眼に私はどう映っているのだろう。出来れば真面目な優等生のまま見えているならいいのだけど。

 

「えっと、じゃあ自分から。

清水 眞白って言います、好きなことは絵を描くこと。

座右の銘は雲外蒼天で… とりあえず一年間よろしくおねg……

よろしく!」

 

無難な自己紹介かと思ったらまさかの座右の銘まで飛んできて少し驚いてしまう。雲外蒼天ときたか…簡単に言えば苦しい試練を乗り越えた後は希望があるみたいな意味の4字熟語だ。彼の見た目、というか髪の色が銀髪だったので高校デビューした結構チャラ男なのかと思ったが流石に偏見が過ぎたと心の中で反省する。とはいえ自己紹介で座右の銘を語られるのは初めての経験だったので少し面白い。大体好きな食べ物とかそこらへんだろう普通。

絵を描くことが好きなのは言われてみればそんな雰囲気を感じなくもない、気がする。芸術家のような少し周りと違う雰囲気を彼は持っている。それこそ、それはお父さんが纏っていた…。

……いやこれ以上頭の中で考えているのは、先に話してくれた彼に悪い。ここまでにして、さっさと自分のことを話すべきだろう。

 

「私は酒寄 彩葉 、 好きなことはヤチヨ、月見ヤチヨの配信をみることで…

 

……、これ私も座右の銘をいう流れだよね。

 

座右の銘は…

 

そこで少し言葉が止まってしまう。彼にならって話し始めたはいいが自分の座右の銘ってなんだ? 考えても出てくるのは正論かましてくる母の顔ばかりである。なんか少しなさけなくなってきた。とはいえ母の数々の格言は確実に良くも悪くも己の糧となっている。その事実を否定することはできないのである。よって私の答えは

 

…まぁ色々かな」

 

という風に答えを濁すほかなかった。なんかこれ私すかしてる奴みたいだなと思いながら、そういえばこの後何話すんだ?と目の前にある問題に気がつく。そんな時に目の前の男子改め清水君が口を開く。

 

 

「おー、 ヤチヨファンですか…

 いいですよねぇ~ 僕は配信を全部追っているわけではないですけど、彼女の歌だけはなんか自分でもわからないけどずっと聞いてしまうっていうか…」

 

「わかるっ!」

 

「へ?」

 

「ヤチヨの歌声は、もう国宝級だよね、文部科学省はもうさっさとヤチヨの声を無形文化財として指定するべきで、というかそんな当たり前なことは置いといて…、他にも!…」

 

はっ、我に気づいた時にはもう遅かった。私どのくらい一人で語ってたの。置いてけぼりにしてしまった目の前のクラスメートの顔を見る。

おい酒寄彩葉、見てみろ目の前の銀髪イケメンの姿。目をまん丸にして驚いてるじゃねぇか。

自分としたことがヤチヨ強火オタク(そんな程度のもんじゃないですよ)過ぎてオタトークをミーハーにぶつけてしまった。さすがにこの雰囲気のままでは申し訳ないし会話にならないので話題を変えようとする。

 

 

「あ、えっと

 清水君は絵をかくのが好きなんや…好きなんだっけ?」

 

こっちが話したんだからあちらにも好きなものを語らせてみるか、という魂胆で振ってみたが効果てきめんであるらしい。清水くんの顔がみるみる明るくなり、目が輝いている。

 

「ふふっ、よくぞ聞いてくれました。」

 

何やらカバンをあさっている。なんだと思っていたら、出てきたのはスケッチブックだった。すごいね学校にまでそれ持ってくるんだと感心していると、彼はスケッチブックをめくり出した。目的のページをみつけたのかめくる手を止め、私の目の前に差し出してきた。

 

「どうでしょうか!? いい品入ってますよ!」

 

「いや八百屋かっての…

 こ…これって、まさか」

 

それは…月見ヤチヨのイラストであった。今日日ヤチヨのイラストなんてものは世の中に沢山ある。それは、「ツクヨミ」の普及率やその創設者であるヤチヨの人気を考えればそんなことは当たり前のことである。ゆえに最近ではイラストレーターとして有名になろうとするならば、ヤチヨのイラストをバズらせることが近道といわれるくらいである。ヤチヨのオタクである私は、そんなイラストは逐一チェックさせて頂いている。数々の素晴らしいヤチヨのイラストを拝見させて頂いた私の目から見ても…

 

「う、うまい…。

 絵に関してはそこまで知見がない私でも分かる…。」

 

よくわからないがまず一本の線から質が違う気がする。最近のイラストはデジタルで描かれているものが多いので、こうしてアナログ書かれているからそう思うのだろうか? いやそれにしたってうまいでしょこれ。目の前に出されたハイクオリティに描かれている推しのイラストに唸る私。けれど私は少し違和感を抱く。

 

「この線の引き方とか構図、背景の書き込み具合どっかで見たような気もしなくはないような…?」

 

彼の絵を初めて見た気がしないのだ。もちろん彼とは初対面であるし、無理やり因縁づけて仲良くなろうとするナンパ師のようなメンタルやテクニックを持ち合わせていない。まぁ現代のネット社会ならば、彼が自分の作品をSNSに投稿している可能性は大いにある。この腕前なら作品がバズっていてもおかしくはないし、それを私がみていたというだけだろう。

絵をまじまじと見ている私の姿に満足しているのか清水君はかなり上機嫌な様子で話し出す。

 

「酒寄さん、 気に入ってくれはりましたか?」

 

「何その似非関西弁?

 うん、本当に上手だと思う。」

 

そのよくわからんイントネーションで発せられた関西弁はともかく、絵は本当に素晴らしいものである。私は単純にその思いを口に出した。それを聞いた彼はなぜかうんうんと嬉しそうにうなずいている。ほんとにどういう状態なの彼は。

 

「それは良かった。

 なら、それ差し上げます!」

 

「は? えっいや流石にそれは… 申し訳ないというか… 、

 てかいきなり話が飛躍しすぎでは?」

 

文脈が読めなさすぎる…。少し褒めたぐらいで渡すかこのクオリティの絵を。10分とか20分ぐらいで簡単に描いたものならこのノリで渡す人もいるだろう。もしそれなら私も受け取ることはやぶかさではない。けれど、この絵はどう見たってそれには含まれないし、含ませない。もしこの目の前の男の子がうちの母に会ったのなら、一日で私が言われた言葉をかなりの数コンプリート出来そうだ、なんて考えていると。

 

「いやぁ~ 酒寄さん楽しい時間ありがとうございました~

 これはそれのお礼と… これから掛けるであろう迷惑の前払いということで…

 それではっ!」

 

早口で言いたいことを言われて、絵を押し付けられてしまった。そんな彼は席から立っていつの間にかいたらしい他のクラスメートへと突撃していった。中々に自由な奴だと思いながら押し付けられた絵へと視線を移す。とりあえずこれをどう扱うかを入学式が始まるまで考えるかと、受け取ってしまった絵を丁寧にファイルに保存しながら物思いにふける私であった。

 

 

入学してから2週間以上が経過した現在、私は色々な環境の変化がありながらも何とか生きてこられている。学生の本分である勉強については、両親のDNAと母の教育によってみっちり鍛え上げられている。私は奨学金をもらって高校へと通っているため、勉強でつまずくことは今の私にとって死刑宣告に等しい。どんなことがあっても成績を落とすわけにはいかないのだ。特別な才能がない私は、勉強で負けるわけない。少なくとも、この学校の同学年相手には一度たりとも負けたくないのだ。

 

テストはもちろんのこと、普段の授業からその姿勢を貫いていく。やるからには一番でないと意味がないのだ。

というわけで…

「それじゃあ…この問題を誰かお願い出来ますか?」

 

こういうイベントを上手く消化して行くのも優等生への一歩である。

私はすっと手を挙げる。

 

「はい」

 

「じゃ、お願いしますね…

 酒寄さん」

 

黒板まで向かいチョークを手に取る。そして、回答を示していく。この問題はxとyの対称式である。そのためx+yとxyが分かれば計算が可能であるため、その二つを文字で置いて条件の式に代入して求めていくだけだ。公式を知っていて計算ミスさえなければ間違える可能性はほぼない。

 

「出来ました」

 

「おー素晴らしい!

 酒寄さんはすでに対称式について中々高いレベルで理解できているみたいですね」

 

どうやらちゃんと正解したらしい。よかった、これで普通に計算ミスしていたら恥ずかしすぎる。数学において計算ミスほど一番起こりやすく、一番精神的に効いてくるものはない。ホッとした気持ちで自分の席に戻ると…

 

「流石ですな、酒寄殿」

 

後ろの席の清水から声を掛けられる。入学式の日出来事もあってここ二週間の間にかなり話すようにはなり、それなりに仲良くなった。その中で私は彼を呼び捨てで呼ぶようになった。彼はいまださん付けだが、そのほうがなんかいいらしい。

 

「私のこと、どっかの大名だと思ってない?

 まぁ褒められて悪い気はしないけど…」

 

この男中々調子のいいやつである。すぐ人のことをほめるし、おだてるのだ。母なら、人にすり寄らんと生きていけないほど弱い人間なんか?と言われてしまいそうだ。しかしこの清水という男の子はおそらくそういう人間ではない。まだひと月にも満たない付き合いだが、そう思わせるものをちゃんと見せられている。

 

「けど、清水だって解けたでしょ。今の問題」

 

その一つとして学力だろう。この男は入学してすぐ行われた学力テストでもかなりの好成績を納めていた。ある一つの教科を除き私に匹敵する点数を取っており、その一つの教科に差がなければ危なかったかもしれない。文字通りの意味で私の背中にいる存在でもあり、勉強においても私に迫ってくる可能性を持っている。母の言葉通りなら注意しなくてはいけない存在なのに、どうにもそうする気にならないのはこの男の振る舞いというか性格?によるものなのだろうか。

 

「まぁ 数学は自分の得意科目なんでね。

 けどそんなこと言ったら、ここにいる奴らならあと5分10分くらい時間与えれば全員解けたし、もう解けてるやつだってたくさんいる。結局は、みんなの前で堂々と自らの答案を書けることがすごいってこと。」

 

「ハイハイ、ほめても何も出ませんよ~」

 

「僕としては酒寄さんとこんな会話できるだけめっちゃワースなので。」

 

言葉だけじゃなく、表情からも本当に楽しそうに話てるのが分かるからタチが悪い。こいつの中学生時代はどういう人間関係を形成していたのか心配になってしまうほどである。この面でこの感じだったらさぞモテただろう。そんなこと考えていたら、先生の話す声が聞こえる。雑念を振り払うために私は、前の黒板に目を向けて再び先生の話を聞くことに集中するのだった。

 

 

 

 

放課後になり、クラスメート達は各々この後の予定のために動いていく。かくいう私も大体一時間半後にアルバイトの予定がある。学校からアルバイト先までのそこまで遠いというわけでもない。余裕を持って30分前までにここを出れば遅刻することもないだろう。そう思った私は、少しでも時間を有効活用するべく図書室で今日の復習をしようと席を立ったそんな時。

 

「い~ろは!

 今からバイト?」

 

「それともお暇ですか~」

 

後ろから声を掛けられる。

私は二人の声にこたえるため振り向く。

 

「半分正解で半分外れ。

 一時間半後からバイトだけどそれまではフリー。まぁそれまで図書室で復習でもしようかなって。」

 

今私に声をかけてくれたのは、同じクラスの綾袖芦花と諌山真美である。ギャルい雰囲気を醸し出しているが普通に真面目な芦花と雰囲気や発言のまんまのマイペース人間である真美の二人は、入学式が終わってから話しかけてくれてそのまま友達になった。ありがたい?ことに新入生総代となった私は壇上で話すこととなり、その姿に興味を持った?らしい。少し恥ずかしい気持ちもあるが、素晴らしい友人たちを得られるなら結果オーライである。

 

「真面目だね~、けどそんなに急いでやらなくていいんじゃない。

 授業でも先生が出した問題完璧に解けてたじゃん。」

 

「いやいやその油断が命取りなのですよ芦花さんや、

 いつ後ろから撃たれるかわからないんですから。」

 

「いつの時代の話それ?

 戦国?安土桃山?」

 

確かに聞いてみればその時代にはよく聞きそうな話だが、残念ながらこの話の出どころは現代である。

 

「私のお母さんのありがたいお話です。」

 

「へ~、彩葉のお母さんって武士だったんだ~」

 

「そんなわけないでしょ……」

 

いやでも武士っぽいかと言われたらはいと答えてしまうかもしれない。あの人抜き身の刀みたいな存在だしな。

 

「あっ、そういえば彩葉~

 アルバイト先はイイ感じ~?」

 

「あーうん悪くない。というかいいと……思う。」

 

「えーなんか歯切れ悪くない?

 ホントに大丈夫?」

 

いいと思っているのは本音である。しかしただ単純に……

 

「忙しすぎるんだよなぁ。」

 

「そうらしいね、

彩葉がバイト探してる話流れたらすぐ清水君勧誘来たもんね。」

 

家出同然で上京し、学費や生活費をか細い仕送りと自らの労働でどうにかしなくてはいけない私は少し前までアルバイト探しに難航していた。単純に稼げる所を探しているわけではなく、移動手段に乏しく勉強等にも時間を使わなくてはいけない私には中々条件の合うアルバイト先がなかった。このままでは生活していけないと焦りが生じてつい2人に愚痴ってしまったのだ。そこから話題が広がっていき、その話を聞きつけた清水は自らが働いているバイト先を紹介してきたのだ。とりあえず話半分で聞いていたのだが思ったよりもいい条件が重なり、あちらの責任者の方とも話がまとまって採用される形となった。働いてそこそこの期間が経過したが、不満という不満はあまりない。ただこの話の道中で思わぬことが判明し少しいやかなり驚いたが。

 

「バイト先カフェなんでしょ~

 行きたいなぁ、清水君のパンケーキ食べてみたい~」

 

「いつでも来て、と言いたいところなんだけどね。

 今来てもらっても私対応できないだろうしなぁ。

 けど清水のパンケーキは食べに来た方がいいよ、シーズンで内容変わっちゃうし。」

 

個人的に意外だったのは清水がもの凄く料理がうまかったことだ。人の料理の腕にとやかく言えるほど自分は料理が得意なわけではないが、同世代の男子(専門的に学んでいる人を除く)に敗北感を与えられてしまうとは思わなかった。特に彼の作るスイーツは店の人気メニューとなっており、彼がいる時間といない時間では飛んでくるオーダーの内容が全く違うものになる。その光景が私には新鮮で少し面白かった。

 

「へ―彩葉がそこまで言うとは。

 私も気になってきちゃった清水君のパンケーキ。」

 

「それどういう意味?」

 

「まだ彩葉と出会ってからひと月も経ってないけど、彩葉は簡単に人をほめるような人じゃないってことぐらいわかるって。」

 

なんかそれ私結構嫌な奴みたいじゃないか。いや芦花の言いたいことはわかるし、なんならその通りではあるのだが。実際彼の料理をいただいた次の日の晩御飯はお金のことを一回忘れて、自分の力の最大限をもって自炊した。結果はお察しの通りである。

くそ清水のやつめ、今は劣るがいつか必ず追い抜いてやる。でも正直追いつける気はあんましないなと私が考えている最中、スマホの着信音が鳴った。画面を見ると店長の二文字。……これかなり嫌な予感するな。

しかし無視するわけにはいかない。スマホを手に取り耳へ当てる。

 

「はい、こちら酒寄です。」

 

「酒寄さん! 店長の佐久良です。

 今日のバイト予定より早めに入ってもらえないだろうか?

 今ちょっと人手が足らなくてこの後すぐに清水も来てくれるんだけど、

 恐らくあいつがいてもきつそうなんだ。

もちろん入ってくれた分のお金は払うよ。色も付けてね。」

 

「わかりました。今からそちらに向かいます。」

 

「本当かい! とても助かるよ。

 じゃ、待ってるから。君らが到着するまで頑張って耐えとくよ。」

 

そういって店長は電話を切った。なんとまぁ、素早いフラグ回収だろうか。やはり言霊というものは存在するのかもしれない。

 

「そういうことだから、私行くね。」

 

「オッケーイ、頑張ってね彩葉。」

 

「稼いでくるのだ~」

 

友人たちに見送られ私はアルバイト先であるBAMBOOcafeへと急ぐのであった。

 

 

20分弱ほど歩いて到着した先は普通の喫茶店だ。名前の通り竹の装飾品がちらほら見受けられ、それは店内に入るとより顕著になる。このBAMBOOcafeという名前になったのは店長のお父さんがなぜか竹?が好きで、それがそのまま使われたらしい。この話を聞いたときに思ったのは、竹が好きってどういうこと?どこにそこまでの魅力を感じたのかということである。

そんなこと考えている暇ないかと意識を戦闘モードに切り替えてドアを開く。そこにはまさに戦場の火が広がりつつあった。見渡す限りのテーブルからオーダーが飛び交っている。それに対してホールスタッフの数が足りてない。なぜこんなことにと思って厨房を見ると、そこにはあの男の姿があった。

店長なんですぐあのメニュー入れちゃうんですか!?その思いは届くことはなく、厨房の慌ただしい様子が伝わってくる。いくしかないそう思って、私はスタッフルームへと急ぐ。

 

「おはようございます!」

 

昼でも夜でも変わることはない飲食店の挨拶(マナー)と共にスタッフルームへと入っていった私は1分で着替えや支度を済ませ店長がいるであろう厨房へと踏み入れた。

 

「酒寄入りました。」

 

私のその声に気づいた店長が声をかけてくれる。

 

「あぁ、酒寄さん来てくれて本当に助かるよ

 いきなり、電話して申し訳ない。」

 

「いえ、元々今日はこの後から入る予定でしたし、少し早くなったというだけです。」

 

「ありがとう。早速だが、色々頼みたい。

 とりあえず、少し厨房で清水を手伝った後にホールを頼む。いつものですごいことになってしまったから。」

 

やはりそうだったか。お客さんの盛り上がり様からおそらくそうだと予測していたが、

こうなることは分かっているはず……

 

「了解しました。店長、入ったばかりの私が言うのは何だとは思うのですが…

 あれはもうちょっと客足が消えてから出した方がいいのでは?

 まぁお店の利益考えたらこの方がいいというのはわかるんですけど。」

 

「至極全うで、ぐうの音も出ないね…

 けど清水のパンケーキを楽しみにする人が多いのも事実だからね。

 期待には応えたいというのもある。後、清水からの提案でね。注文は増えるけど、その注文の内容はパンケーキだけになるだろうから他の負担は減るだろうからって。」

 

なにそれ、カッコつけすぎだし自信ありすぎだろあの男。けど実際それをいうだけの能力を持ち合わせているのだからたちが悪い。店長を含めこの店のスタッフの人は清水をものすごく信用してるし、信頼している。高校一年生の男の子に少々背負わせすぎではないかと思ってしまうが、おそらく彼自身も望んでいることなのだろう。

 

「まぁ店長と清水がいいならいいですけど。

では店長、清水の手伝いから行きますね。」

 

「頼んだよ」

 

店長からのお達しを受け、奥の方でせわしなく手を動かしている清水のもとへと向かう。

向こうも私のことに気づいたようで、何やらこちらを見て笑っている。その後うんうんと頷き、満足そうな顔をしている。なんか気持ち悪いな、こいつ。

 

「なに? その顔」

 

「いやぁ、自らの心の中にモナ・リザを見たというか…」

 

「はぁ? 意味わかんないこと言ってないでほら。

 私は何をすればいい?」

 

忙しくて頭がおかしくなってしまったのだろうか。お前はなぜ心の中にモナ・リザを飼っているんだ。やはり絵描きという人種は皆そういうものなのだろうか?

いやそんなわけないな、目の前の男がおかしいだけだわ。まぁ清水がこういうジョークを好んでいそうなことはなんとなくわかっている。そんなこと考えていると清水はガラッと雰囲気を変え、指示を出していく。

 

「目の前に沢山あるハンバーグをオーブンの中に入れといて。

 その間に僕は、ちょうど切らしちゃった仕上げのソースを作るから。最後の仕上げは僕がやるから大丈夫。あともう一つなんだけど、パスタ茹でといてほしい。気づいたらパスタのオーダー溜まっててさ。」

 

「OK, それ終わったら私ホールだから。

 もし、何かしてほしいことできたら早めにいってね」

 

「助かる。まぁ正直ここからのオーダーはパンケーキ一色になると思うから大丈夫だと思うよ。」

 

「そのことを気にするんだけどこっちは」

 

「これ以上後輩にカッコつけさせられないからね。先輩にまっかせなさーい。

 ……やっぱりなんか頼もうかな」

 

「ハイハイ、頼みましたよ先輩」

 

「あれっ、酒寄さん?」

 

最後は少し怪しかったが、やはりこの清水という男は何だかんだで頼りなる人間なのだろう。この状態をキープしてくれればこちらもやりやすいのだが。とはいえこの緩さというか適当さ加減が清水という人間の良いところでもあるのは事実だ。かく言う私もそういう清水の一面に助けられている所もあるのだろう。これを清水に直接言うことはないだろうけど。そんなことか思いながら、ハンバーグをオーブンへと入れていくのであった。

 

 

閉店時間である20時になり、閉店作業をひとつずつ片づけていく。

結局あの後私はホールという名の戦場に赴いた。戦場へとついた私はばっさばっさと困難をなぎ倒していった…

なんてことはなくパンケーキのオーダーを取って清水に伝え、パンケーキをお客様のもとへ運ぶただそれだけである。本当にオーダーがコーヒーとパンケーキ一色になってしまっていたので忙しかったのは清水と店長二人だけだった、6時前までは。6時を超えた瞬間仕事を終わりのサラリーマン達(戦士達)がやってきて一日の鬱憤をはらすように怒涛のオーダーが入ってきた。しかし、夕方の時間帯を清水と店長の犠牲で乗り切っていたほかのスタッフたちが頑張りを見せ何とか今日の営業を乗り切ることに成功。

まぁ犠牲といいつつ清水は結構ピンピンしているのだが。

大体ホールの片付け終わったなと思ったそんな時に清水から声が飛んでくる。

 

「酒寄さーん、ホールの締め作業どうすか?」

 

「あっうん、終わったよ大体。」

 

「じゃあ食おう賄い、冷めるともったいないし。」

 

このバイト先を選んでよかったといえる理由の一つ、それが賄いである。驚くべきは値段で一食60円で食べることができるのだ。私は週に5日間シフトを入れているため、一週間で300円である。一食60円で食べられる料理のクオリティをはるかに超えており、私の心をつかんで離さない。確実に私のQOLを高めてくれている。その私のQOLのカギの一つを握っているのがクラスメートの男の子なのはどうなのだろう。文面だけ見たらめちゃくちゃ青春してるJKみたいだ私。

 

 

「今日はハンバーグ用のひき肉とサンドイッチ用の野菜とか色々余ってたんで、ハンバーガー作ってみました。」

 

「お前の料理のレベルも流石に上がってきてるなぁ…

 こんなソースうちにあったっけ?」

 

「ソースは適当につくりました。まぁいつも色々作らせてもらってるし、流石に上達しますよ。」

 

「お前の場合、その手で何かをつくることにかけちゃそこらへんの人間寄り付かせないだろ。なぁ酒寄さん?」

 

「へ? あっそうですね。うん。」

 

危ない。あまりにも目の前の料理が美味しそうすぎて話をほとんど聞いてなかった。ハンバーガーとか食べるのいつぶりだ?それもファストフードというよりはちゃんと専門店で食べる方のでしょこれ。

 

「ま、こんな話はいいか。じゃ、いただきます。」

 

「「いただきます。」」

 

店長に続いて命に感謝を伝える。ありがとう牛さん、野菜たち。あなた達のおかげで私はこのハンバーガーが食べられます。

その思いを胸に目の前のハンバーガーへとかぶりついていくのであった。

 

「「「うまっ、これ。」」」

 

頼む、これを作ったシェフを呼んで。

 

「ふぁい、なんでふか」

 

心の声が漏れていたらしい。私は恥ずかしくなり少し冷たく返す。

 

「食べながらしゃべらないで」

 

「ひどくない?」

 

ごめんて。けど、そこはうまくスルーしてほしかった。

 

 

 

ハンバーガーを食べ終わり店長が入れてくれた食後のコーヒーを嗜んでいると、コーヒーにミルクを注いでいた店長がその手を止めて話しかけてきた。

 

「いやぁ、本当に今日助かったよ。ありがとう酒寄さん。」

 

「いえそんな、ちょっと予定が前倒しになっただけですし。

 それにその分の給料もらえますし、この賄いも格安でいただけて…

 逆に少し申し訳ないっていうか…」

 

本心だ。本当に自分は恵まれていると思う。上京したての世間知らずの小娘が初めに引き当てたバイト先としては満点に近いだろう。だからこそ自分はそれに報えるのか心配になってしまうのだ。

 

「そんな謙遜しなくていいのに。まだこの店はいってから少ししか経ってない新人さんなのに、この仕事っぷりはすごいよ。ねぇ店長?」

 

「その通り、酒寄さんはよくやってくれてるよ。逆に言えば、これ以上はだせないみたいなところあるからね。酒寄さんぐらい優秀な子だったらもっといい条件のバイト先いくらでもあるだろうからね…」

 

確かにいい条件ならば、この大都会東京で探せば沢山見つけられるかもしれない。けれど、私が欲しいのは私にとって都合がいい場所だった。

「いえそんなこと、私も私で複雑な事情あるので…

 それを満たしてくれるバイト先があるだけでありがたいので。

 これ以上望んだら罰が当たっちゃいますよ。」

 

「酒寄さんはいい子だねぇ、うちの娘はもう俺の話聞いてくんなくて。

 やっぱり子供との接し方とか教育の違いなのかねぇ。酒寄さんの親御さんは

すごいねぇ。」

 

「あー、そうですね。まぁかなり?いや結構すごく優秀な親ですね…」

 

そう、すごく優秀だ。父親はピアニストで作曲家だった。父が世に送った曲の数は活動期間の短さに反して多く、評価も高い。そして……

母親は兄弟たちを養いながら京大法学部合格を成し遂げた。そんな人間が社会で弁護士としてどんなキャリアを歩んでいるかなんてお察しの通りだ。だから私はそんな母に少しでも追いつかなくてはいけない。

そうすればきっと…

 

 

 

 

少し微妙な雰囲気の中コーヒーブレイクもお開きとなり、最後に使った食器を洗い終えたらスタッフルームへ。パパっと着替えたら店の外へと出ていく。

 

「お疲れ様でした店長。」

 

「ああ、お疲れ様酒寄さん。今日はほんとにありがとう。

 あともう少ししたらあいつが来ると思うから待っててね。」

 

「はい、了解です。

 それでは。」

 

店長に挨拶をし、ドアを開け外へと出る。

清水が来るまでの間は手持ち無沙汰の状態だ。とはいえ今は単語帳を広げる気にもなれず、スマホに入れてあるヤチヨの曲でも聞くことにした。

選曲は「Remember」

私が一番ヤチヨの中で好きな曲。自分の体から少しづつ力が抜けていき、思考が落ち着いていくことを感じる。そのままの状態でただ清水を待つことにした。

 

ドアが開く音で現実へと引き戻される。

 

「お疲れ様、酒寄さん。」

 

「うん、お疲れ様清水。」

 

時間にして3分ぐらいの間だったがかなりリラックスすることができた。我が最推しのすばらしさに感服せざる負えない。

 

「じゃあ行きますか。こっから移動中の約15分間は僕との会話を楽しんで頂きましょう!」

「はは…、お手柔らかに。」

 

ああこれは、さっきまでの安らぎが噓のように賑やかな帰り道になる…

と思っていたがそんなことは起こらなかった。清水が話しかけてこないのだ。

なんとこの男、あんな調子のいい発言したのはいいもののちゃんとこっちに気遣いをしているのである。おそらくコーヒーブレイク中の会話で私の親の話が出てきたことをきにしているのだろう。清水は適当に見えて、ちゃんと周りを見ているし気を遣う。私が親と複雑な関係で苦手意識があることもなんとなくわかっているのだろう。

このまま無言で家まで帰るのは逆にこちらが申し訳なくなってくる。しょうがない、たまには私の方から話しかけてみるか。

 

「清水ってさ、意外に人に気を遣うよね。」

 

「えっ、そうかなぁ。自分では結構マイペースで適当な人間だと思うけど。」

 

「それはそう。」

 

自覚あったのか。

 

「だけど…」

 

清水眞白はそれだけじゃない。

 

「へ?」

 

「クリティカルなことにはあまり踏み込んでこなかったり、周りの人のことよく見てる。それは学校での清水の立ち回りやバイトでの仕事ぶりを見ればわかるよ。」

 

私の両親の話やバイト探しのときの事情は気になって聞いても仕方ないものだ。しかし踏み込んでは来なかった。

 

「へへっ、いやーお世辞だとしても嬉しいですよ~酒寄さん。」

 

「お世辞じゃないんだけどね。」

 

感謝してるよ清水。君のおかげで高校生活のスタートは中々悪くないよ。

そんな感謝の念を抱いていたら。

 

 

「酒寄さんも!」

 

なんか突然元気になったな、こいつ。

 

「え、なに」

 

「謙遜は日本人の美徳とするところだけど、もう少し自信持ってもいいんじゃない。

 自分はまぁまぁ凄くて、まぁまぁ頑張ってるってこと。

 正直言ってまぁまぁのレベルじゃないけど…酒寄さんが私すごいんだぞーって威張ってるとこ想像つかないし。」

 

おそらく店長との会話のことを言っているのだろう。清水の言い分も理解できる。目上の人からせっかくお褒めの言葉をいただいているのに、私の対応は少々卑屈すぎるのだろう。しかし、わかってはいても自分はまだ足らない。お母さんの足元にも及んでいないと心が訴えかけてくる。いつかこの思いが私の胸から消えることはあるのだろうか。

できるならば消えていってほしいと思う、多分。

 

 

 

 

結局あの後は勢いを取り戻した清水により賑やかな帰り道になってしまった。他愛のない話ばかりだったけど、そのくらいがちょうどいい。クラスメートに自分の親のことで気を使われるなんておかしい話だ。笑い話にもならないし。

そして気づいたら私が住むアパートの前まで到着していた。いやこの表現は少々間違いがあるかも。正確に言うならば…

 

「じゃ、また明日学校で

 お休み酒寄さん。」

 

「うん、お休み清水。」

 

そういって別れた私たちは同じくアパートの方へ向かい私は階段、清水はそのまま一階の部屋へと歩いていった。そう偶然というものは中々恐ろしく、この小さいぼろアパートに私だけでなく清水も入居していたのだ。このことを知ったのは店長との採用面接を受けに行く際に、清水が道を間違えないために一緒に行こうという提案したことから発覚した。一回自宅に帰ってから店へと行くことにした私達は、せっかくなら途中までは話しながら帰るかということになり、そのままずるずるとだべりながら帰っていたらこのアパートまでついていた。その時の雰囲気といったら何とも言えないもので、なぜ今まで一度もすれ違わなかったのか私には不思議でたまらなかった。清水は心当たりがあるそうだが。

 

そんなこんなで自宅に到着。

とりあえずお風呂に入ってから家事を済ませて、今日の復習と明日の予習だ。

 

 

お風呂から上がった後、私は机に向かって勉強に努める。軽く今日の復習を終えて、明日の予習へと取り掛かっていこうとしたその時に一瞬私の集中力が途切れた。すぐに集中力を取り返そうとしたがなぜかこの日の私の脳はそうさせてはくれなかった。こういう状態になってしまうと人間他のことを考えるようになってしまう。労働後に勉強に励んでいた私が思い浮かべてしまったのは…

 

「甘いもの食べたい…」

 

糖分であった。JKらしい欲望が自分にもあることに喜ばしい気持ちもある。しかし悲しいかな、学費やそのほかの生活費諸々すべてを自分で稼ぎ出す苦学生の自分の家には、この欲望を満たしてくれるものはない。

そんなこと考えているうちにバイト中の光景を思い出す。ホール中のテーブルにあるパンケーキから発せられたカスタードとイチゴの香り、その上には桜色のアイスクリームがのっている。皆美味しそうに清水が作ったパンケーキを食べていた。私自身は賄いでご飯は食べさせてもらったことはあるが、清水のスイーツは食べたことがなかった。

食べてみたい、そう思わずにはいられない。しかし、自身の7日分食費を優に超えるそのパンケーキを食べるのは気が引けた。もちろんお金の問題もあるがそれよりもその味を知ってしまったら現状のパンケーキに戻れる気がしなかったからだ。結局この夜自身の集中力が戻らず、仕方なくいつもより早めに就寝した。翌朝の目覚めは、いつもよりスッキリしていた。

ただものすごい大きな音で腹の虫が鳴いた。やっぱりなんか悔しい。

 




自分は実際に国分寺高校の周り歩いてみたんですけど、通学考えたらおそらく彩葉の家って立川というよりも国立駅側だと思うんですよね。だから住所は国分寺市になると思います。だから何って話なんですけど。
ちなみに国立駅から高校まで歩いてみたんですけど、かなり大変でした。運動がてらに学生さんや教師の方たちに迷惑にならない範囲でやってみて下さい。その道中ほんとに家しかないんですけど、自分の地元と比べて圧倒的に家がきれいだなという感想を持ちました。
自分と同じく新卒皆さん、労働はどんな感じでしょうか? 正直まだ研修ばかりでよくわかんねという人が多いのではないでしょうか。お互い頑張りましょう。自分は田舎故に車通勤なので通勤結構楽ですが、毎日満員電車で格闘してる方もいると思います。かけられる言葉はお疲れ様ですのみですが、どうにか踏ん張って。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。