どうせなら、キャンバスは白いほうがいい   作:中山の補題

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今週三回も飲み会あってまじで大変でした。面白かったけど。
お酒好きなんですけどお店によってあんま飲めないなぁみたいな感じなんですよね。
3回目のお店の梅サワーが味もアルコールも薄くてもういいかなってなりました。


5月、異世界な日々 裏①

5月の中旬にも差し掛かり、来週からは高校生初めての定期考査試験いわゆる中間テストがおこなわれる。私、酒寄彩葉はなんとか新天地東京での生活を1ヶ月ほど乗り切ることに成功している。これを……まぁ自分の力で成し遂げた!と力強く宣言できるなら、あの母も少しは私を見直してくれるのかもしれないが、私の今の生活は周りの人にかなり支えられてしまってるなという自覚がある。人間、社会的な動物でそれが当たり前だと頭では理解していても、それを心の中でうまく受け入れることができないのは、私の良くない性なのかもしれない。そんなこと考えていると……、

 

「い~ろは!

 考え事? もう少しペース上げて食べないと昼休み終わっちゃうよ?」

 

可愛らしい声によって私は思考の中から現実へ戻される。危ない、私は一回考え込んでしまうと時間の感覚を失って、30分くらいはそのままになる。実家にいたころはそのことをお兄ちゃんに……やめよう。兄のことを考えるのは別の意味で頭が痛くなる。

 

「あ、うん。たべるたべる。」

 

そう言って今日の私の唯一といっていいまともなおかずに箸をつける。うん、やはり中々美味しい。

 

「それ美味しそうだねいろは~、どういうレシピ~?」

 

真実が私の箸につままれているおかずに興味を示す。流石だ、グルメ系インフルエンサーをやってるだけあって食に対する嗅覚が鋭い。しかし、このおかずはそんなに注目してもらうほど大層なものではない。なんせ使ってる食材は2個。その内容は…

 

「これ? 

 もやしとカニカマをケチャップとかで和えただけだけど…。

 食べる?」

 

貧乏人の昔からの相棒こともやし先輩と祖父母の仕送りからなぜかいつも送られてくるカニカマの二つに調味料ぶっこんで和えただけの料理だ。時間もそうだが、何よりお金がかからない。私の食生活を支えている精鋭たちの一人である。

 

「え、いいの!?

 じゃあ代わりに私の玉子焼きあげる~」

 

「あ、ありがとう…。」

真実が私の弁当箱の中に一つおいてくれる。た、たまご…。昼ご飯に卵料理食べたのいつぶりだろう。頂いた卵焼きを口に入れる。真実の家の卵焼きは甘い味付けらしい。酒寄家の卵焼きの味付けは出汁が良く効いているしょっぱい味付けなので、全く違う味わいである。

 

「いろはー、真実のだけじゃなくてさぁ~

 うちのも食べてよ。」

 

「どういう理屈!? おかずの交換なら分かるけど、一方的にもらうのは…ね?

 私もう渡せるものないし。」

 

「むっ、強情ですなぁ。友人からの善意は素直に受け取るのが吉だよ?

 さ、どうぞ?」

 

お、押しが強いな…。しかし、ここで折れてしまってはいけない。ここで許してしまえばこの先ずっと友人たちから施しを受けることに…!

 

「い、いや~ごめん芦…

 

「はい、あ~ん。」

 

パクッ。

勝てなかった、わ…わたしは弱い。あ、でも美味し。実家よりの味付け…、故郷のことを思い出し…たくない気持ちの方が強いなうん。

 

「ありがとう、美味しかったよ。明日は追加で一品おかず増やしとくから、それでチャラということで。」

 

そう返すと、芦花は少し不満げな顔をする。分かってる、わかってはいるのだけど。母に啖呵をきって東京に出ていくことを決心したあの日から、一人で生きていく強さをわたしは求めている。子供が要らない意地を張ってるだけなのも十分に承知だ。それでも、私はこの想いをこの先も棄てることはできないのだと思う。そのためにもまず勉強そして、今日も明日も控えているバイトをこなさなければ。

 

バイト終えて、いつも通りの時間に家へと帰宅し、まずはお風呂に入る。湯船につかると、今日の賄いを思い出してしまった。本日は、余ったアスパラガスで作ったメニューが盛りだくさんで、肉巻きをはじめ、豚肉とジャガイモとのバター醤油炒めなど普通に美味しかった。柔らかく、甘い旬のアスパラをここまで味わったのは初めてかもしれない。バイトからの帰り道で清水に感想を聞かれたものだから、真面目に自分の感想を答えたら、清水はいい笑顔で気に入ってくれて良かった!と嬉しそうなご様子。これはまたアスパラメニューが登場する日は近いかもしれない。良質なビタミンは私の懐事情では補えない所も多いから、とても助かる。そんなこと考えていたらかなり長風呂をしてしまった。完全にのぼせてしまう前に上がっておかないと、この後の勉強の前に脳みそが茹で上がってしまっては効率が落ちてしまう。

 

 

明日の予習まで終わらせて、一息つく。固まった体を伸ばすために椅子から立ち上がり、大きくのびをする。パキッという音がなり、体中がほぐれていく感覚をえる。スマートフォンを確認して時間を確認するとまだ25時前であった。いつもなら余裕で25時は超えるのだが、今日は調子が良かったらしい。賄いで食べた豚肉のビタミンB1が効いているのかもしれない。そんなすぐに栄養届かないか。このうまれた時間は、また明日の労働のために睡眠に使うのが吉だろう。しかしその前に…

 

「なんかツクヨミの情報あるかな…。」

 

何かしらのことが高頻度で起こるツクヨミ。勿論、自分で体験することができれば最高ではあるのだが、私の生活的にそれは現実的じゃない。だから時間が少しできたときには、今日ツクヨミでどんなことがあったのかを調べる。これは私の日々のささやかな楽しみだ。そういうことで今日もその楽しみを享受していこうと思い、SNSを開き、ツクヨミで検索をかける。一瞬でページが開き、大きな一面で一つのイベントが特集されている。

 

「なになに? ツクヨミチャレンジカップの決勝トーナメント…。

 あ~、あれね。」

 

ツクヨミチャレンジカップ、一般公募で参加者を募って、アマチュアチーム最強を決める大会。参加資格の敷居の低さからこの大会は毎回大きな盛り上がりを見せる。そしてこの大会のもう一個盛り上がる点は…

 

「今回の招待プロは…うげっ。ブラックオニキス……。」

 

二つの意味で私にとって嫌なチームが出てきてしまった。正気か、大会運営?確かに盛り上がるかもしれないが、いくらなんでも一般参加チームがかわいそうだ。今までだったら出ても中堅チームだったし、上位チームのプレイヤーが複数集められた寄せ集めチームがいいとこだったはずだ。ここに来て日本最強チーム…、明日のチャレンジマッチは地獄絵図になってしまうかもしれない。それでも盛り上がってはしまうだろう。もう少しでフォロワー一千万人を超える売れっ子だ。全く…わが兄ながら恐ろしい。東京に出て行ってすぐにプロゲーマーとして頭角を現し、とんとん拍子で今の地位まで上り詰めていた。勿論、始めは自分の兄が物凄く活躍していることがうれしかった、兄のあの芸風をみるまでは。皆さんは体験したことがあるだろうか?兄が大きなイベントを開くことを知り、家族の活躍を一目見ようと妹がそこに駆け付けた瞬間…。

兄が周りのファンに向かって、

 

「子ウサギども。お前らの帝様が来たぜ。」

 

ギザな台詞をなんの恥ずかしげもなく発した。私はその瞬間を今でも忘れることができない。その後の私はどうやってリアルに戻ったのか、イベント中は何をしていたのかも何もかも覚えていない。ただその日の夕食は珍しく母が何も私に言ってこなかったのを覚えている。おそらくは母も何らかの媒体で兄の活動を見てしまったのだろう。いつもは意見が合わない私たち親子が、兄によって久しぶりに考えが一致した瞬間であったと今は思う。

少し本題から話がずれてしまった。とにかく、明日の優勝チームがどれだけ黒鬼に対して食らいつけるのか。それが明日のイベントのカギとなる。……、もしかしたら黒鬼に土をつけるチームが出てくるかもしれない、なんてあるわけないか。

あの人……兄が簡単に負けるわけがない。兄はずっと、どんな日でもプレイし続けていたのだ。何かにとりつかれたかのように。私もいつの日か、兄のように熱中できるものができるのだろうか?人生をささげてなりたいもの、成し遂げたい目標・夢ができるのだろうか?

……やめよう。そんな大層なもの、私には抱えきれっこない。

 

 

 

 

チュンチュン。

 

スズメの鳴き声と共に目を覚ます。ん?私の目覚ましのアラームってそんなに可愛らしいものに設定していたっけ?どちらかというと無機質で、時間通り起きるためだけのツールみたいな音が流れているはずじゃ。枕元に置かれているスマホの画面をタップして、眠い目をこすりながら見ると……!?

「まっずい! 寝坊した。」

 

今日のバイトのシフト開始は開店時間の10時から。そして、現在時刻は9時10分を回っている。ここからベイト先までは歩いて15分程度。私の走力なら10分くらいには短縮できるはずだ。すぐに支度すれば、余裕だ。そう自分に言い聞かせながら私はひたすらに体を動かす。15分程度で準備を終わらせた私はドアから飛び出し、階段を駆け下りてBAMBOOcafeへと急ぐのであった。

 

 

 

ここを右に曲がればBAMBOOcafeのある通りへと出れる。さっき信号で止まったときにスマホを確認したが予定通り店に10分で到着するペースを上回るものだった。そのため、途中からは徒歩にしたが大して遅れることはないだろう。突き当りに差し掛かり、右へ曲がる。目の前には……

 

喫茶店の開店に並ぶ見覚えのある方々がいた。土曜日の午前から喫茶店の列に並ぶ人なんて、いつものの常連さん以外ありえない。この人たちはわざわざ一つのメニューを食べるために朝から並んでいる。そんな人たちを横目に店へはいろうとドアに手をかけようとすると、

 

「お、酒寄ちゃん。今出勤かい?」

 

「はい前田さん、少し寝坊して遅くなっちゃいました。すぐ準備しますね。」

 

先頭に並んでいた常連の前田さんが話しかけてきた。この人は店長のお父様の代から通っている人らしい。しかし、先代店長が引退してこの店からそのメニューが消えてからは足をはこぶことが少なくなったと前田さん自身が言っていた。だからこそ、メニューが復活したことを知った際には思わず涙が出そうになったという。そんな私もそのメニューを食べさせてもらった際には思わず涙を流してしまった。

 

カランカラン

 

「すいません。遅れました。」

 

ドアを開けてまずは謝罪を入れる。すぐに私の鼻にスパイシーな香りが漂ってくる。

 

「遅れてないよ。それよりどう、外の様子?」

 

私の謝罪に反応したこの男、清水眞白が「BAMBOOカレー」を復活させ、前田さんたちを感動で涙させた張本人であり、私を辛さで涙を流させた犯人でもある。美味しかったのは認めているが、カレーは甘口で15年間生きてきた私のひ弱な口では、スパイスが効いているここのカレーは耐えられなかった。

 

「遅れてないよ。それよりどう、外の様子?」

 

そんな私の私怨などかけらも感じていない目の前の男は、店の外の状態を聞いてくる。

 

「いつも通りに並んでる。ていうか休日の午前から喫茶店に並ぶ人たちなんて面子固定されてるだろうし。」

 

「それもそうだね。じゃあはじめはこのカレーだけで済みそうだ。」

 

これは冗談でなく、本当に外の人たちはカレーしか頼まないカレージャンキーたちだ。彼らはカレーそしてコーヒーの二つしか頼まず、ただ黙って黙々とスプーンを動かす機械となり果てる。そして、何も言わずお会計をして厨房に向かってサムズアップをして帰っていくのだ。はじめてその光景を見たときは、何かの儀式かと勘違いしてしまいそうだった。

 

「てか今日酒寄さんっていつまでだっけ?」

 

「私? 3時とかそんなところじゃない。」

 

いきなりなんだ。清水は読めない言動をたまにしてくるからその度に驚かされることがある。

 

「じゃあもしかしてだけど……、夜とかお暇だったりする?」

 

いや単純に爆弾投げつけられた。どうやって取り扱いしてあげたらいいんだろうか。いや、清水が言葉通りの意味で言ってないことはなんとなくわかっている。1ヶ月半そこそこ同じ時間を過ごしたが、この清水眞白という男は男子高校生とは思えないほどピュアな奴である。猥談どころか恋愛の話でも降られると慌てて顔を赤らめてしまう場面を教室で何回か見かけるくらいには純真な奴である。

 

「え、なに? いきなり怖いんですけど。

 清水って実は結構プレイボーイな感じだったの。」

 

「へ? 

 あっ!いやそういうなんかいかがわしい意味では、全く!なくてですね…

…てか酒寄さんそういうの知ってるんだ」

 

案の定、顔を赤くしながら慌てて否定してきた……そこまでなら良かったのに。最後の一言がすこーし余計だったよ、清水。

 

「へぇ~、そんなこと言っちゃうんだ? ふーん……ねぇ。」

 

「ハイッ」

 

できるだけ威圧感を出してみる。イメージするのはもちろんあの人である。こういう時には母に詰められた経験が活きるのか。……うん、親子の形としていかがなものなのだろう。

 

「終わりは?」

 

「へ?」

 

「シフトが終わるのいつって聞いてるの。

 そっちが先に聞いてきたんでしょ。」

 

「はっ! 閣下と大体同じ時間でありますっ!」

 

「それ本気で言ってる?

 本気で怒られたいの?」

 

やばい、清水の反応が面白くていじるのをやめられない。良くない、良くないけれど。

ここまで来たらとことん遊ばせて貰おう。

 

「終わったらちゃんと待っててな清水君。

 何も言わず先に帰ったら…、 わかってるんやろうな?」

 

「はい、喜んで待たせていただきます。」

 

これやりすぎたかも。まるで猛禽類に狙われている小動物のように体を震わせている。

……、まぁいっか。喜んで待ってくれるらしいし、その時に種明かしすればいい。

バイト中は背筋伸ばして働いてもらおう。

 

 

 

開店して二時間ほど経過した現在は12時ごろ、そろそろ客足も増えだしてくるころだろう。そう思いつつ、お客様に頼まれてお冷のおかわりを注いでいく。

 

カラン

 

ほら来た。

 

今一番近いスタッフは……、清水?なぜホールに。暇で耐え切れなくなってカウンターの方に出てきてたのか。結局あのマイペース男は変わらないな。それにしても、清水とお客さんでなんか盛り上がってるな。

……どこかであのお客さん見た気がする。あ、クラスメートだあの二人組。名前は確か、鈴村君と河木君だった気がする。そういえば清水はあの二人と仲が良かったなと思い出す。カウンター席へ案内し、その後何回か言葉を交わした後に清水が楽しそうに厨房へ帰っていった。あんなに楽しそうに仕事場に戻る人初めて見たかも。あいつはいい意味で社会人に向いていなそうだ。

 

ホールから厨房へと戻って一息つく。開店からずっとホールで立ち続けていたのでさすがに疲れた。とはいえ未だ休憩ではないしお昼時が始まっている。今にすぐ仕事が

 

「酒寄さん、ちょっといいかい?」

 

きた。

 

「なんですか店長?」

 

「ブレンドコーヒー二つ、3・4番カウンター席の人に提供頼むよ。結構コーヒーのオーダーたまっててね。」

 

「了解です。」

 

同じ学校の生徒に接客したことは何回かあるが、クラスメートは初めてだな。そんなこと思いながら、トレーの上にコーヒーカップをのせてカウンターへ。

 

そこには清水も既にいて、先に料理を提供していたらしい。なにやら、話し声が……

 

「マジか、これ本当に喫茶店のメニューか?」

 

鈴村君の声。普通そんなこと言われるか?清水はあの二人に何を作ったんだ。

 

「食い終わったら気絶するやろ、俺ら。」

 

「えっダメ? カレーとカツサンド。」

 

ダメ……ではない、のだが。ずれている。喫茶店で昼に出てくるメニューではない。

 

「「大好物です。」」

 

だろうね。とりあえずこれ食わせてれば男子高校生喜ぶでしょシリーズ上位だろう。そんなシリーズ知らないが。

 

「ならいいじゃん。」

 

「いやカツカレーでいいだろ。飯とパンの炭水化物のデュエットが始まってんじゃん。」

 

「スズ、同じ料理で飯とパン入ってるわけじゃないからデュエットではないかも。」

 

「カワお前……、今そこじゃないだろ。」

 

清水のセンスに惑わされているのか、あの二人までおかしなことになっている。清水が絡むと皆変なテンションになってしまうのかもしれない。

 

「二人とも、残すと酒寄さんに怒られるよ。」

 

ん? 流れ変わったな。どうしてそうなるのかな?清水君。

「いやお前、酒寄さんのことお母さんとでも思ってる?

 確かに凄い真面目な人だけど、バイトでそこまでする奴はいな……」

 

「マジなんか……」

 

んなわけないやろ。あほなんかあんたら。これは一回、釘を刺しとくか。そう思った私は何も気づいてない清水の後ろから……

 

「お待たせしました。こちら、ブレンドコーヒーです。

 あら、清水君? あなた厨房スタッフですよね。ここでなにしてはるの?

 さっさと戻れ。

 

(言葉の)ナイフを突き刺す。午前のことを思い出したのか方が震えている清水。大丈夫かこれ、トラウマになってない?バイト終わりで弁解できるだろうか。

……まぁ大丈夫でしょ。清水だし。この件に関していえば清水の悪ふざけだし。

件の清水は顔を真っ青にしながらそそくさと厨房へ戻っていった。

 

……優しくしよ。清水は、私の生活において重要な重要な一端を担ってもらっていると言っても過言ではない。流石に今回の私ははっちゃけすぎた。

その前に目の前のクラスメート達の対応をしなければなるまい。

 

「ねぇ。」

 

「「はいっ、いかがしましょうか?」」

 

立場が入れ替わってしまった。いつの間にか私は客になっていたらしい。これ以上は私が店長に怒られてしまいそうなのでやめてほしい。しかし、そう簡単にはいかなそうである。しょうがない、今なら何を聞いても彼らの口は軽そうなので有効活用させていただこう。

 

「鈴村君たちが来たとき清水すごい驚いてたけど、なんかあったの?」

 

「ああ、そのこと?まぁ簡単に言うとサプライズみたいなもんだよ。事前には予定があるって言ってたんだけど、まぁ少し予定が早く終わったからさ。なら言っちゃおうかなって。」

 

「ふーん。差し支えなければその予定って聞いていいの?」

 

「まぁ…いいんやない? 隠すことでもないしな。」

 

「だな。酒寄さん、ツクヨミチャレンジカップって知ってる?」

 

昨夜調べたものがここできた。まさに昨日進研ゼミでやったところだ状態である。私は進研ゼミをやったことはないのだが。それよりも難しく、厳しいナニカはやっていたけど。

 

「うん。私もそこそこKASSENやるしね。毎回普通に楽しく観戦したりするけど……。今回の大会はやりすぎなんじゃない?招待プロがあの黒鬼なんて。」

 

「だから面白いんやないか。あいつらの華々しい戦績に土つけるために俺たちやってきたからな。今度こそ、あのこっぱずかしいセリフを当たり前のように吐きまくるあのすかしイケメンの悔しがってる顔を、引き出してやらんとなぁスズ?」

 

河木君、是非ともお願いします。そのバカ兄の目を覚ましてやって下さい。

 

「おう。それで俺たちは今回のツクヨミチャレンジカップの予選リーグを全勝して一足早く決勝トナメに進んだ。というわけで午後からの戦いに向けてここで清水の料理を食べて英気を養おうというわけですよ。まぁあと普通に清水の顔見たかったのもあるんだけど。

 

へー鈴村君たちはかなりKASSENのトッププレイヤーらしい。あの黒鬼たちのプレイを知りながら戦意を喪失するどころか、リベンジに燃えている。私なら無理だ。自分がある程度の実力を持っているゆえに相手の実力がいかに相手と隔絶したものかがわかってしまう。勝ち目がない戦いはしたくないと思うのが普通だ。しかし二人は敗北という結果を恐れていない。もしそうなったとしても自分達は折れないとわかっているのだ。羨ましい。自分が学校で勉強というフィールドで負けたとき、1ヶ月はふさぎ込んでいそうだ。……、いや立ち直れるかな。

 

「……そうなんだ。応援してるよ一人のKASSENプレイヤーとして。私もあの黒鬼が圧倒されてるとこ、見てみたいから」

 

「「任せとけ。」」

 

真っ直ぐに私の見て答える二人。威勢のいいことだ。これ以上の会話は料理も冷めてしまうし、私も仕事に戻らなければ。

 

「それじゃ、ごゆっくり。

 ……あ、残さないでね。」

 

「「うっす、了解っす。」」

 

結構いい感じに会話できたはずなのだが結局最後まで怖がられている。清水と関わっている人面白いな。学校でも話しかけてみようかな。

そう心に思いつつ、5番卓にオーダーを取りに取りに行くのであった。

 

……30分後、カウンターには清水が作った大量の料理を消化しきった男子高校生二人組の姿があった。すごいなあの量を食べれちゃうんだ。清水もあれくらい食べれるのかな。ふざけすぎたお詫びに料理を……、いやいやいや何を考えてるんだ私は。個人的に?手料理を?振舞う?男の子に?やりすぎではなかろうか。一旦保留にしておこう、そうしよう。

結局バイト中はそのことで頭を悩ませながらの業務だったせいで、店長から少し精彩がないね、と言われてしまった。本当に申し訳ございません。

じゃあ少し頼み事いいかと店長に言われる。是非ともやらせてください、あと2時間は働けます。え、伝言?

 

 

 

結局3時で上がらせてもらいことになりスタッフルームへと入っていく。そこには、先に帰宅の準備を進めている清水の姿。

 

「お疲れさん、清水君。」

 

清水の体が大きく1回はねる。どうやら今日一日のバイトの出来事を思い出したらしい。

 

「酒寄さん、命だけは勘弁して頂けないでしょうか。

 まだ僕には、やらなくちゃいけない使命が……」

 

使命とは中々大きくでたな。どうせそんな大したことではない。だが気になる。

 

「へぇ、なに。教えて?

 同僚の異性にあんなこと言っちゃう清水君の使命。」

 

「実は……」

 

「実は?」

 

「この後スマコン買ってツクヨミデビューしなくちゃいけないんです……。」

 

「は?」

 

は?

 

「え?」

 

「持ってないの?スマコン。」

 

「うん、持ってない。」

 

「存在は流石に……?」

 

「知ってた。」

 

「じゃあ、なぜ!?」

 

「いやぁ、僕の青春はね。絵を描くことと共にあったんですわ。」

 

「どんだけ絵に時間費やしてんのよ、あんた……。

 てかまだ青春時代は終わってはなくない?」

 

呆れた。でもそれ以上に凄いなとも思う。こんだけ周りの人間が楽しそうに利用している中で、それに左右されずに清水はやりたいことをずっとやり続けていた。凡人ができることじゃない。それだけ、清水は絵というものに熱量を注いでいるのだろう。

 

「それでつながるんだよ、開店前の話に。一人で始めてもいいんだけどさ。

やっぱり初プレイは、経験者にいろいろ聞きたいこととか出てくると思うからさ。」

 

「あ~だから、私の午後以降の予定聞いてたのか。

 じゃそういえばいいのに。大事なこと先に言いなさいよ…。」

 

「それは本当にごめん。」

 

「で、午後の予定ね。今確認するから。」

 

確認せずとも自分の今日の予定ぐらいはわかっている。だからこそ、アプリを開く必要があった。今日のこの8時半から予定を後日にずらそう。急を要するものじゃないしスケジュールにも影響が大きいわけじゃない。清水には色々助けられてしまっているし、何よりもツクヨミという世界を愛する者として友人のデビューがより良いものになってほしいと思う。

 

「夜8時以降ならそこそこ時間とれるけど、清水はどう?」

 

「全然OKっす。お願いしてる立場だし、時間は合わせるよ。」

 

 

「それじゃ、そういうことで。この後買いに行くんでしょ。

 場所は……、やっぱり立川駅のタヤマデンキ?」

 

ここらで予約もなしにスマコンが買えるのはそこだけだ。少々行くのはめんどくさいが他に選択肢はない。

 

「そうだね。ちょっくら、いってきますよ。

 あっ、その前に!」

 

なんだ、これ以上のリスケは流石に厳しいのだが……

 

「これ少し余ったカレーのルーが入ってるのと……、4分の1カットされたパンケーキっす。

 酒寄さんって僕の料理結構食べてくれてるけど、なぜかパンケーキまだだったでしょ。流石に果物はあしはやそうだからのせられてないけど、クリームはあるから安心して!」

 

「いやこんなに頂くのは……

 カ、カレーのルーだけじゃダメカナ?」

 

正直カレーも受け取るのは憚られる。気が引けるというのもあるが、前の一件で少しカレーに苦手意識が……美味しいのわかるけども。

 

「賄いの料金と今日の夜を足せば、これくらいにはなるって。

 それとも酒寄さん甘いの苦手だっけ?」

 

この男分かって言ってるな。じゃあ聞くが、女子高生のうち何%がスイーツ好きだと思っているのだ。求めようとしたら、余事象を使った方が絶対楽なことぐらいはわかる。

 

「イヤァ~、ソウイウワケデハナインダケドネ。」

 

「じゃ、パンケーキが嫌い?」

 

わたしは卵、小麦粉、乳アレルギーを持っていません。

 

「スゥ~、いただきます。」

 

「はい、良かったです。味わってください。」

 

負けた。まさか清水に言いくるめられてしまうなんて。いた別に得してるのはわたしではあるのだけど。清水の手からランチバックを受け取る。くっ、心は悔しがりたいといっているがお昼ご飯代が浮いたのと豪華なお昼ごはんのことを思うと、にやけが止まらない。

帰り道の道中は休日出勤後とは思えないほど、軽やかなものだった。

 

 

 

 

アパートにつき、昼食の準備をする。とは言っても電子レンジであっためるだけなのだか。ランチバックを開けると言われた通りカレーのルーとパンケーキ、そして……

 

「あいつ……白米まで。私に何やらせる気?」

 

久しぶりに自宅でこんなきれいなお米を食べれる。それがクラスメートの男の子による施しなのはこの際置いておく。とりあえずいただこう。お皿にルーとライスを移して早速いただく。部屋に香ばしい匂いが広がっていく。しかし、いつもより少しスパイスの匂いが薄い気がする。違和感を感じながらスプーンで一口。

 

「えっ、あま…い。

……はぁ、清水ってホントよくわかんない。」

 

私はカレーは甘口の方が好きなんて清水に言ったことはない。おそらく前に食べさせてくれた時の私の反応からレシピをわざわざ変えてくれたのか。甘口になっているがBAMBOOカレーの風味は失われていない。私にレシピを調整する経験はないのでわからないが、ある程度の試行錯誤はしてくれているはず。別に自分のためになるわけでもないのに清水はこういう苦労をサラッとやってしまうのだろう。彼はお節介でいい奴なのだ。私はとりあえず一つの決心をしてカレーを無心で食べ勧める。あまりのおいしさに気がつけば皿から料理は消えていた。

 

次はパンケーキだ。食べたい気持ちと食べてはいけない気持ちが今までぶつかってきたせいで放置されたままだったが遂にこの時が来てしまった。私の食生活を支えてきた水と小麦粉だけのパンケーキをもう一生食べることができなくなるリスクを十分に理解しながらも私は……!

 

「いただきますっ。」

 

おいし。変に言葉を重ねる必要がなかった。

ほんのりかけられたメープルとパンケーキ本来の優しい甘みが私の脳をやさしく支配する。食感が全然違う。そんな当たり前なことわかりきっていたのに。なんだか食べているだけで安心してしまう。あーあもう食べれないや、あのパンケーキもどき。

 

「私の大事な仲間を一つ消し飛ばしてくれちゃった清水にはしっかりお返ししないとね。」

 

今の私の手持ちの中でできるだけのものを彼に渡そうと思った。

ただ借りを返すのではなく、友人の為に。

 




ギリギリクラファン間に合った人間です。

一応なのですが、別に自分は帝様をはじめとしたブラックオニキスが嫌いなわけではないです。
ただ初めて見たとき、自分の兄がネットでこれやってたら少しいやかもと思ったのがずっと頭にあるんですよね。
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