どうせなら、キャンバスは白いほうがいい   作:中山の補題

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文字数…およそ19000字。
やらかした


5月、異世界な日々 裏②

すべての料理を食べ終わり久しぶりに昼食で満足感を得ることができた私は、宣言通り清水に対してのおかえしを作り始めることにした。

今の自分が持ち得るリソースから最大限をと思い冷蔵庫の中を覗くものの……

 

「ろ、ろくなものがない……。前提条件としてリソースがないんじゃ意味ないじゃん。」

 

今入っている冷蔵庫の中身を無理やり使おうものなら自分の食生活があやしくなってしまう。今から追加で食材を買いに行く?いやそこまでの時間は取れない。リスケした関係上、これ以上の時間の変更は勘弁願いたい。……しょうがない、決意したことを途中でやめるのは気が引けるがまたの機会にしy…。

 

ピンポーン。

 

インターホンが鳴る。なんだろう。今月の仕送りはもう受け取ったし、ご近所さんが訪ねてくることなんてまずない。新聞とか宗教の勧誘だろうか。私はそういうのを断るのが苦手なのだ。できればそういう類の方たちでないことを祈りつつドアを開けると……

 

「お届け物です。

 ここにサインお願いします。」

 

「あっ、ご苦労様です。ありがとうございます。」

 

宅配業者の方だった。そこそこ大きい段ボール箱。送り主は…

 

「おばあちゃん……、今月はもうもらったのにどうして。」

 

段ボールを開けたら包装をかき分けるとそこには沢山の食材と一通の手紙。

先ずは手紙を手に取り読み進める。内容を要約すると、なんとなく今送っている量じゃ足りなくなる気がしたからおくったこと。これからは今までと同じものに今回の物を合わせた物を仕送りとして送ること。この事を私が気にする必要はなく、おばあちゃん大好きと思いながら受け取ってくれればそれで良いと書いてあった。

 

「エスパーなんかうちのおばあちゃんは…。

……ありがとう、大好きです。」

 

早速食材をスカスカの冷蔵庫へと格納していく。同時に送られた食材を把握しながら頭の中でメニューを考えていく。料理にそこまで時間をかけてはいられない。しかし、丁度よくこんなにも沢山の食材が手に入ったのだからある程度立派なものにしたい。そう考えているうちに私は先月の賄いのことを思い出す。あの日はいつもよりお客さんが多く私含めスタッフ達は疲労困憊であった。それを見た清水がかなり張り切ってそこそこ大きいハンバーグでハンバーガーを作ってくれた。東京に来てからまともな肉料理なぞ食べていなかったので思わず涙が流れそうだったのを覚えている。流石に食材使いすぎたようで店長は少し涙目になっていた。……流石にあのハンバーグを再現するのは無理だが、ハンバーグという発想自体は悪くない。しかし、ひき肉の量もそんなあるわけではないので、なにかで足す必要がある。そこで木綿豆腐をたして豆腐ハンバーグにしてしまおう。30分もかからない程度で調理は終わるだろうし、そこそこ良いおかずになってくれるだろう。

 

そうと決まれば善は急げ。まずは木綿豆腐の下ごしらえから始める。キッチンペーパーで木綿豆腐を包み、電子レンジで加熱し水気を切っていく。その後は材料を切って混ぜてこねていくだけだ。切った玉ねぎ、豆腐、ひき肉を片栗粉と醬油、隠し味?のニンニクと混ぜてこねる。粘りが出てくるまでこねつづける。こね終わったら、フライパンにサラダ脂を入れて熱しそこにこねたハンバーグのタネをおいて中火で焼き色がつくまで焼き、色がついたら裏返して約4分蒸し焼きして完成だ。

 

…ほんとに作ってしまった。自分で食べられないことが心底悔やまれるくらいには美味しそうなにおいを放っている。これ以上このまま放置したら、次の瞬間には手に箸を持ち一切れ、また一切れ食べてしまうのが目に見えている。早急に私は洗ったばかりのタッパーの中に料理を収めてふたを閉め、ランチバックの中におさめた。

とりあえずはひと段落。後はこれを渡すだけだ。果たして清水はもう家に帰っているのだろうか。ひとまず外に出てみないと分からない。ランチバックを手に持ってドアを開け清水の部屋の前へと向かう。階段を下った先のアパートの自転車置き場に清水の自転車が止まっていた。良かった、もう家に帰っていたらしい。…普通にチャットで家に帰っているか聞けばいいだけだったな。いつの間にか私は気づかないうちに浮かれてしまっていたらしい。いや待てよ、まずいくらお世話になっているとはいえ男の子に自ら進んで手料理を作ってる時点で既に……。いや、振り返るな。もうドアの目の前まで来ているし手には料理を持っている。変に考えても二の足を踏んで決まずい時間が延びるだけだ。そう心に言い聞かせインターホンを押す。

 

ピンポーン。

ドアが開いて清水が出てくる。まさか私が訪ねてくると思わなかったのかかなり驚いている様子だ。

 

「あっ、良かった。帰ってたんだ。

 まぁ自転車があったから、いると思ってたけど。」

 

「どうしたの酒寄さん。

 もしかして今日の夜予定あったりしちゃった?それなら全然そっちを優先してもらいたいけ  ど。」

 

「いや流石にダブルブッキングはしないよ。

 そうじゃなくて、はいこれ。」

 

「ランチバック? ああ、返しにきてくれたのか。

 わざわざありがとう。あれ?」

 

清水がランチバックからタッパー以外の質量を感じて困惑している。そりゃそうだろう。自分が料理を入れたタッパーに料理を入れ返して返すなんて誰も思わない。新手の交換日記みたいになっている。

 

「美味しかったよ、どっちも。久しぶりに自分の家でまともな料理食べられて嬉しかった。

ありがとう。それはそのお返しってことで。」

 

清水がタッパーを手に取り中身を確認する。お気に召すといいけど。

まずはなんでこうなったのか説明した方がいいかな。

 

「昼、鈴川君たちが来てたでしょ。そこで清水が張り切って作ったかなりの量の料理全部ちゃんと食べきってたから。それ見て、清水もこんくらい食べるのかなって。

 それに流石にもらいすぎだから、少しでも返したいと思ったからさ。」

 

心から思っている理由で本当の理由を覆い隠す。流石に貴方のつくったパンケーキがおいしすぎて、私の水と小麦粉だで作った貧乏パンケーキもどきが食べられなくなった仕返しなんて言えない。

 

「それに…。」

 

「まだあるの?」

 

「伝言。

「めっちゃ美味しかったわ。今度は普通に放課後に行かしてもらうわ。」

だってさ。」

 

「あー、そう言えば店長がそんなこと言ってたね。いやあの人、自分じゃなくて酒寄さんに頼むのかよ。」

 

正直私も忘れかけていた。一応私へのペナルティでもあるためちゃんと達成できて一安心だ、……これ以上滞在するのはよろしくないな。

 

「じゃ、私は一旦ここらへんで。

 また後で。」

 

「うん、ありがとう。

 ちゃんと食べて感想言うよ。」

 

「いいよそんな、感想なんて。」

 

そう言ってドアを閉めて自分の部屋へと戻る。部屋に戻った私はなにか突き動かされたようにためていた家事を済ませ、ペンを手に取り中間テストに向けて勉強を進める。いつもより英語の長文がすらすら読める。関係詞が多くてごちゃごちゃな文でも文型を意識してサクッと処理できる。なんでだろう……。あっ、単純に久しぶりに上質な糖分を取って頭が動いているのか。糖分は吸収が早いし、時間的にも今が集中力のピークかも。いいなこれ。こんなに効率が上がるなら勉強する前に毎回食べたいかも。清水に頼むか、私のために毎日パンケーキ作ってくださいって。なんかプロポーズにしか聞こえなくない?私は新手のプロポーズを発明してしまったのか。現代は味噌汁じゃなくてパンケーキなのかもしれない。やばい、あまりにもすらすら解けすぎてアドレナリンが出てハイテンションになっている。このままのペースなら予定よりも進捗が進むかも。いい方向にスケジュール調整できるかもしれない。今日はなんだかいい日である。

 

 

 

 

現在約束の八時まであと10分。そろそろログインして先に清水を待っておく必要がある。私はいつも通りケースからスマコンを取り出し目に着ける。もう慣れたものだ。初心者のころはまずスマコンを装着するのに戸惑っていたっけ。その度にお兄ちゃんにつけてもらったりして…。ま、まぁ昔の話だし。清水はどうなんだろう。コンタクトレンズをつけてはいないようだしもしかしたらてこずっているかも。清水ならあり得る。まぁだからなんだという話である。くだらない回想はやめてとっととログインだ。

スッと目を閉じてツクヨミへと意識を飛ばしていく。

見慣れた宇宙を通り抜けて赤い立派な鳥居を抜ければ、目の前に広がるのは現代社会に復活した平安京ことツクヨミである。時間を確認すると約束の時間の3分前である。清水は初ログインでチュートリアルがあるはずだし少しは遅れて来るだろう。時間潰しでこの前無料で配っていた試読本でもよんでいよう。

 

……。数ページ軽く目を通して本を閉じる。まさかボーイズラブ作品だと思わなかった。ちゃんと説明を確認していなかった自分の落ち度ではあるがこういうの造詣が深くない自分ではここまでが限度だった。まず恋愛に疎い私ではレベルが足りなかったらしい。

意図せずすごいものを見てしまったという思わぬ未知との遭遇でため息をついてしまう。

 

「へぇ~イロってこういうのも読むんだ?」

 

聞き覚えしかない声に体が固まる。何度も何度もこの声を聴いてきた。私がどんな状態であったとしてもこの声はいつも明るくて楽しそうで。そんな彼女の声を近くで聴ける、あまつさえ声をかけてもらうというオタクにとってはこの上ない誉れなのに…どうして。

こんなシチュエーションなのだろうか。今日はいい日のはずだったのだが人生全部うまくはいかないらしい。

 

「? お~い!大丈夫?

 意識はちゃんとあるかな。」

 

「ひゃ、ひゃい。大丈夫でしゅ。」

 

私の返事を聞いた彼女は太陽のような笑顔をこちらに向ける。うっ、顔がいい。

いやもうこれだけで一ヶ月分くらいの生きる活力がもらえている気がする。

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

「いつも見てます。配信も…歌もずっと聞いてるし。つらい時、苦しい時にずっとあなたのおかげで……。」

 

本人を前に言葉が溢れてくる。そんな止まることを知らない私の口にヤチヨの人差し指があてられる。あまりにも急な彼女のファンサに私の心臓は持久走を走った後のようにバクバクしている。

 

「そういうシリアスな雰囲気も嫌いじゃないけど~。

ヤッチョは笑ってるイロの方が見たいかな。ほら笑おう?

かわいいお顔が台無しですぞぉ~。」

 

そう言ってヤチヨは両手で私のほほをぎゅとしてくる。すごい手がすべすべで気持ちいい。なんだここは……、私は天国にでも上ってしまったのか。ごめん清水。私はこの天国に身をまかせ……。

 

「あっ清水!」

 

そうだ。私が今日この時間からツクヨミにいるのはこの天国を体験するためではない…のだ残念ながら。かなり時間がたっているかはずだし、もうこちら側に清水は来ているかも。そうなればこの広いツクヨミの中を探し出さなければならない。私としたことが大きな不覚を…

 

「マシr……マロのこと?

 あともう少しでそこの鳥居から出てくると思うよ。私はマロにツクヨミで待ってくれている友達の女の子に遅れる事を伝えてほしいって言われたから、分身してこっちに出てきたんだよね。」

 

清水……すごいなあんた。あの月見ヤチヨをただの伝言役に使うなんて。贅沢にもほどがあるし、思いついても頼む勇気があるか普通。ただ、清水ならやるだろうなという半ば確信めいた気持ちが私の中にあるのも事実。そしてそのおかげで私が至福の時間を得ることができた。まさに清水様様である。

 

「イロ。マロのことちゃんと見てあげてね。」

 

「あ、もちろんです。彼には色々と助けてもらってるし…」

 

少し困ったような顔でヤチヨは私の顔を見つめ続けている。目の前の彼女が何を想っているのか今の私には分からなかった。

 

「それじゃ! ツクヨミを二人で巡る旅へ! いってらっしゃーい!」

 

そう言うとヤチヨはスッとその場から消えた。我が崇高なる推しは出るも消えるも一瞬だ。そういうところも魅力の一部なのだが。

ヤチヨの姿が消えたと同時に近くにある赤い鳥居が光る。言葉通りというわけだ。

 

「おっとっとと、よし。」

 

「おーやるじゃん。大体の初ログインの初心者はここでずっこけるんだよ。」

 

「あっ、酒y…。

 えっとイロさんだっけ?」

 

「あっうん、そうだけど。知ってたんだ私のハンドルネーム。

 そっちは…、マロだっけ?

 なんか似てるな…」

 

ヤチヨがこちらに送る前に教えてくれたのだろう。まったく、気が利く天使様だ。

 

「うん。X(クロス)での活動してる僕のイラスト投稿用アカウントの名前そのまんま持ってきた。もしかしてヤチヨさんに聞いたの?」

 

 SNSは流石に使ってるんだ。まぁ入学式の日にくれた?というよりも押し付けられた絵を見るだけでも清水の画力の高さはうかがえた。あれだけのものがあれば絵師として活動してもおかしくないか。後でこっそり見てみよう。

 

「まぁね。てかあんた前代未聞だよ。ヤチヨにフレンドへのメッセージを届けさせるなんて。このツクヨミの創始者でトップライバーの月見ヤチヨをそんな風に扱える初心者なんてあんたくらいだろうね。」

 

「いやぁ本当におっしゃる通りでございます。

 でもイロさん?僕にかける言葉はそっちじゃないんじゃない?

 僕が厚かましいお願いをヤチヨさんにしたおかげで…?」

 

「うん、普通にマジでありがとうマロ。

 推しと二人きりで話せる時間とかもう天国以外の何物でもなかったよ。

 もう正直、この時点で最高。どんなところでも案内する。いやさせて下さい!」

 

この恩を返さないようではこの酒寄彩葉、人として大事なことを失っている。同じくらいのものを返せないとしてもそう努めるのが人と人の関係というものである。

 

「あっ、イロさん。これからいろいろと案内してもらいたいところではあるんだけど、一つだけお願いがあって。」

 

「なにかな、清水君!

 この酒寄彩葉が何でも叶えてあげましょう。」

 

だからこの謎テンションでもしょうがないのだ!……しょうがないのだ。

 

「ツクヨミにログインする前に、…HN分からないから名前言っちゃうんだけど鈴村君から電話があってさ。『21時になったらKASSENエリアのSENGOKU第一アリーナに来てくれ』って言われたんだけどお願いできる?」

 

「あ~成程ね、うんまぁいいよ。いつもだったら断ってたけど、何でも叶えるって言っちゃったしね。そう…鈴村君たち勝ち上がったのか、凄いな…。」

 

昼間話したときに彼らがかなり強いプレイヤーであることは察していたが本当に優勝してしまうとは。本気で彼らは黒鬼たちの顔に土をつける気でいるんだ。頑張ってほしいとは思う。ただ、その壁を超えるのは並大抵のことではない。

 

「じゃそういうことで、とりあえず行きましょうか。こちとらさっきから向こう側の景色ずっと見せられてうずうずしてるんだ。」

 

清水の様子はまさに言葉通りだ。久しぶりにこういう初心者の挙動を見た気がする。

 

「それもそうだね。とりあえずこのバカ長い橋を渡らないと。

 時間もたくさんあるわけじゃないし、走るよ。」

 

「えっあ、ちょっと…。

 初心者置いて本気ダッシュしないでくださいよ~。」

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ。マジで見失うかと…、思っ…た。」

 

「ごめん。チュートリアルでは走り方まで教わらないの忘れてた。」

 

自分がチュートリアルを受けたのが昔のことで肝心な所を頭から抜け落ちていた。でも私を見失わずに追いついたということは走るのをマスターしたということだ。清水はなかなかVR適性が高いらしい。ツクヨミを楽しむことにおいてVR適性が高いことに越したことはない。

 

「やばいなツクヨミ。探索するだけでも一月は軽く消し飛びそうだ!」

 

それは間違いなく同感。数年間このツクヨミを堪能し続けている私もいまだにこの世界に対して飽きというものを感じたことがない。まぁヤチヨという存在がいるだけで私にとってはそこは極楽浄土なのだけど。

 

「―初ログインおめでとう!ツクヨミではみんなが表現者!君も何かをして人の心を動かしたら、運営から『ふじゅ~』がもらえるよ☆」

 

「ふじゅ~は、このツクヨミでユーザー間の取引で扱う仮想通貨。また、現実の世界の通貨にも変換できる。だからこのツクヨミで人気なコンテンツクリエイターは、昔でいうUtuberみたいな感じで凄い暮らしをしてるみたいよ。」

 

私には遠く縁のない話である。とてもじゃないが、誰かの心を動かすようなコンテンツを自分が作れるとは思えない。しかし、目の前の彼はその適性がある。清水がこのツクヨミでどのような活動をしていくのかは単純に気になるところだ。

 

「さて、基礎的な説明は大体済んだことだし。どこに行く?正直、21時の予定考えたら今日は行けて一つだと思うけど。」

 

どこでも案内するといった手前ではあるが、時間には限りがある。今日で案内は終わりです、なんて薄情なことをするつもりは毛頭ないが。

 

「ふふっ、それはもう考えてあるのですよ。酒寄さん僕たちは何ですか?」

 

「えっ何その質問?

 まぁ何かといわれたら、学生でしょ。」

 

いきなりどう答えるべきか迷う質問をしてきたな。

 

「それは!……そうなんですけど。

 いいですか、僕たちはカフェの店員ですよね。」

 

「まぁそうだね。」

 

バイトだけどね。

 

「そうでしょう。だからまずはこのツクヨミでのカフェを体験したいわけですよ。

 もしかしたら、このツクヨミでの体験がBAMBOOcafeで生きてくるかもしれないし!」

 

「あ~、まぁいいけど。あんまり期待しないでよね。」

 

清水はおそらくこのツクヨミでの食事に興味があるのだろう。まぁわからないわけではない。だけど……ね。

 

「謙遜しなさんな。酒寄さんがセレクトしてくれたお店ならそんなこと……」

 

残念ながらあるんだよね。このツクヨミでは清水、君みたいな料理上手な人相手だと。

 

 

 

「…………、

 味がしないんだね。ツクヨミの食べ物って。」

 

「やっぱり知らなかったか……。言ったでしょ、期待しないでって。」

 

清水は自身が手にもつパフェを一口食べて寂しそうに呟く。こうなるとなんとなく予想はついていたから他の所に案内しようと思ったが、こういうのは後になるほどダメ―ジが大きくなるのも事実。腹を決めて清水にこの体験をツクヨミ初日の思い出として持ってかえってもらうことにした。これはこれで大きなインパクトではある。

 

 

 

「でもほら!こうやって見た目のインスピレーションもらえるだけでもこちとら嬉しいから!どうやって現実で再現してやろうかな~なんて。この紫色のシャーベットなんて、何を使ってんだ?普通に考えたらブドウとかだけど、紅芋とか使ってみるのもありだよね!」

 

「ぷっ、なに必死になってんの。いいよ、そんなにポジらなくて。物事ってそういうもんでしょ。どんなに完璧に見えても、どこかでは結局欠点だったり弱点がある。ツクヨミもその例に漏れないってだけ。結局は人間が作ったものだしね。」

 

そうだ。現実がかすんで見えるほどきれいに見えるこのツクヨミも、結局は人が作ったものだ。完璧なんかじゃない。だって人間が完璧な存在ではないから。母性原理というやつだ。子は親を超えることができない。しかし、それではだめなのだ。今の私を変えるためにはあの人を超えなくてはいけない。ただそれは何のためなのか、何が私をそうさせてるのかはわからないままだ。

 

「……。

 ねぇ、酒寄さん。僕がこのパフェ、リアルで再現したらさ。味見してよ。

自分じゃない、他人の意見って凄く大事だと思うんだよね。多分何回も失敗すると思うからさ。その度にお願いするよ。」

 

 

「いいの?それ。私が沢山得してない?」

 

「いいのいいの。結局材料費は、巡り巡って店長もちだし。好きなだけ食べてってよ。」

 

「……、まぁ。

たまにならいいかな。」

 

気を遣わせちゃったな。ただなぜか、清水なら少しくらいいいかと思っている自分がいる。自分でも矛盾していると思う。2ヶ月にも満たない関係なのにすっかり私はほだされてしまったらしい。自らの変化を感じていたその時、アラームが鳴る。

ウインドウを見ると時刻は……、20時50分。

 

「時間だ。行くよマロ。」

 

「オッケー、ちなみにここから遠いの?」

 

「そこそこね。だから走るよ。操作は大丈夫そ?」

 

「おかげさまで。」

 

「りょーかい。じゃあちゃんとついてきてね。」

 

 

 

5分ほど走って会場につく。予想通りすごい人だかりである。後ろを見るとさっきよりも余裕そうな表情で清水がついてきてくれている。

人だかりをするする抜けていき、観客席に座る。もう時間もないし、始まる前に軽く説明しないと。

 

「先に軽く説明しとくね。

 このツクヨミでは色々なゲームがプレイできるけど、その中でもダントツに人気なのが『KASSEN』。で今から行われるのはKASSENの中のルールの一つであるSENGOKU。どんなゲームかというと……。ねぇMOBAゲープレイしたことある?」

 

「いいや。僕がプレイしたことあるのはRPGと格ゲーくらいだけど。」

 

まずまともなゲーム経験があることに驚いてしまうが……格ゲー!?

清水が格ゲーやっている光景が全く私には浮かばない。でもたしかにコマ投げ4回食らって負けても清水ならケロッとしてそうだ。一番向いている性格なのかも。

 

「格ゲーはあるんだ……。まぁすごく簡単に言うと3対3の陣取り合戦で最終的に相手の本陣を落とすゲーム。それが今から行われる超簡単なゲームの概要。

 次になんでこんなに人が集まっているかだけど……」

 

 

『皆様、お待たせいたしました!このツクヨミチャレンジカップ残す試合は1つのみ!

 最後の戦いは一般公募から集められた数多のチームをすべて薙ぎ払ったアマチュア最強のチームが日本最強のプロゲーミングチームに挑みます!

 まずはアマチュアの方から登場していただきましょう。

 Team Absolute Core !』

説明途中だったのだが時間が来てしまったらしい。しかし、タイミングがいいともいえる。ここからの説明は進行の方に任せ、私はそれに補足するとしよう。

 

『メンバー紹介に入りましょう!

 チームリーダー! FreeStyle、

ショットコーラー M4ken

エース      Takenoko

の3人となっております。このチームの特徴は何といってもデスの少なさ。この日まで行われた予選大会では、決勝戦でのTakenoko選手の1デスのみ!圧倒的な連携力と戦略で勝ち上がってきたチームです。その知略がプロにどこまで通用するか楽しみですね。』

 

清水はあの二人の姿をみて固まってしまっている。無理もない。クラスメートがこの大観衆の中に主役としていきなり現れたら誰だってそうなる。

 

「ツクヨミチャレンジカップ。

 簡単に言えば、一般プレイヤーの中でチームを組んでアマチュア最強を決める大会。その大会で鈴村君たちは優勝して今あそこにいる。そしてその優勝チームには、プロゲーマーへの挑戦権が与えられる。毎回プロゲーマーのメンツは違うけど……今回は特別。」

 

「え、なんで特別なの?」

 

「今にわかるよ。」

 

私はあまりわかりたくないけど。

 

『さぁ、皆様ここから大本命の入場です!大きな声と拍手でお迎えくださーい!

 黒鬼! ご来臨——————————!』

 

口上が終わった瞬間に会場全体から物凄い黄色い歓声が上がる。この歓声を上げている人たち全員が兄のアレに脳を焼かれてはまってしまった人たちだ。もうプロゲーマーとかそういう次元ではない。国民的アイドルと呼んでも間違いではないだろう。

 

「よう、子ウサギども。お前らの帝様がきたぜ」

 

今日もいうんかい! いやわかってはいた。あれは兄にとってこんにちはみたいなものだし、どうせノリで言っているだけ。私が勝手に過剰に反応してしまってるだけなのだ。そう思っていた時にふと横から声が聞こえる。

 

「な、なんかすごいひと……だね。」

 

やっぱりダメだ。普通に横のクラスメートがドン引きしている。結構心に来るな。そのなんかすごい人は私の兄なんです。一応ちゃんとした意味でもすごい人ではあるんです……

 

「酒……、イロさん大丈夫ですか!意識をはっきり持って!」

 

清水に肩を揺らされ意識を取り戻す。

 

「はっ! 私さっきまでどうなってた?」

 

「あの黒鬼?っていう人たちが出てきてから意識を失ってたよ?

 なんかトラウマでもあるの?」

 

「まぁそんな感じかな。たはは……、はぁ。

話を戻すけど、今回招待されたプロゲーミングチームは黒鬼ことブラックオニキス。

いま日本で一番人気があって、一番強いチームだよ。あの人たちは多様なゲームで優勝してるけど、その中でもSENGOKUの戦績はレベルが違う。彼らがチームを組んでから、この日本で行われたSENGOKUの大会では1ゲームも落としたことはない。鈴村君たちも十分に強いけど、相手が悪いよ。なんせ、才能がある人たちが人生かけてゲームやってるんだから。学生とは訳が違う。」

 

これから友人たちが戦うというのに、冷や水をかけるような真似はしたくない。けれど、何も知らない状態で目の前に広がる惨状を見るよりかはいいだろうと私は考えていた。

 

 

 

 

 

嘘、ホントに勝っちゃった。

 

「すごい…Absoluteが勝った!それも結構大差で勝ったって感じ!

 そこのとこはどうなのサカえもん!」

 

ただ驚くしかない私をよそに清水は友人たちの勝利に興奮状態である。私が試合前に言った言葉も相まって、よりこの勝利のインパクトが大きく感じられているのだろう。

 

「誰がサカえもんじゃ、誰が。

 …そうだね。実際かなりの圧勝だと思うよ。勝ち方は両方のやぐらの占拠によるコールド。

 試合の内容も文句のつけようはそんなにないと思う。

 最初から最後まで黒鬼はAbsoluteの戦略の上で踊らされてたわけだしね。」

 

「イロさん、できるだけでいいから僕に今の試合の解説してくれない?

 この通り!」

 

わざわざ頭まで下げられずとももとからそのつもりだった

 

「いいって、そんなにかしこまらなくて。もちろんいいよ。

 そのためにここにいるようなものでしょ、私。

 

私はこの試合で起きたことを自分が理解できた範囲で話していった……

 

 

 

 

 

 

私の話が終わり、わからなかったことが自分の中で腑に落ちたのか清水は落ち着きを取り戻している。しかしどうしても気になることがあるのかまた興味津々な目をしながら聞いてくる。

 

「ねぇイロさん、ずばり聞くんだけど…。

 このBO3…。Team Absolute Core は勝てますか?」

 

「無理。」

 

「そうだよね! このままの勢いで!…ってあれ。

 聞き間違い…かな?」

 

「ごめんマロ。気持ちはわかるけど…、多分無理。

 だって、黒鬼は今やっとAbsoluteのメンバーの力を把握した。正直、今の試合で勝ったのは情報の数の差が大きいよ。勿論、それでも十分に快挙だけどね。」

 

そう、十分にすごいことをあの3人はやってのけた。どのチームもこの1つの勝利をもぎ取ろうとして初見殺しを仕掛けて失敗していった。用意した作戦を実行する前に力技で押しつぶされるのがほとんどで、作戦を通したとしても作戦自体の威力が足りず勝ちにまでつながらないことも多かった。その中で自分達の集団戦の強さという強みを捨て、少人数戦によって序盤のリードを得ることにシフトした彼らの判断は素晴らしいものだったと思う。

 

「そうなんだ…。」

 

少し落ち込んでいるな。まぁこれだけいい勝ち方をしてこの後負けますって言っても簡単には受け入れられないだろう。

 

「でもマロ、それは黒鬼だけじゃないよ。」

 

そう、Absoluteのことを知ったのはこの会場中にいる観客たちも同じ。

 

「え?」

 

「この会場にいる全員が今の試合を見てこう思ったんじゃないかな。

 Team Absolute Core は強くて、カッコイイって。だから、勝った瞬間に起こったのは、ブーイングじゃなくて拍手だった。

M4kenたちがこの観客たちの心を動かしたんだよ。」

 

「そうだね…、よし。この後どんな展開が待っていても僕は応援し続けるよ。それが僕の心を動かしてくれた彼らに、今の僕ができる精一杯だ。」

 

「ふふっ、まぁそれでいいんじゃない?

 確かに、鈴村君にはそれが一番いいかもね…。」

 

「なんか言った?」

 

「なんでもなーい。」

 

勝てないといった手前、こんなことをいうのはなんか嘘くさく聞こえるかもしれない。けど、私は始まる前のような諦めや悲観といった感情でこの試合を見てはいなかった。この後の二試合がどのような展開で進むのかが楽しみで仕方なかったから。

 

この後の二試合とも、少しでも黒鬼側に操作ミスがあれば結果がひっくり返ってもおかしくないものだった。まぁ黒鬼にそれを期待するのは酷だったかもしれないが。

 

 

 

会場から少し離れ、人がいない休憩スペースへと移動してきた。人混みがすごすぎたので休みたかったし、先程の試合について清水もなにやら思うことがありそうだった。

 

「強いね…プロゲーマー。一試合やっただけでこんなに対応してくるんだ。」

 

「言ったでしょ、才能ある人が人生かけてやってるの。そう簡単にその城は崩せない。

 けど今回の負けでヒビくらいは入ったんじゃない。」

 

「ちなみに聞くけど、そのヒビどれくらいの大きさ?」

 

「うーん、日曜大工のドリルで削ったくらいじゃない?」

 

勝っていたら、大砲ぶち込まれたくらいの穴はあいただろうけど。

 

「ねぇイロさん。選手たちってどっから出てくるかな。

 彼らに今日のお礼、言わないと。」

 

「うーん、知ってはいるけど難しいんじゃない?

対戦相手は黒鬼でただでさえ出待ち多いだろうし、その黒鬼に土をつけたからね。FreeStyleたちの人気も流石に上がってる。今日このツクヨミであって会話するのは難しいんと思うけど…」

 

そう私が話した瞬間、私たちの間を何かがすり抜ける。そしてそのまま近くの石垣に突き刺さった。

 

「えっなに!? 暗殺者にでも狙われてるんすか僕!」

 

「ああ、それ? 忍者宅配便だね。それも速達バージョン。」

 

チャットでは気がつかない可能性を踏まえて、必ず相手に認知させることが強みであるこのサービス。中々使う人はいないけれど、だれがなんのためにこれを私たちに投げてきたのか。

 

「あっ、ホントに暗殺者ではあるんだね。」

 

目の前で起こった出来事を清水はまだ処理できていないらしい。良かったね、ツクヨミ初日でここまでいろんなコンテンツに触れることはそうそうできることじゃない。君はツイてるよ。

 

「う、う~ん。あ、あれなんか抜けない…。

 イロさん、手伝ってくんない?」

 

「え~、しょうがないわね。

 まぁ初心者だし、まだ体の扱い方も慣れないよね。いい?こうやって、力を入れて!」

 

ズボッ! ピキピキピキッ。

 

「「え?」」

 

私の体は、反射的にそこから離れるために走り出した。

 

「ねぇ酒寄さん、これやばくな…、ってもういねぇ!  ビキッ!        

 

バーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!

どわぁ────!」

 

 

わずかに聞こえる清水の声も、経験したことのない状況にパニックになった私には届かなかった。

 

 

 

 

嘘嘘嘘!?そんなことある!?

ここは別にKASSENステージないでもないただの市街地エリアのはず。市街地エリアは建造物や設置物は破壊不可だったはずなのにどうして。…落ち着け、そうだ。ツクヨミだって完璧じゃない。おそらくさっきはバグによるものだ。そうに違いない。

とりあえずは戻って清水と合流を……の前にこの巻物を確認しよう。こいつのせいで少しひどい目にあったんだし。

 

紐をとり、サッと広げる。

 

「えっと、なになに。

 

清水眞白殿。

この巻物は月見ヤチヨさんに協力してもらいお前に届けてもらいました。おそらく自分達の試合を見に来てくれたと思うのでそのことと、ツクヨミ初日の感想を一友人としてお聞きしたく送らせていただきました。

集会場所として店を予約しましたので、下の店まで来て下さい。

 

Team Absolute coreより

 

……ちゃんと真面目なものだった。それも私じゃなくて清水宛だし。とりあえず清水に早くこのことを知らせる必要がある。チャットに巻物の内容を要約し、さっきの休憩スペースからお店までの道のりを載せる。

 

私は一足先にお店に向かって鈴村君たちに事情を話しておこう。この巻物を送ってからそこそこ時間が経っているだろうし、あっちは今日私が清水に同行していることを知らず清水のことを探しに行くかもしれない。

 

 

3分ほど移動して、巻物に書いてあったお店へと到着する。お店の扉には貸し切りの文字。とりあえずドアノブに手をかけ、ドアを開けて店内へと入る。中には当然ながら巻物の送り主である3人組がいた。

「おっ清水遅かった……な?」

 

「あれ? 酒寄さんやん。どしたん、こんなところに一人で。」

 

「酒寄……? あぁ俺たちの学年の総代さんね。おまえら、クラスメートだったもんな。」

 

「あはは……。色々あってツクヨミ初日の清水を案内してたんだけど、はぐれちゃって。

 この後すぐに清水も来るから安心して。」

 

思わぬ私の登場に目の前の男子たちも驚いている。今口から流れるように清水はすぐ来るって言っちゃったけど、大丈夫かな。そこは清水を信頼してはいるが、遅かったら探しに行かないと……

 

「なぁ、酒寄さん?」

 

「え、あっうんなに?」

 

「聞いておかないとって思ってさ、酒寄さんと清水のHN。ここではいいけど、外じゃ呼べないだろ。」

 

「ああ、それもそうだね。わたしはイロで、清水はマロだったかな。XのSNSアカウントの名前そのまま持って来たって言ってたけど。」

 

「なんか似とるな、自分らの名前。なんや付き合っとるんか?」

 

「ち、違うわっ! 中々いい発想力をお持ちなんやね、河木君は?」

 

「おっ、その返し。酒寄さんは京都の方の人か。河木は大阪だもんな。」

 

「やっぱりそうやったか。節々からそんな感じのオーラきてたからな。まぁ関西モン同士仲良くしようや酒寄さん。」

 

「あんた図太いわね。まぁ、別に構わないけど。」

 

とりあえずこの3人の雰囲気をつかんできたところで入口の扉が開く。入ってきたのは……当然清水だ。

 

「これはどういうこと……。

 あっ! 途中でばったり会ったとか?」

 

「え、送っただろ? 巻物、速達で。

 あれにこの場所で待ち合わせしようって書いてあったんだけど。

 それよりも……それなんだ?しみ……マロ。」

 

私も気になっていた清水が手にもつすごいボロイ槍。どうしたらこの短い時間でそんなものを手に入れることになるのか。怪しげな行商人にでもあってきたか?

 

「あっ、これ?

 その巻物が物凄いスピードで石垣にぶっ刺さって、それをイロさんに力づくでとってもらったら石垣が思いっきり崩れたんだ。そこからでかい宝箱出てきて、あけたらこれが出てきた。」

 

は?

 

「は? 石垣崩れて、そこからでてきたのは宝箱。その中から武器が出てくるなんて……。

 聞いたことあるか、カワ?」

 

「あるわけないやろ……。

 先ず、このツクヨミで宝箱があるという噂話はいくつも聞いてきたけど、所詮は噂話。実際にこの目で見たことないしな。お前は?カズ。」

 

私も聞いたことがない。武器が市街地エリアからドロップするなんて……

 

「お前が見たことないのに、俺にあるわけないだろ。

 そんなことよりも俺が気になるのは……。

 

ん? なにやら葛野君が私に疑いの目を向ける。

 

石垣にぶっ刺さった巻物引っこ抜いて、見事に石垣ぶっ壊した酒寄さんのSTRの値なんだけど……。」

 

いやそんなに高くないですけど!? 私はAGIで翻弄して手数で戦うタイプのプレイヤーだ。断じて超巨大ハンマーをぶんぶん振り回して戦ってはいない。……まぁプレイ時間はそこそこ長いからSTRの値も低くはないけど。

 

「で! その槍はどんなアイテムなわけ?」

 

この謎の私が超筋肉バカであるという雰囲気を変えようと清水に話をふる。

 

「いやぁー、自分初心者ですから。アイテムのしまい方も詳細な情報の見方も分からなくて。」

 

「ああ、そういうこと。じゃあまずはメニュー開いて……。」

 

とりあえずアイテムの出し入れを教える。VRゲーム経験がある人なら難しくもなんともないだろうが、清水は家庭用ゲーム機でしかやったことがないのだろう。なれない様子で少し苦戦している。

 

「じゃ、次にアイテムのステータスの確認ね……。

 一回それ貸して……、ありがと。アイテムをなぞるように手を動かした後スワイプする感じで……あれでない、おかしいな。

 もしかしたら……所有権持ってるプレイヤーしかできないタイプのアイテム?

 でもその場合って……、いやまだそう決まったわけじゃないし。

 マロこれ持って今私がしたような操作やってみて。」

 

いいような悪いような表現しがたいが、とりあえず何かが起こることは確信している。私の指示を聞いた清水がぼろ槍のステータスを確認しようとする。

 

「えっと、名前は……

 征服の勅命?

 

清水が言葉を発した瞬間に槍が光だした。テンプレ展開すぎるでしょ、もうなんとなく察してはいるがあの槍絶対やばい奴だ…

光が収まる。目の前には…

どこぞの王族が家宝として持っていそうな黄金の長槍があった。

 

「「「「「なに、これぇ?」」」」」

 

困惑した場を放置して、清水が説明を続ける。

 

「えっと、人形師専用装備。

 レジェンダリー装備で、現在所有権を持つプレイヤーしか戦闘で扱うことはできない。

 色々なステータス数値が書かれてるけど良く分からないな…」

 

「レジェンダリーだぁ!?」

 

「いやみりゃわかるやろスズ。相変わらずあほうやな。

 けど人形師専用か……、難しそうやな扱うのは。」

 

「そうだな。人形師といえば理論値最強、だけど誰もろくに扱うことができない実践値くそ雑魚ビルド。最高ランクやその下には一人もいない正真正銘誰も使わないゴミビルドだ。」

 

「ねぇマロ?

 その武器の特殊効果は?レジェンダリーっていうくらいだし何かそういうのあるでしょ?」

 

その黄金の槍がどうしたら人形師専用装備になるのかよくわからないが、おそらくその答えが特殊効果にある。

返ってくる答えに期待しながら、私は次の清水の言葉を待つ。

 

「じゃあ言うよ……

人形の代わりに、砂でつくられた屈強な兵士を呼び出す。この兵士は貴方のどんな命令でも忠実にこなすだろう。だってさ。」

 

清水以外の四人とも首を傾げて唸っている。そりゃそうだろう。わかることが一つだけなのだから。だから、こう言うしかない。

 

「多分ほか3人もほとんど同じこと思ってると勝手に判断して言っちゃうけど、強いか弱いか分からないっていうのが適切だと思う。」

 

「そ、そうなんだ…」

 

清水が露骨に落ち込んでいる。少し言葉足らずだったか。

 

「違う、違うんだよマロ。弱いんじゃない、わからないんだ。あまりにも説明が抽象的で考慮しなくちゃいけない要素が多すぎるから。」

 

「そうやな、その通りや。極端な話、出てきた砂の兵士がプレイヤーくらい強いんやったらバケモンアイテムやし、出てくる兵士の数によってはもっとぶち壊れる。言わば、無限の可能性を持ちすぎてる武器といったところや。」

 

河木君の解説に腑に落ちたのか、清水はいつもの調子を取り戻したらしい。そんな清水のもとに鈴村君が近寄っている。

 

「じゃ、本題だけど。

 見てくれたか、試合。総合結果はまぁ負けたんだけど。一試合目はさ、勝ったじゃん。」

 

「うん、見てた。まじで面白かったよ!

 僕もKASSEN、めっちゃやりたくなったし。今度教えてよ!」

 

「おう。当たり前だろ。

 …話めっちゃ変わるし、脈略ないんだけどさ。

 清水…、俺と…親友になってくれ!」

 

………? 

えっ、私ここにいていいの?

発言はともかく、シリアスな雰囲気出してるのと鈴村君の顔が真っ赤のせいでホントにあれにしか見えない。この感覚は私がおかしいのかと思い、横の二人に話しかける。

 

「ねぇ、これって告…白だよね…。」

 

「奇遇やな、酒寄さん。俺も全く同じこと考えてましたわ。」

 

「それな、言葉は全然そんなことないのに。

 行動と醸し出してる雰囲気のせいで、結婚指輪差し出してるようにしか見えない。」

 

「やかましい! 外野は黙っとれ。」

 

外野って言っちゃってるよ鈴村君。それはもう自分でも意識してるでしょ。

 

「聴きました、奥さん?

 外野ですって、もう二人きりの世界に入ってると思ってるらしいわよあの男。」

 

「ほんまにびっくりやわ。まだ、返事の一言ももらってないのにそんなこと言えるなんて。

 大層ご自分に自信があるんやね。」

 

「あの、二人共?特に酒寄さん?チョット威力たかすぎかもです。」

 

「そうやで酒寄さん。流石にあれはないわー。」

 

「えっ、いきなりこっち来るじゃん。てか始めたのは河木君でしょ!」

 

私までノリにのっかったせいでめちゃくちゃだ。

 

「鈴村君! ありがとう、もちろんだよ。」

 

「おお! ほんとか! じゃ、これからも…」

 

「だけど……」

 

流れ変わったな、私たち3人の脳裏にはこの言葉がよぎっているはずだ。

 

「だ、だけど?」

 

鈴村君はまるで告白してくれたことに対してありがとうと言われその後振られる男子のような表情をする。なぜそんなに細かい比喩が出てくるのかって? ……私の経験談だ。あれから私はまずありがとうというのをやめた。

 

「もう、僕は君のこと親友って思ってたのになぁ。

 僕だけだったんだ…。」

 

その瞬間、河木君と葛野君が水を得た魚のように清水の横にいき、肩を組む。

 

「そうよなぁ清水、こんなに仲良くしてくれてたのに。

 あいつは“親友”って思ってなかったらしいで。冷たい奴やなぁ、なぁカズ?」

 

「ほんとほんと、ひで―奴だわ。清水君?あんな奴ほっといて試しでKASSENの練習場行こうぜ。簡単な操作くらいはこの後の少しの時間でできるでしょ。さわりだけでもな。」

 

「ちょ、おい。まてって。はぁ…。」

 

完全にフラれた鈴村君はその場でため息をつきながら立ち尽くしている。私はその哀れな後ろ姿にポンっと肩をたたく。

 

「ドンマイ。」

 

「いや、貴女も弄ってましたよね?」

 

「小さいこと気にしはるなぁ、清水に嫌われるで?」

 

「楽しんでるでしょ、あなた。」

 

はい、おかげさまでとても楽しませてもらってます。久しぶりにお国言葉も喋れて楽しい。

すると、連れていかれていたはずの清水から声が上がる。

 

「KASSENをちゃんとやるのしばらくできないね、僕たち。」

 

「おいおい、何を言ってる? 俺たちは高校生、確かに授業にバイトもあるけれど、腐るほど時間はあるよ?」

 

「でも葛野君。来週の途中から中間テストだけど。大丈夫そう?」

 

そんな私にとっては当たり前の話がこの場にいる何人かにとってはそうではなかったようだ。さっきまでの和気藹々とした雰囲気は崩れ、そこには中学時代でも見られた勉強してない奴らのテスト直前の風景が現れた。

 

「まじでこの日のための練習しかしてないってここ最近!」

 

「とりあえず、範囲の確認だ。だれか持ってる?」

 

「持ってるで。アホのお前らとは要領の良さが違うからな。」

 

3人組の中に一人裏切り者がいたらしい。しかしこの場合、この裏切り者が正しいということになるのだけど。

 

「ちなみに勉強は……?」

 

「やってるに決まってるやろ?

 ……。

あ~、なんか甘いもの食いたいなぁ?清水君のつくったパンケーキごっつうまかったわ。

 また、食べたいなぁ~。でも少しおたかめやし、最近金欠やからなぁ。

 たべられへんよなぁ~   チラッ」

 

「「おごらせていただきます。」」

 

「あら、そう? ご厚意には甘えんとなぁ。

 …ほらあほども、さっさとログアウトして計画でも練っとけや。」

 

「「うっす。」」

 

学生である以上、絶対に断れないであろう恐ろしい取引を目撃してしまった。まぁどう見ても取引ではなく脅迫だったけれど。

 

「そういう事やから、先に予約しとくわ。テスト最終日の放課後…3時頃にパンケーキ3枚とブレンドコーヒー3つ、おねがいします。」

 

二人がログアウトしていなくなった瞬間にこの変わりよう。河木君はいわゆるツンデレというやつなのだろうか。いやデレてはないな。そこのところはわからないが、ただ頭がよく回って配慮できる人だということはわかった。

普段の中々鋭い関西弁からは、見られない一面というやつだろう。

 

「「承りました。」」

 

私と清水がBAMBOOcafeの店員として返答する。

真面目に返されるとは思っていなかったのか、河木君は少し照れくさそうな様子で

 

「ほな、さいなら。」

 

と言って去っていった。

 

 

残された私たち二人。もういい時間になってしまっているし、解散してもいい頃合いではあるけど…

 

「ちなみにさ…、酒寄さんはどう?

 中間テストの勉強。うまくいってる?てっぺん取れそう?」

 

清水からテストの話題を振られるとは。さっきのあれを見ていれば気になるのは自然の流れか。まぁその問いにはちゃんと答えよう。

 

「そうだね。やってみなくちゃわからないし、何が起こるかわからない。

 けど負ける気はないよ。私はこんな小さな山で負けてられない、一番以外要らないから。

 ……そういうそっちは? 授業中は結構自由に過ごされてるらしいですけど?」

 

ここだけは私も譲れない。その強い気持ちをちゃんと言葉にして清水に伝える。別に清水を目の敵にしているわけではないのだけど。なんとなく、今日はそういう気分だった。Absoluteの試合が私のそういうスイッチを入れてくれたのかもしれない。

 

「酒寄さんの勉強パワーをすぐ後ろで浴びてるんですよ?

 バッチリに決まってるじゃないですか。

 …少なくとも、酒寄さん以外には負けないかも。」

 

驚きだ、清水が張り合ってくるなんて。それも勉強で。社会の授業はほぼほぼ絵をかいているし、他教科でも興味がないと思われる単元が来たら絵をかいているほどの勉強に関しては不真面目な清水がかなり強気な発言だ。

面白い。正直あまり信じてはいないけど、この男はなんかやる時はやってくれるという期待感を出してくる。

 

「へぇ、自信あるんだ。いいね、そういう人が近くにいると張り合いがあっていい。楽しみにしてる。

…時間が時間だし。お開きにしよっか。また明日、清水。今日は楽しかったよ。」

 

「うん、また明日ね。ホントにありがとう。またお願いするよ。」

 

そう言って私達は同時にログアウトする。

 

 

 

 

きたる一週間後、私はテストを受けていた。焦りも不安もないわけではなかったが、問題を見てペンを走らせた瞬間そんなものは失せていた。しかし、そんな私の気を引いているものが一つだけあった。それは、私と同じくテストが始まってから25分間の間だけずっと止まらないペンを走らせている音。それは私の真後ろから全教科で聞こえてきた。あの言葉は嘘ではなかったのだと、そう思わせるには十分だった。あの時の私はかなり調子のいいこと言ってたが、いざその状況になると負けるんじゃないかという恐怖が私の内に出てくる。テストが終わって次の週の月曜日。張り出された紙の一番上に自分の名前を見て安心する一方で、二番目に書かれているあいつの名前と点数を見て私の心は何とも言えない複雑な心境であった。ただ言えるのは、確実に自分のすぐ後ろに自分のこの立場を崩す存在がいることだった。

 




GW中に6月表一話書きたい。
けどたぶん難しいと思います。
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