人の心があるタイプの改造TS機械生命体の話   作:葛城

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※ 途中、バイオレンスな表現アリ


プロローグ

 

 

 

 ──『連盟種族』という種族をご存じだろうか。

 

 

 詳細を説明すると長くなるのでまとめるが、要は『ものすっごく強すぎて、こいつら暴れると宇宙全体がヤバい』というやつらである。

 

 種族も基準もバラバラだが、『強い』というのが共通している。

 

 たとえば、高度な科学力を有していて、ブラックホールを自在に生み出すことができて、それを相手にぶつけることが出来るやつらとか。

 

 たとえば、瞬きよりも早い時間で、1体から数億体にまで分裂しただけでなく、1体が恒星の中を自由気ままに動き回れるやつらとか。

 

 それが肉体的、あるいは応用した強さなのか、それとも頭を使って生み出した機械的な強さなのか……どちらにせよ、結果は同じ。

 

 とにかく、こいつら1種族が居るだけで、その銀河を制圧してしまえるぐらい強い……というやつらの集まりが、連盟種族である。

 

 そして、その種族は頂点に立つ『白銀の種族』によって統率されていた……で、だ。

 

 

 その連盟種族に属する者たちは、とにかく暇を持て余していた。

 

 

 互いが好き勝手に暴れ始めると、宇宙がヤバい。それをまあ、彼らも察してはいた。

 

 いちおう、そのうえで白銀の種族によって止められているわけだが……だからといって、永遠におとなしくしているわけがない。

 

 10代の若者に『これから死ぬまで衣食住を用意するけど、四畳半の部屋から一歩も出てはダメ』なんて言われて、精神を正常に保てる者がほとんど居ないと同じ。

 

 とんでもなく強いやつらだって、退屈な時間が何百年、何千年、何万年と続けば、退屈を紛らわせるために絶滅闘争を始めたって、なんら不思議な話ではない。

 

 では、それをどうやって……答えは、『代理を用いた対戦』であった。

 

 彼ら同士が戦えば最低でも銀河の一つや二つがめちゃくちゃになるばかりか、白銀の種族が出張ってきて殲滅されるのは分かり切っていた。

 

 

 だから、代理を使う。通称、『遊び』。

 

 

 細やかなルールや制限を設けたうえで、1体に付き一つ、『ボナジェ』と呼ばれる代理の個体を用意し、それを代わりに戦わせて勝敗を競う……そういう遊びを作った。

 

 その結果、連盟種族だけでなく、それに準ずる者たちまでもがこの『遊び』に興じ始め……そして、その熱は冷めることなく、数千年、数万年の月日が流れた。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そして、現在。

 

 

 とある連盟種族の手によって『ボナジェ』に選ばれ、改造された。

 

 現地の言葉で『地球』と呼称される、その星の知的生命体……人間という種族に分類され。

 

 その中でも日本という国に生まれ育ち、日本人として生きていた……かつては『男』であったその者は、目を覚ました。

 

 

『 ここは? 』

 

 

 男だったはずの彼だが、既に彼の身体は人間のソレではない。

 

 『ボナジェ』として選ばれてすぐに、その肉体は破棄された。

 

 人間の身体は、この宇宙においてはあまりにか弱い。

 

 『遊び』に出したところで、スタートの合図の瞬間、塵となって消滅してしまうぐらいには。

 

 ゆえに、その身体は速やかに改造が施される。

 

 いや、それはもはや改造なんて生易しい言葉ではない。

 

 根本から、もはや別種の存在といっても過言ではないぐらいに作り替えられ、原形が残っているだけマシなぐらい。

 

 実際、言葉を発したつもりの彼だが、それが音として発せられたわけではない、ある種の波、信号でしかなかった。

 

 今の彼は、一つのチップ……そう、動力源と一体化したコンピューターチップのようなモノである。

 

 

『 ここは? 』

 

 

 その事に、彼は……もはや、彼と呼称するのが正しいのかどうかすら原形が無いわけだが、特に動揺は見られない。

 

 今の彼には、視界というものが無い。全てが暗闇に閉ざされていて、音も感触も無い。暗闇の中を漂うクラゲのような状態だ。

 

 しかし、記憶は残されている。

 

 自分が、改造されて戦った経験も……ただし、最後の『遊び』を終えて回収された直後からの記憶が無い。

 

 そこに、恐怖や動揺の類は無い。そういった感覚や感情は、とっくの昔に排除したからだ。

 

 なので、今の彼にあるのは、疑念のみ。

 

 冷静に、自らの状態を確認する。

 

 動力源は生きている。同様に、己の頭脳であり身体でもあるチップも問題なし、全てのチェック項目をエラー無しで……っと、その時であった。

 

 

「──気分はどう?」

 

 

 唐突に、彼の視界にナニカがニュッと顔を覗かせた。

 

 考えるまでもなく、ナニカの正体は、己を『ボナジェ』に改造した連盟種族のうちの1体であった。

 

 言うなれば、己の創造主。なお、その外見は……彼の記憶にある、『クラゲ』によく似ていた。

 

 

「──あなたの役目は終わった。規定に基づき、貴方を自由にする……制限の範囲に限り、貴方の希望を叶えよう」

『 おお 』

「──なにか、希望はあるか?」

 

 

 尋ねられて、彼はしばし思考し。

 

 

『 帰りたい 』

 

 

 そう、お願いする。

 

 幸いにも、彼は己が改造されてから今に至るまでの月日を正確に認識出来ている。

 

 これは彼を改造した『クラゲ』のこだわりらしく、多少の誤差があったにしても、おおよそ経過時間は10ヵ月ぐらい。

 

 別に、帰らなければならない特別な理由があるわけではない。

 

 人間だった頃の彼は親とは疎遠になっていたどころか絶縁しており、親しい友人もいなかった。

 

 死にたくはないけど、さりとて、長生きしたいとも思わない。そういう日常を送ってきたから……でも、帰りたい。

 

 己の命が終える時は、生まれ育ったあの星で……そんな思いだけが、今も消し切れずに残っている、彼の願いであった。

 

 

「──他には、あるか?」

 

 

 続けて尋ねられて、彼は答える。

 

 

『 特に、無い 』

 

 

 それ以外、彼には何も無かった。

 

 なんとなく……そう、今の彼には言語化出来ない感情ではあったが……有り体に言うなれば、彼は疲れていた。

 

 半端に、記憶を持ち続けていたのが悪かった。

 

 恐怖も何も感じはしないけど、なんだか疲れていた。

 

 戦うのは嫌だなあ……そんな思いが強く、とにかく故郷でゆっくり休みたいという気持ちしかなかった。

 

 

「──それは困る」

 

 

 しかし、まさか『クラゲ』の方からダメだと言われるとは思わなかった。

 

 

『 なぜ? 』

「──規定上、貴方の願いを一定基準まで叶えなければならない。貴方が必要としなくとも、その規定を無視することはできない」

『 そう、言われても 』

「──何か、思いつかないか?」

『 今は、何も思いつかない 』

 

 

 本当に、それ以上でもそれ以下でもなかった。

 

 『クラゲ』にも事情があるのだろうが、そう言われても思いつかない以上は、どうしようもないわけで。

 

 

「──では、こうしよう」

 

 

 そうして悩む彼に、『クラゲ』は……彼が生存できるよう、いくつかの道具や機能を与えた。

 

 その内容は、具体的には……『ボナジェ』として機能していた時の、ダウングレード版、みたいなものだ。

 

 ここに来て語られる彼の能力は、言うなれば『自律型生産ユニット』みたいなものである。

 

 今の彼は、コアだ。工場の頭脳コンピューターみたいなものだ。

 

 材料を糧に巣を構築し、手足を増やし、分裂して、最終的には物量で押し通す……つまり、長期戦に特化した『ボナジェ』である。

 

 言い換えたら、猶予さえ与えられなかったらザコの極みみたいやつで……ちなみに。

 

 以前、細胞そのものがほぼ無限かつ爆発的に増殖して物量で押しつぶすといった機能が備わった『ボナジェ』と戦った経験があるのだが……まあ、泥仕合だったりする。

 

 金属で構成された塊と、生体で構成された塊とがぶつかり合う様は、一定の人気はあったらしいのだけど……で、だ。

 

 さすがに、そのままだと基準オーバーらしいので、いくらか機能を封印したうえで……それから、一定量の『材料』を与えられた。

 

 彼は、工場である。

 

 つまり、無から有を生み出せない。

 

 塵芥(ちりあくた)から変換して精製することは可能だけど、やっぱり鋼鉄を作るには、原材料に鉄があった方が効率的なわけで……で、だ。

 

 

 ──では、ご苦労。

 

 

 その言葉と共に、ペイっと彼は……『クラゲ』を乗せた宇宙船から排出され、彼が生まれ育った『地球』へと落とされたのであった。

 

 もちろん、パラシュートの類は無い。

 

 その程度の衝撃、100億回くりかえしたところでまったくダメージにならないのだから、付けるだけ無駄……さて、着弾。

 

 通常の隕石ならば、大きさによっては遠方からでも確認できるのだが……彼の身体は、普通ではない。

 

 動力源を含めた彼の全長……すなわち、本体の全長は、1mにも満たない。

 

 たった1mなのに、『材料』はどこに……答えは、彼の体内には空間制御を用いた『倉庫』があるので、そこに保管済み、である。

 

 それでいて、あらゆるレーダーや光線でも確認できないステルス状態での落下……着弾時すら、テーブルからリンゴを落とした程度の音しかしなかったし、衝撃も同様。

 

 いわゆる、光学迷彩というやつで。時刻がおそらく現地時刻にて昼間だろうと、関係なかった。

 

 地球上において、彼の帰還に気付けた者は一人としていなかったわけだ。

 

 ちなみに、落下中に見えた大陸の形からして、おそらくカナダのどこかだろうと彼は見当をつけていた。

 

 あくまでも『見当』なのは、人間だった時の記憶というか、知識が、その程度しかなかったからである。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 光学迷彩や消音機能によってほぼ完全なステルスを維持したまま、彼は大陸を移動する。

 

 

 目的地は……『日本』である。

 

 

 落下中、ある程度その位置を確認していたし、やろうと思えばそちらに落下することも出来たが……そこまで急ぐ理由が、彼には無い。

 

 既に、故郷の星に居るのだ。

 

 後は時間の問題であり、ゆっくりのんびり行こうと決めたわけで、その通りに動いていた……ところだったのだけど。

 

 

(……おや?)

 

 

 その途中、彼は……かつての記憶を基に考えてもなお不自然にしか思えない、謎の施設を見かけた。

 

 まず、そこは有刺鉄線に囲われた広大な敷地というか、草原の中にポツンとあった。

 

 建物の数は、7つ。

 

 草原には、食用となる作物の類は無い。少なくとも、彼の知識の中には、食べられなさそうなモノしかない。

 

 強いて挙げるなら、野草っぽいモノは確認できるが……それだけ。

 

 建物は、どれも人が住むには大きい。センサーで調べた限り、187名の熱源が感知できる……が、おかしい。

 

 出入り口と思われる場所には銃器を携帯した男たちが立っている。防犯というには、あまりにも物々しい雰囲気だ。

 

 それでいて、センサーの精度を上げて確認してみれば……内部では、十数名ほどの男女が交尾を行っていたり、あるいは死に至るような攻撃を行っていたり……なるほど。

 

 

(これは人身売買のため、あるいは、使用するための施設か)

 

 

 ステルス状態のまま敷地内に潜入し、設置してあるコンピューターへと接続……わずか0.2秒で全データをコピーして抽出し終える。

 

 それで分かったことは、この施設は予想した通り、人身売買を行っていたり、使用するためのモノだということ。

 

 オードソックスに交尾したり、交尾させたり、痛めつけて反応を楽しんだり、あるいは……野に放って、ハンティング用の獣として使用したり。

 

 とにかく、ここでは『人間』は商品かつ消耗品として活用されているようだ。

 

 使用される『人間』に共通点は無く、男もいれば女もいて、老人もいれば子どももいる。

 

 まあ、交尾に使用されているのは年齢的に若く、痛めつけられるのは比較的老人な……ふむ。

 

 

(う~む……あまり、見ていて気分の良いものではないな)

 

 

 もはや原形こそ残っていないが、記憶が保持されている彼には、人並みの善性というのがちゃんと残っている。

 

 行ったことなど無い見知らぬ場所の出来事とはいえ、だ。

 

 人間が、明らかに非道の行いで使い潰され、最後はハンティング用の獲物として消費されてゆくのを知って……ちょっと、思うところがあるわけで。

 

 しかも、その『人間』が相応の悪人ならばともかく、騙されて連れて来られたり、誘拐されたり、脅されたりして……というのが分かったとなれば、余計に。

 

 

 ──よし、壊滅させておこう。

 

 

 なので、そう彼が決断するのもまあ、当然と言えば、当然な流れであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、動き出した彼だが……まあ、壊滅させるという行為に対しては、何一つ問題は起きなかった。

 

 

 なにせ、根本的な性能差というか、戦闘力が隔絶し過ぎていた。

 

 彼らが所持している銃器では、彼に傷を与えることはおろか、行動をわずかに阻害することすら不可能。

 

 仮に戦車があったとしても、結果は同じで。

 

 それこそ、真正面から堂々乗りこんだとしても、制圧に必要とした時間は数十秒程度の違いしかなかった。

 

 

 そんな彼が、日も暮れた闇夜の中で動けば……もはや、結果は決まっていた。

 

 

 地中を掘り進んで移動し、誰も彼もがまったく気付いていなかった。

 

 地面より飛び出す極小サイズの、肉眼ではほぼ認識出来ない、髪の毛よりも細くて伸縮自在で鋼鉄よりも固くチタンよりも強いワイヤー。

 

 それが、音もなく対象の体内へと潜り……侵入後、わずか0.02秒で心臓や大脳へと到達し、素早くかつ細かくカットされる。

 

 攻撃を受けた者は、痛みを感じるよりも前に完全に絶命し……それが、建物内に居た、被害者と思われる者たち以外を同時に襲った。

 

 囚われていた者たちからしたら、あまりにも奇妙な瞬間だっただろう。

 

 自らを暴行する者も、見張りに立っていた者も、それまでどこからか響いていた者たちの声が一斉に途絶えた……無言のままに倒れたのだから。

 

 

 ……問題が生じたのは、その後。

 

 

 助けた者たちを改めて確認したのだが、無事なのが一人もいなかったのだ。

 

 具体的には、誰も彼もが衰弱し過ぎていて、もはやどうにもならない状態であった。

 

 被害者のうち、2割は『まだ死んでいないだけ』という状態で、4割は『処置しても2,3日程度』という状態で。

 

 残りの4割は……肉体的にはまだマシな者も居たけど、精神というか、頭が完全にダメになっていた。

 

 それも調べて分かったのだが、どうやら顧客を喜ばせるために薬物が使用されていたようで、廃人か、その一歩手前な状態になっていたのだ。

 

 人間の身体は、脆い。『ボナジェ』になっていたから、それを身に染みて理解している。

 

 応急処置は可能だが、6割はわずかばかり延命させるだけ。

 

 残りの4割も、もう元には戻らないし、定期的に襲ってくる禁断症状に苦しむだけの日々。

 

 

 ……実際、死体となった者たちを回収し、『材料』として保管していく彼の行動を見ても。

 

 

 反応した者は誰一人としていなかったし、なんなら、その作業中に一人、また一人と、死亡していく者が増えていく状況であった。

 

 と、なれば、だ。

 

 

(……長く苦しむぐらいならば)

 

 

 せめて、死ぬ間際ぐらいは安らかに……そう判断し、彼は……被害者たちに安楽死の処置を行ったのであった。

 

 もちろん、被害者たちの遺体も全て回収し、保管しておくのを忘れず、ちゃんと無駄にはしないよと慰めの言葉を掛けてから。

 

 それから、夜が明ける頃にはもう、彼は再びステルス状態になって、故郷を目指した。

 

 道中、『これは見過ごしてはおけない』と判断したトラブルを発見した時には、こそっと処理を済ませて、『材料』を補充しておき。

 

 えっちら、おっちら。

 

 地上を渡り、海中を進み、土中を掘り進み、特に理由はないけど、その時の気分で寄り道したりしながら……出発してから、約2ヵ月かけて。

 

 

(おお、ついに、私の家に──誰だ、あいつ?)

 

 

 到着した時にはもう、見知らぬ誰かが住んでいた。

 

 

(……あ、そっか)

 

 

 と、同時に、彼はそこでようやく気付いた。

 

 合計、約12ヵ月。

 

 契約書の内容がどうなっていたのかうろ覚えなのでなんとも言えないが、家賃未納かつ行方不明ともなれば……そりゃあ、そうなるなあ……と、納得してしまった彼は。

 

 

(これからどうするか……考えねばならんな)

 

 

 一旦、地中奥深くへと潜って……今後の展開を考えるのであった。

 

 

 

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