人の心があるタイプの改造TS機械生命体の話   作:葛城

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※ ちょっとショッキングなシーンあり





第八話: 純粋かつ無知な機械仕掛けの判定機(慈悲は無い)

 

 ──その日。

 

 

 後に『ジェノサイドの日』……通称、『Jデー』と言われるようになる、その惨劇の始まりは、空に浮かぶ巨大な円盤からだった。

 

 円盤の存在は、これまで数度目撃されていただけでなく、各国の行政が放置していたゴミを片付けてくれているのもあって、どこの国もそこまで敵意は向けて……いや、少し違う。 

 

 

 ゴミではあっても、突き詰めれば資源ではある。

 

 

 全体としては少量でも、それでも個人(?)が所有するには莫大な量のゴミ。

 

 そもそも、ゴミとは単純に言っても、それはあくまでも人の目線の話。

 

 もしも、プラスチックから自在に石油を錬成し、散らばっている紙屑から自在に再生紙を錬成し、ガラクタから金属を自在に錬成できるなら。

 

 そう、鉄を、金を、チタンを、アルミを、燃料を、自在に錬成出来るのならば……それはもう、けして無視をしてはならない話である。

 

 だから、その可能性を考えずにはいられなかった一部の者たちは、ゴミであろうとも不法な持ち出しは許されない……と、強く訴えていた。

 

 

 まあ、その訴えに賛同する者は皆無であったけれども。

 

 

 結局のところ、『じゃあそのゴミをおまえのところで保管するんだな?』と言われたら、それまでだし。

 

 かといって、『元の場所に戻せ』なんて言い出したら、せっかく綺麗になったのをわざわざ行政の手で汚され──話が逸れたので、戻そう。

 

 とにかく、大多数の人々からは歓迎され(ちょっと、怖がられたけれども)こそすれ、敵意を向ける者は居なかった。

 

 

 ……ただし、その日は少し、違った。

 

 

 いったい何故か……それは、円盤の主が行う『掃除』の目的が、『悪人の掃除』だったからだ。

 

 宇宙人がカテゴライズする悪人とは、いったいどういう人間を指し示すのか。

 

 自分たちが考える悪人が該当するのか、それとも、まったく別の基準で定められた悪人が、掃除の対象になるのか。

 

 その事に危機感を抱いた一部の国は、接近する円盤に警告を行ったし、なんとミサイル攻撃を行ったところもあった。

 

 けれども、円盤を止めることはまったく出来なかった。

 

 戦闘機に搭載された機関銃も、ミサイルも、確かに着弾したはずなのに、円盤には傷がまったくつかず、移動速度を緩めることすら出来なかったのだ。

 

 

 ……幸いにも、円盤は反撃こそしなかったが……攻撃決断の指示を出した者たちは、例外なく顔色を悪くした。

 

 

 当然ながら、彼ら彼女らは色々と考えた……でも、無駄だった。

 

 かといって、空気抵抗を欠片も受けずに高速移動する円盤から、逃げ切れる者など、いるわけもなく。

 

 それは、その者たちだけではない。

 

 人々は、沸々と胸中から滲み出てくる不安と恐怖を堪えながら、太陽を遮る円盤を見上げ──そして、それは始まった。

 

 

『──アァアアアア!!??』

 

 

 円盤の動き自体は、これまで行ってきた『掃除』と同じであった。

 

 違うのは、吸われていくのはゴミではなく──人間であった。

 

 そこに、老若男女の区別はなかった。

 

 そう、男も、女も、少年も、少女も、老人も……だが、この時、確かに選別が行われていた。

 

 同じ場所に居るのに、距離にして1mすら離れていないのに、片方は円盤の中へ吸い上げられ、片方は風をまったく感じなかった。

 

 範囲の中をまとめて吸い上げるのではない。

 

 範囲の中にある、特定の人物だけを吸い上げるのだ。

 

 そのうえ、吸い上げても、吸い上げても、円盤からの吸引力が欠片も衰えない。

 

 力学で考えたら、どう条件を都合良くしても、その場に留まれない人数……質量、重量が加算されたはずなのに、まったく動きが遅くならない。

 

 明らかに、人知を超えた科学力、現象であった。

 

 吸い上げる、静止する、移動する、たったそれだけの行為ですら、隔絶した科学力の差が浮き彫りになっていた。

 

 そして、その浮き彫りになった差が、明確な絶望を生み出していて……けして、円盤からは逃れられなかった。

 

 ある者は、街灯にしがみ付いて耐えようとした──が、どこからともなく飛んできた不可視のかまいたちが、その者の手足を切り裂いて、吸い上げてゆく。

 

 ある者は、建物の中に隠れてやり過ごそうとした──が、吸い上げる力は真横へとカーブを描き、その者の身体は横方向から斜め上、上空へと吸い上げられていった。

 

 ある者は、逃げ惑う人々の中に隠れようとした──が、まるでその抵抗をあざ笑うかのように、見えない風に手を引かれたそのものは、悲鳴と共に円盤の中へ吸い込まれていった。

 

 逃げられる者は、いなかった。

 

 例外は、『悪人』に該当しなかった者と、たまたま円盤に吸い込まれる前に1時間経ったことで、結果的に被害に遭わなかった幸運な者だけであった。

 

 

 ──その日、『Jデー』と定められたその日は、人類史上最悪の行方不明者が生まれてしまった日になった。

 

 

 推定、1億1100万人。

 

 たった一日で、それだけの人間が円盤に飲み込まれ、出てくることがなかった。

 

 そこに、老若男女の区別はなかった。

 

 そう、男も、女も、少年も、少女も、老人も……それはこの日、この時、世界中の者たちが……宇宙からやって来た少女へと向ける視線を、ガラリと変えた日でもあった。

 

 

 ニュースは、流れる。

 

 

 世界中から、家族を、恋人を、友人を、失った者たちの嘆きが響いていた。

 

 各国から、非難声明が出る。

 

 世界中で、一度にそれだけの人間が失われたのだ。

 

 経済もそうだが、あらゆる場所で様々な部分に滞りが生まれ、混乱が生じた。

 

 インフラ設備に影響が出たり、資材調達に影響が出たり、分かりやすく言うなれば、スーパーに食品が届かなくて閉店になったり。

 

『掃除』の時間が1時間だったのは、まさしく不幸中の幸い……という言い回しは、変なのかもしれないが。

 

 たった1時間だからこそ、壊滅的な被害を受けた場所と、少々被害を受けただけで済んだ……という、残酷なまでに明暗が生まれたのであった。

 

 

 その中で、だ。

 

 

 名指しで『史上最悪の大量殺人鬼』と罵られ、核兵器の使用すら辞さない……そんな言葉を、はっきりと口に出した者がいた。

 

 けれども、誰も円盤を見つけられなかったし、既に攻撃を行った結果、何一つダメージを与えられなかったわけだ。

 

 そのうえ、円盤はいつも突然出現する。

 

 気付いたら空に浮かんでいて、気付いたら目視できる位置に居て、気付けても、阻むことは誰にもできなかった。

 

 それまで、地球上にあるあらゆるレーダーを使用しても、その存在を認識することはおろか、痕跡すら捉えられなかったのだ。

 

 それゆえに、人々はただただ怒りを投げつけることしかできず、何も出来ないまま、再び一ヵ月の月日が経つのを待つしかなかった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………だが、しかし。

 

 

 その一ヵ月……たった一ヵ月だが、不思議なことに、少しずつではあるけど、逆の評価を、声を上げる者が現れ始めた。

 

 曰く、『街中からマフィアが消えて、治安が良くなった』、と。

 

 曰く、『裏で不正を働いていた上司が消えて、風通しが良くなった』、と。

 

 曰く、『とある建物から人が消えて、中を調べたら不正資金の証拠がいっぱい出て来た』、と。

 

 

 それは、一つや二つではなかった。

 

 

 実際に、大勢の子供を監禁して組織的に売春行為が行われていた建物に警察が突入し、保護されるなんてニュースが毎日のように流れた。

 

 そのせいか、『被害者だって毎日騒いでいたやつ、なんかUFOに吸い込まれたらしいけど、実は加害者だったんじゃね?』なんて話も囁かれるようになって。

 

 気付けば、だ。

 

『UFOは、地球に蔓延る隣人の皮を被った悪人を仕留めただけだ、アレこそ天がもたらした裁きだ!』

 

 と、歓迎する者と。

 

『アレは悪魔だ! 一方的にこちらを悪と定め、命を奪う悪魔だ! 今すぐにでも排除せねばならない!!』

 

 と、敵視する者とに分かれ。

 

 探られては痛いから敵視するのか、それとも、人を裁くのは人でなくてはならないという思想からなのか、あるいは別の……とにかく、初期の頃のように非難一辺倒のようにはなくなっていた。

 

 

 そして、その日。

 

 

 例の販売サイトにて、『掃除パック』と名付けられていた商品表示が……突如、暗転し。

 

『売り切れ』

 

 商品名の下に、その文字が表示されるようになった、その日。

 

 世界中のSNSだけでなく、あらゆる媒体にて、次は誰が買って、どんな掃除が行われるのか……その話で持ち切りになった。

 

 

 それも、当然だ。

 

 

 なにせ、たった1時間で1億人以上が消えたのだ。そして、それを止められる国は一つとしてなかった。

 

 そして、1億人が消えたとしても、人々は生きているわけで……ネットだけでなく、世界中のあらゆる場所で、真偽不明の噂が流れ始めた。

 

 曰く、『南米の男が買った、広大な範囲が汚染された河川をキレイにしてくれ』という話や。

 

 曰く、『世界中の下水道を洗浄して、海をキレイにしてくれ』という話なら、まだ可愛い方で。

 

 ご丁寧にAIを使って、購入者を装う者が後を絶たず……それでいて、集金を一切行っていないとかいう愉快犯まで現れただけでなく。

 

 あくまでも『掃除パック』なのに、だ。

 

『〇〇は生きるだけが害になる、掃除してくれ』といった感じでの殺人依頼をしたという話や。

 

 酷いモノになると、『人類が存在するだけダメだ、人類を掃除してくれ』と訴えたけど返答が来ないなんてのも……まあ、なんにせよ。

 

 興奮と緊張と不安の下に隠した恐れを、誰も彼もが誤魔化したまま……とあるSNSに、一つのアカウントが生まれた。

 

 『しがない宇宙人(ボナジェです)』と書かれただけの、簡素なプロフィール。

 

 アイコンには、件の少女が無表情にピースサインをしている画像。生年月日も『?????』で、登録地は『銀河の果て』とだけ記されていた。

 

 最初のコメントは、当たり障りのない内容であった。

 

『私が行った掃除に関して賛否両論があるとは思いますが、これからも皆様に支えられ、頑張っていきたい所存です』

 

 最初はまた成りすましのアカウントかと思われたが、公式より『本物の可能性が極めて高い』というコメントがなされたことで、とんでもない騒ぎになった。

 

『急な掃除は皆様の迷惑になると思いますので、掃除を行う場合は事前に告知します。このアカウントからは、返信はしません』

 

 そして、そんな騒ぎだからこそ、そのアカウントには膨大な量のDMやコメントが押し寄せた。

 

 けれども、やはり、彼女は聞く気があるのか、ないのか、分からないまま……その時、そのアカウントより、そのコメントは流れた。

 

 

『地球に居る宇宙人を掃除してくれ、とありました』

『詳しく購入者より話を聞くと、どうやら私を含めて、とのこと』

『私を掃除する……う~む、私を掃除するわけですが、少々困りました』

『私、いっぱい居るのです。自動的にベルトコンベア的な感じで開発され、どんどん数を増やしているので』

『とりあえず、1時間で掃除できる分だけは掃除しましょう』

『でも、ちゃんと他の宇宙人も掃除致しますよ』

『幸いにも、この星にはそれなりに宇宙人が居るご様子ですので』

『準備が出来ましたら、また事前に告知致しますので……それでは』

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そのコメントがネットの世界に放たれた直後、この星のいたる所にて、声なき悲鳴が生じたのであった。

 

 

 

 

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